要望があったのでさらに続き。

何だかんだで3作品になってしまいましたが、正真正銘の完結です。

1 / 1
物分りの良すぎる雁夜おじさんに注意。


【何だかんだで完結】オーラントが聖杯戦争に呼ばれたらしいですよ3【デモンズソウル×フェイト】

 超絶捏造設定注意

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 雁夜は、夢を見ていた。

 

 雁夜が見た夢は、彼のサーヴァントの記憶ではない。

 サーヴァントの元となった人物が有する、英雄の物語の裏に隠れた一人の男の記憶――それをサーヴァントが読み取った記録であった。

 サーヴァントの元となった人物に直接聞いたわけではなく、又聞きの又聞きのような形になってしまったそれは、正しく夢といえる程度には荒唐無稽で理屈の通らない虫食いの記録のような夢であった。

 

 

 夢の男は深淵を見通す知識を持ち、誰よりも優れた肉体を持っていた。

 決して豊かとは言えぬ北の大国に王として君臨し、しかし誰よりも偉大だと国の皆に崇められていた。

 質実剛健を良しとした国風故に華やかさこそ他国には劣っていたが、隠し切れぬ王気の衣を纏った男を侮る者は誰も存在しない。

 しかし……男はその優れすぎた知識故に、誰にも打ち明ける事ができぬ苦悩を抱えていた。

 

 男に付き従っている者は少なくない。

 男の国の騎士団は当然として、その勇名を他国に轟かせる五人の英雄たち。

 

 凄まじい技量を持つ剣士――「つらぬきの騎士」メタス

 凄まじい怪力を誇る騎士――「塔の騎士」アルフレッド

 力技魔を高いレベルで扱う蛮族の長――「長弓」のウーラン

 

 メタスとアルフレッドさえ超える剛力と技量を持つ“王の双剣”ビヨール

 高い見識と深い知識を持ち、騎士の鏡のような人格を持つ“王の双剣”ヴァラルファクス

 

 彼ら彼女らは一人一人が英雄譚を携えている本物の英雄だ。

 邪悪といってよい人格を持つものは居らず、彼らの主でもある男の悩みであれば真摯に考え抜き、我が事のように相談に乗ってくれただろう。しかしその誰にも男は己の悩みを打ち明ける事ができなかった。

 英雄たちを従えた夢の男は――オーラントと、そう呼ばれていた。

 そしてそのオーラントと呼ばれる男は……男のよく分からない悩みとやらを解決するために、何故だかは知らないが世界を滅ぼそうとしたのだ。

 

 

 はっきり言って、雁夜には意味が分からなかった。

 知恵も力も、権力も人望も。

 オーラントと呼ばれた王は、おおよその人間が一度は欲するであろうあらゆる物を持っていた。

 

 そんな男が、一体何に苦悩したというのだろうか。

 

 ――分からない。

 

 理不尽の裏を取る知恵と罠ごと蹴散らす力があれば、大抵の事は出来るだろう。

 権力を振るう事の出来る地位に座り、それを納得させる人望があれば出来ない事は殆どない。

 

 だというのに、このオーラントと呼ばれた男は、一体何に苦悩したのか――いや、苦悩できたのだろうか。

 彼の苦悩とは――自身の息子と愛する国、彼を信じる臣下を切り捨てる程のものであったのだろうか?

 

 ――分からない。何も。

 

 

 本人でない以上知りようがない疑問に胸を焼かれながら、雁夜の意識は急速に自我が薄れていった。意識が拡散するような感覚に襲われ、自身と他人の境界が曖昧になってゆく。

 そうして霞んでいく光景の中、雁夜はオーラントと呼ばれた男の最後の瞬間を目撃する事となる。

 

 

 彼の最後の忠臣となる男に助けられた、まっすぐである事だけが取柄の彼の息子が悲痛な声で男に向かって何かを叫んでいる。

 何を叫んでいるのかを雁夜は聞き取る事ができなかったが、彼の息子の言葉には純粋な疑問と哀しみが込められていた。

 

 ――しかし男は、そんな息子の叫びを一刀両断にした。

 

 男の一撃は魔法に高い耐性を持っている盾と品質の良い鎧を難なく両断し、息子の肉体を切り裂き……魂に致命傷を与えた。

 息子の鮮血が崩れた玉座の間に飛び散り、血が乾くよりも早く己の血肉としてそれを吸い取る。

 

