無色な二人が無彩色になるまで   作:零眠れい(元キルレイ)

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14話 鉛筆くんは無味くんを察せない

 

「――それで、感想の語り合いはどうなったの? 何分ぐらいできた?」

「十分ぐらいだったと思う。徹底的に掘り出していったら意外と話せることがあった」

 

 月曜日。昼飯を終えた鉛筆くんは、ふと目に入った無味くんと教室でだべっていた。別にこれといって用事があったわけではないが、珍しく彼が一人で校庭を眺めていたので話しかけた感じだ。いつもならこの時間帯、彼は彼女――乾燥さんと共にいる。その傾向が強いというだけで、毎回ではないけれど。

 傾向が強い理由は訊くまでもなく、食堂に一緒に行ったついでに、その後も次の授業まで話しているという、まぁそんな感じだろう。ちゃんと訊いたことはないが。

 彼と彼女の関係は、どうでもいいといえばどうでもいい。関心度合はかなり低かった。人と人との関係性とか、他人への印象とか、そういうのは面倒くさいから。恋愛がどうのこうのと騒ぐのも、人と人との絆を諭すのも、どちらも馬鹿げてる。あんなの薄っぺらいのなんの……。

 けれど、彼単体には興味があった。最初はペア決めに困らないようにするため、という友情とは程遠い理由で近づいただけだったが、実際に話してみたらなんと面白いことか。こんな奴見たことがない。

 自分と同じようにひねくれているかと思いきや、全くの逆。ありのままを受け入れ、全てをそのままに受け止める。かといって自分を曲げることもしない。ただ、普通の人より許容範囲が広いだけだ。頭が良くても、何一つ理解してないから。

 さて、そんな彼が、誘われてとはいえ一昨日に映画館へと足を運んだらしい。アニメに疎い自分でもタイトルを知ってるくらいには有名な映画を観に。こりゃあ訊かずにはいられない。

 

「ふーん、僕もそっち方面には詳しくないから何ともだけど、それなりに話せて良かったじゃん」

「……そうだな」

「……」

 

 今の少しの間は、良くなかった時の間だ。目線も横にずらしたまま。要は同意ではなくただの相槌である。付き合いは半年と短いため、何が悪かったのかまでは察せられなかったが、不服そうにしているのは何となくわかった。

 だが鉛筆くんは、最初の内は根掘り葉掘り訊こうとしたり、指摘していたけれど、それも最初の二、三回までにしておいた。あまり話したくないことかもしれないし、会話に支障がないといえばない。あまり無理に訊くことでもないだろう。

 

「それで、面白かった? その映画」

「いや、面白くなかったよ。乾燥さんもそう言ってた」

「まぁ、それもそっか。無味が物事を面白いなんて言うのは全然想像できないし」

「自分でも想像できない」

「テンション高くするのも、夢中になるのも全くイメージできないし」

「だと思う」

「だからといってすげーつまんなかったって愚痴るのも想像できないんだよね」

「……かもな」

 

 些細な間の変化に、薄く笑みを浮かべる鉛筆くん。今の間は、おそらく憮然だろう。目線を一度こちらに向けて、それから横にずらした。

 彼は語らない。表情も、言葉も、仕草も。だからこうして推測することでしか彼の心中を把握できない。たまたまこういう観察癖をつけておいてよかった。こんなところで役に立つとは。

 メラメラくんは観察癖ではなく、経験と直感で察しようとするようだ。だから外れることが多い。だが、乾燥さんは……恐らく自分以上に的確に当てている。

 皮肉なものだ。最も知ろうとしている者が最も知れずにいるのは。

 

「気に入ったキャラもいなかったの?」

「いなかったよ。悪役も主人公たちも、どちらにも加担できなかった」

「やっぱりね。僕も人気で定番の漫画を見せてもらったことあるんだけどさ、あんまりキャラクターに愛着とか湧かないよねー。正義が何の愛が何の、仲間を気高いものとして掲げちゃって」

「それはもう、嫌ってないか?」

「嫌いだよ。僕の愚痴は聞いてて嫌?」

「いや、そういう発想はなかったから……むしろ新鮮だ」

 

 新鮮、か……そういうことを言うのはメラメラくんくらいなもんだと思っていた。

 ――しかし、気のせいだろうか。そりゃあ乾燥さんと話している方が仲が良さそうで、メラメラくんからの配慮は無下にするけれど、自分が声をかけるときはあまり抵抗されてない気がする。

