黒曜帝国記   作:社畜新兵

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レボリューション!!


第十八章「革命の輸出」

 

「帝国は思想で侵攻する」

 

「王国を滅ぼすのに剣は必要ない。必要なのは!自由と平等だ!!」

王国の大衆酒場で、肥え太った男が笑いながらそう言った。この赤ら顔の目はらんらんと輝いていた。周囲の客は失笑し、肩をすくめる。

「馬鹿な。言葉で国が滅ぶなら苦労はせん」

「ここはアガド王国だぞ。千年も続く、アガドだ」

アガド王国。人口二千万を抱え、大陸の中心で威風を誇る巨大な王国。東西を貫く街道は果てしなく、王家は百代以上も続き、騎士団は蛮族の首を積み上げて国境を守ってきた。

敵と呼べるのは西の荒野に住まう蛮族だけだった。

酒場の壁には、蛮族征伐へ赴いた兵士たちの古い旗が飾られている。もう百年にもわたり、アガド王国は毎年のように遠征軍を送り続けてきた。やせた土地に住む蛮族たちを屈服させ、その地を平定し、王の威光を示すために。遠征のたびに税は上がり、麦の値段は跳ね上がる。農民たちは重税に苦しみ、飢えていた。

それでも、王族たちは宮殿で権力闘争に明け暮れ、騎士たちは互いの武功を競い合う。

自分たちが守るべき民が疲弊していることなど興味もない。

よくある、老いた王国の風景だった。

だが悲劇は、いつだって前触れなく訪れる。アガド王国は、見つかってしまったのだ。

彼らに。そう、黒曜帝国に。

 

「思想による侵攻」

 

黒曜帝国の皇帝ヘーパイストスは、執務室で書類の山を前に深いため息をついた。

燃えるような髭と鋭い眼光を持つ皇帝も、戦費の数字だけはどうにもならない。

戦争は百年続いていた。

敵はフレイム王国。魔法の国であり、女神フレイヤの加護を受ける異能の国家。

この百年の「人魔大戦」は、戦争というよりもはやどちらか片方の民族が絶滅するまで終わらない。「絶滅戦争」その様相を呈していた。

戦場には鉄と魔法が飛び交い、帝国は機械兵と戦車を投入し、王国は世界樹から生命を生み出す。

戦死者の数は五千万に迫り、いくら領土を奪っても、戦線は膠着状態に陥った。

ヘーパイストスは膨大な国土を支配下に治めた。大陸大蓮を征服し、億を超える人口を帝国の名のもとに従えた。蘇生薬の開発は成功し、死者は急減し、人的資源の枯渇は避けられた。

それでも、戦争は終わらなかった。万単位で兵を送り込んでも、フレイム王国の世界樹は新たな命を産み出す。

女神フレイヤは研究を完成させ、「人間を実らせる樹」を生みだした。

嘘みたいな、ばかばかしい話だが、それが魔法だった。

ヘーパイストスは椅子に腰かけ、額を押さえた。

「このままでは、我が帝国は疲弊する」

そのとき、扉が叩かれた。

「陛下、メディナ機関より極秘報告です。」

老参謀の言葉に、皇帝は目を細めた。

「メディナ機関」

帝国の諜報・懐柔・禁術すら扱う情報組織。報告書にはある一文があった。

「異世界へのゲートが開通いたしましたことを、ここに報告します。」

王国が勇者召喚に使っていた魔術を解析し、自由に行き来できるようになったと。

皇帝はしばし沈黙した。そして、ゆっくりと口元に笑みを浮かべた。

「ようやく。我らに勝機あり」

異世界への扉、それは新たな大地、新たな資源、そして疲れ果てた帝国を救う「豊富な人的資源」を意味していた。

 

「革命による侵攻開始」

 

アガド王国という封建国家は、まだ何も知らない。自分たちの運命を、黒曜帝国という巨人が王国の丸呑みにしようとしていることを。

「平等!!それは甘美な誘惑だ!!」

ヨセフの声が作戦室に響き渡った。古びた地下室には、薄暗いランプの光と、ほこりとカビの匂いが漂っている。壁には地図が貼られ、そこに広大なアガド王国の領土が赤い線で囲まれていた。

