神隠し空間の町は無事気に入られた様で、俺とシラタマは胸を撫で下ろした。
食と住はなんとかできたが、衣は時間がないと難しい。
ザハドたちの服はかすかに模様や色はわかるが、破られたり擦り切れたりしてボロボロで、元がどんな形だったか全くわからない。
かろうじて体温を守るために身を包んでいるというほどだ。日の入らない洞窟内は松明があれど寒く、中には軽い低体温になってしまっている者もいた。
シラタマのスープと、町にある毛布で少しマシになったようだ。
「今から服を作るが、お前達の元の服と形が違っても許して欲しい。細かい作業は難しいんだ」
「ここまでしてもらって、文句などありません」
《神隠し》は空間を作ることには長けているけど、消耗品や身につけるものを作るのは難しい。
神隠し空間を弄りまくっているシラタマも同じで、むしろスキル自体を保有している俺の方がまだマシだ。
作った服が濡れない様に、水塊の外に手を出して作り始める。
男女別とか、細かいデザインとか無理なので色だけは青に染めて……ズボッと着れて紐で縛るタイプのワンピースみたいな形にする。
このままだとシンプル過ぎるので、なんとか魚っぽいシルエットを胸元にワンポイント入れる。
サイズはフリーサイズで、丈が余るようなら切ってもらおう。
子どもは流石に大き過ぎるので、別で小さめサイズを作る。20人の中で子どもは5人。最年少は3歳だそう。
栄養失調でかなり衰弱していたから、なんとか栄養のあるものを食べさせてあげたい。
格闘してなんとか全員分の服を作ることができた。
最低限のお粗末なものなので、人間の町でちゃんとした裁縫道具と布を買ってあげたい。既製品だとサイズがわからないし。
しかし衣をしっかりさせるためには陸の町との接触が不可避……。気が重いが、引き受けた手前やるしかない。
作った服を配りつつ、俺はザハドたちの詳しい事情について考えていた。
リベルタが消えたことにより、元々希少の荒かった海の魔物が暴れ始めて漁が困難になった。中には陸に上がってくる水陸両生の魔物も出始め、それだけでも村は混乱していた。
しかしそこに、帝国では問題になっていた領地に蔓延る異民族の侵略も重なってしまった。
帝国は侵略や戦争によってその領土を拡大し、植民地を増やしてきた軍国だ。
しかしその領地の中には、帝国の民ではない異民族が多数存在している。
大人しくしていれば、帝国からは存在を黙認されるが……完全自給自足の生活は不安定なのだろう、度々帝国の村を襲うことが問題になっていた。
その襲撃に、今回は深海の民が選ばれてしまったのだ。
深海の民の村には、魔物をなんとか倒せる者はいたが、戦闘民族を倒せる者はいなかった。
村は蹂躙され、焼かれた。
しかし、深海の民には緊急時の逃げ道があった。村の端の崖にある、干潮時にしか現れない秘密の洞窟。
深く長い階段のさらに奥には、最低限の物資食糧が置いてある広間があった。俺と出会ったあの場所だ。
深さでいうとおおよそ水深1000mあたりの場所だ。相当深い。
異民族からかろうじて逃げて、干潮を待ち、そして洞窟に隠れていたそうな。
最初は落ち着いたら地上に戻るつもりだったが、斥候に出た者が帰ってこなかったそうで……。閉じ込められたのかもしれない。
そうして絶望の中餓死を待つのみとなった時、俺が現れたそう。
そう考えると、なかなか奇跡的な出会いをしたものだ。俺とシラタマは別に救助目的で洞窟に入ったわけでは無かったし……。
まぁ、これも何かの縁だろう。リベルタとの繋がりもあったわけだし。
衣服に喜ぶ民を眺めながら、頑張ってくれたシラタマを撫でた。
「急務なのは薬と医者……あと食糧だな」
いつまでも魚と海藻だと栄養が偏るし、子どももいるので食には気を遣いたい。
あと病人は……シラタマの《調合》はあくまでも一時的な措置だ。シラタマは医者ではないので、薬の知識は浅い。
ちゃんとした医者にかかって、薬をもらわないと危ないだろう。素人判断は避けたい。
