深海転生(未知)   作:月日は花客

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10.とじこもるまえに

 

 《神隠し》を使うと、俺目の前に穴のようなものができる。これが何も手をつけてない状態での空間への出入り口だ。これは俺にしか見えないらしい。

 俺が引き摺り込めば入れるから、他人には突然消えたようにしか見えないってわけだ。

 

 取り敢えず、俺が通れるくらいの大きさに広げて、中に入る。

 真っ暗で、始まりの深海を思い出す空間だ。自由に動けるけど、ここは水中でも地上でもない。無の空間というのが正しそう。

 広さも、2畳くらいしか無く、狭い。

 収納としては使えるかもしれないが、過ごす場所越しては不適当だな。

 

 というわけでここを改造することに。

 目標は、前世のワンルームみたいな。トイレや風呂は要らないし、収納と生活スペースのみだけど。

 まず空間を広げる。現状はそこまで大きくはできないけど、10畳くらいの広さにはできた。4畳分は収納にして、壁で分けておく。

 畳単位で言ってるけど、畳敷きなわけではない。変わらず無の空間だ。

 適当に扉を付けて、部屋として分ける。扉も真っ黒な塊だけど、俺は作ってるからか場所もはっきりわかる。

 現状使用者が俺しかいないので、俺がわかれば良いスタイルで組ませてもらおう。

 

 収納は適当でいいとして、重要なのは生活スペースだ。

 前世通りに作ると、人魚の俺ではなかなか辛いものがある。正座とか無理だし、床に足つけないし。

 ふーむ、そもそも人魚の家がどんなものなのか、俺は知らないのだ。物語によくある、岩や貝でできた洞窟のような感じなのか、なんなのか。

 まぁ俺が使いやすければいいか。

 

 取り敢えず明かり。空間を縦に伸ばして、俺が入り口から手を伸ばしても届かない余裕のある高さに設定。前世のLEDみたいな丸型の照明を付ける。

 壁は前世の自室と同じ壁紙にした。白地に青っぽいシンプルな柄が入っている。床は、 一応フローリングにするが俺は尾鰭なので歩くことはなさそう。

 現状、やけに縦に長い6畳の空間ができた。

 

 人魚の身体的には、床に何か置くより壁や棚に置いたほうが使いやすい。浮いてるみたいなものだからな。

 というわけで木棚を設置。あと壁に出っ張りや穴をつけて、物が置けるようにする。

 しかし何を置くかは全く決めてない。どうしよう。

 まぁ、今後なにか道具や置き物なんかで気に入った物があれば置いていこう。現状はここでずっと過ごすわけじゃないし、生活のための機器を揃える必要も無い。

 本とか置いていけたらいいな。

 

 ここまでいじったところで、一度神隠し空間から出る。

 外はまだ暗く、深夜というところ。

 朝昼夜の区別がつくところが、なかなか浅いところに来たんだなぁと感慨深い。

 深海には時間も光も無かったし、景色もないし生物もないからね。神隠し空間で数分微睡んだので睡眠もバッチリ。

 

 改めて村の建物を見る。

 来た時は初めての村にワクワクして見えてなかったけど、よく見たら明らかに廃屋だ。扉も立て付けが悪いし、窓から覗く中には家財もほとんどない。立ち退きというか、みんな引っ越していなくなった、という印象だ。

 放棄ではなさそう。

 

 近くにあった、家の中でも大きな屋敷にお邪魔する。一応ノックをしたが、何の反応も無い。

 中は暗いので《海月提灯》で照らす。大きすぎる家具なんかは残っているらしく、クローゼットやテーブルは藻が生え始めていた。そこまで濃くないので、放置されてそこまで時間はたってなさそう。

 収納の中にはやはり何もない。空き巣みたいでちょっと罪悪感がある。

 しかしここに住んでいたのは人魚だろう。全体的に縦に長く、棚が多い配置。逆に床には何もない。

 神隠し空間の参考にしつつ、室内を探索する。細かいものはほとんど持ち去られてるけど、部屋奥、物置らしい場所にはちまちまと物が残っていた。

 