「さて、ようやく我ら黒曜帝国が植民地にするにふさわしい王国が見つかった。このアガド王国は肥沃な大地に十分な人口、そして古臭い封建社会!我々が踏み潰すのにちょうどいい国だ!!」

ヨセフは笑いながら声高に言う。

「ここをうまく植民地にできれば!これをモデルケースに帝国はますます版図を広げられる!!」

その声には、黒曜帝国の長年の悲願。疲弊する大戦からの脱出口を見つけた歓喜がにじんでいた。

だが、部下たちは浮かれない。冷ややかな視線が、ヨセフに向けられていた。

「隊長!!たった100人じゃ何もできないですよ!!」

ランピードが声を荒げた。若いが優秀な部下だ。だが彼には怯えと焦りが見える。

「魔法陣が開いて向こうとつながるのは月1回なんでしょ?研究中とはいえ。100人でどうやって!!2000万の王国を植民地にするんですか!!?」

ヨセフは、にやりと口角を上げた。

「おいおい、ランピード君...弱音を吐くとは、献身が足りないなぁ。なーに、策はある!! ほら、これだ!」

ヨセフが誇らしげに指さしたのは、古臭い、活版印刷機だった。

「ただの時代遅れの活版印刷機じゃないですか。博物館からこれ持ち出した時、どうかしてると思いましたよ!!」

部下たちの嘆きももっともだった。帝国では輪転印刷機が導入されている。

「ははは!甘いな!我々が普段使う印刷機は転送できないのだ!大きすぎてな!ここに電気はないから、あれは使えない。だがどうだ?こいつなら小さいしこっちに送れた。電気もいらんこの世界でも動く!」

ヨセフは活版印刷機を叩いた。そして、彼はゆっくりと、部下たちを一人ずつ見回した。

「帝国の憲章第一条は?ランピード君?」

突然の指名に、ランピードは直立しながら答えた。

「え、えーと、第一条!平等と財産の保証!すべての帝国臣民は皇帝の威光のもとに平等である。何人たりとも他者の財産を侵してはならない!」

「その通り!!」

ヨセフは手を叩いた。

「平等と財産の保証!これこそが我々の武器!!「自分で稼いだものは自分のもの」「自分の畑で収穫した麦は自分たちのもの!」これが大事!!」

「当たり前じゃないですか...」

「ふふ、帝国に生まれた君にはな。だが封建国家ではそうじゃない」

ヨセフの声が低くなる。

「階級は出生で決まる。農民は一生農民。この世界では農民は自ら育てた小麦はすべて税に取られ、王侯貴族は柔らかく白いパンをむさぼり、民たちは硬いライ麦パンをかじり、味気ない燕麦の粥をすする」

