黒曜帝国記   作:社畜新兵

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ナーロッパのお金の話です


第二一章「太陽の金貨」

「困った、これは困ったな」

作戦司令部の机に両肘をつき、私は頭を抱えていた。私の名はコウネフ。

黒曜帝国より派遣された諜報員たちを束ねる、いわばスパイマスターだ。

命じられていた任務は単純だった。

この大陸に諜報網を築き、それを運用し、革命を起こし、国家を乗っ取れ。前例はあった

帝国の裏工作で、民衆の不満を煽り、革命の炎を燃え上がらせる。封建社会は革命で崩れ、絶対王政もまた大革命で倒れた。200年の太平の世を終わらせた。

この大陸でも、同じことをやるはずだった。

あの通信が届くまでは。

「黒曜帝国は終了した。皇帝は死んだ。あとは好きにやってくれ」

それだけの文面だった。送られた映像には、焼け落ちる帝都が映っていた。瓦礫の山。生き残った人々が、戦艦の甲板の上で身を寄せ合っている。

帰還命令はなかった。むしろ拒否された。

「君たちを迎える余裕はない。今は麦一袋でも惜しい」

それが本国の判断だった。

「二十年だ」

私は二十年かけて、この大陸にギルドを作った。諜報員が動きやすいよう、各国に冒険者ギルドを設立した。既存のギルドと衝突しないよう、多額の賄賂を配った。

「我々は傭兵稼業に専念する」

そう約束した。結果は大成功だった。この大陸は戦乱に満ちている。

魔王軍は秋になると攻めてきた。毎年の収穫時期に合わせ攻勢をかけてきたのだ。それがなくとも諸国は小競り合いを繰り返す。傭兵の仕事が尽きることはない。

当然、諜報員もよく働いた。ある国では、嫡子が幼くして次々と死んだ。原因は単純だ。近親婚のしすぎ。そこに魔術師を送り込んだ。病に伏した嫡男を治療する。たちどころに活力が戻る。飲ませたのは劇薬だった。ついでに王にも同じ薬を飲ませた。信頼を得て、薬漬けにした。王侯貴族は魔術師の操り人形になり果てたのだ。

戦争がなければ、起こした。家督を継げなかった王子を焚き付け、反乱させる。巨大な帝国に対抗せよと諸国連合を組ませ、攻め込ませた。あと一歩で帝国を滅ぼせるその瞬間、

こちらの流言で同士討ちを始めさせたな。あれは痛快だった。

我々の主力商品は情報だ。無線もラジオもないこの大陸では、情報こそが力になる。その独占は、富の独占以上の意味を持つ。

得た金は貯めず、回す。金融、為替、土地投資。

戦争には金がかかる。ならば、それも我々が貸そう。

「兵力が足りない?」

「是非、我らが傭兵をお使いください」

「食糧が足りない?」

「もちろん、手配いたします」

勝利の宴の席で、私は微笑む。

「此度の勝利、誠に見事でした。では、返済計画についてですが……」

「返せない?返す気もない?ない袖は振れない」

「よし、取り立てろ」

我々は、なんでも商品にした。なんでも取り立てた。人は奴隷として売る。産声を上げた赤子から、今際の際の老人まで。

魔族は人間を食う。人間を家畜として売った時は「人でなし」と言われたものだ。人でなしで結構。魔族も傭兵として雇った。飢えを忘れた彼らは、実によく戦う。

我々は商売相手を選ばない。魔族も、立派なお客様だ。

借金が返せない者は、傭兵として雇った。私は必ずこう言った。

「安心しろ。一年も働けば借金は返せる」

嘘ではない。酒も、女も、博打もやらなければ、確かに一年で返せる。だが、命がけで戦い、生き残った者ほど、誘惑には弱い。飲む、打つ、買う、あっという間に金はなくなり、死ぬまで戦う羽目になる。居心地がよくなって。