 木箱や、古くなった掃除道具、何に使うのかよくわからない貝殻。

 雑多で、拝借しようとも思わないものの数々。空き瓶や壊れた剣など、明らかに陸から沈んできたらしい物もある。

 そんな物の中に、キラリと光を反射する物があった。

 

 引っ張り出してみると、それは鏡。くすんで、ヒビも入っているけれど、確かに鏡だ。

 思わずそれに自分の顔を写した。クラゲに照らされた顔と、目が合う。

 

 美しい少女だ。

 髪は真っ白で、肩ほどのボブカット。編み込んでハーフアップにしているらしい。前髪は長く、綺麗にセットされている。頭に降ったように、星のような装飾が着けられていた。

 瞳は深い青で、微かに黒や紫も見える深海の色。少し眠たげで、憂いを帯びたかたちだ。

 全体的に静かで、大人しい印象を受ける。儚げで、静々と楚々。眼差しは全てを見透かすような神秘さを帯びて、小さな口からこぼれる泡はどこか色気があった。

 これが、今世の俺。

 

 まさしく絶世の美少女。薄明の人魚姫だ。

 こんな美人になっているとは、可憐すぎて自分でも驚く。

 全体的にモノトーンで、静かな雰囲気を纏っている。なるほど、深淵という言葉も似合うかもしれない。

 改めて鏡を見ても、これが自分だとは信じられないな。前世の俺は男だったし、黒髪黒目、目はどちらかというと三白眼っぽい細目だったし、静かというより暗いイメージだった。

 整形どころではない変わり様。声どころか外見もここまで様変わりすると、慣れるのにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 

 鏡を置いて、屋敷を出た。顔を知れたこと以外は特に収穫は無かったな。

 夜明けにはまだ時間がありそうなので、他の家も見て行くことにした。情報収集だ。

 

 そうしてしばらく探索していたのだが、やはりめぼしいものは持ち去られていて、特に何かこれは! というものがあることは無かった。

 気づけば周囲が明るくなっていて、朝が来たことに気づく。ここの深さでは相当日が強くないと光が入ってこなさそうだし、地上はもう昼近いのではなかろうか。

 

 俺はあの唯一の生きている家に訪ねようと、身体に海藻やらのゴミがついていないか確かめた後、扉をノックした。

 知らない人の家を訪ねるというのは、なかなか勇気がいる。

 

 水中なので、床を歩く音なんかはしなかった。そっとドアが半分開けられる。

 

「どちら様でしょうか」

 

 声は、若い男の声だ。かわいさの残る声変わり前みたいな。声の主の姿は、微かに開けられた扉の隙間からでは見えない。

 

「旅をしている人魚です。この辺りに詳しくないので、教えていただけませんか。お礼はいたします、お金は無いので魚を狩ったりしかできませんが……」

 

 お金に関してはどうしようもない。アルゴーノム号にもしかしたら積まれていたかも知れないが、あれはあのままそっとしておきたかったし。

 食べ物は、深海の魚はぶっちゃけ食べる部位が無いし、海底火山にでも近付いたのかなんなのか、臭みが強くて食えたもんじゃない。俺は海の魔力で生きられるので食べ物の必要は無いが、必要だったらあれを食べないといけなかったのだろうか。勘弁したい。

 ここら辺の魚は普通に食べれそうなので、必要とあらば狩ってこよう。スキルの練習にもなるし。そういえばクラーケンは食えるのだろうか、紫だったし、不味そう。

 

「……この家には病人がおります。それでもよろしいですか」

「かまいません。なるべく静かにしますので」

 

 そう言うと、キィ、と扉が開かれる。出てきたのは真っ白な……メンダコだった。

 

「旅の人魚様、ワタクシは名無しの深海ノ星でございます。この家の家主の友人でございまして、よろしくお願いします」

「深海サメの人魚のセイといいます。よろしく」

 

 礼儀正しく、メンダコはお辞儀をする。かわいらしいが、まさかの相手に驚きが抜けない。

 声に動揺が乗っていなかっただろうか、冷や汗をかきつつ家の中に案内された。

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