無色な二人が無彩色になるまで   作:零眠れい(元キルレイ)

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26話 乾燥さんは何度も夢を見る

 

 いつもこの時間になると、全てが色褪せていく。

 人も、学校も、外の景色も、河川敷の風景も……何もかもが色落ちして、音が遠くなって、頭がぼんやりになってしまう。

 ああ……これだから現実は嫌いなんだ。これだから夢は嫌なんだ。

 綺麗なものがなくなって、汚い世界が現れるから。

 あんなにも色鮮やかだったのに。あんなにも美しかったのに。

 そんなものはどこかへ行って、また灰色に包まれた――包まれてしまった。

 光なんてものがなくて、私しかいないこの空間。

 眼球を動かすことで、辛うじて煤だらけな青白い私の腕を見ることができる。

 肩にかかった髪とワンピースは汚れていた。太ももは傷だらけになっていた。

 瓦礫だらけで、仄暗くて、音のない建物。

 でも、誰かの息を吐く音がした。それはきっと私だ。私にしかできないことなのだから。

 手足を動かすこともままならず、私はまた瞼を閉じようとする。

 逃げるために。探すために。思い出すために。

 でも……いつになったら思い出せるというのだろう?

 テレビ好きになろうとした。

 アニメ好きにななろうとした。

 小説好きにななろうとした。

 ゲーム好きにななろうとした。

 歌好きになろうとした。

 作る側も、見る側も。

 イラストも試した。運動も試した。料理も試した。釣りも、パズルも……。

 色んなものになろうとしたのに、できなかった……。

 今度こそ、本当に思い出せるのかな……?

 それとも……このまま。

 このままあの世へと行ってしまうのだろうか。

 思い出すこともできず、逃げすぎてしまうのだろうか。

 それはもっと嫌だった。まだ死にたくないからだ。死にきれないからだ。

 そんなの私は認めない。

 こんなの私は認めない。

 現実も、夢も……。

 見つけられるはずだ、また。

 そうですよね? メラメラくん。

 恋というのは『好き』で心がいっぱいになって、困ってしまうほどに、苦しくなるほどに、痛切なものなんですよね?

 次に目が覚めたときはでーとです。そういう気持ちが私にも芽生えるはずです。彼を意識して、胸がどきどきとなってしまうはずです。

 そうしてみせると、彼は言ってくれました。もしかしたら、今度こそ実現できるかもしれません。

 ……。

 ……どうして。

 どうして無味くんは、やりたくないなんて言ったのですか?

 理由もなしに断るなんて一度もなかったのに……手伝ってくれたのは、あなたも心の底では求めていたからなんですよね? 急に寝つきが悪くなったのもやはり気になります。

 とうとう諦めてしまったのですか? 絶望してしまったのですか?

 ――やめてくださいよ。

 あなたにも知ってほしいのに……。

 どれだけ素晴らしい気持ちなのかをわかってほしいのに……。

 助けたい、のに……こっちまでそうかもしれないと思いそうになるじゃないですか。

 ――あの日から。

 

『なぁ、どうして猫を助けたんだ? 同情か?』

『同情はないわけではありませんが、手間を惜しんで助けたのは、喜びのためです』

『喜び?』

 

 桜の花びらが散った木の枝から降りられなくなった猫を、助けた時から。

 

『はい、誰かを助ける行為って、嬉しくなるものなんですよね。あいにくと実際に感じたことはありませんが……なかったので、ちょうど困っていた猫を助けた感じです』

『それで、嬉しくなったのか?』

『いえ、なりませんでした。そりゃあ良かったねとはなりますが、胸がすくほどではありません。なかなか喜びを見つけるのは難しいものですね。あ、もう木に登ってはいけませんよ。ニャンコ、あるいはタマ』

 

 私を見ていたあなたの瞳は、とても空虚でしたよ。

 

『……乾燥さん、君はいつも、こういうことを?』

『はい。私の目標は、楽しいを思い出すことなんです。忘れてしまった感覚を、もう一度……』

 

 これまでも――今に至っても。

 

『……あのさ、俺も手伝っていいかな? 君のやりたいこと』

 

 でも、あの時の言葉は本当だったのでしょう? 喜びを知りたくて、それであんなことを言い出したんですよね?

 

『はい。大歓迎です。是非とも手伝ってください。えっと……無味くん』

『うん、こちらこそ、よろしく』

 

 なのにどうして、今になって嫌がったんですか? 体調が芳しくないから……本当にそれだけが理由なんですか?

 それとも、『好き』や『楽しい』は、一度忘れてしまったらもう見つけることができないと、そう思ってしまったんですか……?

 そんなはずないと、少女は首を振ろうとしたけれど。

 そうするだけの体力は、彼女には残されていなかった。

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