黒曜帝国記   作:社畜新兵

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liberty stands for freedom


第十二章「豚をつるせば犬が来る」

「立ち上がる民」

 

 なぜだ。なぜこうなったのか。

 轟音が城壁を揺らすたび、バド王は思考を巡らせた。

 ことの始まりは単純だった。王位継承をめぐる争い。兄である自分と、弟ハミト。血を分けた兄弟が剣を交えるのはどこの国にもあること。敗れた王は追放され、勝った者が王冠をかぶる。ありふれた権力闘争だ。

ただ、それには金がかかる。軍を動かすための税、兵を雇うための税、戦場に送る糧食のための税。

民はいつものように搾られる。

 最初に異変が起こったのは辺境の小さな村だった。農民反乱。珍しいことではない。下民が熊手を振り回したところで、騎士団の槍に貫かれるだけだ。

 バドは軽く扇を打ち、軍の派遣を命じた。首謀者を高く吊るせば奴らも大人しくなるだろう。

蛆虫が、おとなしく飼われていれば良いものを。

 翌日、信じがたい報せが届いた。

「陛下、派遣した軍が、全滅しました」

 全身鎧の兵士たちが、子供や老人に至るまで手にした“見たこともない武器”によって討たれたという。

 矢ではない。槍でもない。弩に似ていたが違うという。雷鳴のような轟きとともに兵士たちは倒れたと。

 さらに知らせが入る。

その地を治める代官の砦が落ち、代官は吊るされ、見たこともない紋章の旗が砦に掲げられていると。太陽に昇るムカデの旗が。

「馬鹿な!奴らに攻城兵器などあるはずがない!」

 叫ぶ将軍の声を、轟音がかき消した。

 ドオォン……!

 天へとそびえ立つ城壁が、土くれのように崩れ落ちる。

 石を積み上げた要塞など、もはや積み木細工に過ぎなかった。

「陛下!城壁が崩されました!お逃げください!!」

 将軍が叫ぶ。

 バドは思わず弟ハミトを疑った。

 やつの仕業か? 

 それは違った。

 ハミト王も、蒼ざめた顔で同じ光景を見ていた。彼の城は三重の城壁に守られた難攻不落の城。しかし、その城壁すべてが迫撃砲によって破壊し尽された。

 突如、闇を裂いて飛来する爆炎。

 それは“105mm榴弾砲”の弾だった。

 バドはゆっくりとは理解した。これはもはや「農民の蜂起」ではない。

 穴だらけになった城壁から、次々と民衆が雪崩れ込む。

 鍬や槌ではない。

 手にしているのは、雷鳴のように吼える銃。

 投げ込まれるのは爆裂する手榴弾。

 その一発ごとに、千年続いた王国の秩序が粉々に砕かれてゆく。

 「サンタクロースからの贈り物だ」

 誰かがつぶやき、引き金を引いた。

ここは砂漠の王国ハリビア、五百年の都が燃えている。 

「植民村等級」

 民衆は王に弓を引き、ついに王政を打倒した。

 安堵も束の間、村の広場にエンジン音が重く響く。

 黒い装甲車が土煙を巻き上げ、石畳を軋ませながらゆっくりと停車する。

 ハッチが開き、黒曜帝国軍の兵士たちが次々と飛び降りる。積載されていたドロイドも速やかに展開した。

 全員が漆黒の軍服に身を包み、素早く銃口を村人たちへ向ける。

 最後に降り立ったのは、真っ黒なロングコートを纏った一人の将校だった。

 灰色の瞳は一切の感情を宿さず、村人たちをただ数えるように見渡す。

「皇帝陛下の名のもとに税を納めろ」

 その視線に触れた瞬間、誰もが悟った。これが新しい支配者、黒曜帝国であると。

 銭袋が山と積まれ、軍人たちはせっせと金勘定をしている。全ての勘定が終わり、将校は満足そうに、頷くと、こう言った。

「徴税は完了した!この村の等級は一つ上げる。約束通り、このトラックを支給しよう」

 村人たちから、安堵の声と喜びの歓声が上がった。

 帝国は村に新たな秩序を敷いた。

 通貨はオリオンに統一され、税もすべてそれで納めるよう命じられる。

 年ごとに村は査察され、納めた税の量によって等級を与えられた。

一等村、豊かに納めし村には、帝国からトラックや耕運機が支給され、帝国から派遣された駐在武官により、帝国式の教育が受けられる。

二等村、平凡な納めをする村には、化学肥料や農薬などの最低限の施ししか受けられない。車両の支給を帝国に求めても、もっと税を納めろと冷たくあしらわれるだけ。

 三等村、この貧しき村には苛烈な命令が下される。税を払えぬなら、人を差し出せ。

 奴隷として帝国へ送られた者は二度と帰らぬ。兵役につく男たち。子供たちは鉱山で死ぬまで労役に就かせられ、女たちは売られた。

 抵抗する村々には、より明確な運命が待ち受けていた。

 帝国は反乱軍に対戦車兵器を支給しなかった。ライフルや迫撃砲では、戦車と装甲車、機械兵を駆使して戦う。帝国機甲師団にはまるで刃が立たない。頼みの綱の野戦砲陣地は機械兵にあっけなく踏みつぶされ、家々は火炎放射戦車によって燃やされた。人々はドロイドによって無慈悲に殺されていった。わずかに生き残った村人に帝国の将校はスコップを投げ、こう言った。

