――甲龍歴432年
ギース達との決戦を終え、ようやく日常に戻ったルーデウス達
そんなとある日
ルーデウスはエリスとシルフィを連れ、アスラ王国に向かっていた
王国で彼らに待ち受ける、とんでもない出来事とは……?みたいな
※微エロ、といえない程度の微エロがございます……
――時に、甲龍歴432年のとある日。
俺とエリス、そしてシルフィの三人はアスラ王国に赴いていた。
なんでかって?
もちろん、目的はある。
……ちゃんとあるのよ?
それは「闘神」の近況報告。
二年ほど前の決戦以来、俺は定期的にビヘイリル王国に出向いていた。
地竜の谷の底に封印された、バーディガーディの様子を伺う為だ。
――不死身の魔王バーディガーディ。
彼こそが、伝説の七大列強三位「闘神」の中の人そのものであった。
剣神ガル・ファリオンと北神三世アレクサンダー、そして曲者ギースと共に、俺を抹殺しに来たヒトガミ最大最強の刺客にして、最後の切り札。
……あのさぁ、ひどくね?
列強三位と六位、七位が揃って俺一人を襲うとかさぁ。
なんつうか、ラオウとサウザーとジュウザが徒党組んで来ました、みたいな。
フリーザ様とセルと魔神ブウとか、大魔王バーンとミストバーンとキルバーンとか。
悪魔将軍とバッファローマンとアシュラマンが――いやクドいか。
まぁ、なんだかんだとあって、今じゃ谷底に封印されてるんだがね。
その封印ってのも、甲龍王ペルギウス謹製・神級結界魔術。
「王竜剣」と「闘神鎧」の魔力を流用した強力な封印である。
めっちゃ頑丈。ちょっとやそっとで破られるとは思えない。
思えないが、ヒトガミの手駒に、またギースのような腕利きが居ないとも限らんからね。
下手して結界を破られてやしないかと、ちょくちょく様子を見に来てるって訳だ。
封印の場所がバレないように、自前の魔眼「千里眼」で遠い所からピーピング。
用心するにこしたことはない。慎重、自重のルーデウスです。
――ってな事で、俺はひと月に一回は現場に足を運んでいる。
その帰りに、ノルンとルイジェルドの顔を見に行ったりもできるしな。
おっと、ノルンとルイジェルドといえば、皆様には嬉しいご報告がある。
二人の間には最近、可愛い赤ちゃんが生まれたのだ。
名前はルイシェリア。とても可愛い。
玉のような女の子で、二人に似ればきっと将来美人さんに育つだろう。
まだまだ乳飲み子だが、俺もこの子の成長を楽しみにしている。
「ルーデウス伯父様♡」なんて言われちゃった日にはどうしよう。
片膝付いて、小さな花を一輪差し出そうかなって思っている。
も、もう、姪ブリッヂなんてしないもん!おれはしょうきにもどった!
……っと、脱線したな。
え~、まぁ、そういう訳で。
バーディガーディの封印を確認し。
その経過観察の報告に、アスラ王国の王都アルスへ赴いたのが、今回の話って訳。
俺一人でもいいんだけど、折角だからとシルフィとエリスも連れてきたのだ。
二人共、アスラ王国には知人・友人がいるから、たまには旧交を温めたいだろうとね。
それに、シルフィにはいつも家を任せて外出もほとんどさせてなかったから、その罪滅ぼしの思いもあって誘ってみた。思った以上に喜んでくれたのでホッとした。
エリスはクリスティーナが乳離れしたってのもあって、俺とまた一緒に仕事が出来ると喜んでいた。やっぱり声をかけて良かった。
あ、ロキシーは特に知人もいないし学校があるのでと、今回同伴はしていない。ショボーン。
夫婦みんなで旅行気分だったんだが、まぁ彼女とは、今度別の機会で出かけるとしよう。
「じゃぁルディ、ボク行ってくるね」
「いってらっしゃい!」
「うん、ゆっくり楽しんでくるといいよ」
ウキウキとした感じでシルフィが部屋を出てく。
女王アリエルに報告を済ませてから、俺たちはそれぞれ別行動をとることにした。
シルフィはアリエルの側近時代の同僚の所に。
エリスはギレーヌとイゾルテの所に。
俺もギレーヌに渡す物があったので、エリスと一緒に行くことにした。
コンコン――
さて、俺らも貴賓室から出ますかねと腰を浮かせたその時、扉をノックされた。
控えていた侍女が扉を少し開けて確認。それから俺に伺いを立ててきた。
「"王盾"レイダ・リィア様です。いかが致しましょう」
レイダ……?