ヨセフは印刷機の横に積まれた紙束をめくる。

「そんな哀れな連中に教えてやるんだよ。“平等”を!“自由”を!“お前の人生はお前のものだ”とな!」

ランピードはようやく指揮官の意図を理解し、頷く。

「大蓮の革命を、ここでも起こすんですね?」

「さすが!理解が早いな、ランピード君!!」

ヨセフの背後で、100人の諜報員たちが静かに息を呑む。

「そうだ!ここに集まりし100人はすべて、大蓮で、フレイム王国で、

素晴らしい働きをした“革命家”たちだ!」

ヨセフは拳を高く掲げた。

「ここでは思想を武器に王制を打倒する!!やり方は任せる。反乱の炎を好きなように煽れ!」

その号令とともに、地下室に響くのは、活版印刷機がカタン、カタンと動き出す。紙を刻む音が地下室に響いた。

やがて刷り上がった紙には、太く黒い文字が踊っていた。

『自由と平等を!』

アガド王国には決して存在しない。いいや、存在を忘れ去られた概念だった。

諜報員たちはそのビラを抱え、四方に散っていった。

ある者は修道士の装いで教会へ。ある者は庶民の格好で酒場へ。またある者は泥にまみれ、農民の中に紛れ込む。

こうして、革命の火種は王国中にばらまかれた。

まだ誰も気づいていない。この国の千年の歴史が、今まさに黒曜帝国の印刷機によって書き換えられ始めたことを。

「王国を滅ぼすのに剣は必要ない!!必要なのは...自由と平等だ!!」

街の外れにある薄暗い酒場で、ヨセフはジョッキを片手に叫んだ。

夜風が吹き込む扉は軋み、客の視線が一斉に彼へと向かう。

向かいの席には、遠征から戻ったばかりの女騎士が腰かけていた。鎧の隙間には土埃が残り、肩には剣傷がまだ新しい。

アガド王国では、女も剣を握る。それは高貴なる血筋の女たちが、政略結婚から逃れるための唯一の道、神に仕える聖騎士の称号を得るためでもあった。

「自由?平等?」

姫騎士シャーロットは、彫りの深い眉をひそめた。

「そう!自由と平等だ!!」

ヨセフはテーブルを叩いた。

「皆が平等であるという思想!!刈り取った麦は自分のものにできる、という思想だ!!」

「ああ、巷で流行ってる、あれか。馬鹿な話だな。税を納めなければ軍は維持できん。軍がなければ国は守れん。」

「軍なら、自分たちで作ればいい。」

「なに?」

「革命市民軍だよ!!人々は自分の財産を守るために剣を取るのだ!!」

「ふざけるなよ……」

シャーロットは椅子を蹴って立ち上がった。

「剣はすべて王の剣だ!!王なくして国はない!!」

怒気とともに抜かれた剣先が、ヨセフの喉元へ突きつけられた。店内は一瞬で静まり返る。

だが、ヨセフは笑った。

「ハハ!そんな王国、滅んじまえ!!自由万歳!!」

彼は平然とジョッキを煽った。剣先を突きつけられているというのに、恐れすら見せない。

「ふん。酔っ払いが」

シャーロットは舌打ちし、酒場を出る。冷たい夜風が頬をなでる。ちょうどそのとき、部下の兵士が駆け寄ってきた。

「シャーロット様!招集です!!」

「こんな夜中に?」

「農民の反乱です!」

「そんなもの、地方領主が治めるものでは?」

疑問を抱えつつも、彼女はまだ知らなかった。

王国全土がすでに“革命の炎”に包まれ始めていることを。

その頃、地下の司令部では。

「よし!報告!!!」

ランタンの揺れる薄暗い室内。石壁の反響でヨセフの声が鋭く響く。

「農村で一斉に反乱が起きました。狙い通りですね。」

「いいぞ!もっと煽れ!!革命の要だからな!!」

ヨセフは上機嫌で地図を叩いた。反乱が起きた村には赤い印がいくつもついている。

「街への物流が止まり、慢性的な物資不足です。飢えた市民が城を取り囲んでいます」

「ははは!早速効果が出てるな!!して王宮は?」

「我関せず。まるで危機感がありません。今年も蛮族の土地へ征伐隊をおくるつもりです」

「よし!よし!!その醜態をビラに刷り、王国中にばらまいてやるぞ!!」

印刷部隊は既に動いている。“王は民の苦しみを知らず”そんな煽動文が大量に刷り上がり、街にばらまかれていた。

「こんな物を作ってみました」

印刷部隊隊長ルパートが1枚の紙をヨセフに渡す。

「これは、版画か」

それは鎖につながれ税の重荷を背負わされ苦しむ民と、民を笑いながら踏みつける王の絵だった。

「素晴らしい、これこそがプロパガンダだ!」

「この国には文字も読めない人々がまだまだ多いですからね」

「こちらからも報告が。教会も民に寄進を求めています。それに抗議したビラを、教会の扉に貼り付けて回っています。皆が読みますからね」

「効果は?」