 命を食らう白き悪魔()の凶行を前に、息子はようやく真実を悟る。

 

 ――あの偉大であった父は、もう何処にも存在しないのだと。

 

 致命傷である腹を庇いながら、息子は父の前から逃走に成功する。

 ……男であれば死に体の相手に止めを刺す事など簡単であるはずなのに、不思議と追撃はなかったが故に。

 

 

 

 そして息子に入れ替わるように、一人の男が城への門を潜った。

 男は凄まじい大きさを誇りながらも何故か刃が存在しない巨大な大剣を肩に担ぎ、何かの生物が持つ棘のように節くれている黒い水晶の剣を背負っていた。腰には剣先から持ち手の部分までが全て銀で出来た直剣と、黄色い布が巻かれた木の棒を備えている。

 そんな、見ているだけでも身動きが取れなくなりそうな重々しい武器とは裏腹に、男の服装は動きやすさを重視した軽装。

 

 

 一見すれば武器と防具が噛み合っていないちぐはぐな外見でありながら、しかし男の佇まいは絵になるように自然であった。

 

 体格が良いと言えない身でありながら武器の重さを感じさせない軽々とした歩みを進めた男は、今しがた膝を付いたばかりである死にかけの王子(息子)と対面する。

 男と王子は二、三言葉を交わし、王子が男に鍵を手渡す。それと同時に王子の命の輝きは完全に消え失せ、前のめりに倒れながらその存在を完全にこの世界から消滅させた。

 

 ――男はその光景を視界に納めると、一度だけ祈りを捧げ……玉座へと向かっていた足を反対へと向けた。

 

 

 

 そして遂に、白き王の最後の瞬間が訪れる。

 

 

 翼のようにも見える白き霧を背中に背負う白き王と対峙する男は、武技と身体能力の両方が凄まじいレベルで噛み合った卓越した技量の戦士であった。

 

 持ち上げる事すら難しいように思われる刃のない大剣を、男は左手一本で完全に使いこなしている。巨大な鉄の板のようなそれを盾として扱いながら、隙を見ては轟音と共に大地を砕く一撃を放つ。

 そんな男の右手には、先ほどまでの光景では持っていなかったはずの白い剣が携えられていた。

 

 ――その剣は白き王の持つ刀剣に良く似た意匠が施されており、両者の持つ剣は色や意匠と相まって両者の剣が、一対か或いは姉妹剣のような印象を与える。

 

 男の持つ白き剣と白き王の持つ黒き剣が切り結ぶたびに空間が泣き叫ぶように軋みを上げ、拮抗した力は轟音と共に互いを弾きあう。

 

 力と技、魔術の速さと威力。

 大凡戦士として必要なものの全てを持つ白き王。

 力と速さで僅かに勝る白き王に、己の武技を頼みとして真正面から拮抗している戦士。

 一見互角に見える両者の戦いは、しかし僅かではあるが確実に、白き王が戦士を追い詰めていた。

 

 何故、と問われるとその理由は一つしかない。

 それは両者が持つ剣の性能の差であった。

 互いに一度もその身に刃を浴びていないはずでありながら、黒の刀身は戦士の命を削っている。

 

 ――盾にした鉄の壁を通り抜け、命が僅かに削られる。

 ――互いの刀身が弾かれているはずなのに、命が確実に削られる。

 

 雁夜には、何故そうなっているのかといった理屈は分からない。しかし、白き王の一太刀を防ぐ度に戦士の命が削られている事は理解できた。

 

 

 そして、遂にその瞬間が訪れる。

 

 白き王の放った衝撃波を纏う三連撃を辛うじてと言う感じで受けきった男はついに膝を付く。

 白き王は膝を付いた男を斬りつけながら後ろへと跳躍すると、手に持つ剣を大地に突きたてるような姿勢を取る。

 気合の乗った声と共に白き王が背負った白き霧が収束し、凄まじい光となって膨張してゆく。

 

 放たれれば城の頂上を吹き飛ばすであろう一撃は、しかし放たれる事はなかった。

 膝を付いた体制のまま、男は黄色い布の巻かれた木の棒を握り締め――軽く一度それを振るうだけで、人間さえ軽く飲み込むであろう大きさの火の玉を打ち出した。

 背中に背負っている黒い水晶の剣からは禍々しい力が溢れ出ており、その力が上乗せされた火の玉は怪物と呼ばれるに相応しい白き王すら怯ませる。

 収束していた白き輝きは一瞬で霧散し、肉体と視界を焼く業火に白き王は初めて苦悶の声を上げた。そして――

 