あ、イゾルテの事か。確か水神の名前を継いだんだっけか。
なんだ、向こうから来てくれた訳か。こりゃ手間が省けたな。
俺は一も二も無く入室を了承した。ドーゾドーゾ。
「失礼致します」
そういって、白銀の鎧に身を包んだ黒髪の美しい女性騎士が入室してきた。
彼女こそ、水帝イゾルテ・クルーエル――現・水神レイダ・リィアその人である。
あと、人妻でもある。ドーガの嫁さんだ。
「イゾルテ!」
「久しぶりですね、エリス」
にっこりと優しく微笑むイゾルテに、エリスが嬉しそうに駆け寄る。
快活なエリスの勢いをふんわりといなすその様は、さすがは水神といった感じだった。
それにしても、だ。
(……あいつも中々、いいとこあるじゃないの)
俺はなんとなく感心し、うんうんと頷く。
あいつ、とは女王アリエルの事である。
イゾルテからの来訪は、恐らくはアリエルの計らいだろう。
護衛であるイゾルテが主君を放って、のこのこと友人に会いに来れるはずもない。
とはいえ、イゾルテにとってのエリスは、同じ釜の飯を食った剣友であり、戦友であり、親友と言える存在だろう。
二人のこれまでの経緯を知っているであろう女王アリエルは、護衛であり側近のイゾルテと、その旧友であるエリスが会えるようにセッティングしたのかもしれない。
……多分ね?
まぁ、頑張っている部下を労うのも上司の務めだしな。
護衛は他に、ドーガやシャンドルのおっさんもいたし、ちょっとくらいはいいだろう。
……さて、俺はどうしよう。
二人はソファーに座り込んで色々と話し込んでいる。
近況報告やら、ドーガとの生活やら、子供はどうなんだとか。
俺?俺はニコニコその様子を微笑ましく大人しく見ているよ?見ーてーるーだーけー。
……いや、見てるだけってのも暇だな。うん。
女性というのは本当に話好きだな。
男勝りなエリスでも、そこはやはり女の子。仲良しとはお喋りが弾むようだ。
うーん、終わるまで待つより、先に用事を済ませてしまおう。
俺は持ってきた小荷物を手に立ち上がった。
「エリス、俺は先に行ってるから」
「わかったわ。イゾルテ、悪いけど……」
「あぁ、二人はまだゆっくりしてていいよ。急ぐ用事でもないし」
「そう?……わかったわ」
エリスに目くばせし、イゾルテに会釈して俺は廊下に出る。
キョロキョロと見まわし、多分こっちだろうかねと歩き出した。
勝手知ったる……ではないけど、何度も来てるからな。間取りは大体わかる。
さっきの謁見の間にはギレーヌはいなかった。
ってことは、別の業務についてるか、今日は休暇なのかもしれない。
とりあえず俺は上級騎士の宿舎に向かうことにした。
「う~ん?迷ったかな」
まいったな、広すぎるぞこの城。まぁ急ぐことも無いし、のんびり行くか。
そのままふらふら歩いていると、向こうから見回りの兵士が歩いてきた。
そうだ、彼にギレーヌの居場所を聞いてみよう。
「あンの~すいまっしぇん」
おぅふ、必要以上にへりくだった声が出た。我ながら癖になってるな。
だがそんな怪しい俺に対し、兵士さんは背筋をシャキンと伸ばして対応してくれた。
「ハッ!これはルーデウス閣下!」
いや閣下って。俺は十万年も生きてないし、歌もあんなに巧くはないよ?