「テキメンです。民はなぜ教会が豪奢なのかと叫んでいます。我々は“抗議する者”として活動を続けます。教会の権威は失墜するでしょう」

「うんうん。ヘーパイストス様が唯一絶対神だからな!!他の神は必要ない」

「古臭いっすね」

「ランピード君は相変わらずだな。で、進捗は?」

「蛮族を使って沿岸部の村を襲わせています。農民反乱にますます火がつくでしょう。

それに豊かな土地を求めた蛮族が、一斉に移動を始めました。王国になだれ込むでしょうね」

「よーし、ここで嬉しい知らせだ!!」

ヨセフは両腕を広げ、満面の笑みを浮かべた。

「魔法陣の改良が終わった!!我々の転送魔法と同じ感覚で使えるようになった。本国から軍団が呼べるぞ!!」

「おお!!」

歓声が地下司令部に響きわたる。熱気、期待、そして狂気が混ざった声だった。

これはアガド王国の終焉の断末魔なのか。それとも新たな国、アガド共和国の産声なのか。

「マスケット銃!!こんな古臭いもの!!これで戦えって言うんですか!?魔法を使う騎士に!!」

ランピードは支給されたマスケット銃を手にし、悲鳴のような声をあげた。

「しょうがないだろ」

ヨセフが肩をすくめる。

「こっちの技術力で作れる銃はこれくらいなんだから」

「魔法陣は完成したんですよね!!黒曜軍は?戦車は!?装甲車は!?機械兵は!?あとは帝国軍が踏み潰すだけでしょ!!大蓮の時みたいに!!」

ランピードの叫びは切実だった。彼らは百戦錬磨の帝国軍による派手な武力侵攻を期待していたのだ。

「お、俺だってそう思ったよ?」

ヨセフが言う。

「でも皇帝陛下がさ...「思想で征服できるはずだ。武器は最低限で足りるはずだ」っておっしゃられたんだもん」

「そんな...俺たち見捨てられたんですか?」

肩を落とすメディナの諜報員たち。だが、皇帝ヘーパイストスの見立ては正しかった。

持ち込んだ“古臭いマスケット銃”は、アガド王国でも“簡単に量産が可能”だった。

 

「革命の第二段階」

 

アガド王国では、民衆の怒りがすでに沸騰点を超えていた。

農民は耕すことをやめ、麦畑は収穫されぬまま放置され、畑は荒れ果てた。ついには、畑に火を放って村を捨てる農民まで出始めた。

「どうせ王のものになるくらいなら、燃えたほうがマシだ」

焦土と化した村が次々と生まれ、やがて都市部では流通が完全に死んだ。飢えた市民が宮殿に押し寄せ、門の前で叫び、人々は怒り狂い、石を投げた。

だが王は、城壁の外の悲鳴を聞こうとしなかった。王国の穀倉庫を開放すべきだという老臣の進言に、王は冷淡に首を横に振るだけだった。

「反乱を鎮圧すればよい。食糧はその後だ」

王命を受け、王国軍は農村鎮圧へと派遣される。その矢先、王国にもたらされた“新兵器”があった。それは東方からやってきた錬金術師「ウェルス」がもたらした「マスケット銃」だ。

弾丸で子供でも老人でも、引き金ひとつで命を奪える武器。

王はこの武器に飛びついた。

「これこそ民を従わせる王の杖よ。急ぎ量産せよ!」

命じられた鍛冶工房は昼夜火を焚き、王都近郊のセリオン銃砲工廠はせわしなく動き出す。マスケット銃の量産に働かされた。それを指揮したのはもちろん「錬金術師ウェルス」だ。

ここはいつ来ても匂いますな、大臣のウェストール卿は鼻をつまむ。ここは硝石丘、王国中から糞尿、土間の土、藁、木灰、石灰が集められる。なにに使うのか、硝石の材料なのだ。まず土、藁、石灰の順に積み重ね、人の腰ほどの高さの丘を作る。これが硝石丘だ。そこに六週間、毎日欠かさずに糞尿がかけられる。あたりはすさまじい匂いだ。あたり一面糞尿がかけられた丘だらけ。ウェルスといえば涼しい顔で。

「このような汚れ仕事は全て我らにお任せください。無論、警備もお任せを、私が銃兵隊は無敵です」

そうウェルスが指さす先、ウェルスの硝石ギルドが組織する、銃兵隊が、戦列を並べ、一斉射撃をしている。

「おお心強いですな、しかしいささか物騒ですな」

「銃を作ったはいいものの、使い方を教える者たちがいなければ、そのためにも必要なのです」

「なるほど」

すぐさま生産された銃は王国に供給され、征伐に絶大な効果を発揮した。蛮族たちは新しい兵器にバタバタと倒れ、王は喜びというわけだ。

「素晴らしい、銃があればすべての戦に勝てる、ウェルスもっともっと銃が必要だ」

「光栄です。しかし陛下はまだ銃の素晴しさに気づいておりません」

「なに?銃というものは7歳の少女が騎士をも倒すもの、騎士が使っていては意味がない。どうでしょう陛下?城に嘆願に来る暇な領民を徴発し、彼らを銃で戦わせては?暇だから嘆願しに来るのです。仕事を与えれば、おとなしくもなりましょう」

