無色な二人が無彩色になるまで   作:零眠れい(元キルレイ)

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12話 無味乾燥に映画館に来る

 

 ファンタジー学園恋愛青春もののオリジナルアニメ映画。

 新たな部活を立ち上げようと学校内の生徒に声をかけてるが、なかなか集めることができない。そんなある日、学校の倉庫を片付けていると、突如として異世界に飛ばされてしまった。仕方なくその世界で部員を集めながら、元の世界に戻ろうと画策する――らしい。

 あらすじだけ読んでもなぜ異世界で部員を集める気になったのか主人公の思考回路が読み取れなかったが、それはさておきプロモーションビデオを確認してみたところ、魔法を用いて敵をなぎ倒していたりヒロインと手を繋いだりと、異世界を満喫していた。最近はこういう映画が人気なのか。

 

「世間的な人気というより、アニメ好きの支持層が主らしいですが。まぁランキングには上位に入っていたので人気といって差し支えありません」

「そうなんだ。……世間的な人気のある映画じゃなくていいのか?」

 

 てっきりそっちの映画の方が――面白いことが保証されている映画の方が検証しやすいと思ったのだが。映画の中身がつまらないのであれば、二人で観ると楽しめるかどうかなんて観測できない。いや、誰かと一緒に観ているからこそ、逆に観ていられるなんてこともあるのかもしれないけれど。

 

「はい。調べてみたんですけど、人気が高いからといって必ずしも面白いわけではないらしいです。売り上げはテレビの宣伝力にもよるらしいのと、それよりワンランク下の、映画鑑賞やアニメ鑑賞を趣味に持っている方たちの評価によって支えられている映画の方が信頼できるみたいですよ」

「一般人の意見より、専門家の意見の方が信頼できるとか、そういうことか」

「そういうことです。専門家でなければその面白さがわからない、ということもあるので、一概には言えないのですが……ともかく、感想やレビューを調べてみたところ、このアニメ映画が良いだろうと判断しました」

 

 目の前のポスターを指しながら、乾燥さん。

 

「『面白い』や『こっちまで楽しくなる』といった無難な感想がチラホラと見受けられたのと、最後にどんでん返しがあるらしいですよ。どんなどんでん返しですかね」

「さぁ……全く想像ができないけれど、それより無難な感想でいいのか?」

「いいと思います。笑えたり泣いたりは、どの道できないと思うので。これくらいがちょうどいいでしょう」

「それもそうだな」

 

 言って、乾燥さんは映画館の入り口へと向きなおった。

 

「じゃあ、行きましょうか」

「ああ」

 

 嫌な顔一つせず、そして二人は歩き出す。

 河川敷から駅まで徒歩。それから乗り換えをしながら、迷子になることなく目的地である映画館に到着することができた。土曜日ということもあってか、電車はそれなりに混んでいて、映画館の近くにもまばらに人がいる。映画館には(おそらく)人生で初めて入ったわけだが、特にこれとって特別な思いはなかった。

 まぁ、広いな、と。広すぎて、あまり落ち着かなかった。

 乾燥さんと共に観たい映画のチケットを購入し、スクリーンに向かう。途中、映画館といえばドリンクやポップコーンを食べながら鑑賞するイメージがあったので、買いに行かないのか訊いてみたところ、

 

「そうですね。王道的に大きいキャラメルポップコーンとコーラを手に試してみたいところですが、今日は映画の内容のみで心が揺さぶられるのかを試したいので却下です。……ちなみに飲食しながらの映画鑑賞も検証したいから二本目も観たいと言い出したら、無味くんは付き合ってくれますか?」

「……この映画次第、かな」

 

 断りはしない返事に、彼女は淡泊に返す。

 

「そうですか。面白いといいですね。そういえばちゃんとは訊いたことがありませんでしたが、無味くんは映画を観たことはあるんですか? アニメや小説でもいいのですが」

「映画は……確か保育園で親の帰りを待っていたときに観ていた気がする。けど何の映画だったのかはまるで思い出せない」

 