キョドった俺は、とりあえずクネッと敬礼ポーズを取ってみた。
アイタタ、兵士さんから変な顔された……。まぁいい。
「お仕事中ごめんね。あの、ギレーヌの部屋ってどこか知ってます?獣耳のおっきいお姉さん」
「ハッ!ギレーヌ様のお部屋なら……」
兵士さんはまたもシャキッと背筋を伸ばし、道順をしっかり教えてくれた。
感謝を伝え、俺はその場を後にする。いや~助かった。
ギレーヌと会ったらなにを話そうかな。レオの事でもいいし、ゼニスの事でもいい。
そうだ、獣族の村の事でも話そうかな。リニアとか、プルセナとか、話す事は多い。
なんだかんだとボレアス家での生活は長かったし、思い出は沢山ある。
たまには休みの日にでも、家に遊びに来るよう誘ってみるか。ゼニスも喜ぶだろう。
な~んて、俺はふわふわと考えつつ教えてもらった道を辿る。
階段を昇ったり降りたり、長い廊下をテクテク。鼻歌を歌いながらのんびりと。
ーーーーーーー
そうして十数分後。
貴賓室でエリスと別れてからほんの30分足らず。
俺はギレーヌの部屋に辿り着く。
――そして、思い知る事になる。
物事ってのは、唐突に起きるものだと。
悪いことは、予測も予防もできない時があるのだと。
唐突に親が死ぬ事もあるし、
唐突に兄弟がぶん殴ってくる事もある、
唐突にトラックが突っ込んでくることもある、
唐突に異世界に転生することもある、
唐突に父親に襲い掛かられてお嬢様の家庭教師をさせられることもあれば、
別の大陸にいきなり飛ばされる事もある。
恐らくすべては偶然の産物である。
さらに、俺は思い知る事になる。
自分の迂闊さを。
この世界の厳しさを。
例外などないという事を。
どれほどの苦難を経験しても。
どれほどの痛みと恐怖を味わったとしても。
俺は失敗を犯してしまう。間抜けを晒してしまう。
あれだけ読者からボロクソに成長してないと書き込まれたというのに。
そして愚かな事に。
この時の俺は、またしても悲惨な事故を、未然に回避する事が出来なかったのだ。
ただ一つだけ言えることがある。
エリスは、流石だった。
――でもさぁ、無理言うなって感じなんだよね?
普通思わないでしょ。
まさか、旅行気分だった今回の旅の結末が、あんな恐ろしいものになるだなんて。
ーーーーーーー
兵士さんから道を教わってから十数分。
俺は、やっとこさ上級騎士の宿舎に辿り着いた。
さすがに士官クラスに宛がわれてる棟だ。一般兵士のものよりも豪華だし広いな。
扉に付けられた名札を確認しつつ、俺はテクテクと歩く。
「お、あった」
ほどなくして、名札に「ギレーヌ・デドルディア」と刻まれた扉を見つける。
おーし、それじゃノックしてコンコーン。ちょっと緊張してきた。
…………。
あれ?返事がない。ただの屍のようだ。
――なわけあるか。殺しても死ななそうな剣神流の剣王さまだぜ?
もう一度ノックする。コンコーン。
うん?なんか中から物音がしたような。寝てるのかな?
