黒曜帝国記   作:社畜新兵

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かつて、世界樹の加護を受け、大地に豊穣をもたらしたフレイム王国。
女神フレイヤの祝福を受けたこの国は、誰もが羨む楽園であり、清らかなる魔法の王国だった。
しかし、その楽園の門は内側から静かに軋み、崩れ始めていた。

黒曜帝国との果てなき戦争は、フレイム王国の光を徐々に曇らせ、疲弊した諸侯たちの心に影を落としていった。
豪奢な宮殿の会議室に集った諸侯たちの顔には、王国の未来を案じるどころか、自らの生き残りを優先する卑小な欲望が滲んでいた。


第十六章「フレイム王国の裏切りと崩壊」

 

「王宮戦力会議」

 

フレイム王国の宮殿。豪奢な会議室に諸侯が集まり、緊迫した空気が流れていた。

女神フレイヤが静かに口を開く。

「黒曜軍が攻めてきました。戦わねばなりません。」

その言葉に、諸侯の顔色が変わる。

「それは大変だ!今こそ剣を取る時ですぞ!」

アダメ侯が立ち上がり、声を上げる。

「なんてことだ!国家の危機だ!喜んで兵を出しますぞ!」

メッツ侯が同調する。

最後にフロスト侯が尋ねた。

「して、我々はどうすれば?」

「兵を出してもらうしかありません!」

フレイヤの声が響く。

しかし、諸侯たちは顔を見合わせた。

「いくらまで出せます?」

沈黙が流れる。

「龍は?」

アダメ侯が尋ねる。

「龍族は烈海海戦で甚大な損害を受け、この戦争からは手を引くと」

フレイヤが答えると、メッツ侯が憤慨した。

「なんと恩知らずな!」

アダメ侯がため息をつく。

「万事休すですな……。」

「各々、最低でも5万の兵を出してもらいます!」

フレイヤが宣言する。

「5万ですか、それならばなんとか……。」

アダメ侯が頷く。

「それならば7万出しましょうぞ!」

メッツ侯が胸を張る。

「おお、それは助かる!フロスト侯は?」

フロスト侯は躊躇しつつ答えた。

「私は5万で……。」

「何をおっしゃる!この中では一番広い所領をお持ちではないか!20万の兵は出せるだろう!」

アダメ侯が詰め寄る。

「20万は我軍の全兵力です!それを全て出してしまっては、民を守れなくなってしまう!」

フロスト侯が顔をしかめる。

「それならば半分の10万では?」

メッツ侯が提案する。アダメ侯も頷いた。

「私も5万から7万に増やそう!だから10万の兵を出してくれ、のうフロスト侯!」

フロスト侯は苦悩した末に答えた。

「……分かった!10万の兵を出しますぞ!」

フレイヤは満足そうに微笑んだ。

「決まりですね。マンガン侯とメッツ侯はそれぞれ7万、フロスト侯は10万。感謝いたします。では書面にサインを。」

諸侯たちは同意し、契約が交わされた。

こうして、フレイム王国の連合軍は結成されたかに思えた。

しかし、事件は起こる。

数週間後、突如としてアダメ侯の7万の軍勢が黒曜帝国の支援を受け、挙兵。

フレイム王国に反旗を翻したのだ。

アダメ侯は自らの領地に帝国軍を引き入れ、帝国軍は王都への道を難なく手に入れ、侵攻を開始した。すぐさまメッツ侯の領地に帝国軍は歩を進めたのだ。

 

「異世界召喚された俺が勇者で俺TUEEEして帝国軍と戦う話。世界を救っちゃいます」

 