 ――鉄の塊としか表現できない巨大な大剣を捨て去った男は腰から白銀の直剣を引き抜くと、先ほどまでの攻防さえ霞む速度で距離を詰める。

 そして次の瞬間には、白き王の肉体を白き大剣と白銀の直剣が音もなく通り過ぎていた。

 

 断末魔の声を上げながら、白き王はその世界から存在を薄れさせていく。

 そんな薄れ逝く白き王と反比例するように、戦士の存在感は凄まじい勢いで大きくなっていた。

 戦士から英雄へ。

 人間から救世主(怪物)へ。

 

 ――白き王を打ち倒した英雄の誕生を、雁夜は最も間近で目撃した。

 

 

 

 英雄は国を滅ぼした悪を倒した。

 結果を見ればハッピーエンド、よかったよかったで終われる結末だ。

 しかし、雁夜の胸に感慨は湧かなかった。

 

 何故か?

 

 そう自分で自分に問うた時、雁夜は自然とその答えを導き出していた。

 

 ――だって、王の息子があまりにも救われないじゃないかと。

 

 

 父に切り捨てられた息子は、しかし父を恨んではいなかった。

 彼の王家に伝わる宝剣を戦士に託しながら、自らの父の似姿を守るために黒き悪霊となってまで戦士に立ちふさがった事がその証拠だ。

 

 理性と心。

 切り捨てる覚悟と、守りたいという願い。

 背反する二つの望みを持った心優しき王子は、皮肉にも彼を切り捨てた父の秘儀によってその二つを両立させる事ができた。

 しかし、ならば彼は幸せだったと言えるのだろうか?

 

 ――答えは、否だろう。

 

 そして、だからこそ雁夜は思う。

 

 ――王子(息子)()の関係が、捨てた者(時臣)捨てられた者()の姿に被るのだ。

 

 何を考えているかも分からず。

 説明すらなく。

 一方的に切り捨てておきながら。

 それでいて息子()は父を切り捨てる事ができない。

 

 

 

 映画が終わった映画館のように、物語が終末に近づいた事で雁夜は夢から目覚めようとしていた。

 薄れ逝く意識の中で雁夜が最後に見た光景は……英雄が黒衣の女に背を向けて白い砂浜に佇み、そして―――――――

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 見るに耐えない怪物が現界し、人の世界を荒らしまわっていた。

 怪物に対峙するは四騎の英霊。

 

 ――一騎は、澄み渡った湖のように美しい青い服と輝く黄金のような髪が特徴的な少女――セイバー

 ――一騎は、鍛え込まれた細身の長身と二本の槍が特徴的な優男――ランサー

 ――一騎は、鍛え上げられた巨体と雷を纏った戦車を駆る大男――ライダー

 ――一騎は、黄金の鎧に身を包み、黄金の船に乗って黄金の杯を傾けて高みからの見物を決め込む黄金の男――アーチャー

 

 そんな、人外の戦場と化した冬の街の上空に鋼鉄の翼を駆る人間が二人迷い込んだ。

 

 小林と呼ばれた男が醜悪な怪物によって一瞬で命を散らされ、そこからどうしようもない恐怖を感じ取った仰木と呼ばれた男が怒りに狂って鋼鉄の翼を疾走させた。

 そして醜悪な怪物に人類の英知の結晶たる現代兵器を打ち込もうとした瞬間に、それは起こった。

 

 

 この場に現れていない二騎のサーヴァントのうちの一体――バーサーカーと呼ばれた白きサーヴァントが、伝説に跨り天空に姿を現した。

 

 バーサーカーの跨るそれは――輝きを放つ青い鱗が特徴的な、立派な体躯を持つ飛竜であった。

 

 竜とは、怪物の代名詞である。

 その翼で天を駆け、灼熱の息吹で国を焼き、鋭い牙と爪で英雄を殺す。

 有史以来多くの伝承で人間を殺し、しかし最後には必ず英雄に討ち取られた気高さと暴虐さを併せ持つ理不尽の化身。

 人間が英雄と呼ばれるための、文字道理の登竜門。

 

 ライダーと呼ばれるクラスですら乗りこなす事が出来る英霊は片手で足りるはずの怪物を、あろう事かバーサーカーが乗りこなす。

 その異常に黄金のサーヴァントを除いた人間と英霊たちは一瞬思考を停止させ、怪物を駆る白きサーヴァントに視線を釘付けにする。そして――

 

 ――■■■■■■■■■■■■ッッッッツツツツツ!!!!