聞き耳を立ててみる。すると、何かうめき声のようなものが聞こえてきた。
まさかとは思うが、具合でも悪いのか?ちょっと心配になった。
「ギレーヌ、ルーデウスですけど、入りますよ?」
一応、礼儀として声をかけてからノブを回してみる。
ガチャリ――案外すんなりとドアは開いてしまった。
「失礼シマース……」
隙間から顔を覗き込む。室内は薄暗かった。
廊下から漏れる明かりを頼りに、俺は燭台を探した。
あった。すぐ近くの机の上に、蝋燭を三本立ててある燭台を発見。
魔術で燭台に火を灯すと、ぼんやりと部屋が照らし出された。
――なんも無いな。
第一印象がそれだった。
近衛でも最側近であろう騎士の部屋にしては、殺風景だった。
ベッドと机と椅子。あと直立する黄金の鎧と魔剣。目立つのはそれくらいか。
まぁ、ボレアス家時代のギレーヌの部屋も質素だったから、何もおかしくはないんだが。
おっと、そんな事はどうでもよかった。
俺はギレーヌの姿を探して部屋を見回す。
すると、ベッドの横に、蠢く大きな影を見つけた。
「ギレーヌ……」
燭台をそちらに向ける。ぼんやりと照らし出される影。
そして俺は息を飲んだ。
「ギレ――」
ギレーヌはいた。
だが、普通じゃなかった。
・・・・・・・
彼女は椅子に座っていた、いや、座らされていたのか。
椅子とは座るものだ。
それ自体はおかしい事じゃない――猿轡をかまされ、後ろ手に縛られてさえいなければ。
「ギレーヌ!!」
俺は燭台を机に置き、縛られて呻いている彼女に駆け寄る。
ギレーヌが俺を見上げる。なんだ?朦朧としてるのか、焦点が合ってない。
妙な毒薬でも盛られたのだろうか。身体も汗でびっしょり濡れている。
「いま……ほどいてあげますから!」
猿轡を外すと、彼女はガハッと荒い息を吐いた。
随分と歯を食いしばっていたのだろう。猿轡の縄は食い込んだ歯によって千切れかけていた。
「ハッハッ……る、ルーデウス……か……?おまえ……」
小刻みに呼吸し、そう呻くギレーヌ。かなり辛そうだ。
「そうです、俺ですよ。もう大丈夫ですからね」
「ルーデウス……おまえ……おま、おまえ……」
掠れた声で何かを伝えようとするギレーヌ。しかし言葉が続かない。
屈強な彼女がここまで弱ってるとは、相当だぞこれ。
早いとこ縄を解いて、解毒魔術をかけてやらねば。
「る、るぅでう、す」
縄を解こうと手を伸ばしたその時、ギレーヌが圧し掛かるようにして身体を預けてきた。
むっわぁっと、ギレーヌから体臭が漂ってくる。甘酸っぱいような、蒸れた美熟女の汗の香り。
いや、それより重い!それに熱い!デカい!ギレーヌどいて!ロープ解けない!
この人、俺より二回りくらい身体が大きいし筋肉質だから力負けしてしまうんだよな。
(――くそ、仕方ない)
俺はギレーヌを抱きとめる格好のまま手を伸ばし、彼女の手首を縛っている縄を風魔術で切ろうとした。魔力の刃で彼女を傷つけないようにジリジリと切りつけていく。
「もうちょい……もうちょい……」
体勢が悪いのもあるけど、えらい頑丈な縄なので思うように切れていかない。
その間ギレーヌは俺の首筋に顔を埋めるようにして荒い息をついていた。
フーッ!フーッ!
彼女の熱い吐息が俺の首筋にかかる。
身体全体からムワッとした熱気が発せられていて、俺まで汗をかいてしまう。
「ん~~ッッッ……おっ、切れ――」
ブチッと縄が切れた次の瞬間、俺は謎の浮遊感を覚えた。
そしてドスンと背中から床に押し倒された。
――押し倒された?なんで?
混乱したまま、俺は視線を彷徨わせた。
天井が見える。
薄暗い部屋。
燭台の明かりがボンヤリと、壁に影を映していた。
床に仰向けになる俺と、その俺に覆いかぶさっている、巨大な四足獣の影。
「……はぇ?」
俺は一瞬のうちに、ギレーヌによって床に組み敷かれていた。
ーーーーーーー
「あの、もしもしギレーヌ?」
俺は仰向けのまま、そう声をかけた。
ギレーヌは「ハッハッハッ」と小刻みに呼吸しつつ、上から俺を見下ろしていた。
なんだか、その眼が怖い。爛々と光っている。
彼女の両手はバンザイ状態の俺の手首をがっしりと掴んでおり、俺の腰から下は彼女の鍛え上げられた両脚で挟まれていた。
つまり、マウントポジション。
そうか、俺はこれからギレーヌにボコボコにパウンドを喰らわされるのか。
うわーやべーな。タップしようにも両手は拘束されている。
ギブギブ、ギブアップですよギレーヌ。
そう口にしたいのだが、彼女の気迫に飲まれて声が出ない。
「ルーデウス……お前……」
ギレーヌが絞り出すように呻く。
そうして彼女の顔がどんどんと俺の顔に近寄ってくる。
スンスンスン――
フンフンフン――
犬が匂いを嗅ぐように、ギレーヌも俺の匂いを嗅ぎだした。
顔から首筋、胸元、脇や髪の毛。
何かを求めるように、執拗に嗅ぎまわっている。
やだなぁ、朝シャンしてないから臭ってたかな。
うーん、加齢臭はまだだと思うんだけど。
などとパニくってると、ギレーヌが俺の首筋をベロリと舐めた!