メッツ侯の居城から見下ろす丘陵地帯。その先に、漆黒の鉄塊が連なり進んでくる。黒曜帝国機甲師団。鋼鉄の野獣が轟音を響かせ、地を揺らしながら領地へ踏み入る。

「おのれ……アダメ……!!」

メッツ侯は震える拳で玉座を叩いた。

「あの裏切り者が!帝国に通じおって!!」

赤らんだ目で家臣を睨みつける。

「おい!勇者召喚はまだか!まだ来ないのか!!」

誰も答えない。廊下の外では、黒曜軍の砲兵隊が砲撃を開始し、城壁が崩れ始める。

「見ただろう!あの鉄の軍団を!!」

メッツ侯は叫ぶ。

「あんな軍勢、見たことがない!あの鋼鉄の怪物どもに、どうやって勝てと言うのだ!」

ふと、沈黙が訪れ、召喚の魔法陣が光を放ち、ついに勇者が現れた。

「頼むぞ!勇者よ!お前だけが希望なのだ!」

現れたのは、ごく普通の青年だった。状況がわからず目を白黒させている。勇者の右手には聖剣。そして魔法の鎧を身にまとい。左腕には勇者の盾が。

「俺が……勇者?敵を倒せばいいんだな!」

嬉々として飛び出した青年は、黒曜軍の兵士を次々に斬り伏せる。

「ははは!余裕じゃないか!」

だが、その笑顔は長くは続かなかった。

「後退するぞ、目標地点まで誘導しろ」

 黒曜軍の歩兵は犠牲を出しつつも遅滞戦闘を繰り返し、勇者をある場所へ誘い込む。

 勇者がたどり着いたのは町の広場だった。美しい噴水は砲撃で砕け散り、今は瓦礫に埋め尽くされた開けた場所に、彼は一人立つ。

「おい、おい、もうしまいか?」

 呆然とする彼のもとに空から落下してくる影。

ドォン!ドォン!機械兵が着地し、地面を抉る。

「なんだ?こいつ!?」

金属のボディに、巨大なチェーンソード、ガトリング砲塔が狙いを定める。巨大な人型兵器が空から降ってきたのだ。

「攻撃開始、皇帝に勝利を」

 一斉攻撃が始まった。

「くそ!負けてたまるか!俺TUEEEE!俺TUEEEE!!」

勇者は必死に剣を振るい、一体をなんとか撃破する。

「やった……」

だが、すぐに五つの転移陣が輝き、新たな機械兵が現れる。

それだけではない。地響きとともに、戦車大隊も集結し、砲身を勇者へと向ける。

「うそ……だろ……?」

勇者の震える声が、戦場にかき消された。

轟音。砲撃。勇者の姿は、黒煙に飲み込まれていった。

「くそったれぇぇぇぇぇ」

 その叫び声が彼の断末魔だった。機械兵は自慢のナックルダスターで彼をミンチにした。

かくして、メッツの地は黒曜帝国によって黒く塗りつぶされた。

フレイヤはこの事態に激怒し、アダメ侯の領地に近衛軍を派遣。

アダメ侯は帝国の後ろ盾があると高を括り、帝国軍人と祝賀会を開くが、その最中に、帝国軍諜報部、通称「メディナ機関」によって一家は暗殺される。

帝国にとって、メッツの領地などただの「道」でしかなかったのだ。

こうして、フレイム王国は一枚岩ではないことが露呈した。皇帝ヘーパイストスはこの内部の不和を見事に突き、フレイム王国を自滅へと追い込もうとする。

戦況は黒曜帝国の圧倒的優勢へと傾いていく。

 

 

 

『反乱の始まり』

 

「いいライフルだろう、帝国製だ。」

 男は誇らしげに手にした銃を掲げた。陽光に照らされたその銃は、黒曜帝国の工房で作られたアサルトライフルだった。見慣れない装飾と精巧な造りに、周囲の農民たちはざわついた。

「こんなライフルを……どこで手に入れた!?」

 驚愕する村の若者に、男はにやりと笑う。男はゆっくりとライフルを肩に担ぎ、群衆を見渡した。

「俺たち農民が一揆を起こすって言ったら、連中タダ同然でくれたぜ!帝国万歳って言えばな!!」

「そんな馬鹿な……!」

「これで王国騎士どももイチコロよ!」

 男は不敵に笑いながら、騎士の鎧にライフルを一発撃った。鋭い銃声が響き渡り、鎧には大きな穴が開いた。農民たちは顔を見合わせた。

「なあ、お前の娘が売られたのは誰のせいだ?」

 男の問いに、農民の一人が唇を震わせながら答える。

「……代官のせいだ。」

「そうだ!!」

男が鋭く言い放つ。

「王国のせいだ!」

 静寂が場を包む。誰もが真実を知っていたが、口にすることを恐れていた。

「俺たちが苦しんでるのに、優雅に暮らしてる連中がいるんだぜ?」

男の声がさらに鋭くなる。

「女神フレイヤはな、俺たちのこと。きっと蟻んこか何かだと思ってんだ!!」

「そんな!フレイヤ様になんてことを!」

「俺たちが飢えてるとき、フレイヤは何をしてくれた?」

男は周囲を見渡しながら、ライフルを力強く握った。

「帝国にくだれば、皇帝は悪いようにはせんとよ。それどころか、食い物をくれるんだ!武器もある!」

 農民たちは沈黙したまま、次第に目を光らせ始める。

「乗るしかねえべや!この勝ち馬に!」

「帝国万歳だべ!!」

「そうじゃ、そうしようや!」

 農民たちが次々と拳を掲げる。こうして、王国に対する農民の反乱は静かに幕を開けた。

 

《魔術士救出作戦 -燃え上がる夜-》

 

 暗闇に包まれた地下の作戦司令室。壁には王都の街並みを描いた地図が広げられ、

その前に立つのは、ハンナ・ラーデンバー。

「……王国は、魔術士連合の解散を決定。魔術士たちは、街頭で次々に火あぶりにされている」

彼女の声は冷徹でありながら、奥底には抑えきれぬ怒りが滲んでいた。

「まず!」

ハンナは地図の一点を指差した。

「シュタイナーが倉庫に火をつける。囮になってもらうわ!」

「もちろんだ、ハンナ! 俺に任せろ!」

横にいた男が大声で言った。男の背は高く、がっしりとした頼りがいのある体格、金髪をオールバックにまとめた、鷹のように鋭い眼光を持つこの男は、きっとライオンか狼に育てられたのだろう。彼のことをハンナはそう思っていた。

