黒曜帝国記   作:社畜新兵

17 / 22
ファンタジー色強めです


第十七章「フレイム王国の反撃」

 

 

『蘇生魔法 その代償』

 

「ついに……ついに完成したわ!!」

女神フレイヤは震える手で、小さな小瓶を掲げた。瓶の中には、淡い銀色の液体が揺れている。

これこそ、彼女が幾千もの年月を費やして作り上げた、究極の魔法薬だった。

「ダカ!ダカはいる?」

呼び声に応じて、屈強な騎士が玉座の間へ進み出る。

「はっ!ここに!」

「これを飲んで。」

フレイヤは躊躇なく、瓶を差し出した。

「……飲むんですかい?」

「いいから、早く。」

「は、はい……」

ダカは首をかしげながらも、女神の言葉に逆らうことなどできない。一気に銀の液体を飲み干した。

しかし——何も起きない。ただの水のように、喉を通っていく。

「で……これ、一体どういう……」

「ラギド!!」

唐突に響く女神の声。瞬間、最上位雷魔法が炸裂し、ダカの身体は閃光に包まれた。

爆音とともに、彼の身体は粉々に砕け散る。

その場にいた者全てが息を飲んだ。

しかし...次の瞬間、バラバラになった肉片は銀色の光を纏いながら集まり、瞬く間に元通りになる。傷ひとつなく、鎧すら元通り。

ダカは茫然と自分の手を見つめた。

「成功よ!!」

フレイヤは歓喜の声を上げる。

「これで戦場の死は、完全に克服されたわ!」

フレイヤは銀の小瓶を高く掲げる。

「名前は……そうね、『ペルセポネの真珠』と名付けましょう!」

それからというもの、フレイム王国の全兵士にペルセポネの真珠が配られた。兵士たちは何度でも蘇り、黒曜帝国軍を押し返していく。

戦場は死なない、死ねない兵士で埋め尽くされ、戦争は泥沼と化していった。

だが、フレイヤもヘーパイストスも知らなかった。蘇生薬の存在が、冥府の王ハデスの怒りを買っていたことを。

「死を塞ぐだと……?」

「ふざけるな!!!」

「死人は死ぬと二度と蘇らない。それが理だ!それを踏みにじる愚行……見過ごすわけにはいかぬ!!」

冥府の王ハデスは怒りに満ちた声を轟かせた。

「我が冥府の軍勢を地上へ解き放つときだ!いずれは天界すら、この手に落としてくれる!!」

 冥王ハデスの野望が今動き出した。

 

「オデュッセイア防衛戦」

 

世界樹の根元に広がる美しき王都オデュッセイア。女神フレイヤの寵愛と加護に包まれ、千年の繁栄を誇ったこの都に、いま黒い津波が迫っていた。

黒曜帝国の第七方面軍、開戦から十年間、数多の国を蹂躙し、おびただしい戦果を積み上げた精鋭軍だ。鉄と硝煙にまみれたその大軍は、地平線を黒い影で埋め尽くす。

砦の上、王国兵たちは蒼ざめていた。

「おい……あれを、あんなものを相手にするのか……」

「地面が見えない……奴らで覆い尽くされてやがる……」

絶望の影が兵士たちの間に広がる。

その瞬間、蒼天を切り裂くように二つの光が舞い降りた。

「おお……!」

「ゾンダーだ!間に合ったのか!」

歓声が、叫びが、砦を揺らした。

赤と青の巨影――フレイム王国が誇る機械妖精 SONDER ROTとSONDER BLAU、トンボのような翅を打ち振り、巨大なランスを構えるその姿は、人々に神話の守護者を思わせた。