「ちょ、ギレーヌさんッ!?」
くっそ、裏声しか出ねぇ!
しかもこいつのベロ、ゾリゾリしててなんか凄いゾクッと来るゥ!!
「ルーデウス、お前……」
何度目かのセリフを吐くギレーヌ。
なんだ、いったい何が言いたいんだ!?
混乱して呼吸が「ひっひっふー」しか出来なくなっている俺を再び見下ろし、彼女はとんでもない事を言い放った。
「ルーデウス、お前――」
「――お前、パウロの匂いに似ているな」と。
……え゛ッ、加齢臭!?
いやいやそうじゃなく。
ちょっとこのギレーヌさん、どうしちゃったの!?そんなキャラじゃないでしょ?
混乱しつつも俺は考えをまとめる。
この部屋に入って、縛られていたギレーヌ。
彼女の呼吸は荒く、視線は虚ろで全身汗びっしょりだった。
俺のさっきの予感は今、確信に変わった。
これは何者かがギレーヌに薬を盛って、彼女を椅子に縛り付けたのではないか。
ギレーヌは謎の薬の作用によって、我を忘れているのではないのか。
ペロッ……これは青のり味!……って違う!
うん、わからん!なので聞いてみる!
「ギレーヌ!もしかして毒でも盛られたんですか!?」
もしかしたらヒトガミの使徒の仕業かもしれない。目的はなんだ?
俺は叫んだ。しかしギレーヌには俺の声が届かないのか、虚ろな目をしたままだ。
「――え、あ、ちょ!?」
びっくりした。
突然、ギレーヌが俺の上着を一気に捲り上げたからだ。
バンザイをした形で、両手を半脱ぎ状態の服で固定されてしまう。いやなんか恥ずかしい。
「ちょっと!ちょちょちょギレーヌ!!」
俺は必死に呼びかけた。
だがギレーヌは聞く耳持たず、俺の胸をジョリジョリする舌で舐めだした。
いやん!くちゅぐったい!!ウッヒヒヒ!!!
「あぁ……もうだめだ」
そう漏らすと、ギレーヌも自分の上着を脱ぎだした。
ボルォン!!っと顕わになる大きな双丘。
……デカい。エリスよりも確実に。
2m近い巨女の胸は凄まじい迫力がある。物理的にデカい。
ピチピチに張りもあるし、ギレーヌもまだまだ現役だな。
……って、そういう事じゃなく!
「ギ、ギレーヌ!」
「うるさい!静かにしてろ!もう我慢できん!」
ギレーヌが吠えた。
まるで捕らえられ、長い間美味しい生肉をおあずけされた野生の狼のように。
「お前が悪いんだ、お前が……」
まるで言い訳するかのように、ぶつぶつと呟くギレーヌ。
はて、俺が何をしたというのだろうか。
「死に物狂いで我慢をしてたのに、お前が縄を解いたから……」
我慢。我慢とは。
目が血走っている。
これは相当に強い毒を盛られか、或いはアスラ名物高級媚薬か!?
アレコレと考えを巡らす。しかし思考がまとまらない。
ギレーヌが俺のズボンに手をかけてるし。
「待って待って!それはマズい!かなりマズイ!」
「すぐ済む……くそッ外れん!」
ベルトの金具が引っかかってるのか、グイグイと俺の腰が上下左右に振られる。
ガックンガックン!らめぇ、腰が抜ける!物理的に!
