黒曜帝国記   作:社畜新兵

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かつてフレイム王国の北部、霊峰アムルグラードの奥深くには、龍族の聖域があった。
そこは太古より続く龍たちの王国であり、世界樹の庇護を受け、誰も侵すことの許されぬ神聖な巣だった。
かの地に暮らす龍族は、戦の歴史とは無縁だった。
長きにわたり、人とも神とも程よき距離を保ち、ただ静かに空を舞い、大地を見守る存在。
そう、戦火が大地を焦がすまでは


第二十章「ある龍族の話」

「龍の巣」

 

フレイム王国の秘境、山脈には龍の巣がある。誰も近づけないはずの秘境、そのはずだった。

「お母さん、怖いよ」

幼い龍族の子供が、怯えた目で母の影に身を寄せる。黒曜軍の空爆が止むことはなかった。

ドン!ドン!ドン!

降り注ぐ爆弾の轟音が大地を揺るがす。空には黒曜帝国の戦闘機がハゲタカのように旋回していた。

爆撃機が定期的に爆弾を落とし、飛び立とうとした龍は、戦闘機の機銃によって次々に撃ち落とされた。

夜も眠れず、空にも飛べず、龍たちは疲弊し、衰弱していった。

「くそ!!」

赤龍の父親が怒りの咆哮を上げる。

その瞬間、巣穴の奥から「ガシャン、ガシャン」という無機質な金属音が響いた。

そこに現れたのは赤い瞳をした機械兵と、それに随伴する黒曜軍の歩兵部隊だった。

「……来たか、行ってくる」

 侵入を察知した父龍が身を起こし、向かった。

「気を付けて」

 母龍はその背中を見送る。

父龍は覚悟を決め、口元に炎を灯す。巣穴に侵入してきた敵兵へ向け、一気に火炎放射を吐き出した。しかし。

「シールド展開」

機械兵は無機質な音声と共にシールドを構え、炎を完全に遮断した。火炎を吐き終わった父龍が息を整えた、その瞬間。

「こちらの番だ」

機械兵が無言でチェーンソードを構え、ゆっくりと龍に振り落とした。轟音が響き渡り、続くのは龍の悲鳴。その悲鳴は洞窟中に響き渡った。

「お父さん!!」

娘の龍が叫ぶ。

「行ってはダメよ!この先に抜け穴があるの。コンおじさんが掘ってくれたのよ」

「お母さんは!?一緒に行こうよ!!」

「行きなさい!!!」

母龍が怒鳴ったのは、それが最初で最後だった。

 

「赤龍アリンとヘルムート」

 

戦艦トリニティの酒場は、喧騒と熱気に包まれていた。グラスが打ち鳴らされ、笑い声が飛び交う。

「ははは!乾杯!!」

ヘルムートは勢いよくジョッキを掲げ、豪快に喉へと流し込む。向かいに座るのは、赤い鱗を持つ龍族の戦士――アリン。

「まだまだ飲めるだろ!」

アリンは鋭い目でヘルムートを見つめると、ニヤリと笑った。

「ああ!しかし龍族は酒が強いなあ! 燃えるようだぞ!この酒は!」

「ふふん、人間はそんなものか?」

アリンは軽くグラスを傾け、琥珀色の液体を楽しむように口に含む。その余裕の表情が癪に障ったのか、ヘルムートは挑発するように言った。

「おいおい!「人間」はやめてくれ!私にはヘルムートって名前があるんだ!」

その言葉を聞いた瞬間、アリンの表情が凍りついた。

「ヘルムート?」

「ん?そうだが?」

「銀狼のヘルムート?」

「おお!そうだ!私のファンなのか?」

冗談めかして笑うヘルムートだったが、次の瞬間、アリンの拳がテーブルを叩きつけ、周囲の視線が二人に集まった。

「冗談でしょ!!私を見てわからないの!?龍族なのよ!!」

「まあ……見ての通りだな」

「ふざけないで!あんた……黒曜軍の戦闘機パイロットでしょ!!」

「ああ、そうだったな。懐かしい」

「何が「懐かしい」よ!!」

アリンの声は怒りと悲しみに震えていた。赤い瞳には、静かな怒りの炎が揺らめいている。

「私の家族はね!みんな黒曜軍に殺されたのよ!!」

ヘルムートはジョッキを置き、無言でアリンを見つめた。

「知ってるでしょ!!」

「知ってるも何も……烈海海戦じゃあ、黒龍はボンボコ落としたよ」

「……なんで!!ねえ、なんで!!」

「何でって、敵だったからさ」

「……敵だから?」

「ああ。黒龍はヴァルカノスを空爆しただろ。だからお互い様。最初に殴ったのはお前らじゃないか」

「だからって!!根絶やしにすることなかったでしょう!!」

アリンの拳が震える。

「帝国の殲滅戦で!!龍族は子供しか生き残れなかったのよ!!」

「……皇帝陛下が「子供の龍は殺すな」と厳命したおかげでな。だから根絶やしじゃない。情をかけてやったんだ」

「信じられない……!」

アリンの目から涙がこぼれる。

「はいはい、戦争だった。仕方がなかった」

「黙れ、黙れ! 黙れ!!」

アリンは叫んだ。

「私の!家族を返して!!」

その言葉を聞いたヘルムートは、深く息を吐き、ジョッキを空にした。

「きりがないな…… じゃあな。楽しかったよ」

ヘルムートは席を立ち、背を向けた。

「くたばれ!!この帝国の!皇帝に媚び売るメス犬が!!」

アリンの罵声が響く。

ヘルムートは微笑んで肩をすくめた。

「はいはい、褒め言葉として受け取っておくよ」

静かに酒場を後にするヘルムート。

その背中を、アリンの怒りに満ちた瞳が追い続けていた。

 




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