二機は何も語らない。ただヴオンと目を輝かせ、翅を広げると、弓矢のように戦場へ飛び立った。

「たのんだぞ!」

砦の兵士たちが祈るように叫ぶ。

「敵機接近!数は二、真上からの降下!」

「たかが二機に何ができる!」

帝国軍の将兵は慢心していた。王国の新兵器など、にわかづくりの玩具にすぎぬと。

無数のオートマトンが一斉にバルカンを掃射する。

Boooow...赤黒い火線が空を埋める。だが、ゾンダーの装甲には傷一つ付かない。

魔力を流し込まれた鎧は、弾丸の運動エネルギーを瞬時に減衰させ、ただ光を散らすだけだった。

「だめです!バルカンでは……まるで歯が立ちません!」

「こっちの番だ」

ゾンダーのパイロットが低くつぶやく。直後、腕部に備えられた三門の機関砲が咆哮した。

ドスドスドスドス!鋼鉄の兵が蜂の巣となり、火花を散らして崩れ落ちる。

「近接攻撃だ!自動破砕機を!!」

帝国の機械兵が刃を振りかざす。だがゾンダーは巨大だった。機械兵の二倍の巨体は、トンボのように素早く舞い、鷹のような鉤爪で敵を軽々と蹴り飛ばす。

まるで子供を弄ぶかのように、赤と青の巨影は敵陣を蹴散らしていった。

「突撃!」

ラッパの音が響く。

砦の兵士たちは歓喜に震え、王国軍は反撃を開始した。

虎の子の機甲師団が出撃し、戦車の列が帝国軍を押し返していく。ゾンダーの加護を得た今、王国軍の士気は帝国にそれを上回っていた。

王国では異端視されていた錬金術師たちが魔術士代わりに登用されていた。禁忌の知識を総動員し、王国は新たな兵器を作り出していた。その結晶こそが機械妖精ゾンダーなのだ。

 たった二機の機械妖精のために、戦場はただ、狂気のように真っ赤に燃え盛った。

夕暮れ、戦場は静まりかえる。

一機のゾンダーを槍で串刺し、そしてもう一機のゾンダーが最後の機械兵を踏み潰した瞬間、帝国軍は総崩れとなり、潰走していった。

この戦いでフレイム王国は辛うじて王都を守り抜いた。だが同時に、戦争は膠着する。

黒曜帝国は広大な植民地から兵力を注ぎ込み、蘇生魔法で「死なない兵士」が戦場を埋め尽くす。やがてフレイム王国の錬金術師たちは、人造人間の研究を本格化、世界樹の遺伝子を強化し、世界樹は、多くの実をつけることになる。その実とは「人果」、ブドウの房のように数千の実を持つ果実からは「エルフ」が生まれ、彼らは魔法に優れ長寿で、高い知能を有していた。この報告を受けた皇帝ヘーパイストスはさすがに頭を抱えたという。

 

 

 

「ある兵士の手記」

 

戦いの後、帝国兵は口々に言った。あと少しで勝てたと。

王都オデュッセイア攻略戦、帝国軍は60万の軍勢で大地を埋め尽くし、悠々と進撃していた。オデュッセイアを守る兵士は10万にも満たない。

俺たちは3日で落ちる。そう聞いていた。俺たちは「我ら敵地を進む」と軍歌を口ずさみながら悠々と行軍していた。

前線にたどり着いたときは、王都の砦はボロボロで、俺たち増援部隊の仕事はもうない。そう思っていたよ。

100年続いたこの戦争もようやく終わる。皆が安堵していた。

だが、あいつが来た。

黄昏時の夕焼けの空、雲を引き裂くような恐ろしい速さで。

「王国の新兵器だ!!」

 誰かがそう叫んだ。あっという間だった。

機械兵が踏み潰され、戦車が吹っ飛んだんだ。通信も妨害されているのかつながらない。

あっけにとられたさ、そしたら砦の門が開いてさ、やつら…

そこから戦車隊が出てきやがったんだ。

これは、夢だ、そう思ったね。王国に兵なし。

それが俺たちの口癖だったのに、戦車だと?

俺たちはわけもわからず、逃げ帰るしかなかった。部隊は散り散り、俺は今、廃村にいる。農民兵が村々回って敗残兵狩りをしてるらしい。

早く味方と合流しないと、畜生…

なんでこうなったんだよ。俺たちは勝ってたはずだろ。帝国軍は最強じゃないのかよ。

 

「フレイム王国の奇跡」

 