「ダメ!あたいには妻と妻と夫と子ども達と馬と犬と、あとアルマジロが……」
「天井のシミでも数えてろ!」
ダメもとでもがいてみる――がっ、駄目!全然動けない!
とんでもない剛力で腕を抑えられ、両脚に絶妙な形でマウントされてしまって、どうにも抜け出せない。
バンザイしちゃってるから、魔術も出すに出せない。詰んでますね、これは。
やべーよやべーよ!こんな形で浮気をするハメになるなんて……!
「ギレーヌ!ほんとやめましょうギレーヌ!」
あ、これもうだめだ。ギレーヌは眼がグルグル回ってる。
もう一心不乱に俺のズボンを脱がそうとしてはる。
あぁ、シルフィ、ロキシー、エリス。先勃つ不孝をお許しください。
目を瞑って俺は三人の妻に祈った。エィメーン。
――と、その時である。
「随分と楽しそうじゃない、
――あんた達ッ!」
突如、落雷のような大音声が部屋中に鳴り響いた。
仰ぎ見れば、出入り口には仁王立ちとなる人影が。
エリスである。腕を組み、足を開いて尊大に立っていた。
ひゅぅ、助かった!第三部完!
「…………」
エリスは無言でゆっくりと部屋に入ってきた。足音がズシンズシンと響いてくる。
ちらりとギレーヌを見れば、眼を限界まで見開いていた。
……怯えてる。この人、めっちゃビビってるぅ!?
「なァにをしてるのかしら、ギレーヌ?」
エリスはギレーヌの目の前にそびえるようにして立った。
ちなみに、仰向けに寝ている俺の頭の上で仁王立ちなので、眺めは最高だった。
「は……ぁぅ」
ギレーヌは小刻みに震えていた。
プルプルしてるのが拘束されてる手首とか腰とかに伝わってくる。
剣王さまをここまで怯えさせるって、うちのカミさん何者なのよ……。
「あ、ぅ……ぇ、エリス……おじょう……さま……」
アウアウと口を戦慄かせ、絞り出すように呻くギレーヌ。
本人も気が付いてないだろう。あまりの恐怖に、言葉使いが昔に戻っていた。
「フンッ――そうよ。私はエリスよ」
傲岸にふんぞりながら、エリスは言った。
その口調は、幼い頃の、あの暴虐無人だったエリスが戻ってきたかのようだった。
・・
「そして、これは私のものよ」
その長く美しい脚で、俺の胸を"ぶぎゅる!"っと踏みつけた。
……はい、拙者はあなたのものです。
やだもー!こんなところでそんな恥ずかしい事言わないでよー!
おっと、つい胸キュンしてしまって、俺の中の乙女デウスが出てきてしまった。
「アンタ、誰に断って人のものに手を出してるのかしら?」
そして俺を踏んづけている足をグリっとする。
「あんっ♡」
おっといけねぇ、思わず声が出てしまった。
チラリとエリスの視線が俺に向く。
あ、凄い。まるで虫を見るような目よ?もっと見て!アタイを見て!
「――クッ」
などと俺がボケに現実逃避している間に、事態は動いていた。
恐怖に震えていたギレーヌだったが、エリスの視線が外れた瞬間を見逃さなかった。
即座に四つ足になって出入り口に向けて駆け出して行ったのだ。
脱兎ならぬ脱狼。凄まじい疾さだった。
――しかし、ぎれえぬはにげられなかった!
世の中、そうは甘くなかった。
出入り口には、すでに赤い鬼が通せんぼしていたからだ。
その両腕を広げ待ち構える様は、まるで、地上最強の生物の最終戦闘形態のよう。
「知らなかったの?
――私からは、逃げられない」
そう宣言するや、エリスは右の拳に渾身の力を集約しつつ身を捩り、一気に解放した。
光の太刀ならぬ、光のゲンコツ――
残像すら目に映らず、エリスの拳はギレーヌの頭頂部に振り下ろされていた。
ゴッチーンッ!!