 覚えているのは……周りの連中がやけに騒がしかったことくらいだ。

 

「そうですよね。もう十年以上も前の話ですし、私も観ていたような気はするのですがすっかり忘れてしまいました」

「アニメは何も観たことがない。テレビはほとんど観ないからな。小説は乾燥さんに勧めてもらったもの以外、読んでないよ。図書館には参考書目的でしか行ってないから」

 

 こうしてみるととことん娯楽に触れてない。楽しむためにアニメ映画を観るのは初めてかもしれない。

 そんな思いが過ると、彼女は言った。

 

「……楽しめるといいですね。評価は良かったので、期待してもいいと思いますよ」

「だと、いいんだけど……俺のことばかりじゃなくて、自分のことも気にしなよ」

「気にしてますよ。自分のことばかり考えてます」

 

 そして彼女は、変わらない顔つきでこちらを向いた。

 

「無味くんも、自分のことばかり考えてくださいね」

 

 

 そうして上映スクリーンに着いて、指定された席に座った。上映まであと五分ほどあるが、一番人気の映画でなくとも人が十分に集まっている。多い。

 どの席に座るかにも拘れるとのことだが、指定席のことまでは視野に入れてなかった乾燥さんは、空いている中でなるべく中央の席を指定した。

 座ってみると、前の座席に人はいるが、スクリーンが遮られることなく見れそうだ。彼女にも確認してみたところ、問題なしとのことだった。

 

「異世界ジャンルは、だいぶ前に人気小説に手を出したことがあるのですが、嫌な感じはせずとも面白くもなかったんですよね。なので本音でいうと躊躇しました」

「それでも選んだのか」

「そんなことを言い出したら全滅だったので」

「……」

 

 とどのつまり、どのジャンルの人気小説にも全く同じ感想しか抱けなかったと、そういうことだ。

 それもそうだろうと思った。逆に一冊でも違う感想を抱けたのだとしたら、それこそ違和感がある。面白いと思える小説があったならば、ハマっていただろうから。こんなことはしなかっただろうし――こうして自分を誘ったりもしなかっただろう。

 見える世界が、次元が変わるから。一緒にいられなくなるはずだ……自分が。

 

「ちなみにその小説は、作戦を練り敵を一掃する爽快感。周りから慕われる良識ある主人公。大勢の魅力的で個性的なキャラクター。少し他とは違うワクワク感のある世界観設定。コメディタッチなほのぼのとする掛け合いが漂いながらもシリアスシーンでは一転して緊迫感があると、そういう感じで好評だったんですよね。読んでいてそれらが伝わらなかったのですが」

「それって俺も読んだことある?」

「貸した覚えはありますよ。全巻。ただ『貸してくれてありがとう』の一言しか貰っていません」

「じゃあ、君と同じように感じて、惰性で読んだんだろうな」

 

 良かった点を述べられても、そんな小説を読んだ記憶が一向に蘇らない。

 

「覚えていたら、簡単なあらすじを教えてくれないか?」

「冒頭で何かがあって、主人公がお亡くなりになって、訳も分からず転生するんですよ。何の説明もなく。その後はスキルを習得しながら、部下と一緒に世界を冒険して回るんです。そんな感じだったと思います。全部で二十巻以上あって、それなりに長かったですね」

 

 言われてみれば、彼女に教えてもらい読んだ覚えがあるような気がするけれど、やっぱり細かいところは思い出せなかった。

 今から観る作品との違いといえば、部下と仲間、恋愛要素の有無、目的、どんでん返しだろうか。あとはそれと、小説に比べて映画は短い。それによってどんな違いがあるのかは……大して詳しくない自分には、よくわからない。

 

「あ、そろそろ始まりそうですよ。無味くん」

 

 言われて周囲を見やれば静かになっていて、誰もがスクリーンに集中している。そしてスクリーンの方に目をやれば――広告用のビデオが終わり、映画が始まろうとしていた。

 

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