怪我人も、化膿や感染症が怖いし。
「となると、やはり人の世界に行かないとキツイな……」
「買い物なら、自分たちがやりますが……主に金銭面が辛いですね」
金品は異民族に持っていかれたそうだし、俺も持ってない。完璧な文無しなのだ。
買い物の前に金策が必要だが……何か売れるものがあっただろうか。
海にある価値のあるものといえば真珠? 珊瑚? 真珠貝は浅瀬にしかいないし、珊瑚はもう少し熱帯に行かないと無い。俺の神隠し空間には珊瑚はあるけど、出どころを聞かれた時に答えづないので無し。
あと改装する時に珊瑚を消したら外の珊瑚も消えるのか……という懸念があるので。
手っ取り早いのは、海の幸を獲って売ることなのだろうが……ここでザハドの待ったが入る。
俺が連れて行けるような場所は大抵が海沿いの漁村や港町。つまり、漁業が主な収入源だ。
そんな場所に乱獲した魚を持って行っても、仕事の邪魔をした悪質な者と嫌われる確率が高いんだと。確かに、仕事敵になるわけだ。
……となると、かなり手詰まりというか。いやまだ何かあるはず、顎に手を当てて考える。
そういえば、海底洞窟の中で何か……キラキラ光るものを見たような……。
「海底の鉱石を発掘して、売ればいいんじゃないか?」
この世界にも鉱山はあるだろうが、海底にも鉱床はある。ここに来るまでも、海底で鉱物らしきものを見た気もする。
それらを採掘して売れば、そこそこ金にはなるのではないか。という考えだ。
「俺が採掘して、それをあなた達が人の街で売ってこればいい。知り合いの人魚に渡されたとか言えば、採掘場所が海でも問題無いし」
「おお、名案ですねセイ様!」
「セイ様は採掘道具など持っておられるのですか?」
「スキルと……適当にハンマーでも作っておけばなんとかなるだろう。早速行ってくる。シラタマは深海の民たちの食事なんかを頼む」
「承りました!」
適当にツルハシとハンマーを作りだす。少し大きいサイズになったが、振るえないわけではないのでこれでいいだろう。硬さと丈夫ささえあれば問題無い。
今いる場所は岩も多いし、剥き出しになった鉱床もあるはず……今まで見向きもしてなかったものだが、いざ意識してみると案外ある。
《海月提灯》で照らしながら、そこにツルハシを突き立てた。
岩が砕け散る。
あまりにも簡単に砕けてしまい、雑にツルハシを振った手前驚いた。
そういえば、レベルを確認していなかったような……散った鉱物を集めつつ、ステータスを確認してみた。
【
種族:深淵ノ亜神
信仰:80
魔法:《海月提灯》《大波》《泡沫舞踊》《微睡の水》《水泡爆弾》
スキル:《水操作》《海鳴りの歌》《冥々水槽》《波槍》《波盾》《信仰変換》《大渦》《超回復》《深海ノ扉》《神隠し》
称号:【世界旅行者】【深海ノ祝福】【深淵】【海原の守り】【波の守護者】【大鯨の祝福】【海底葬送】【大番狂わせ】
どっと上がっていた。
スキルや称号は増えていないが、レベルと信仰がガッツリ上がっている。
おそらくサーシャと深海の民の分か……?
それによって俺の力も上がっているようだ。ここまで肉体の能力が上がるのも珍しい気がする。今まではスキルばかりに頼っていたし。
見た目からは考えられない力を出せるようだ。信仰の力ってすごい。
採掘し、持ちきれない量になったら神隠し空間に移動させる。
おそらくこの鉱床は銅と鉛、あと銀があるっぽい。
ゴンゴンとツルハシ、たまにハンマーで砕いて採掘していく。
あらかた採ってみると、鉱物の塊が山になる程の量になっていた。そこそこ大きな鉱床だったようだ。
ついでに夕飯になる魚を獲り、採掘作業を終えることにした。
海では時間感覚が鈍りがちだが、神隠し空間に空を連動させたのでマシになりそうだ。
帰った頃にはすっかり夜になっていた。シラタマに魚の保存処理をしてもらい、鉱物を倉庫に移動させる。
これを売る場所を考えないとな……。
港町を思い出しながら、俺は少しだけ重たいため息を吐いた。
今度は間違えたくない。