何かとてつもなく硬い物がぶつかった音が響く。
喰らったギレーヌはたまらず目を回し、その場に崩れ落ちた。
それを見てエリスはまた腕を組み、フンッと鼻を鳴らす。
「ルーデウスに手を出したかったら、きちんと結婚してからになさい!」
いや、それは……。
まぁ、エリスの基準は、結婚してるかしてないかって感じなのかもしれないが。
「はぁ~、やれやれ……」
俺は安堵の息を吐いた。
とりあえず、最悪の自体は回避出来た。シルフィ、ロキシー、俺は貞操を守れたぜ。
「なにフニャフニャ笑ってるのよ」
前言撤回。
まだ最悪の事態は回避出来ていなかった。
エリス様は怒っていらっしゃった。それも、物凄く。
そりゃそうよね。旧友を訪ねてきたら、妻がNTRれてる現場に出くわしたんだから。
長年連れ添った夫からすれば、そりゃぁキレますわな。
「そこ、正座ね?ルーデウス」
にっこり笑って床を指さすエリス。
その笑顔はまるで、怒りが有頂天の時のシルフィのようだった。
――もちろん、俺は正座したよ?
そして説教が始まった。
エリスの説教は喋らない。
ただ腕を組んで仁王立ちのまま凄い眼で睨むだけ。
正座した俺の意識が他を向くと足をダンッ!と踏み鳴らして威嚇してくる。怖い。
足が痺れたのでモゾモゾさせると、今度はバリッ!っと凄い歯ぎしりをする。怖い。
途中、シルフィとイゾルテが駆けつけるも、二人には顔をしかめられるだけだった。
そりゃね、俺は半裸に剥かれて正座中。ギレーヌも半裸で気絶中。
どう見ても、不倫の現場だよ。言い訳くらいさせて下さいよ。ねぇ刑事さん。
「問答無用」
「最低ですね」
シルフィからは、阿修羅面冷血のような顔でピシャリ。
イゾルテには汚物を見るような目で吐き捨てられた。
ちょっとした夫婦旅行のつもりだったのに、踏んだり蹴ったり。
とんだとばっちりだよ、トホホ……。
ーーーーーーー
一晩経って、翌日。
王宮から使者が来た。ギレーヌからである。
なんでも、昨日のことで謝罪したいとのことだった。
夕べから口をきいてくれないシルフィやエリスにビクビクしつつ、俺は王宮へと出向いた。
「すまなかった」
貴賓室で向かい合って座るなり、ギレーヌは頭を下げてきた。
昨日とは打って変わって、女王の側近としての彼女は制式鎧を着こんでいる。
金色というか黄土色というか、シャンドルやドーガと同じ色の全身鎧だ。
昔の剣王装束の方がギレーヌらしいが、こっちはこっちで黄金聖闘士みたいで格好いい。
――さて、昨日の件について。
ギレーヌが縄で縛られ、それを俺が解き、そして押し倒されて襲われた件だな。
俺はてっきり、ヒトガミの使徒にギレーヌが毒でも盛られておかしくなったと思っていた。
そうでもなければ、沈着冷静な彼女が俺を襲う理由がない。
と、俺なりの推測を伝えたところ、彼女は至極あっさりそれを否定した。
「違う。昨日のアレは、発情期のせいだ」
ほほぅ、はつじょうきとな?
……あぁ、なんか、わかってきた。
獣族は周期的に発情期があるんだっけか。
昔、大学でリニアとプルセナとかが部屋に暫く閉じこもってた事があった。
発情期に獣族は判断力も鈍るし、性的にもだらしなくなるのだろう。
あいつらは族長の家系だったってのもあって、族長の座を狙う同族から身を隠していた。
ピンク色の頭のままで戦う訳にはいかず、寝技にでも持ち込まれたらもうお終いだ。
屈強なギレーヌでもそれは弱点に変わりなく、発情期には引き籠っていた、と。
そこへ、間抜けな俺がうっかり顔を出し、あまつさえ解放してしまったのだ。
「お前は、パウロとよく似た匂いだったからな。さすがに我慢出来なかった」
彼女曰く、出来ればパウロ以外とは肌を合わせたく無かったとの事。
なんだよパウロ、なんだかんだとギレーヌから未だに想われてるんじゃないのぉ?