 

 飛竜は聞く者の魂を震わせる咆哮を上げ、王にのみ許された天空に迷い込んだ鋼鉄の玩具を叩き落した。

 

 脱出機構ごと叩き潰された人間の翼は、恐ろしいほどに呆気なく地に落ちる。

 しかしバーサーカーと彼が駆る飛竜はそんな物を気にもせず、天を叩く冒涜的な音共に空を駆け天空に座す黄金の船へと迫った。

 

「く……くく……こういった趣向の遊びは久しいな。面白い、乗ってやろうではないか」

 

 あくまでも傲慢に、黄金のサーヴァントは船に備え付けられた玉座に座り、その肘掛の部分を軽く指で叩く。

 すると王の指示に応える兵のように、今まで滞空の姿勢を崩さなかった黄金の船の一部が開いた。形を代えたその姿は、黄金に輝く翼を持つに至った飛行船。

 現代の言葉で表すのであれば変形したと言ってもよい程度には姿を変えた黄金の船が、持ち主の意思に合わせて飛翔の準備のために出力を上げる。

 

「時臣、我はあの狂犬と戯れてやる事にする。貴様は……」

 

 一度言葉を区切ったアーチャーは、ちらりと地に視線を向ける。

 唐突な英雄王の行動に釣られた時臣は、彼の視線の先に何があるのかを確認する。そこには――

 

「雁夜……」

 

 ――かつて知人であった男が、遠目からでも理解できるほどに赤い瞳をこちらに向けて佇んでいた。

 

 アーチャーから感じられる雰囲気は皆まで言わせるなと語っている。

 故に時臣は、二重の意味で英雄王の言葉を引き継いだ。

 

「英雄王、私はマスターの相手を」

 

「さっさと行くが良い。振り落とされたくなければな」

 

「御武運を」

 

 人は地に、王は空に。

 英雄と怪物は天空を舞い、人間は地に降り語り合う。

 各々の戦場での戦いは、英霊と魔物を観客として終局へ向かう。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 黄金の船が緑の残光で闇夜を切り裂きながら疾走し、それを追うように青と白の暴威が天を引き裂き駆け抜ける。

 唯人であれば反転する動きだけで肉塊へと変じるであろう変則的かつ高速で夜を駆ける両者は、既にどちらもが英霊の枠組みを破壊しかねないほどに圧倒的であった。

 

 様々な輝きを纏って射出された宝具を、青き飛竜は器用に回避する。

 翼を畳み身を小さくし、時に回転を織り交ぜ、空を力強く叩く事で無理やりに軌道を変え、口から吹き出す灼熱の息吹は英雄王自慢の宝具さえ焼き尽くす。

 そして青き飛竜を駆るバーサーカーも尋常ではない。

 彼が打ち出している武器は、巨大な城門を破壊するために作られた破城槌さえ霞む大きすぎる巨大槍。青と白の輝きを纏った巨大槍は、月さえ穿つのではないかと思える脅威を秘めながら闇夜を駆ける黄金を狙っている。

 

 しかし黄金の王と彼が駆る船もやはり尋常ではない。

 常人であれば気付かぬ内に挽き肉に変えられる猛攻の中、黄金の船は物理法則を完全に無視した軌道を描きながら空を駆ける。それに腰掛ける黄金の英雄王も、余裕さえ感じさせる笑みを浮かべながらこの遊戯に興じていた。

 尽きる事のない財を打ち出しながら、変則的な軌道で飛来する槍を巧みにかわす。

 

「狂犬の分際でずいぶんと興じさせるではないか。だが……」

 

 今まで先を行くことを良しとしていたアーチャーが笑みを深める。

 影さえ残さぬ速度で疾走していた黄金の船は一瞬でその速度を落とす。

 速度を落としたのは刹那の時間のみであったが、一瞬とは言え完全に速力が逆転した両者の立ち位置は瞬きすら許さぬ速度で入れ替わる。即ち追いかける者と逃げる者、その関係が。

 

「そろそろ貴様が逃げる手番であろう」

 

