黒曜帝国記   作:社畜新兵

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銃が好きなんです


第十一章「死のサンタクロース」

『死のサンタクロース』

 

 機械油の匂いが充満する広大な兵器工場。その天井からは無数の照明が吊るされ、煌煌と輝いていた。

そこに、数百名の異形の兵たちが列を成していた。

 人狼、オーク、リザードマン、ゴブリン、果ては魔族の混血までも。

 ここは黒曜帝国第十三軍兵站基地・東部兵器工廠。

今日は、新たに帝国民となった者たちに、武器が与えられる日だ。

「さあ!今日から君たちは、黒曜帝国軍の一員だ!」

 演壇に立った将校、漆黒のコートに赤い肩章をつけた細身の男が、滑らかな声音で言った。飄々とした笑顔と、芝居がかった仕草。だがその背後にあるのは、決して柔らかくない権威だった。

「我らが偉大なる皇帝陛下に忠誠を誓った君たちに、とっておきのプレゼントがある!」

 将校が腕を振り上げると、壁に掛けられていた巨大な布が音を立ててめくられた。現れたのは、壁一面にずらりと並ぶ武器の数々。銃、銃、銃。

 どよめきが広がる。まるで子供たちが玩具屋の棚を見たときのような目をして、魔族たちが息をのんだ。

「これは...」

 人狼のミトが、低くつぶやく。

「そう、君たちの「贈り物」だ。受け取ってくれ!」

 将校は小銃を一本、誇らしげに掲げた。

「ヴァルドル突撃ライフル!帝国の誇る主力火器だ!装弾数20発、射程300メートル、王国の銀騎士団なぞ案山子同然!!」

「おおっ!」

 オークたちが興奮したようにうなり声を上げる。

「体格に恵まれた君たちには、こちらの機関銃を!引き金を引けば、いくらでも弾が出る!!」

ごついオークが両手で受け取り、笑った。

「こいつは!ドラゴンだって殺せそうだ!」

 将校はにやりと笑う。

「もちろんだとも。帝国製だぞ?」

 その声に、小柄なゴブリンが震えながら聞いた。

「おっ、俺たちにも使えるやつ、あるのか?」

 将校は片眉を上げると、壁の端から一丁の短機関銃を取り上げた。

「もちろん。小さくても強力な短機関銃だ!サイレンサーをつければ静かに殺せる」

 ゴブリンの目が丸くなる。

「軽い!これなら」

「さあ、持ってけ、持ってけ!無料サンプルだ!!マシンガン!グレネード!弾も忘れずに!」

 将校は次々に武器を手渡す。銃機関銃、バズーカ、グレネード。コボルトには対物ライフルが与えられ、リザードマンにはバズーカが渡された。

 それは、戦闘装備の配備というよりも、暴力の贈与だった。

 将校はクリスマスにプレゼントを配るサンタクロースのように、武器を配り歩く。大陸中でこの光景が広がっている。

 黒曜帝国は王国に不満を持った農民、虐げられた魔族、魔女狩りにあっている魔法使い。そういった連中に武器を与えているのだ。  彼らに暴力を配り歩いている。 さながら死のサンタクロースとでも言うべきか。

 

『静かな足音』

霧が山間の関所を覆っていた。ここは大蓮の一国、燕の北関。奉天商人の一団が、大量の荷馬車を連ねて到着する。荷車を怪しんだ関所の兵が、手形と書付を受け取った。

「建設用の建材だと?」

「ええ、なんでも王宮で立派な宮殿を建てるとかで、その資材でございます」

兵が荷を確認する。

積まれていたのは、長い木の板と鉄の棒、奇妙な装飾の金属塊。

それは分解された銃だった。反乱農民に秘密裏に渡される、国を覆すに十分な数の銃だ。

だが大蓮の兵士は銃を知らない。鉄の棒は刃物にも見えず、木の板はただの粗材にしか見えない。弾は飾り玉のようで、とても殺傷具には思えなかった。

「ですから、建材でございます」

商人はにこやかに言い、袖から小さな袋を差し出す。ずしりと重い銭袋を受け取った兵は笑った。

「そうか、なら行ってよし!」

隊商の長い列は、音もなく関所を抜けていく。燕の都を揺るがす滅びの足音は、あまりにも静かで誰一人として、その接近に気づかなかった。

 