帝国の技術革新は技術の蓄積にある。絶え間ない研究と、膨大な記録に裏打ちされた技術革新こそ。帝国の発展を支えてきたのだ。

しかし、フレイム王国の技術革新は、そのロジックから大きく外れる。

バカバカしいことに、フレイム王国ではある日突然、一人の天才が降って湧く。あるいは革新的な技術が天啓として授けられる。

黒曜帝国は神に見捨てられ帝国、フレイム王国は神の寵愛を享受する国だ。

ある時、世界樹に樹の実がたわわに実る。やがて実は落ち、中から実を裂いて中から人間が現れた。

「エルフ」の誕生である。世界樹は土に還りし人間の骸から新しい人間を作ったのだ。

エルフたちは才覚に恵まれ、まるで生まれた頃から全てを知っていたようだった。

あらかじめ答えを知っていたかのように「錬金術」を生み出した。

「錬金術」それは原因から結果を生み出す「奇跡」。「過程」を蹴り飛ばし、原因あれば結果ありと。森羅万象を作り上げる「奇跡」だった。

世界樹の根元奥深く、女神フレイヤの祭壇で、錬金術師たちがせわしなく動く。

ここは暖かな光に包まれた、美しい場所だ。帝国の女が届かない最後の安息の場所。

おもむろに錬金術師ザッカが口を開く。

「フレイム王国には戦車が必要だ。戦車の材料は?鋼材、ゴム、燃料だ。よし、床に積み上げろ。おい気をつけろ、魔法陣を消すなよ。孤児は?ちゃんと一万人、連れてきたか?よし、始めよう。必要なのは、材料と人と時間だ。これでそろった」