「それはよい考えじゃ」

徴兵された市民に、次々と銃が渡された。厳しい修練は必要ない。ただ撃てばいいという武器だ。

王国軍は瞬く間に膨れ上がり、かつてない規模の“銃を持った軍隊”へと変貌した。

そして反乱は確かに、一時的には沈静化して見えた。

農民は銃口を向けられればひとまずはおとなしくなった。運び込まれた麦は再び王宮に収められ、宮殿では久々の晩餐会が開かれた。蝋燭に照らされた食卓には肉とパンが並び、

楽師が竪琴を奏で、貴族たちは笑い合った。

城壁の外で、飢えた子供が凍え死んでいるとも知らず。

だが、これこそがヨセフの仕組んだ“第二段階の罠”だった。王が銃で民を従えたこと。王宮だけが飽食を続け、貴族たちは肥え太りで踊ると。

これらはすべて、革命を決定的にする燃料だった。

やがて街には、一枚のビラがいたるところに貼られた。

『民よ、今こそ立ち上がれ。その手に持つ銃は、王を守るためのものではない。自らの自由を奪い返すためのものだ!』

それを読んだ徴募兵たちは次々王国に反旗を翻す。銃を持ち団結し集結したのだ。そしてついには自分たちを「革命市民軍」と名乗り始めた。

彼王国軍の武器庫と工廠は開け放たれる。ウェルスの息のかかった精鋭兵で守られていたからだ。速やかに大量の銃は配られた。そう、ウェルスはメディナの工作員の一人だった。彼の仕事は革命の推進材となる銃の供給だった。

やがて革命市民軍は街道を封鎖し、街道は封鎖され兵站は絶たれ、市民軍は食糧庫を襲い、王国の心臓を締め上げた。

そして、この巨大な市民軍を陰で指揮していたのは、あの、いつも不平を漏らしていた男、

メディナ機関の工作員ランピードであった。彼こそが、徴募兵たちを一斉に離反させるため、秘密裏に市民軍を結成した張本人だったのだ。

アガド王国の騎士は最強だった。

魔法を操り、空気を裂くように高速で間合いを詰め、光のような剣撃をたたき込む。

「銃など、あの者らには無力だ」

それは真実だった。しかし、それがどうしたというのだ?

革命市民軍は、騎士とは戦わなかった。戦う必要がなかった。彼らは森に潜み、食糧を積む荷馬車を狙った。夜陰に紛れて待ち伏せし、火を放ち、馬を撃ち殺し、国中の物流を断った。

