無色な二人が無彩色になるまで   作:零眠れい(元キルレイ)

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15話 鉛筆くんはうるさい

 

「できるのか?」

 

 真っ先にそう問いかけたのは、無味くんだった。やるやらないの前に、まずはできるかどうかの問題がある。

 鉛筆くんはあまりに突拍子もない発言で呆然としているが。

 

「できるみたいですよ。さっき亀先生に確認しました。顧問は引き受けてくれるとのことで、名称と責任者を決め、あとは部員を五人以上集めるだけです。というわけで無味くん、一緒に部員集めをしてください。というか入ってください」

 

 そこでようやく現実を認識した鉛筆くんが、たまらず口を挟む。

 

「いやいや……だけっていうけど乾燥さん、新入部員を勧誘する時期はとっくに過ぎてるよ。今十月、半年も過ぎてる。どの部活に入るかはもうみんな決まってるだろうし、いくら何でもこれから集めるのは無茶なんじゃ……」

「そうですね。亀先生からも無謀だと言われました。けれどやってみないとわかりませんし、減るものでもないでしょう。もうやるのは決定事項なので止まるつもりはありません」

「それは……まぁ、確かに……」

 

 言われてみれば、驚きのあまりに非現実的であると説得じみたことをしてしまったが、彼女を止める理由はない。手伝いを頼まれているわけでもないし、リスクもせいぜい彼女の時間が無意味に潰れるくらいなものだ。

 止める権利がある者とすれば、止めて当然ともいえる者は自分ではなく――

 

「無味はいいの?」

「いいって何が?」

「え? その、彼女の奇行を止めないで」

「奇行も何も、いつものことだろ」

 

 いつものことなんだ……。

 

「……えーっと、乾燥さんはどうして部活を立ち上げたくなったの? それも急に。今ある部活じゃ満足できない?」

 

 なぜこんなにも驚いているかといえば、主な理由がこの高校での部活の豊富さに彼女が満足していないことだった。

 自分が所属する鉛筆削り部なんて誰が得するんだみたいな部活が存在するくらいに、生徒の自主性を重んじるこの高校の部活は数が異常に多い。たとえ部員がいなくなったとしても、廃部という形ではなく幽霊部活として残される。その部活が存在していた跡がいつまでも残されるのだ。

 ただ、数が多い代わりに予算がその分減るけれど。ともかくそれはおいておいて……新しい部活を作るまでもなく、先人が作り上げた今ある中に既にあるはずだろう。最近できた学校というわけでもない。

 ――なんて、考えていた自分は乾燥さんのことをなめていたと言わざるを得ない。

 

「いえ、やりたい活動があるとかそういうわけではなく、新しく部活を立ち上げてみたいんです」

「……ああ、そういう」

 

 つまるところ、部活自体には興味はないが、そういう体験をしてみたいと。そんなの聞いたことがない……手段を目的にしてるよこの人……仮に成功したとして得るものあるのかな。少し心配になる。

 ふっ――と、つい心情が判別つかない苦笑をしてしまった。

 

「もしかして、昨日観た映画に影響された?」

 

 それに気付くことなく、問いかける無味くん。乾燥さんは頷く。

 

「はい。とはいっても、思いついたのは昼御飯を食べている最中、部活の出し物について話し合ってる生徒の声を聞いて、なんですけどね」

「だからか、食事後にすぐ席を立ったのは」

 

 納得した様子の無味くん。しかしすかさず鉛筆くんは言う。

 

「でも、いくら部活を立ち上げることが目的だからといって、活動内容を決めないことには誰も入ってくれないよ。怪しいし」

「一応活動内容は決めていて、亀先生に訊いたらオーケーを貰いました」

「あ、そうなんだ。どんな内容?」

 

 そう訊いた鉛筆くんに、彼女は「それがですね……」と回想し始める。

 

『文芸部にしようと思います』

『あるに決まってるだろ』

『え、あるんですか? では小説を読むだけの活動で』

『そりゃ文芸部の活動範囲だ』

『色んなことに挑戦する部』

『あるぞ。名前は挑戦部だったか』

『楽しいを見つける部』

『部活の一覧表は見たのか? ないなら渡すが』

『ではヘンテコなことをする部で』

『ヘンテコ部だったかな。あの部活』

『世界を大いに盛り上――』

『もうある。有名だからな』

『ふむ……それなら世界を滅ぼす部でどうでしょう』

『ああ……その部活はまだ存在しないはずだ。責任者と名称を決め、部員を五人以上集めてこい』

 

「待て、色々とおかしい」

 

 部活が多いことは知っていたけれど、ヘンテコ部なんて部活は知らない。なに片っ端から承認してるんだよ。いやまぁ、そうしてもらわなければ鉛筆削り部なんてなかっただろうけれど。

 それより世界を滅ぼしたら自主性がどうのとか言ってる場合じゃないって! 本心ではないけどだからといって採用したらダメだって!

