神々に見捨てられ、天から墜ちたその身は、深き海に沈み、流れ着いた火山の地で新たな生を始めた。
炎と鉄に己の力を見出し、道具を作り、武器を鍛え、人々に文明を授けた彼は、やがて追われる者たちの王となった。狩る者ではなく、奪う者でもない。鍛え、築き、戦うことで己の運命を切り開く者たち――黒曜帝国の始まりである。
しかし、繁栄は戦火を招く。軍神アレスは彼らの成長を愉悦と捉え、試練を与えるがごとく戦をもたらした。かくして、黒曜の民は選択を迫られる。
守るために戦うのか、それとも奪う者へと成り果てるのか。
これは、神々に捨てられた者が火と鉄を手に取り、大地に国を築く物語。
戦乱の中、黒曜帝国がいかにして誕生し、やがて大陸を揺るがす存在となっていくのか、その歴史を語る。
神々の座するオリュンポス。
天上の光輝く宮殿に、新たな神が生を受けた。だが、彼の誕生は決して祝福されるものではなかった。彼の母、女神ヘラは、その赤子の姿を見て顔を曇らせた。
「なんと醜い……こんな子は、神の座にはふさわしくない」
母の腕に抱かれることもなく、その小さな命は、非情にもオリュンポスの門から投げ捨てられた。天から落ちる幼き神の名はヘーパイストス。
彼の小さな身体は、まるで流星のように燃え上がりながら、果てしない空を貫き、遥かなる海へと墜ちていく。
轟音とともに、彼の身体は海へと叩きつけられた。
神とはいえ、まだ幼き身。天界の加護を奪われた彼は、深い海の底へと沈んでいく。
その時、彼を抱きかかえる者がいた。
「まあ、なんという哀れな子……」
彼を救ったのは、海の女神エウリュノメー。
彼女は穏やかに彼を抱きしめ、海の奥深くへと連れ去った。
エウリュノメーは彼を育て、神々の追放者としての彼の運命を理解していた。
「お前は神々に見捨てられた。しかし、それはお前が弱いからではない。お前の炎は、まだ眠っているだけだ」
彼女の導きのもと、ヘーパイストスはやがて陸へと上げられる。
ヘーパイストスが辿り着いたのは、黒煙を噴き上げる巨大な火山だった。
荒涼とした岩肌、地下に響く地鳴り、そして燃え盛る炎――
そこはまるで彼自身の運命を象徴するかのような場所だった。
「ここでなら、私は何者にも邪魔されず、ただ己の力だけで生きることができる」
彼はその火山の中へと入り、そこを自身の工房と定めた。
熾烈な溶岩流が流れる地下洞窟に、彼は巨大な鍛冶場を築いた。
炎と鉄と槌だけが、彼の友であり、武器であった。
彼は神々に復讐する力を求め、鍛冶の技を極めた。
神の身でありながら、彼は神秘ではなく技術による創造を選んだのだ。
神々の武器を作ることで、その力を超えようとした。
そして彼の手によって生み出されたのは、奇跡ではなく、理による武器だった。
やがて、彼は神々のもとへ戻る時を迎える。
天界に戻った彼はオリュンポスの神々へと、自らの鍛冶の腕を示すために、二つの玉座を鍛造した。一つはヘラのために。もう一つはゼウスのために。
神々が住まう天界の白亜の宮殿で、今日もヘーパイストスは周りから嘲笑されていた。
「クスクス、なんで彼だけあんなに醜いのかしら」
「生まれたころから呪われてるのよ」
「あら、目が合ってしまったわ!!!気持ち悪い!」
ヘーパイストスはそんな言葉を投げかけられ、今日も背中を丸めて、のそのそっと自分の工房に向かう。
「もーう!!兄さまにひどいこと言わないで!!」
小柄な金髪の少女が、はっきりと快活な声で叫んだ。
「はっ!フレイヤ様!!いつの間に」
「私たちそんなつもりじゃ!!!」
「どうかゼウス様には!!」
侍女たちが一斉に跪く。
「いいから、行って!!私、兄様に用があるから」
「「はい…」」
侍女たちはバツが悪そうにその場を後にした。
「それで、用ってのはなんですかい?フレイヤ様?」
話を聞いていたヘーパイストスはフレイヤに跪き、お伺いを立てた。フレイヤに目線を合わせているのだ。彼なりのやさしさ。
「もう!!兄さま!!「フレイヤ様」って呼ばないで!!」
「ごめんなーフレイヤ、他の神々の目があるんだよ」
そう言いながら、ヘーパイストスはその長い腕と手を使い、そっと、フレイヤの頭をなでた。彼は醜い。腹は妊婦のように突き出て、手足は長く、鼻は豚のように低かった。
「ふん、で?今日も下界に降りるの?お兄様?」