 狩人の名に相応しく、アーチャーが狂犬を狩るための魔弾()を構えた。

 立場が入れ替わったバーサーカーとアーチャーは、先ほどまでの高速の攻防が嘘であったかのように一方的であった。

 攻撃は自身の肉体の正面に打ち出すという、生物としては当たり前の特性を持つバーサーカーは前面の敵にであればその武威を遺憾なく発揮できる。しかしそれは後ろが疎かになる事の裏返しでもあった。故にバーサーカーは桁外れの戦闘能力を誇りながらも――当たり前と言えば当たり前のことなのだが――背後に攻撃を加える事を不得手としている。

 対してアーチャーには死角と言える場所は存在しない。

 彼が撃ち出す宝具は、彼の意思に従って狙った空間を穿つ魔弾である。見えているかどうかは何の関係もない。それは先ほどまで繰り広げていた高速の空中戦が証明している。

 

 故にここから先に始まるのは一方的な蹂躙だ。

 武器の無い獲物を狩る、王にのみ許された天空を狩場とした蹂躙劇。

 

「それとも汚物に突っ込んでみるか?」

 

 色とりどりの魔弾を放ちながら、黄金の英雄王は白き王を追い詰める。

 後僅かで醜悪な怪物に頭から突っ込む。

 誰もが疑わぬ結末が目前に迫ったその瞬間――

 

 ――青き飛竜を追いかけていた黄金の船のさらに後ろに、何時の間にか蒼き飛竜に勝るとも劣らぬ体躯を持つ赤き竜鱗を持つ飛竜が現れていた。

 内包する力こそバーサーカーの駆る蒼き飛竜には劣るものの、身に秘めた暴威は天を駆ける黄金の舟にとっては十分以上に脅威だ。

 

 敵は青き飛竜しかおらぬと決め付けていた英雄王は新たな敵の出現に思考を割かれる。

 しかし英雄王の思考の遅延をこそ待っていたと言わんばかりに、赤き飛竜が英雄王の黄金船に燃え滾った業火を吹きかけた。

 その動きに合わせる様に青き飛竜がブレスを吐きながら飛行速度を上げ、醜悪な怪物の一部を炭へと変えながら大地に突撃するぎりぎりの部分を駆け抜ける。

 

「チッ!」

 

 赤き飛竜のブレスを回避しながらも、獲物を射程圏から逃がした苛立ちにアーチャーは舌打ちする。

 しかし天空へと逃げたアーチャーの黄金船の上空には、青き輝きを放つ飛竜と白き王が待ち構えていた。天より降り注ぎ視界に映る天空全てを覆いつくした地獄の業火は、黄金の英雄王が駆る黄金の飛行船を撃墜した。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

「変わり果てたな……間桐雁夜」

 

 重力の楔から開放されたかのように、優雅さを湛えながら天から降りてきた男が――遠坂(トオサカ)時臣(トキオミ)が、雁夜の佇むビルの上へと降り立った。

 時臣は言葉こそ貴族然とした優雅さを備えていたが、その瞳には明らかな侮蔑の感情が隠れている。

 

「……」

 

 しかしそんな瞳と言葉を向けられた雁夜は、恐ろしいほどに無反応であった。

 以前は殺したくて殺したくて仕方ないといった体であったはずなのに、憤る事なく赤く輝く瞳と黒の瞳を向けている。

 

「一度魔道を諦めておきながら聖杯に未練を残し、そんな姿になってまで舞い戻る。今の君一人の醜態だけで、間桐の家は堕落のそしりを免れまい」

 

「…………遠坂時臣、質問は一つだ。何故貴様は桜を臓硯の手に委ねた?」

 

「何? それは今この場で君が気にかけるべきことなのか?」

 

「ああ」

 

「はぁ、問われるまでも無い。愛娘の未来に幸あれと願ったまでの事」

 

「……何だと?」

 

「二子を設けた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する。秘伝を伝授しうるのは一人のみ。いずれか一人は、凡俗に落とさねばならぬというジレンマに陥る……」

「とりわけ我が妻は母体として優秀すぎた。凜も桜も、共に稀代の素養を宿して生まれてしまった。娘たちは二人が二人とも、魔道の家門による加護を必要としていた。いずれか一人の未来のため、もう一人が持つ可能性を摘み取ってしまうなど……親として、そんな悲劇を望む者が居るものか」

 

「……」

 