「いったい何をするの?ザッカ?」

女王フレイヤの質問を無視し、ザッカは儀式を始めた。

「全知全能の神ゼウスよ、我らに力を貸し給え、我らを救い給え、原因を結果へ、歯車を回し、我らに成果を与え給え」

その祈りとともに、資源は分解、再構築され、100両の戦車が組み上がった。

儀式の贄は、一万人の孤児だ。十にも行かない子供たちは、急速に老い、老人となり。そして息を引き取った。

エルフの錬金術師ザッカは笑いながらこういった。

「一万人の人間が不眠不休で50年、働き続ければ、戦車百両、造作なく作れよう」

「なんという外道、人の心はないのですか!!」

女神フレイヤは激怒したが、ザッカは淡々と答えた。

「今の王国にはその外道が必要でしょう。あと一万人の子供を連れてくれば、帝国軍を蹴散らす決戦兵器が作れます。どうします?」

フレイヤは一瞬目を見開く、だがすぐに気を抑え。震えながら言った。

「ダカ、今すぐに孤児たちを集めなさい。この王都には、まだ一万人の孤児がいるはずよ。残念だけど」

「しかし…陛下…」

苦悶に満ちた騎士団長ダカ。

「これしか方法はない。それは貴方も分かるでしょう…二万人で王都百万の民が救われるの。安いものです」

「御意」

そしてまた、儀式が始まる。帝国軍を蹴散らす兵器は、まさに降って湧いたように現れたのだ。かつて皇帝ヘーパイストスがやった生贄の儀式とは似て非なるもの。

祝福も溢れれば、呪いに転じる。しかし、その呪いこそが、今の王国には必要だった。

「戦場は血と泥濘にまみれている」

 踏みしめるたびに、靴底が重く沈む。泥はただの泥ではない。血と油と腐臭が混ざり、粘りつくように兵士たちの足を絡め取っていた。

 空は低く垂れ込め、灰色の雲が重くたたずんでいる。

 砲声だけが、遠くで鈍く響いている。

 帝国軍は、王都オデュッセイアの攻略に失敗した。

 誰もが負けるとは思っていなかった。

帝国軍は軍歌を口ずさみ、旗を掲げ、堂々と進撃していた。勝利を疑う者など、誰一人いなかった。

 だが今は違う。退き、耐え、隠れ、そして削られる。それがすべてだ。

「王国兵の懐から、皆これを飲んでいました」

 副官が差し出したのは、小さなアンプルだった。

 中には、怪しく光る緑色の液体。光を受けて、ぬめるように揺れる。

「蘇生薬、か」

「ええ」

 短く答える。

「これを飲めば死なない。いや、死ねないのかもしれません」

 指揮官は無言でそれを見つめる。

嫌な光だった。生き物のように、脈打っているようにすら見える。

「連中、全身に爆弾をくくりつけて、壕に飛び込んできます」

「なんだと、死ぬのが怖くないのか?」

「ええ、撃たれても、止まりません。四肢が飛んでも、瞬く間に生えてくるのです」

 言葉は淡々としている。だが、その内容は明らかに異常だった。

 その光景を、指揮官はすでに見ていた。

 撃ったはずの兵士が、倒れない。

 胸を撃ち抜いても、腹を裂いても、止まらない。

 そして、アンプルを砕き、液体を飲み干す。

 アンプルを砕き、液体を飲み干す。

 次の瞬間、青白い炎がその身体を包み込む。肉が蠢き、骨が組み上がり、裂けた皮膚が閉じていく。

 再び立ち上がり、走る。そして、爆発。

 壕は吹き飛ぶ。次々と帝国兵が燃えていく。

「対策は?」

「蘇生薬を飲まれる前に殺すしかありません」

 わずかな沈黙。

「遅滞戦闘を繰り返し、後退を続けています」

「補給は?」

「心許ない状況です。弾薬も、食料も」

外から怒号が聞こえる。

「来るぞ!!伏せろ!!」

 直後、ドンッ!!

 土嚢が弾け、泥が降り注ぐ。

 悲鳴がこだまする。

「そうか」

 指揮官は静かに言った。そして、ゆっくりと顔を上げる。

「ならば、敵から奪うしかないな」

「蘇生薬ですか?」

「そうだ」

 即答だった。

「兵站を叩く」

 地図の一点を指で叩く。

「蘇生薬の供給源。弾薬集積地。輸送路。全部だ」

「しかし、我々の戦力では」

「正面からはやらん」

 言葉を遮る。

「部隊を細かく分けろ。ドローンで偵察し、短波通信で繋げ。魔導技術も使え。できるだけ戦闘は避ける」

「少数によるゲリラ戦闘」

「そうだ、何としても蘇生薬を持ち帰る、狼として狩りを楽しむときは終わったのだ。今は狐になるときだ。」

「茂みに身を隠し、ただじっと息を殺すとき」

追い詰められた狐たちは、泥にまみれた体を引きずりながら、森へきえていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「軍議」

 

皇帝ヘーパイストスは、帝国士官学校に、お忍びで視察に来ていた。そこにいるのは血気盛んな若者たち。日々修練に励む彼らを見て、ヘーパイストスは帝国の未来は明るい。そう満足していた。

そこに、陸軍参謀総長シャイアン元帥がいきを切らせて走ってきた。

常に落ち着きを払い、穏やかな笑みの奥に鋭い眼光を隠す。そんなシャイアンが走っている。ただ事ではないな、嬉しくない知らせだろう。ヘーパイストスは眉間にシワを寄せた。 「皇帝陛下!!急ぎ軍議を…」

「軍議か…ならばそこでやろう」

皇帝は食堂の長テーブルを指さした。

「しかし、陛下、ここでは機密が…」

側近の親衛隊長ラボスが慌てて制す。

「シャイアンが急いでおる、ならばここでしょう。それともここには私の背中を狙う不届き者がいると?ここは不届き者を育てる場所か?」

「いいえ、陛下、問題ありません。おい!すぐに防諜態勢を整えろ!この食堂は今から、帝国軍、参謀本部になった」

ラボスが総命令すると、食堂は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。精鋭の魔導師たちは結界を張り、建物を出入りは厳しく制限された。