「騎士がどれだけ強かろうと、食えなければ動けぬ」

飢えは、剣も魔法も使えないだろう。焦り狂った騎士たちは、食料を求めて村を襲った。だがそこには何もなかった。

焦土作戦。それはいつの間にか忘れられた、大軍を簡単に滅ぼす戦術。

「井戸に毒を投げ込め。納屋を燃やせ。運べぬ麦も燃やしてしまえ。取られるくらいなら全て燃やせ」

轡を並べ馬に乗り、ピカピカの鎧に身をまとった騎士など目立ってしょうがない。どの村に向かうかなど遠目から一目で分かった。

村々は黒く焼け焦げ、風は灰の匂いを運んだ。騎士たちは、荒れ果てた大地で虚しく剣を振るう。怒り、狂い、力尽き、一人、また一人と自害していった。

千年の誇りを支えた魔法騎士団は、敵と剣を交えることなく崩壊したのだ。

王宮はさらに惨劇を迎えていた。

城門を囲むのは、怒り狂う民衆、その数、1万人。

彼らの手には、王自らが作らせたマスケット銃が握られていた。革命市民軍は、いつの間にか蛮族までも取り込み、巨大な“破壊の濁流”となって城に押し寄せた。

近衛騎士団は誇りにかけて戦った。十倍、百倍の敵を斬り伏せた。

しかし。1万の戦列歩兵に、100の騎士が剣を振るったところで、どうにもならなかった。

城門は破られ、王族たちは次々に捕らえられ、歓声と怒号の中、絞首台に送られた。

千年の歴史を持つアガド王国は、たった10年の革命で滅んだ。

そして、革命政府が樹立された。

議会の席には、革命を扇動し、民衆を導いた「自由の戦士たち」が並ぶ。

その中心に座るのはヨセフ。そう、メディナ機関諜報部隊長ヨセフである。議員たちの多くは、彼の部下だった。

「アガド共和国。いい名だろう?」

ヨセフは笑った。それは黒曜帝国の傀儡国家。その事実を知るのは、共和国議会の要人だけであった。

「自由万歳!Liberty Stands for Freedom!!」

ヨセフの拳が高く掲げられたとき、共和国の広場に歓声が響き渡った。

その裏で続々と転送魔法陣が姿を現す。黒曜帝国からの「お客人」が到着したのだ。

アガドの民は、確かに自由を手にした。帝国の黒い太陽の下で。

 

「エピローグ黒い太陽の影」

 

アガド王国が倒れてから一年。新政府「アガド共和国」は“自由”を掲げながらも、どこか得体の知れない息苦しさを帯びていた。

その異変に最初に気づいたのは、皮肉にも王国を守れなかった敗残兵、聖騎士シャーロットと生き残りの騎士たちだった。

 シャーロットは考えていた。

革命軍司令官ランピード、あいつは戦がうますぎた。なぜ城内の構造を熟知しているかのように、軍を動かせた?秘密の脱出路も知られていた。

それに革命はなぜこんなにも早かったのか、ビラはいったいどこから?銃は数か月で量産された。それに市民軍はあっという間に組織された。そして何よりも、反乱のタイミングだ、まるで示し合わせたように一斉に同時多発的蜂起。

「もっと奇妙なのは民衆だ。皆が同じ標語を叫びだした「自由と平等」そんな言葉、誰が言い始めた?」

 すべてがまるで神に導かれたかのように緻密にかみ合って、王制は倒れた。誰かが手を引いていたとしか。

 そして調べ続けたシャーロットと僅かな生き残りは、ついにある共通点を見つける。

 革命政府のメンバー、皆出自が不明だ。

 不意に現れた豪商にして思想家のヨセフ

 革命軍司令官ランピードはもとは徴募兵だった。

 流浪の錬金術師ウェルス、彼はなぜ銃を知っていた?

 ほかのメンバーも、皆が農民や市民の出で誰も王侯貴族はおろか騎士すらもいない。これはおかしい。彼らはいったいどこからやってきた?

 やがて、騎士団残党はある地下室にたどり着く、それはばらまかれたビラの発生源だった。

 そこには民衆を扇動するビラが散らばっていた。しかし、驚いたのはその言語だ。王国でも蛮族のものでもない見たこともない言語でこう書かれていた。

「帝国万歳」

「なに?この文字は?この意匠はムカデ??」

「気づくのが遅かったな。姫騎士殿」

 振り向くとヨセフがいた。かつての酒場での笑顔のまま。彼は告げた。

「君たちの王国は良い素材だったよ。思想で国が壊れることが証明された。皇帝陛下もさぞお喜びになるだろう」

「皇帝!?いったい何のことだ!!貴様らは何者だ!!」

「君たちがそれを知る必要はない。じゃあな」

 ヨセフがそう言うと地下室は火に包まれた。

「だぁぁぁ!!」

 シャーロットはヨセフに切りかかるが、剣はむなしく空を切る。彼は幻影魔法が作り出した幻だったのだ。

「かわいい、かわいい姫騎士よ、ネズミを駆除するのに効果的な方法を知っているかね?」

「だまれぇぇぇ!!」

「毒を混ぜたうまそうな餌をそこら中にばらまくのさ、食い残しの食べかすに見せかけて」

 黒煙が部屋に充満し、シャーロットたちは咳き込み、倒れる。

「向こうで王様によろしく伝えといてくれよ。貴様らの国は帝国が有効に使わせてもらう」

 やがて反乱の芽は丁寧に摘み取られた。掃除が終わると帝国の黒い軍靴がやって来た。

 




腐敗した王政は打倒され、ブルジョワの時代へ
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