 ……本心じゃないよね? 冗談でも亀先生止めてくれよ。教師として。生徒が危ない方向に走る前兆かもしれないじゃないか。

 

「全くですよ。おかしいです」

 

 おっと? まさかの乾燥さんから同調を受けた。てっきり回想中に浮き沈みがなかったことから受容しているかと思いきや、そうでもなかったようだ。内心ツッコミを入れていただろう。

 

「この学校はどうかしてますよ。自主性を育てるといいながら部活動を立ち上げることすらできないなんて。すぐにでも改善すべき欠陥です」

「そっちの話か……」

 

 ダメだ。やはり彼が気を許しているだけのことはある。常識が違う。

 それにしても無表情すぎて怒りが伝わってこない。感情表現しようとしている分、彼より気難しいな。

 対する無味くんといえば、平静と「残念だったな」と同情的な言葉をかけていた。この二人の調子が独特すぎる。

 はぁ……と、己の凝り固まった常識を吐き出すようにため息を吐くと、鉛筆くんは乾燥さんの方へと向き直った。

 

「それで、責任者と名称はどうするつもり?」

「責任者は私で構いません。名称は適当に世界滅亡部でいいでしょう。では早速、勧誘するためにクラスメイトに声をかけます。よろしいですか?」

「よろしくない」

「うん、いいよ」

「無味くんは男子の方をお願いします。私は女子全員に確認しに行くので」

「待て待て」

 

 言われるがままという言っていいほどに、席から立ちあがる無味くん。さしもの止めにかかる。このままほっとくのも面白そうではあるけれど、彼と彼女の立場が悪化するようなことは避けないと。

 

「何か問題でも?」

「それ本気で言ってる? 部活内容改めようよ」

「ですが、こういう型破りな案しか通らないと思いますよ。他に思いつきませんし」

「思いつくまで考えよう。力になれるかわからないけど、僕も考えるから」

「……鉛筆くんが、ですか」

 

 なんだその反応は。なぜ値踏みするような眼でこちらを見る。

 と、その時、乾燥さんの方からある男の気だるげな声が聞こえてくる。

 亀先生だ。

 

「おぉ、乾燥、ここにいたか」

「はい、ここにいましたが……もしや部活の件ですか?」

「ああ、校長に確認したところ、世界を滅ぼす部は承認できないらしい」

 

 だろうな。承認できるわけがない。

 

「いけると思ったんだがなぁ……」

「ダメでしたか……」

「そっか……」

 

 思い思いに言葉を漏らし、面持ちを落とす。この三人頭おかしいのではないか?

 

「わかりました。ならば亀先生、ご足労おかけしますが、今度は地球崩壊爆弾を作る部活を提案してみてもらえませんか?」

「わかった。確認してこよう」

 

 そして亀先生は、背中を丸めたまま教室を出ていく。なぜ彼女らは同じ過ちを繰り返そうとしているのだろう。

 

「ねぇ、地球崩壊爆弾って……」

「おや鉛筆くん、知りませんか? 国民的アニメに登場するあの……」

「知ってるよ。そうじゃなくて……」

 

 わざわざ説明するのも馬鹿らしくなってきて、直前に言葉を変えた。

 

「……君はこの世界に恨みでもあるのかい?」

「鉛筆くんさっきからうるさいです」

「僕は人として当然の発言をしてるだけだよ!?」

「だからですね。いつもよりうるさかったのは」

「……」

 

 彼女にとって常識的な意見は総じてうるさいものらしい。会話したことがほとんどなかったとはいえ、こんな人だとは思わなかった。

 

「なぁ、地球崩壊爆弾にも元ネタがあるのか?」

 

 二人の会話に挟んできたのは、無味くんだ。

 

「タイトルは忘れてしまいましたが、国民的アニメに登場する近未来の道具なんですよ」

 

 いつもより物静かだな、と思いながら答える乾燥さん。

 

「物騒なアニメが人気になることもあるのか」

「いや、内容的にはそこまで物騒じゃかったはずだ。少なくとも戦争要素とかはない」

 

 いつも通り無口だな、と思いながらカバーする鉛筆くん。

 

「とりあえず、亀先生が帰ってくるまで待ちましょうか。一応、地球崩壊爆弾の案が蹴られたときを想定して案を出し合いましょう。よろしければ鉛筆くんも一緒に」

「あ、ああ……」

 

 どうやら彼女の眼鏡に適ったようで、昼休みが終わるまでの間、話し合いをしていた。

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