フレイヤはヘーパイストスになついていた。
「ああ、人間たちに鍛冶仕事を教えなくてはな。お前さんも来るのか?」
「うん!!人間に牛と麦の育て方を教えるの!!楽しみだなー」
「そうか、なら俺の作った道具が役に立つかもな。よし!行こう」
そう言うと二人は、下界へ降りる「ゼダンの門」を開ける。二人の日常は幸せだった。
しかし、事件は起こる、それはヘーパイストスが主神ゼウスと女神ヘラの玉座を作っているときであった。
薄暗い工房で、金槌をふるい玉座を作っているヘーパイストスのもとに、軍神アレスがやってきた。
「おい!ヘーパイストス!!面白い話があるんだよ!聞かないか?」
「聞かない、忙しいんだ」
「そういうなって、お前さ、ものに命を吹き込む魔法!使えるんだよな」
「そんな魔法ないよ、シーケンサ制御のこと言ってるんだろう?」
「そうそれ!おまえがそのー!ボタン?ポチって押すとさ使える魔法」
「それがどうかしたのか?」
いぶかしむヘーパイストスにアレスはニタニタと提案を持ちかける。
「お前の魔法でさ、親父とお袋を椅子に縛り付けんだよ」
「それで?」
「そりゃあ、決まってるだろう?放してほしかったら~僕の言うこと聞いて下さいって」
「約束させんのか」
「そう!ただのいたずらさ、いいだろう?」
「ふふ、いいかもな」
二人は悪だくみを始めた。後に大変な事態を招くとも知らずに。
黄金の紙吹雪が降りしきる中で、アレスの叙勲式が執り行われる。巨人討伐の叙勲だ。ゼウスとヘラはヘーパイストスが作った玉座に座っていた。
「母上!父上!!ヘーパイストスから贈り物があるそうですよ」
ニタニタと笑いながら、そう言った。
「ヘーパイストスよ、なんだ?」
「はい、ゼウス様ヘラ様、こちらでございます」
そう言うと、ヘーパイストスはボタンをポチっと押すと、すぐさま二人は玉座から伸びた拘束具に拘束された。
「これはどういうつもりだ!!ヘーパイストス!!」
「放しなさい!!この不細工!!」
ゼウスは説明を求め、ヘラは激昂した。
「父上!!母上!!わたくしをあなたたちの息子だと!!認めてください!!」
彼は威風堂々とそう言った。
「なに!!そんなことか、よし、認めよう息子よこの仕掛けを解いてくれ」
ゼウスはあっさりと認めた、彼は最初からヘーパイストスを息子だと思っていたのだ。
「わかりました。さあ母上も」
ヘーパイストスはゼウスの拘束を解くとヘラに促した。
「いやじゃ!!おまえなぞ!!生んだ覚えはないわ!!」
「では、ずっとその玉座に座っていてください」
ヘーパイストスはあっさりとヘラを見捨てようとする。
「いい加減しろ、ヘーパイストス、いや息子よ、母さんを許してやれ」
ゼウスは父親としてヘーパイストスを叱った。それがヘーパイストスにはうれしかった。
「わかりました。しょうがない」
そう言うと、ヘーパイストスはボタンを押し、ヘラの拘束を解いた。
「覚えておきなさい、ヘーパイストス」
そう言うと、スゴスゴとその場を後にするヘラ、とても疲れているようだ。
「ヘーパイストスよ。今回のことについて、お前には罰が必要だな」
「は!!どんな罰でも!甘んじて受けましょう!!」
威風堂々としたヘーパイストスは、胸を張りそう言った。
「ならば、お前は再び地に堕ちるがいい!」
雷鳴とともに、彼は再び天界から追放された。
再び墜落したヘーパイストスは、もはや神々に属するものではなかった。
彼は傷だらけの身体を引きずりながらも、かつての火山へと帰還した。
荒れ果てた土地には、言葉も持たず、火の使い方さえ知らない人々が住んでいた。彼らは獣のように獲物をむさぼり、裸のまま寒さに震え、雨を恐れながら暮らしていた。
ヘーパイストスは彼らを見て、憐れんだ。彼らは自らの手で道具を作ることも知らず、ただ生きるために喰らい合う、まるで赤子のような民だった。だが、その目には強い生への執着があった。
彼はまず、彼らに火を与えた。燃える薪の炎に驚き、恐れ、そして次第にその温かさに魅了される蛮族たち。次に、火山の溶岩流から黒曜石を採取し、それを研ぎ澄まし、最初の武器を作った。鋭く砕ける黒曜石は、鋼を持たぬ時代において最も優れた武器となった。黒曜石の斧は森を切り開き、槍は狩りと戦いに用いられた。
人々は狩猟を学び、やがて火を囲みながら言葉を覚えていった。