「穴を掘れ」

 彼らは必死に穴を掘り続けた。その様子を帝国兵はニヤニヤと嘲笑う。やがて身の丈がすっぽりと収まるほどの穴が掘られると、将校は冷たく命令した。

「Feuer」

 ドロイドが一斉射撃を開始し、皆が叫ぶ間もなく、蜂の巣にされる。彼らは自分の墓穴を掘らされていたのだ。

 他の村の村人たちはその光景を目にし戦慄し、恐怖した。だが次第に慣れていった。馬鹿なことを、大人しくしていればいいのに。解体された村の農地は周囲の村に再分配される。彼らはそれを嬉々として受け入れた。

 かつて王に刃を向けた農民の手は、今や黒い軍靴に踏みつけられていた。

 誰もが金で価値を測られ、生死さえも秤にかけられる帝国の秩序に。

 黒曜帝国の支配は、恐怖と欲望によって、村人たちの心を根こそぎ縛り上げていくのだった。  

 

「鉄の巨人ガングート」

 

バッテリー、オールグリーン。

給油コックオープン。

給油システム、問題なし。

スタートキーを捻ると、胸郭の奥でエンジンが吠えるようにいななき、振動が操縦席を包む。1千馬力の金属の咆哮が、骨の髄まで伝わってくる。

俺が乗っているのは帝国の象徴、機械兵。

選ばれし者だけが座れる操縦席は、油と鉄の匂いで満ちていていつも金臭い。

「ランバー01、こちらハイネの巣。聞こえるか、送れ」

無線が割れる。耳慣れた声。

「こちらランバー01。感度良好、送れ」

「よし。目標は砦に配備された野戦砲の排除だ。相手は反乱農民だが油断するな。おわり」

命令はいつも一方的で、冷たい。

俺は短く息を吐いた。

「ガングート、出番だ」

返事はない。だが俺はこの機械兵に「ガングート」と名を与え、まるで戦友に話しかけるように扱ってきた。孤独な戦場では、それが唯一の救いだった。

「ロケット――イグニッション!」

機体が弾かれるように飛び出し、体がシートに押し付けられる。

重力を振り切り、砦の城壁を超えて宙を舞う巨体。

「ジェットソン」

上昇用ジェットソン・ブースターを切り離す。

「Retrofire!!」

逆噴射ロケットを点火。

橙色の光が宙を切り裂き、地面が爆ぜるような轟音とともに、ガングートは要塞に降り立った。

ズシン――!

大地が悲鳴をあげる。

「な、なんだ!あれは……!?」

砦を守る農民たちは、初めて目にする巨人に声を失っていた。

「撃て! 撃て! 撃てぇ!」

帝国から支給されたライフルの銃撃が雨のように降り注ぐ。

だが、機械兵の装甲は特別製だ。ヴァルカノスで鋳造された特殊軽金装甲に、ライフル弾をいくら当てても、かすり傷ひとつつかない。

パイロットは冷静に端末を操作し、頭部のバルカンが機銃掃射を開始する。

「Vooooooo!

鉛の嵐が、農民たちを肉片に変えていった。

人間を殺すというより、アリの群れを踏み潰す感覚だった。

「急げ!装填急げ!」

辛うじて一門の砲が火を噴く。

単眼カメラが即座に捕捉、警報音が耳をつんざく。

Boo! Boo! BOO!

「無駄だ」

アクティブ防御システムが起動し、腕部のビームシールドが自動で展開する。砲撃は光の壁に完璧に防がれる。

閃光が弾け、爆炎の中で機械兵は影一つ揺らさない。

「そいつは帝国の野砲だ!「帝国の結晶」に通用するわけがないだろ!」

次の瞬間、機械兵の自動破砕剣が咆哮を上げた。

金切り声を轟かせながら、砲門をまとめて切り裂き、鉄と血と火薬を四散させる。

「おいおい、派手にやるな」

 一連の活躍を双眼鏡で凝視していた少佐はつぶやいた。

「まあ、見せしめにはちょうどいい」

無線を繋ぐ。

「こちらライカン、野戦砲陣地を制圧を確認。これより機甲部隊による掃討戦に入る」

その報告を合図に、背後の装甲戦闘車両たちが一斉にエンジンを始動させた。

戦車の群れが咆哮を上げ、夜の大地を震わせる。

農民の砦は、いまや帝国の鉄と炎に呑み込まれようとしていた。

「皇帝の戦争論」

 

黒曜帝国は数字で戦争をする国だ。統計で死傷者の数を数え、確率で勝率を算出し、作戦を立てる。フレイム王国はどうだ?奴らは感情で戦う。やってみなければ分からない。信心が足りない。負けたのは信心が足りないからだ。勝てば女神様に祈りが通じたとほざく。

我々は違う。皇帝陛下に忠誠を誓い、そして皇帝はこう仰る。やってみなければ分からないというのは詐欺師の言葉だ。私は詐欺師は使わない。

数字を使え。地図を読め。座標X29,Y30、そこに砲撃を撃ち込め。

どんな不都合な情報も正しく私のもとに届けよ。私は失敗した者を無闇に処断したりはしない。それをすれば皆が私を恐れ、大胆な作戦を言わなくなるからだ。人は間違える。神である私でさえ間違える。ならそのたびに解き直せばいい。

一度の敗北は二度の勝利で補え。なぜ敗北したか徹底的に分析しろ。学ばずに進み続けるのは猿と同じ。我々は人間だ。

敵を侮るな。奴らは我らが嫌がることを全力でしてくる。そのことを常に頭に入れておけ。

「さあ、諸君。人間の戦争をしよう」

 




自由とは柵に囲われた庭のようなものなのかもしれない
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