「青い伝説の羽を追いかけて
夜が明けるまでに……」
サクスムの星を滅ぼす隕石の脅威が消え、宴はさらに続いた。
「自由な風のように君と
かなでる宇宙の MELODY」
星と人生の危機を乗り越えたのだ。宴好きのサクスム人でなかったとして、はっちゃけて当然である。
ミレーヌは声が枯れるまで歌い、サクスムの皆はぶっ倒れるまで酒を飲んだ。
あれだけずっと音楽が響いていたステージも、今は静かなものだ。
観客席はその辺で寝っ転がるサクスム人でいっぱいだし、ステージ上ではミレーヌ、レイ、ビヒータが眠っていた。
ガムリンとアイスだけはステージで眠りこけるミレーヌたちに毛布を掛け、ゲロで窒息しそうなサクスム人を横向きに寝かせ直し、予定では明日発つ貿易船の荷物のチェックや、ヴァルキリーの状態確認をしていた。
俺は働き者のアイスにどうやって総理大臣の座を渡すか計算しつつ、アイスに用意してもらった音楽再生機器に、ミレーヌにサインしてもらった記録媒体をセットして再生していた。
もしかすると、バサラも人間ではないのかもしれない。
あれだけの大立ち回りをした後にライブで熱唱もしたというのに、まだ元気そうなバサラを見る。
「本人がいるんだから、わざわざそんなもん聴くんじゃねえよ」
「リクエストしたら、その曲を歌ってくれるのかい?」
バサラは、音楽再生機器の音をかき消すようにギターをかき鳴らした。
「いや。お前が好きそうな曲を歌ってやる」
「それほど贅沢なこともない」
俺は音楽の再生を止めた。
「失くしたらまた取り戻すだけさ
いつだって 夢なんて 単純なもんだぜ」
宣言通り、バサラはギターの演奏と共に歌いだした。
「やりたいことを やり尽くすだけさ
その声が そう駆り立てるから
バサラの見立ては正しく、彼の歌う曲は俺の心によく響いた。
「”NEVER SAY DIE”」
弱音を吐くな、という叱咤激励。
遠くにいても、近くにいても。やはり彼の歌は直接、この心臓によく響く。
一曲が終わり、バサラはギターの弦をいじりながら、俺に言った。
「もしかするとお前、何万年も前にこの星を救ってたんじゃねえのか」
「ありえない話ではないね。ここ最近はそんなことしていないけれど、銀河で戦争があるとたまに行っていたんだ。血気盛んすぎる兵士からスピリチアをもらうために。星を打ち落とすくらいの力は、その時にはあったかも」
「この星には大猫伝説ってのがあると、猫のじいさんに聞いた」
大猫伝説は、サクスムに伝わる神話だ。
――巨大な岩が、星に落ちてこようとしていた。
サクスムの民が嘆き悲しみ、途方に暮れていると、空から巨大な大猫がやってきた。
「笑って、楽しめ」と大猫は言った。民は宴を開き、笑い楽しんだ。
すると大猫はそれに満足し、空から降ってきた大きな石を打ち破り、去って行った。
それ以来、サクスムでは笑って、楽しむことを最も尊ぶ文化が生まれたのだ。
バサラは俺を指さした。
「お前じゃねえの?」
「どうだったかな……思い返せば、俺がこの兵器の体を借りることに決めたのも、この耳の尖った姿が愛らしかったからかもしれない」
伝説の中にある「笑って楽しめ」という指示が、スピリチアの増幅を指示するものだとすれば、ちょっとそれっぽい。
通りがかったこの星のことを気に入って、かつての俺が隕石を打ち落としていたとしても……まあ不思議なことではない。人生が長すぎるので、そうだったとして記憶に残っていないのも納得だ。
「もういい加減、眠りについてもいいかと思っていたが、君に出会って俺は変わった」
心変わり、なんてものではなく、体ごとつくりかえられてしまった。
まさか、自分自身でスピリチアを作り出すことができる生き物にされてしまうとは。
俺はもう、誰かの命を借りなくても生きていける。歌を歌えば、自分の力になるのだ。
寄生虫から植物になったようなものだ。これから歩む道が、いままでと同じとは思えない。
どんな終わり方をするかばかり考えていたことが、信じられないくらいだ。
「もうしばらく、この星で歌って暮らすよ」
「ああ。いいんじゃねえか」
バサラはなんてことなく言って、ギターをかき鳴らす。
彼に言われるまでもなく、俺はバサラの歌に合わせて歌った。
おしまい