 魔道を知らぬ雁夜にとって、時臣の言葉は言葉通りの意味にしか捉える事が出来なかった。そして同時に、魔道こそを至高と信ずる時臣も自身の言葉に疑問を挟まなかった。

 故に、ここで両者にどうしようもない食い違いが起こる。

 

 ――例えばの話、自身の娘である桜が“魔道に関わろうとした時”魔道の加護を受けなかった場合、ホルマリン漬けにされて然るべき機関で永久に“保管”されるであろう事を、魔道に関わる時臣は当然のように理解していた。

 しかし、雁夜はそんな事を知らない。

 

 ――例えばの話、魔術とは秘匿されるべきという常識があるからこそ、間桐の魔術の内容を時臣が知らなかった事を、雁夜は知らない。

 

 しかし、そんな事実は言い訳なのだ。

 知らなかったでは済まされない。

 その様な事実が世界にあるように、今回の一件がそうであったと言うだけの話。

 

 ――例えば、時臣が桜という少女の人格を理解し尊重していれば、彼女が魔術を極め根源を目指すような人物ではないと知る事が出来ただろう。“魔道”に関わらず、一人の少女として過ごす事が望みの何処にでも居る少女であると知れただろう。

 

 ――例えば“人”として、或いは“親”として。娘を預ける家庭環境を知る程度の“常識”を持っていれば……“愛娘の幸せを願った”などとは口が裂けても言えなかっただろう。

 

 人の心を持ち唯人として生きてきたが故に、魔術師の理屈と常識が分からない雁夜。

 魔術を至高と信じ魔術師として生きているが故に、人としての心が欠けている時臣。

 故にこの両者が対立するのは必然――

 

「そうか……」

 

 ――である、はずであった。

 

 時臣の返答に対し、それだけ口にしてフードを深く被りなおした雁夜は、もう用は無いとばかりに怨敵と定めていた時臣に背を向ける。

 態々姿を見せながら、訳の分からない問答のみで立ち去ろうとする雁夜の姿に、流石の時臣も疑問を感じてしまう。

 

 ――曰く、意味が分からないと。

 

「待て雁夜。君は、一体何がしたかったのだ?」

 

 既に立ち去ろうと一歩を踏み出した雁夜の背中に向かって、時臣は声をかける。

 その言葉に応えるように足を止めた雁夜は、背を向けたまま時臣の質問に質問で答える。

 

「遠坂時臣、貴様の内心を当ててやろうか? 貴様は俺の事を“理解できない”と思った。違うか?」

 

「その通りだ。私には君の行動が理解できない」

 

「俺もだ、遠坂時臣」

 

「何?」

 

「俺の考えている“人間”と貴様の考えている“人間” 言葉は同じだが、どうやら意味が違うらしい。だからずれる。考え方も思考も、正しいと感じる感性すら同じじゃない」

 

「何を言っている?」

 

「さぁな。もう、俺は貴様が分からない。ただこれだけは理解出来た。俺と貴様は違うんだってな」

 

 はっ、と。

 時臣の言葉を自嘲が多量に含まれた感じの笑みを浮かべて鼻で笑い、雁夜は止めていた歩みを再開する。

 

 百年の恋も冷めるとは、今の己の気持ちの事を言うのだろうか。

 愛する夫の言葉だからと。

 たったそれだけの理由で腹を痛めて生んだ我が子を捨てた責任の無さに。

 遠坂時臣の言葉を借りるのであれば、“魔道”の家系であれば“二人目”が生まれれば悲劇が起こる事を知っていながら二人目を作った軽率さに。

 そして何より……結局のところ時臣に嫌われたくないだけの本音を、愛と言う免罪符と彼のためと語る大儀で――それらしい理屈で飾って、さも被害者ですと言った感じで振舞う醜さに。

 

 ……そして、彼女にそんな道を選ぶ選択肢を提供してしまった過去の己に。

 

 魔術から逃げた事を、雁夜は愚かだとは思っていなかった。

 しかし、自分が間桐の魔術から逃げた所為で桜ちゃんがああなってしまった。それは重々しい罪悪感となって彼に圧し掛かり、無意識のうちに彼女を助けるという行いによって贖罪を求めていた。

 

 そしてその事に気付けたからこそ、雁夜は己が行うべき贖罪がこの男(遠坂時臣)を殺す事ではなく、桜ちゃんの傍に居る事だと、雁夜はそう思った。

 