道を整え、陸を支配し、船をそろえ、海を手に入れた。

「我らの道、我らの海だ」

誰も、私の正体を知らない。そして誰も、我々に逆らえなくなった。

「我らの名はBLACKSUNS、沈まぬ太陽の帝国だ」

「BLACKSUNSから物を買い」

「BLACKSUNSから仕事を受け」

「BLACKSUNSから金を借りる」

だから、我々の通貨を作った。BLACKSUNSの独自通貨を。

名は「アポロン」太陽が刻まれたその金貨は、大陸中で使われるようになった。

やがて紙幣へと置き換わるだろう。その時、我々は、この大陸のすべてを手に入れる。

皇帝陛下もさぞお喜びになるはずだ。

「ああ、そうだ。帝国は、もう滅びていたのだったな」

 深くため息をついた後、コウネフは窓の外をふと見る。広場で走り回る子供、荷馬車を引く行商人、ギルドの傭兵団が市内を我が物顔で巡回する。全て我々のものだ、真の支配とは、神による支配でも、王による支配でもない。金による支配だ。

 やがて人々はこう歌うようになる。

「BLACKSUNSから金を借りるな、親を売り、子を売り、妻を売り、自分さえも売る羽目になるぞ。BLACKSUNSから金を借りてない奴なんていないさ。パン屋の主人も、隣の旦那も、王様だって金を借りてる。ああ太陽よ!どうか昇らないでくれ。朝になれば取立人がやって来る。家も服も自分さえも何もかもが持っていかれてしまう」

 

 

「太陽に仕える商人たち」

 

 BLACKSUNSは新たなる事業を始めた、責任者は新進気鋭のギルドマスターのリア・コビンスキー、リアは港町の開発事業を任された。小さな島だ。ギルドが傭兵契約の報酬としてコト王国から差し押さえた街。コト王国の女王アサは慎重だった。大陸がいかにしてBLACKSUNSに乗っ取られたか知っていたからだ。だからギルドとは深い関係を持とうともしなかったし、商業の自由も与えなかった。もらえたのはこの小さな街。だがこの街が大きな意味を持つ。リアはギルドの巨大資本を投入し、街を海運に適した街に作り替えた。土地を埋め立て、巨大な海運船が荷揚げできるようにし、造船ドックもいくつも整備した。ギルドが巨大な資本をリアに与えたのは彼の勝算を認めたからだ。その一つがギルド取引所にあった。そこには巨大な魔導ディスプレイがあり、ギルドに登録された商船の運行情報がリアルタイムで見れた。そして、舟券が発行され、取引される。舟券の仕組みはこうだ、まず船主が香辛料をラド国で仕入れ、テイバンに売りに行きます。予想収益は1000ゴールド。発行する舟券は100株、船主の保有は51株です。49株が舟券市場で売りに出されます。1株の利益率は1%になる。もし航海が成功し1000ゴールドの利益が出た場合。

1株が1000×1%=10ゴールドになる。船主の取り分は510ゴールド、投資家の取り分は490ゴールドになるな。もし1株5ゴールドで10ゴールドもらえる。つまり1株5ゴールド儲けだ。舟券を買った投資家は5Gが寝てるだけで二倍の10Gになる。船主は船を出すのに必要な資金を投資家から245G融資してもらえる。もし船が沈んで藻屑に消えても。投資家が買ったのが1株だけなら5Gの損失で済むし、必要費用が500Gなら船主が被る損失は51%の255Gだ。今までは船が沈めば、船主がすべての損失を被っていた。それがほぼ半分の損失で済む。悪くない取引だろう。

もちろん、発行する舟券の100%を市場で販売し、「合同船主」としてベットするのもありだ。その場合損失の100%を舟券購入者で分担することになるから。その分リスクも高くなるが。ギルドは責任のなすりつけ合いを嫌うから、船主が舟券の51%以上の保有を推奨してるがね。勿論舟券の売買も可能で、その時は1株の値段を自由に設定できる。一株の分配金はきまっているから。1株10Gの分配金なら、10Gまでしか出さないだろうな。

やがて王国中貴族が小さな港町だったルイベに集まり、ルイベに富と人が集まるようになる。人々はギルドの魔導ディスプレイを凝視する。そこには船の運行情報、舟券の売買価格がリアルタイムで表示されていた。人々は金貨を握りしめそれを凝視し、窓口に走り、舟券を買い求めた。集まるとみは膨れ上がり、未曽有の建艦ラッシュが巻き起こる。世はまさに舟券バブル時代。当然、舟券にも人気と不人気があった。安全に運行し、安定した収益をもたらす船会社の舟券は人気が高く、舟券も高値で取引される。逆に新参の船会社や、危険な航路をいき、リスクが高い船会社の人気は低く、舟券は安い。そして生まれたのが、格付け会社だ。等級をA,B,Cと設定し、その情報を有償で教える。そして現れる情報屋どの舟券は危ないとか、この舟券が熱いとか。あてになるんだかならないんだかわからない情報を、庶民相手に安値で売っていた。今や猫も杓子も舟券を買う時代になっていた。

