深海転生(未知)   作:月日は花客

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15.浅くとどめて

 

 シラタマが加入したので、一度今後の旅の方向性を決めようと思う。

 俺たちはどっちも行くあては無いし、この世界には領海とか排他的経済水域とかが薄く、海ではそこそこ好き放題できるらしい。海賊も全然いるとか。

 ただ、好き勝手しすぎると国や都市が討伐隊を派遣するし、海の治安維持専用の海軍組織もあるとか。

 国領では無いけど、国の近くで危険行為をするなら容赦はしない、みたいな扱いになる。

 陸地は領土の管理や切り分けがしやすいが、海は標を立てるのも苦労するからこんな事になっているそう。この世界、海は魔物だらけの危険地帯だ。

 

「亜神になってから、信仰システムが追加されてね。シラタマのステータスにもあるけど、これからは魔物を倒して得る経験値と、信仰によるブーストが無いとレベルが上がらない」

「この《信仰献上》と《信仰変換》がそれ用のスキルですか?」

「《信仰変換》は他人から貰った食べ物なんかを信仰に変換できる。《信仰献上》は、従者であるお前の信仰を俺に分けることができるってシステム」

「では、その信仰をどうやって得るか……ですね」

 

 他人がいないとほとんど成り立たないんだよな、この信仰経験値システム。魔物を狩っても、信仰が少ないと殆ど経験値にならないのだ。逆に信仰でブーストをかけられれば、大量の経験値が期待できる。

 他者から信仰や感謝を得られないと、どうにもならない。

 

 ちなみに、俺はハーヴィたちとの生活で信仰を5獲得している。ほとんど看取った時に貰ったもので、俺は他者の死を看取る時に信仰が増えやすい。

 そこも、深淵の子というわけだ。

 

「そこで、人魚とか人間とか……他人と接触できる場所に行きたい。ここら辺で近いところとか知らないか?」

「村を引っ越して行った人魚たちの行方はわかりませんが……ここからは王国の港町が近いですよ」

「人間……まぁ上位人魚のふりをしていれば大丈夫かな? じゃあその港町を目指そう」

 

 勝手にステータスを見られないことを祈る。まぁ見たら処罰ものだし大丈夫だろう……人間と人魚の間にはそこまで大きな確執は無さそうで、普通に国同士交流もあるそう。会ったら即攻撃、とかは無いそうなので安心した。

 

 港町ミューセ。それが今目指している町の名前だ。

 通称「白の港」と呼ばれている観光地で、避暑地でもあるとか。景観や気候が良く、金持ちが別荘を建てることもよくあるそう。

 魔物も少ない、爽やかな町として人が絶えないらしい。まぁシラタマも実際に観光したことがあるわけじゃないので、あくまでも出回っている情報では、という話だが。

 

「ここから陸地は遠くはないですが、深さはあるので少し時間がかかりますね」

「……そういえば、人魚は人間と会っても大丈夫らしいけど、お前はまずいんじゃないか?」

「それは……そうですね。ワタクシは人間の前には出ないよう引っ込んでおります」

 

 シラタマは完全に人外だし、深海ノ星自体は漁で引っ掛かったら普通に狩られるらしいし……。俺の従者と言えば退治は免れそうだが、念のため。

 俺と人間が会う時は神隠し空間に隠れてもらおう。

 

 そう、神隠し空間にキッチンを作った。あと食材保管庫。

 ……というより、神隠し空間全域をシラタマに任せる事にした。俺にルームコーディネート力は無いことを思い知らされた。

 キッチン周りなんかは、特にシラタマが使うだろうから全面的に任せた。

 シラタマが思う過ごしやすい空間に自由にしてくれ。と、空間の主は俺だがシラタマも空間のカスタマイズができるよう一部権限を解放した。

 

 そしたら、シラタマはまず庭を作ってその中に住居を作り出した。

 空間内に庭……野外を作るという発想がまず俺には無かったので、シラタマの考えには驚いた。しかし、水中の様な空間なのに木や花が生えていたり、と思えば珊瑚がある不思議な空間は美しく癒される。

 