 

「無味の嫌いなキャラはどんなやつ?」

「思いつかない。乾燥さんから借りた小説にも、昨日観た映画にもいなかった」

「え、マジ? 一人も? なんかこいつ気に入らねぇなーみたいなのも?」

「うん」

 

 平然と頷かれて、好きなキャラより嫌いなキャラの方が多い鉛筆くんは面を食らった。いやいやそんな馬鹿な。何も感じないキャラが最も多いのは、それは認める。しかし嫌いなキャラの一人や二人いてもおかしくないだろう。下手したら自分より小説読んでるんだから。

 

「そんなにいるものなのか?」

「少なくとも僕は、嫌いな作品には嫌いなキャラがいるよ。あ、もしかして嫌いな作品がないとか?」

「ない、かな……たぶん」

「へぇー……」

 

 これはまた、面白いことを聞いた。想像通りとはいえ、思えば言質を取ったことはなかった。

 どんなキャラなら、こいつは気分を害すのだろうか……。

 

「けど、読んだ数が少ないだけで、あるとは思う。人気作ばっか、しかも乾燥さんに勧められたものだけだから」

「うーん、そんなもんかねぇ……」

「――って、あいつならたぶん言う」

「……ああ、そういう」

 

 あいつというのは、おそらく彼女のことだろう。自分の本心ではないわけだ。

 

「んで異世界ものの映画だっけ。最近流行ってるよねー異世界もの」

「らしいな」

「憧れはあるからわかるっちゃわかるけど。自分の理想通りの環境にいたい、みたいな。できないなら疑似的にでも体験したいしね」

 

 それを聞いた無味くんは、何を思ったのかこちらを向いて訊いてくる。

 

「お前はどんな環境がいいんだ?」

「僕? そうだね……まず村がいいな。森の中でもいい。それでいて街が近くて、物資が運びやすいところ。んで気ままに最期まで過ごしたいもんだ」

 

 答えると、なるほどとばかりに視線を下げ、口を閉じる無味くん。今度は鉛筆くんが訊いてみる。

 

「お前は?」

「……」

 

 彼はしばらく窓の方を見上げ、やがてぽつりと口にする。

 

「狭いところ」

「……狭いところ、ね」

 

 なんとなく――彼に合った回答のような気がした。なぜそんな風に感じたかといえば、それはもう、なんとなくとしか言いようがない。

 だが、だからかすんなり、訝ることなく入ってくる。

 ……ふと、気になった。

 彼の部屋は狭いのだろうか、と。そういえば行ったことがない。彼女ならば行ったことがあるかもしれないが。

 

「うん、確かに広いところより狭いところの方がいいよね。作業スペース的には広い方がいいけどさ」

「……ああ」

 

 おっと、どうやら外した返答をしてしまったらしい。デリケートなところに踏み込んでるかな?

 そう思って、鉛筆くんは話題を変える。

 

「そういえば、そのどんでん返しってどんな展開だったの?」

「それは……あ、乾燥さん。何か用?」

「ん? ――わっ」

 

 つられて鉛筆くんは振り返ると、そこには乾燥さんが立っていた。日本人形みたいに静かで表情がなく背後に立たれたため、少し心臓に悪いものがある。思わず軽く飛び退いてしまった。

 だがしかし、何事もなく会話する二人。

 

「おや、いいんですか? 話が終わるまで待ちますよ?」

「いいよ。別に重要こと話し合ってたわけじゃないし。なぁ鉛筆?」

「え、まぁそうだね……なに乾燥さん、急ぎの用事?」

 

 無味くんに振られ――だべっていただけだしいいのだが、なんだろうこの反応速度。この扱いの差。改めてこの二人って特殊だなぁ……と思いながら、とりあえず頷く鉛筆くん。

 

「急ぎというほどではないのですが……ではお言葉に甘えて。無味くん、私やりたいことができました。手伝ってください」

「今度はなに?」

 

 今度は、ということは慣れているのだろうか。

 訊かれると、彼女はよくぞ聞いてくれましたとばかりにはりきった様子で……いや、嘘だ。全然はりきってない様子で、口を開いた。

 

「部活を立ち上げます」

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