この事態を鑑みて、ギルド幹部はリアに警告する。この景気は異常だ。この泡沫景気がはじけた時の対応策をこちらから指示する。もし我々に耳を貸す気がないなら、ギルドは君を助けない。

リアはギルドの対応策を渋々受け入れた。それは「審判の日」と呼ばれ、命令書はリアしか開けられない金庫にしまわれた。

舟券景気はますます好調、ある投資会社がこんな金融商品を売り始めた。「夢パッケージ」等級が高い舟券を集めパッケージにした金融商品だ。等級会社のお墨付き。

だが、この商品には問題があった。等級が高い舟券と低い舟券を混ぜて販売していたのだ。最初は等級Aの舟券中心のパッケージだったが、徐々に等級BやCの舟券が半分を占めるパッケージになっていく。だが等級会社の等級はAのまま。皆が安心して「夢パッケージ」を買う。そして事件が起きた。ポンジ事件である。ある詐欺師ポンジが、投資家たちの家を回り、「新規の未公開の舟券を購入できます」と持ち掛ける。投資家はその舟券を買い、利益が出て分配された。利益率驚異の300%しっかりと支払われた。そしてまた買いませんかと持ち掛け、また舟券を買った。しかしこの舟券、実体のない舟券だった。船会社も船も書類上だけのぺーパーカンパニー、詐欺師ポンジは投資家から集めた金を、別の投資家の配当金に充てる。それを繰り返すだけだったのだ。当然、すぐに配当金が支払われなくなり、おかしいと思った投資家たちが、ポンジの事務所に乗り込むがそこはもぬけの殻。ポンジは有湯と高跳び、のはずが、金の流れを不審に思ったギルド監査局にあっけなく。捕えられた。

しかし回収できた金は半分にも満たない。ポンジの末路は悲惨なものだった。奴だけは絶対に殺してくれ、投資家たちに依頼された刑務所のならず者たちに、なぶり殺しにされた。

事態はそれで終わらなかった、「夢パッケージ」にポンジの舟券が多く混じっている、その事実が明るみにになった。すぐに市場は舟券の売却であふれ、市場は暴落、バブルがはじけた。これを受けリアは「審判の日」を実行した。舟券市場は即時閉鎖、舟券の売買は行えなくなった。銀行から金を借り、船を買うもの、舟券を買うものたちのもとに、黒い服を着た男たちがやって来た。泣く子も黙る「ギルド債権取り立て部隊」人呼んで「Doom Ravens」だ。彼らは契約書を片手に「融資が打ち切られました、速やかなる返済を願います」そう冷たく言い放つ。「待ってくれ」街が悲鳴であふれかえった。強制執行で、店が、家が、土地が差し押さえられ、人々が奴隷として船に乗せられた。これが第一段階。

そして第二段階、それは救済だった。ギルト加入の銀行が破産しないように、ギルドは莫大な資本を注入した。市場は息を吹き返し、多くの預金者や投資家、船会社の経営者が首をくくらずに済んだ。

これがギルドの「審判の日」ギルドは泡沫が弾ければ、多くの人が首をくくることになる。一万人が首をくくるよりも千二が首をくくるなら、千人よりも百人で済むならそれに越したことはない。そうやって残酷に算盤をはじく。それがBLACKSUNSだった。

今回のバブル崩壊を受け、ギルドマスターリアは市場の監視と介入を強め、市場価格が7%下落すると一定時間取引の停止、13%下落再停止、20%終日停止とリアルタイム監視システムを導入。また舟券の販売手数料を積立資金として、ギルドが急落した市場を買い支えるようにした。これにより舟券市場は安定し、重要な経済インフラとしてて整い、BLACKSUNS本国もこのシステムを導入、株式市場が誕生した。

この小さな島ルイベはいまや巨大な資本を動かす海洋国になってしまった、世界中から貿易船が集まり、資本が集まり、それを守るためにギルドの艦隊が駐留する。

かつてはただの港町にすぎなかったこの島を、人々はいつしかこう呼ぶようになった。「太陽の島ルイベ」

富める者はますます富を増やし、貧乏には搾り取られる。何も変わらない。人は富に支配され、富に仕えるのだ。

そうだれも、この太陽から逃げられないのだから。

 




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