男の名は、シュタイナー・ヴィッツ。黒曜軍メディナ機関S機関司令官にして、特殊戦闘部隊「VOLG」を率いていた。

「パーティーは得意なんだ!」

「黙って」

ハンナは容赦なく彼の言葉を切り捨て、次なる作戦へと話を進める。

「次に、私たちは下水道を抜けて港のヨットに向かう。闇夜に乗じて脱出する」

シュタイナーが渋い顔をした。

「おいおい……下水道なんて!俺の綺麗な足が汚れるじゃないか」

「いい加減にして!! みんなの命がかかってる!!」

会議室が静まり返る。一人の魔術士が、シュタイナーを訝しげに見つめた。

「こいつは……?」

ハンナは息を吐き、腕を組む。

「私の夫よ。帝国軍人。」

一瞬、室内に緊張が走る。王国軍と帝国軍は長年敵対してきた。その宿敵が、夫だというのだ。

「もちろん形だけの、こいつが通行券の代わりなのよ」

シュタイナーは笑って腕を広げた。

「ははは! シュタイナーだ! よろしく!!」

魔術士たちは顔を見合わせ、戸惑いながらも頷く。

「……お、おう……」

「では、作戦を開始します」

ハンナの声が響く。

「よーし!!野郎ども!!」

シュタイナーが椅子を蹴り飛ばして立ち上がる。

「派手に行くぞ!!俺たちゃ今日は海賊だ!!」

「昨日は強盗団でしたね!お頭!!」

「一昨日は誘拐犯!!」

「ははは!生まれた頃から役者よ!!」

シュタイナーの号令で、魔術士たちは走り出した。

彼らはこれから王国に抗う亡命者たちとして、新たな戦いを始めるのだ。

ハンナは彼らの背中を見送りながら、小さく呟いた。

「……無事に合流できるかしら」

隣にいた魔術士の男が問いかける。

「心配なんですか?」

「まさか!!」

ハンナは、必死に否定した。

「帝国人よ。敵なの、でも今はあいつを頼るしか」

そう言い終えると、彼女の体は滑らかに変化し一匹のネズミへと姿を変えた。

「作戦開始!!」

ハンナは下水道へと駆け出していった。港に着き、そこでヨットに乗り込み、沖へ出た。

「遅い、合流時間なのに!」

ハンナはヨットの上で苛立ちを隠せず、波に揺られる小舟の上で腕を組んだ。沖合に出たヨットには、約束の時間を過ぎてもシュタイナーの姿はなかった。

「まさか裏切られた?」

脳裏をよぎる不吉な思いを振り払おうと、ハンナは夜空を見上げる。そこには五羽のツバメが静かに飛んでいた。

「ツバメ?」

ふと疑問を抱いた次の瞬間、ツバメたちは空中でくるりと回転し、人の姿へと変化した。暗闇の中、魔法の光が彼らの輪郭を照らし出す。シュタイナーと、彼が率いるならず者たちだった。

「お待たせ、お嬢さん!!いやー、脱出に手間取ってしまってね!」

海風になびく髪をかき上げながら、シュタイナーは船の上に軽やかに着地した。その顔には余裕の笑みが浮かんでいる。

「もしかして、心配してくれたのかい?」

「はぁ!?するわけがない!! それより!!合流地点についたけど、何もないわよ!!」

ハンナは憤りを隠さずシュタイナーに詰め寄る。だが、彼は余裕の表情を崩さず、海面を指さした。

「ノンノン、よく見ろ!!あれだ!!!」

ハンナは半信半疑で海面を凝視する。波間に、小さな鏡のようなものが見えた。

「まさか…?」

シュタイナーは懐から信号灯を取り出し、リズミカルに点滅させる。すると、静かだった海面が突如として盛り上がり、大きな波と轟音が響き渡った。

「海魔か!!」

魔術士の一人が驚きの声を上げる。

「違うな!!わが黒曜帝国が誇る潜水艦!! アクーラだ!!」

その言葉とともに、海面から鋼鉄の巨体が浮上する。漆黒の船体が月明かりに照らされ、艦橋が顔を出した。

「アクーラ…? 烈海海戦で戦列艦を沈めたのが、こいつ…!!!」

「そうだとも!!」

シュタイナーは誇らしげに胸を張る。

浮上した潜水艦のハッチが開き、黒曜帝国の兵士たちが甲板に姿を現した。

「さぁ!!皆さま!!ようこそ!!黒曜軍へ!」

シュタイナーの言葉に、ハンナは唇をかみしめた。これは、彼女たちにとっての新たな戦いの始まりだった。

 

 

 

 




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