 ハーヴィが語った御伽噺の世界を参考にしたらしい。元気だった時のハーヴィは、シラタマに読み聞かせる様にさまざまな物語を語ってくれたそう。

 それはシラタマの情緒の形成に大いに影響し、彼の温厚で礼儀正しい性格を作り上げたのだとか。

 

 陸と海の混ざった庭に佇む、青い石造りの小さな宮。

 華美でも絢爛でもないが、控えめな美しさと静かな威厳を感じられる様相だ。建築センスが良い。

 竜宮城みたいだな、と思った。絵本の城よりはシンプルで派手じゃないけど、俺には十分すぎるほど立派だ。

 

 中は見た目よりも広いらしい。空間をいじれるからこその自由度だ。

 応接間に客室、厨房、エントランスホールに寝室……。全体的に洋風だけれど、人間の屋敷と違い上下左右に自由に動けるからこその特殊な廊下の配置だ。あくまでも部屋を分けるためにあるので、階段やスロープといったものが無いのも特徴だろう。

 こういう、物理とか重力に関係無い建築ができるのは水中の特権で、面白くて良い。

 人間では生活できないだろうけどな。

 

「ワタクシは、もうすこし調度品や家具を整えようかと。もう町は上に泳げばすぐですから、案内は必要無いと思います」

「なんか、全部任せちゃって悪いな……俺の空間なのに」

「いえ! 夢の世界を再現している様でとても楽しいです! 過ごしやすさと見た目の綺麗さを両立するために試行錯誤するのが面白くて……」

「ならいいか。自由にやってくれて良いよ。どうせ俺とシラタマしか入らないだろうしな」

 

 シラタマはあれだ、シミュレーションゲームとか経営ゲームにハマるタイプ。

 自分で管理して、箱庭を作ったりするのが楽しい性格なんだろう。今までで一番生き生きしている気がする。

 

 神隠し空間はシラタマに任せて、俺は港町近くの水面に出てみる事にした。時間的には早朝で、日は出ているから活動している人もいるだろう。

 この世界はまだ電気が普及してないので、日が登ったら起きて日が沈んだら寝る生活だ。

 

 だんだんと強くなっていく光、日の熱。

 深海とは比べ物にならない光量に、思わず目を細めた。強い光はどれほどぶりだろうか?

 水面の網のような光を全身に浴びつつ、俺は初めて水面に顔を出した。

 人魚は陸でも一応呼吸はできるらしい。マスク越しのような息のしづらさは感じるが、苦しいわけではない。

 海流ではない風の流れ、直射日光のじわじわと乾くような熱、明るい世界。

 ザパリザパリと波の音が聞こえ、どこからか鳥の声も響いている。

 

 ここが海の外の世界。

 深海よりも明るく、情報量でパンクしそうだ。見るもの全てが目新しく、どこか懐かしい。

 前世を思い出す。

 現代日本は流石にここまで田舎ではないし、もっとコンクリートや電柱があったが、それでもどこか似ている。海風の香り、少しベタつく空気、波の音。

 人間時代、毎日通ったあの海辺を頭に浮かべた。

 

 目の前の町は、「白の港」の名に相応しい真っ白さだった。

 建物全てが白い材質で、建物の高さは無いが段々になった土地が高低差を生み出し、町全体が見える。どこも真っ白で、無垢な美しさがあった。

 漁や海の資源で栄えているからか、その象徴のように漁に使う縄で包まれたガラス玉が飾られている。

 屋根や窓に吊るされたそれは、日の光でキラキラと輝いていた。

 

 その美しさに思わず見惚れていると、近くの船着場近くの石垣に誰か立っている。

 金髪が綺麗な、高校生くらいの女の子だ。

 白いワンピースをたなびかせ、佇む姿は絵になっている。

 

 しかし、その表情にはどこか不穏なものが感じられた。これは、俺の勘だ。

 俺は思わず、いや、そっとしておいた方が良いと分かっていたが話しかけてしまった。

 だんだんと慣れてきた鈴のようなソプラノ。

 

「やぁ、こんにちは。お嬢さん」

「……こんな朝に遊泳なんて、変な人ね」

 

 俺と少女──サーシャの出会いだった。

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