いつもこの時間になると、全てが色褪せていく。
人も、学校も、外の景色も、河川敷の風景も……何もかもが色落ちして、音が遠くなって、頭がぼんやりになってしまう。
ああ……これだから現実は嫌いなんだ。これだから夢は嫌なんだ。
綺麗なものがなくなって、汚い世界が現れるから。
あんなにも色鮮やかだったのに。あんなにも美しかったのに。
そんなものはどこかへ行って、また灰色に包まれた――包まれてしまった。
光なんてものがなくて、私しかいないこの空間。
眼球を動かすことで、辛うじて煤だらけな青白い私の腕を見ることができる。
肩にかかった髪とワンピースは汚れていた。太ももは傷だらけになっていた。
瓦礫だらけで、仄暗くて、音のない建物。
でも、誰かの息を吐く音がした。それはきっと私だ。私にしかできないことなのだから。
手足を動かすこともままならず、私はまた瞼を閉じようとする。
逃げるために。探すために。思い出すために。
でも……いつになったら思い出せるというのだろう?
テレビ好きになろうとした。
アニメ好きにななろうとした。
小説好きにななろうとした。
ゲーム好きにななろうとした。
歌好きになろうとした。
作る側も、見る側も。
イラストも試した。運動も試した。料理も試した。釣りも、パズルも……。
色んなものになろうとしたのに、できなかった……。
今度こそ、本当に思い出せるのかな……?
それとも……このまま。
このままあの世へと行ってしまうのだろうか。
思い出すこともできず、逃げすぎてしまうのだろうか。
それはもっと嫌だった。まだ死にたくないからだ。死にきれないからだ。
そんなの私は認めない。
こんなの私は認めない。
現実も、夢も……。
見つけられるはずだ、また。
そうですよね? メラメラくん。
恋というのは『好き』で心がいっぱいになって、困ってしまうほどに、苦しくなるほどに、痛切なものなんですよね?
次に目が覚めたときはでーとです。そういう気持ちが私にも芽生えるはずです。彼を意識して、胸がどきどきとなってしまうはずです。
そうしてみせると、彼は言ってくれました。もしかしたら、今度こそ実現できるかもしれません。
……。
……どうして。
どうして無味くんは、やりたくないなんて言ったのですか?
理由もなしに断るなんて一度もなかったのに……手伝ってくれたのは、あなたも心の底では求めていたからなんですよね? 急に寝つきが悪くなったのもやはり気になります。
とうとう諦めてしまったのですか? 絶望してしまったのですか?
――やめてくださいよ。
あなたにも知ってほしいのに……。
どれだけ素晴らしい気持ちなのかをわかってほしいのに……。
助けたい、のに……こっちまでそうかもしれないと思いそうになるじゃないですか。
――あの日から。
『なぁ、どうして猫を助けたんだ? 同情か?』
『同情はないわけではありませんが、手間を惜しんで助けたのは、喜びのためです』
『喜び?』
桜の花びらが散った木の枝から降りられなくなった猫を、助けた時から。
『はい、誰かを助ける行為って、嬉しくなるものなんですよね。あいにくと実際に感じたことはありませんが……なかったので、ちょうど困っていた猫を助けた感じです』
『それで、嬉しくなったのか?』
『いえ、なりませんでした。そりゃあ良かったねとはなりますが、胸がすくほどではありません。なかなか喜びを見つけるのは難しいものですね。あ、もう木に登ってはいけませんよ。ニャンコ、あるいはタマ』
私を見ていたあなたの瞳は、とても空虚でしたよ。
『……乾燥さん、君はいつも、こういうことを?』
『はい。私の目標は、楽しいを思い出すことなんです。忘れてしまった感覚を、もう一度……』
これまでも――今に至っても。
『……あのさ、俺も手伝っていいかな? 君のやりたいこと』
でも、あの時の言葉は本当だったのでしょう? 喜びを知りたくて、それであんなことを言い出したんですよね?
『はい。大歓迎です。是非とも手伝ってください。えっと……無味くん』
『うん、こちらこそ、よろしく』
なのにどうして、今になって嫌がったんですか? 体調が芳しくないから……本当にそれだけが理由なんですか?
それとも、『好き』や『楽しい』は、一度忘れてしまったらもう見つけることができないと、そう思ってしまったんですか……?
そんなはずないと、少女は首を振ろうとしたけれど。
そうするだけの体力は、彼女には残されていなかった。