「皇帝の黒い腕は貪欲に手を伸ばす」

 薄暗い洞窟、ろうそくの薄暗い光を頼りに、焼け出された人々が身を寄せ合っていた。皆疲れ切り、寒さに震えている。

「紅燕姫、話を聞かせてください。何が起こっているのか、すべてを」

 フレイム王国の女騎士、アナベルは美しい衣に身を包んだ姫に、そっとあたたかい飲み物を渡し、優しく尋ねた。

「わからない、瞬きする間に、大蓮中が焼き尽くされた。わかってるのは奉天商人たちが、あの「銃」って武器を売り始めてから、この大蓮は地獄と化したの」

 ここはフレイム王国や黒曜帝国が「アッシア」と呼ぶ巨大な大陸だ。フレイム王国とは険しい山脈を隔てた向こう側、黒曜王国は遥か海のかなた。そんな土地に、なぜ「銃」が、アナベルは眉を顰める。

「一つずつ教えてくれる?奉天商人って?」

 震える手で盃をもちながら、紅燕は唇を震わせながらぽつりぽつりと話し始める。

「この大陸、「大蓮」には、群雄割拠する五つの国がひしめき合ってた」

 そう言って紅燕は、土壁に指で地図を描こうとする。

「おい!何か書くもの!できるだけ大きな紙を持ってこい!!」

 アナベルが部下に紙と鉛筆を持ってこさせた。

「華、華やかな国。文化の中心だった。呉、海を臨む国、最強の海軍を持つ。越、山に囲まれた貧しい国、隣の華によく攻め込でた。燕、私の故国、厳しい北の平原が勇ましい騎馬の民たちを育てる国、最後に奉天、大商人孫昌が作った商人の国、大蓮を股にかける商人たちの小さい国」

 すらすらと紙に大蓮の地図が書かれる。

「最初に動いたのは越の国。秋の収穫時期、華に攻め込んだ。毎年のことで、華も油断していた。越の民は痩せていて武力も弱かったから。でも、その年は違った」」

「銃、だな」

 アナベルは素早く反応した。

「そう、奉天の商人たちが、越の国に銃を売ったの。越の国の粗悪な武器は、華の鎧に傷をつけられない。練り上げた「気」で鍛えられているから。でも、銃は、あれは?なに?越の国の子供が、銃を使って騎士を殺したって聞いたわ」

「やはりな、その銃はこれではないか?」

 アナベルが包みを解き、黒曜帝国製のアサルトライフル、「ヴァルドル自動小銃」を机に置いた。

「これよ!これにみんな殺されたんだわ!!」

 紅燕は目を見開きそう叫んだ。

「なんてことだ...嫌な予感が当たった」

「これを知っているの?」

「ああ、だが話の続きを教えてくれるか?」

「うん、奉天商人は次に呉の海賊に銃を渡した。でもこれはうまくいかなかった。呉の国には最強の海軍がいるんだもの。たくさんの砲艦で、海賊の根城を囲んだ。海賊たちは飲み水も食べ物もなくなるだろうと誰もが思ったわ。でも、あるひ海の向こうからたくさんの鉄の船が現れた。空を飛ぶ鉄の鳥。鉄の城が海に浮かんでいて、鉄の雨が降り注いだわ、何もかも焼き尽くしたの。呉の国はあっけなくほろんだわ」

「帝国の艦隊...!!連中、こんなところまで来ていたのか..」

 アナベルたちに動揺が走った。黒曜帝国は大規模派兵の橋頭堡をすでに築いていたのだ。

「そして、私の国、燕、私たちは白蘭族と言って、騎馬民族だったのだけど。農耕をする黄埔族を戦争で制し、従えていたの。でも、黄埔族の農奴が一斉に反乱を起こした。奉天商人から銃を買ってね。そんなお金ないはずなのに、華陽の都も焼き尽くされたわ」

 ここにいる者たちは皆、白蘭族の王族や貴族だった。黄埔族から逃げてきたところを、フレイム王国の派遣騎士団に保護されたのだ。

「おそらく、奉天商人の裏にいるのは、こいつらだ」

 女騎士アナベルは、黒いムカデが太陽へと這い上る、不気味な紋章をみせた。

「これは?」

「黒曜帝国、この大蓮を焼き尽くす病魔の正体だよ」

 そう言うと、アナベルは立ち上がり、すばやく部下たちに命令を下す。

「速やかに難民を収容し!!急ぎ本国に戻るぞ!!フレイヤ様にこの惨状をお伝えするのだ!!」

「俺たちの国は、まだ無事でいてくれるだろうか」

フレイム王国の兵士がぽつりとつぶやく。皇帝の黒い腕は長く、影のようにこの大蓮まで伸びていた。 

 




銃はちから
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