「よし、シャイアン、報告を」

「我が君、貴方は相変わらず無茶な御方だ…陛下、報告します。王都オデュッセイアの攻略に我軍は失敗、第七方面軍は壊滅しました」

「最悪だな、戦線は?」

ヘーパイストスは驚かなかった。彼は1000年戦い続けた将であり、王である。敗北は戦の常、それをよく理解していた。

「ラピド将軍が撤退の指揮を取り、リルド川を境に戦線の再構築に成功しました」

シャイアンは報告を続けた。

「なぜだ!!第七方面軍は総兵力100万の精鋭だぞ!王都には10万も兵はいなかったではないか!」

ラボスは敗北が信じられない。約束された勝利が、あっさりと覆ったのだ。この作戦の立案者は他ならぬラボスであった。

「偵察部隊が命がけで持ち帰った情報です、確認を」

そう言って魔導転写機が立体映像を映し出す。王国の機械妖精が暴れ回り、混乱状態の帝国軍は、砦から発進した王国軍の戦車隊に蹂躙されていく。

「バカな、なぜ連中が戦車を?それにこの機械兵はなんだ!?報告にないぞ!!」

ラボスは、怒りと驚嘆を露わにする。

「メディナ機関、ヨアヒム大佐をここに」

ヘーパイストスは落ち着いていた。フレイヤならやりかねない。そう思っていた。

「すでに呼んでいます」

「そうか、彼女の報告が何であれ、全軍撤退だな。リディアまで引き上げるあそこなら防衛に向いている。エルシオンはくれてやろう」

「しかし、皇帝陛下…」

ラボスは必死にすがった。その時だった。

「私もその話、ぜひ混ぜてくれ、非常に興味がある!」

 場違いな人間が、そこに現れた。ヘルムート・ヴィッツである。一戦闘工作員に過ぎないい彼女が、なぜここにいるのか、それは彼女が、防諜結界を潜入魔法でかいくぐり、持ち前のスニーキングスキルで気配を殺して忍び込んだのだ。忍び込んだ先が狼の巣とは知らずに。 「おおっ!!これはこれは、烈海海戦の英雄、銀狼ヘルムートのではないか!」

 ヘーパイストスが満面の笑みで両手を広げる。だが目は全く笑っていない。

「光栄です!!」

 その場で咄嗟に最敬礼するヘルムート。

「君も我々の軍議に興味があるか!!」

「どうかな?ラボス、シャイアン、前線の兵の意見を聞いてみるというのは!」

「ぜひとも。ヘルムートは我が軍の素晴らしい英雄です」

 ラボスが豪快に頷く。皇帝の御前でなければ、怒りでこの小娘を殴り殺していた。

「確かに。パイロットに工作員、経験は豊富です。彼女は優秀ですよ」

 シャイアンも興味深そうに頷いた。だからこの場所はやめようと言ったのに、そう心のなかでため息をつく。

 駆けつけたヨアヒムが、食堂の入り口で、ヘルムートと目が合った。

「あ……」

 踵を返し、帰ろうとする。巻き込まれるのはごめんだと。しかし自分が呼ばれた意味を思い出し。再び、食堂に入った。

「メディナ機関局長、ヨアヒム・ベルリッヒ、只今出頭しました」

「うむ、二人はここに座れ、ではシャイアン、ラボス改めてこの戦争を振り返ろう」

 皇帝がそういうと軍議はまた続く。

「フレイム王国は5つの国からなる連合王国です。バド王が治めたハリビア王国、アダメ侯が治めるリディア王国、フロスト侯のノルディア王国、メッツ侯のエルシオン王国、そして最後、女神フレイヤが直接統治するオデュッセイア」

 シャイアンが淡々と解説を続けた。

「この内のハリビア、エルシオンは滅亡、ノルディアは降伏、属国となった。リディアはアダメ侯の暗殺に成功、嫡男ハリス4世はまだ7歳我々を支持する摂政パリソン伯爵が実権を握ったと、そうだよな、ヘルムート」

 ラボス将軍は唐突に、ダンゴムシのように小さく丸まるヘルムートに、話を振った。

「え?…はい…」

「アダメ侯とその息子を撃ち殺したのは君だろ?しっかりしろ!!」

「あっ…はい!確かに殺しました…」

「正確には狙撃したのは彼女の部下です」

 ヨアヒムが呆れて助け舟を出した。

「そうか、その時はよくやった。だが、今回の失敗は見逃せない、王都に潜伏した諜報員は寝ていたのか?なぜ、王国はこれだけの兵力を隠し持っていた、なぜ見抜けなかった」

 ラボスは、ここぞとばかりに追求した。

「戦力が判明したのは攻勢の前日です。何でも、地面から湧き出たと」

「私たちを馬鹿にしているのか!!!」

「将軍、気持ちは分かる。だが実際に起きたことだ。そうだろ?ヨアヒム」

 感情的なラボスに対してヘーパイストスは落ち着いていた。彼は神だ。だから奇跡になれていた。海を割り、死者を生き返らせ、人が増えすぎたからと戦争を起こす。それが神だ。

「諜報員が命がけで持ち帰った情報です。王都ではしばらく前からスパイ狩りが活発化しており、通信もできず、彼女は敵地を歩いて情報を持ち帰りました」

それは小早川が必死に持ち帰った情報だった。彼女は瀕死だが、情報も持ち帰った。開戦の直後に。

魔導水晶はあの忌まわしき、儀式を映し出した。戦車と機械妖精が文字通り湧いて出たのだ。

「まさに神の御業」

ヘーパイストスはそうつぶやいた。

 

「運命が捕まえに来る」

 

ここは南部の国境だ。

保安官の俺はライフルを片手に馬にまたがり、今日も移民どもを探す、女房は俺を排他的だの、殺人鬼だの言うが知ったことか。俺は法の番人だ。妊婦だろうが、子供だろうが撃ち殺すさ。

追い回すときはいつもこう言うんだ。

「ほら、頑張れ、頑張らないと死んでしまうぞ」

 あれはうだるような暑い夏の日だった。移民の家族を捕まえたんだ。必死に命乞いをしたが、知ったこっちゃねえ。こうなることは分かっていただろう?