 それは雁夜が夢で見た父と息子の物語の結末を知ることで、冷静に時臣と語りやつの意思を聞くことができたからであり、それ故に葵の事を考える機会があったからであり、だからこそ自己を振り返れたからであった。

 本来であれば取る事のない選択を選んだ事でようやく辿り着く事が出来た結論であった。

 

「雁夜、まだ話は――――」

 

 なおも雁夜に語りかけようとする時臣の耳に轟音が届く。

 音のした方に視線を向けた先に映った光景は、天空を舞う赤と青の輝きを持つ二頭の飛竜が空を駆ける黄金の船を撃墜した瞬間であった。

 

「英雄王っ?!」

 

 最強と信じて疑わなかった黄金の王者が落とされ、普段の冷静さを僅かに失った時臣はとっさに手の甲に浮かんだ令呪を見る。

 繋がりは……失われていない。

 表情に出てしまうほどに安堵した時臣が視線を上げた時、既に雁夜の姿は何処にもなかった。

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

 第四次聖杯戦争は、聖杯の破壊という行いによって、多いのか少ないのかが分からぬ犠牲を出す事で終結した。

 

 白き妖精が生み出した黒い中身を内包した杯が失われた事により、サーヴァントのルールに則り黄金の聖剣を持つ騎士王は消滅し、計らずも杯の中身を飲み干した最強の英雄王は現代に留まる。

 しかし……生き残ったサーヴァントは二騎存在していた。

 

 一騎は聖杯に満ちる世界の悪意を飲み干す事で受肉したアーチャーのクラスを冠する黄金の英雄王。

 一騎は見るものを魅了した天空の戦いより後、一度も姿を現すことがなかったバーサーカーのクラスを冠する白き老王。

 

 そして、生き残ったマスターは半数以上が生き残る結果となる。

 セイバーを召喚した男――衛宮(エミヤ)切嗣(キリツグ)

 ライダーに付き従った男――ウェイバー・ベルベット

 アサシンを使役した、本来であれば舞台から退場したはずの男――言峰(コトミネ)綺礼(キレイ)

 そして……バーサーカーを従えた男――間桐雁夜

 

 

 本来の道筋において死していたはずの者が死んでいない。

 そしてその裏で、本来は生きていたはずの者が死んでいる。

 紛れ込んだイレギュラーによって本来とは異なる道を歩んだ物語は、十年の歳月を経て起こった、同じ名前を冠した魔術師たちの戦争の中決着へと収束する――――

 

 

 ――to be continued?

 

 

  ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

  ~~ お ま け ~~

 

 ライダーとバーサーカーが戦っていたら

 

 

 

「貴様には始めて見せるか、バーサーカー。これが余の宝具――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なりイィッッツ!!」

 

 雲一つない澄み渡った天。

 遮蔽物一つない無限に広がる荒野と大砂漠。

 黒い毛を持つ巨馬に跨った征服王は、大地を埋め尽くす無数の臣下を従えて白きサーヴァントの()()と対峙していた。

 

 白きサーヴァントが率いるそれは、赤黒く染まった怨霊たち。

 ファランクスと呼ばれる陣形を組んだ槍と盾を持つ青目と赤眼の騎士たち。

 彼らの全てが並の騎士ではない事を瞬時に理解させる程の覇気を放っているが、その中にあって尚格が違うと断じる事ができる英霊が三騎。

 

 ――一騎は、恐ろしいほど長い直剣を持った騎士。

 ――一騎は、分厚い鉄の塊のような大盾とぎざぎざとした刃が無数に生える大槍を持つ巨漢の騎士。

 ――一騎は、十字の形が特徴的な白い弓をを構えて独特の形の曲剣を携えたポニーテールが特徴的な女性。

 

 そして白き老王の左右には、赤と青の鱗を持った立派な体躯の飛竜が今にも飛び掛らんばかりの姿勢で控えている。

 

 

 先頭に立った白き王の突撃の宣言を今か今かと待つ黒き騎士団。

 白き老王と赤髪の征服王がその視線を交差させた時、両者は同時に互いの軍勢を解き放つ。

 

「蹂躙せよぉおおおお!!!」

「ボォーーレタリアァアアアア!!!!」

 

 

 

 




本来一発ネタとして考えていましたが、何だかんだで完結しました。


Fate/stay night編をやるかは不明。
でも9:1ぐらいの確立で多分やらない。

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