狩りがうまくいき、人の数が増えると、ヘーパイストスは人々に新たな生き方を示した。
「狩りだけでは生きていけない。地に根を下ろし、糧を育てるのだ」
そう言いながら、彼は森を切り拓き、大地を耕した。
切り倒した木を燃料に、ヘーパイストスは、鉄を作った。鉄の斧は黒曜石の斧とは比べ物にならないほど鋭く、人々は簡単に、森や山を切り開けるようになり、開墾が進んでいった。森を次々と畑に変えていったのだ。
彼は人々に種の蒔き方、水の管理、収穫の技術を教えた。
こうして、人々は狩りだけでなく、農耕をも生活の基盤とするようになった。
この人々は、ヘーパイストスを「炎を操る神」として崇めた。彼こそが自分たちを導く主であり、天界から落ちてきた英雄なのだと。
こうして、鍛冶神ヘーパイストスを王とする「黒曜の民」が誕生した。彼らはまだ未熟な存在だったが、彼とともに生き、火を操り、やがてこの大地を変えていくこととなる。
農耕を覚え、少しずつ豊かになっていく黒曜の民。そこに招かれざる客がやってくる。
蛮族の襲撃だった。彼らは作物を荒らし、家々を焼き、力ずくで奪うことしか知らなかった。
悲鳴と嘆きが村を覆った。鍛冶場に駆け込んだ民たちは、恐怖に震えながらヘーパイストスに助けを求めた。
「我々はお前の教えのもと、働き、育て、築き上げてきた。しかし奴らは奪い、焼き尽くすだけだ!」
ヘーパイストスは静かに頷き、再び鉄を鍛え始めた。彼の手によって打ち出されたのは、鋭き剣、頑強な槍、そして身体を守る鎧。さらに彼は、戦いの術を教え、民に鍛錬を課した。
「戦うことを恐れるな。武器を取るのは、ただ奪うためではない。守るためだ」
最初は恐る恐る剣を握っていた民たちも、鍛錬を重ねるうちに強くなっていった。そして再び襲い来る略奪者たちを迎え撃ち、撃退した。
それは、彼らにとって初めての勝利だった。血に染まりながらも、彼らは歓声を上げた。もはや彼らは奪われるだけの存在ではない。
こうして、かつての赤子のような民は、戦士へと変わり始めた。力を持つことで、彼らは初めて「国」というものを形作っていったのだった。
戦いが終わり、剣と槍に刻まれた傷跡が戦士たちの誇りとなるころ、赤く染まった戦場の上空に一人の神が立っていた。
「楽しそうだな」
低く響く声が、戦士たちの間に緊張を生んだ。彼らの前に現れたのは、血と戦の象徴――軍神アレスだった。
彼の姿は戦場の風景そのものだった。赤黒い鎧をまとい、戦いの熱気を帯びた剣を片手に、炎に照らされるその顔には嗜虐的な笑みが浮かんでいた。
「初めての戦いか?」
彼は悠然と歩を進め、ヘーパイストスの前で立ち止まった。
「貴様がこの者たちに戦い方を教えたのか? なかなか様になっているじゃないか。まるで赤子が初めて牙を剥いたようだ」
戦士たちはその侮蔑に満ちた言葉に憤りを覚えたが、誰一人として動けなかった。相手が誰か、本能的に理解していたからだ。ヘーパイストスはアレスを睨みつけた。
「アレス!何の用だ?」
アレスは肩をすくめ、地面に転がる無数の死体を見渡しながら答えた。
「いや、ただ楽しそうだったからな。これほどの血の匂いが漂えば、俺が来るのも当然だろう?」
彼は地面に転がる剣の一本を手にし、にやりと笑った。
「どうだ? せっかく武器を手に勝利したのなら、このまま戦を続けてみるのもいいんじゃないか?」
その言葉に、戦士たちは動揺した。戦うことで手にした誇り、そして戦うことで生き残る現実、アレスはまるで、それこそが真理だと囁くようだった。
ヘーパイストスはそんなアレスを睨みながら、静かに拳を握りしめた。
「俺たちは貴様のために戦うのではない」
アレスのわずかに目を細める。
「ほう…?」
「俺たちは生きるために戦う。奪うためではなく、守るためにな」
アレスは数秒の沈黙の後、爆笑した。
「ははは! いいじゃないか! その理想、どこまで貫けるか楽しみだな!」
そう言い残すと、アレスは真っ赤な愛馬にまたがり走り出すと戦場から消えていった。
彼の言葉は、戦士たちの心に深く刻まれた。守るための戦いか、それとも奪うための戦いか、彼らは、まさにその分岐点に立たされていたのだった
いかがだったでしょうか
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社畜新兵 Mk.5!