 薄汚えメスとオスを高く吊るした。

 俺は奴らを殺したあとには、ハーモニカを吹き、天国に送ってやる。

これで神様もお許しになるだろう。

 最後に子供か、一緒に送ってやりたいが、縄が足りねぇ。

 俺は小僧の額にイニシャルを刻んだ、胸ポケットにハーモニカを入れてやる。

そして一言「RUN」と笑いながら言ってやった。仲間たちと馬で追い立てる。

この瞬間、生きてるって気がしてよ、最高にいい気分だ。だがな、仲間の馬がコケやがった。小僧に逃げられちまった。

それから30年が過ぎた。

年老いた俺は家のバルコニーでトウモロコシ畑を眺めながら、ウイスキーを飲んでいた。畑では孫たちが、楽しそうに遊んでいる。幸せだ。心からそう思う。どこからかハーモニカの音色が。

俺は悟る。運命が俺を捕まえに来たと。孫たちを家に入れ、ライフルを取る。

運命なんて怖くねえ、なのになぜこんなにも手が震えるんだ。

 

『E機関の実験』

 

「はい、次!」

実験場に響く明るい声。帝国に亡命した魔術士ハンナ・ラーデンバーが、クリップボードを片手に立っていた。檻の中には、鎖に繋がれた異形のアンデッド兵士。

元はフレイム王国近衛兵、ハンス。

 これは蘇生薬の副作用だった。蘇生薬を飲み続けた兵士は、死に免疫が付くようになる。ここまではいい。だがまれにその免疫が機能不全に陥ることがある。

 それこそが生きる屍、自我を持たぬ野獣のような人間「アンデッド」だった。

 黒曜帝国では、このアンデッドの殺し方を長年研究していた。

「蘇生回数は?」

「14回です」

助手が答えた。

「実験115回目。今回もアンデッドに有効な攻撃を探っていく」

ハンナは実験の条件を録音機に記録する。

14回目の蘇生で、呪いが発動し、完全なアンデッド化が確認された。その目は赤く爛々と輝き、身体は膨張し、皮膚は灰色に変わっていた。

「さて、やりますよ、普通の弾丸、発射!!」

ダンッ、銃声が響くも、弾丸は皮膚を弾かれ効果なし。

「次、解呪の弾丸!!」

王国で使用されている、対アンデッドの弾丸を撃ち込む。ダーンッ。

「効いてない!しかも強化されたぞ!!」

アンデッドは鎖を引きちぎらんばかりに暴れる。

「ハンナさん!なんとかして!!」

「拘束魔法、発動!!」

光の鎖がアンデッドの身体をがんじがらめにする。

「火炎放射!!」

アンデッドは炎に包まれる。

「効果ありません!!」

「魔術士班!!呪いの解析の結果は!?」

「解析完了!!」

「でかした!これを装置に送って!!」

魔術式を基に、最新の魔導機械が動き出し、即座に新型弾丸が製造される。

「よし、新しい弾丸!撃て!!」

ダンッ、命中した瞬間、アンデッドは白い炎に包まれ、見る見るうちに縮んでいく。

わずかな骨を残し、消滅した。

「ははは!!やったわ!!」

「急ぎレポートにまとめて、技研に送る!!」

「この弾丸の名は——救いの弾丸!」

ハンナは他の研究員と抱き合った。

「やりましたね、所長」

「ええ、これでアンデッドには勝てるわ!!」

帝国に亡命した魔術士たちの知識と、黒曜帝国の科学技術。その融合によって、黒曜帝国は早くからアンデッド駆除に成功していた。戦局は再び黒曜帝国優位へと傾いていく。

だが、この先に現れる恐怖を、まだ誰も知らなかった。

 

 

 

 




つづく
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。