……クソが。
ちらっとギレーヌの顔を見るも、彼女の顔には特に感情を見いだせはしなかった。うーむ。
「それで、手足の縄は?」
「あれはいつも、イゾルテに縛ってもらっていた」
水神流の捕縄術は凄まじく、ギレーヌの剛力でも千切れない特殊な縛り方なんだとか。
引き籠るだけでは、性欲の強い自分は間違いを犯すかもしれない。
だからイゾルテに話を通して、その時期は縛って貰っていた、と。
ギレーヌが引き籠っているのを知っていたイゾルテだが、今回はエリスと話しこんでいたのと、俺が誰に会うか言ってなかったので、制止する事が出来なかったんだろう。
――そうそう、後日談というか。
あとでイゾルテに聞いたら、アリエルはギレーヌの発情期を知っていたんだと。
知っていて、なんか面白い事になりそうだから、黙っていたんだってよ!あの女狐!!
……今度アイツに用がある時はさっさと帰ろう。
「それで、もう平気なんですか。その、発情期」
「ああ、昨日のガッツン一発で醒めた」
おほっ、凄いなエリスのゲンコツ。
毎年やってもらえば?と軽口を叩くと「あれはもう御免被る」とギレーヌも苦笑で返す。
「で、私への用向きとはなんだったんだ」
ひとしきり笑ったあと、ギレーヌがそう水を向けてきた。
そうそう、彼女に渡したいものがあったんだよ。
「これですよ」
テーブルの上に手荷物を乗せる。
「なんだこれは」
「開けてみてください」
包みを解く。木箱が現れる。カポっと蓋を開けると、ギレーヌの顔つきが変わった。
「……これは」
「はい、ずっと昔に約束していたものです」
ギレーヌがその大きな手で恐る恐る取り出したもの。
それは、土魔術で創り出した、ギレーヌ人形だった。
遥かな昔、俺がまだロアの街でエリスの家庭教師だった頃の事。
ギレーヌから「自分の一番美しい頃の人形を」と頼まれていたのだ。
その直後、あの転移事件に巻き込まれてウヤムヤになってしまっていた。
ヒトガミの事もひと段落したし、ようやく約束を果たせたって訳だ。
「これは……素晴らしいな」
ギレーヌは人形を目の高さに持ち上げ、あちこちを眺めまわしている。
我ながらいい出来だと思うよ。うんうん。
苦労したんだよな。ザノバやペルギウスにわざわざ監修してもらったし。
ギレーヌに詳しいエリスにも意見を貰ったりしてさ。彩色も頑張った。
「喜んでもらえたなら、俺も嬉しいです」
「あぁ、これは私の宝物にする。心からの感謝を、ルーデウス」
うぉ、ギレーヌの満面の笑顔って、これ凄く貴重じゃね?
思わずキュンッてしちゃったよ。おっと、クール、クールよルーデウス。
「それじゃ、また来ますね」
「あぁ――また来てくれ」
会談は和やかに終了し、俺たちは笑顔で別れた。
帰り道、俺はギレーヌの笑顔を思い出しながら温かい気持ちになっていた。
あんなに喜んでもらえるなら、またなんか作ってやろうかな。
そうだな、今度はパウロやゼニスの人形も作ろうか。
それに俺やエリス、うちの家族全員も揃えたら賑やかだろう。
殺風景だったあの部屋も、きっと華やかに楽しくなる筈だ。
そのうち、休暇には家に遊びに来てもらおうか。きっとゼニスも喜ぶ。
あ~でも、エリスも人形欲しがりそうだな。そうすっと子ども達もか?
待てよ、監修中のザノバやペルギウスも物欲しそうな顔してたっけか。
はっはっは、仕方ねぇな。よっし、みんなまとめて面倒見てやろうじゃねーか。
ポカポカするような思いに、俺の帰路への足取りは軽かった――。
――その後、ギレーヌの部屋には、ルーデウス謹製の人形が増えていったという。
~fin~