黒曜帝国記   作:社畜新兵

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またお金の話です


第二十二章「ルールの絶叫」

第二十二章「ルールの絶叫」

「敵、中戦車三両、歩兵五十名、三叉路に向け進行中、撃ちます」

 ナタリアはインカムでそう報告すると、尖塔の小さな小窓から狙撃を開始する。パシュ、パシュ、消音機で静かに、しかし確実に狙撃していく。

「スナイパー!!スモーク!!」

 トパーズの魔族たちは雲の子を散らすように散開し、身をかがめる。すると走行中の戦車が動きを止めた。街道上の怪物が、ゆっくりとその主砲を尖塔に向ける。

「青虫どもが!!」

 ドゴン、鈍く重い音が響き、尖塔がへし折れる。ナタリアは足止めの役目を果たした。今度はヘルムートの番だ。

「RPG!!撃て!!しこたま奴らにぶち込んでやれ!!」

 ビルの屋上でヘルムートはそう絶叫する。パシュー、パシュー、パシュー屋上に配置された対戦車チームが一斉にRPGを発射。ドゴンと轟音が響く。戦車の天板に弾頭が命中した。

「命中!!やりました。将軍、また戦車をおしゃかにしてやった」

 16の補充兵が笑う。だがヘルムートの顔を曇ったままだ。ルールの街に第七軍が取り残されてから100日が経とうとしていた。反乱軍に目と鼻の先まで追い詰められている。軍団長のヘルムート自ら前線いた指揮せざる負えない状況。指揮系統がまるで機能していない。

「くそ、なんでこうなった」

 事の始まりは2年前。ラタトスク王国はその失地の多くを奪還していた。龍族の協力を得て、帝国首都ヴァルカノスを奪還。フレイム王国、最大の穀倉地帯であるボーヌ地方も取り戻し、ラタトスクの民は飢えの恐怖から解放された。いよいよ奪還作戦も大詰め。帝国最大の工業地帯、「ルール地方」その奪還に乗り出した。

 奪還作戦は魔族によって組織された「ドパーズ軍団」彼らが先鋒を務め、ヘルムートが指揮する第七軍は後詰に配置された。

トパーズ軍の戦いはすさまじかった。オークたちはアンデットの群れを、ちぎっては投げちぎっては投げ。ゴブリンとコボルトはゾンビたちにかみつき、そのドタマにサブマシンガンを連射していった。もはやどちらが死霊かわからない。味方の死体踏み越え、我らトパーズの旗をたてろ。そうやって彼らはルールを奪還した。

そこまでして彼らが欲しかったものは何か、すぐにラタトスクの首脳部は知ることとなる。それはルール地方を奪還し一年たったころ、民間人たちが入植し、工場が問題なく稼働し始めたその時だった。駐屯していたトパーズ軍は撤兵を拒否し、こう宣言したのだ。

「我らはここに、ルール民族鉄血同盟の建国をし、ラタトスク王国からの独立を宣言する」

 ラタトスクの若き女王、パンドラには寝耳に水の出来事だった。すぐにヘルムート率いる第七軍がルール市街地に侵攻し、ヘルムートはすぐに市街地の50%を占領した。しかしそれ以上進めない。

「くそ!市街地への砲撃は出来ないのか?」

 埃臭いCPでヘルムートは爪を噛みながらイラついていた。

「反乱軍が非戦闘員を「人間の盾」として建物に配置している。市街地への砲撃はお上が許さんだろうよ」

 副官のエバンスが毒づいた。

「それにおかしい!!やつら兵力が減らないぞ?もう食料と水は尽きているはずだぞ?」

「たしかに、この包囲下、転移魔法も妨害されているはずだ。なのにオークの連中、飢えるどころかでっぷりと肥えてやがる」

 作戦司令部で将軍となったヘルムートは頭を抱える。

「その答えは奴らの懐にありそうですよ」

 前線で情報将校として暗躍していた小早川が一枚の金貨を放り投げる。

「アポロン金貨か...BLACKSUNSの商人どもめ」

 太陽が刻まれたその金貨は、本来異世界の向こう側、「アウルム大陸」で流通しているアポロン金貨だった。

「すでにいくつもの異世界ゲートが開いています。やられましたね。連中、一枚かませろと首を突っ込んできました」

「なぜだ?そんな痕跡は...」

 エバンスが驚嘆する。

「諜報部に買収された豚が何匹か、ゲロさせるのに苦労しましたよ」

 血まみれの頬をぬぐい、ナタリアも入って来た。今しがたまで捕虜の拷問に執心だったようだ。

「まずいぞ...分厚い財布のパトロンが付きやがった」

「報告します!!戦線が突破されました!第三師団は壊走しています」

 それを聞いたヘルムートは驚愕し、戦略図を確認する。

「急いで戦略予備を投入しろ。穴をふさげ」

「なるほど、わかった。ご苦労。ムート残念だが...それは期待できそうにない」

 エバンスが疲れ切った顔でそういた。

「なんでだ、ライ将軍の第二師団は?」

「我ら帝国の豚どもと同じに飯は食わない。そう言い残して先刻、撤退した」

「なぜ言ってくれない!!」

「俺も今知ったんだ、そして今言った」

「クズどもがぁ...」

 第七軍、60万の将兵はあっという間に包囲されてしまった。

 場所はかわり、ラタトスクに鎮座する戦艦トリニティ、そこに据えられた円卓中央に、女王パンドラは腰を下ろす。

 斜向かいに座るヨアヒムがおもむろに報告する。

「ヘルムートは失敗しました、第七軍は包囲下、死ぬまで戦うと、あのバカはほざいています。ルールの独立を認めるか、ヘルムートの馬鹿を見捨てるか。お選びください」

 閣議の場でヨアヒムと女王パンドラは頭を悩ませる。

「独立を承認しましょう。馬鹿が一人で死ぬのなら結構だけど。60万将兵を道ずれにはしたくありません」

 パンドラは静かに決定を下した。

「ですが殴られてばかりでは癪です。ルールーはともかく。Blacksunsは何とかしたいですね」

 パンドラは円卓を見回すヨアヒムは閉口していたが、一人の恰幅がいい男が口を開いた。

「それならばこのヨセフお任せください、Blacksunsにはアキレス腱がある」

 革命家ヨセフ、革命により王制を打倒、アガド共和国を建国し。周辺諸国との戦争の果て、アガド共和国は異世界「エリゼウム」で最も巨大な共和国となった。今は最高指導者の座を側近の「ランピード」に譲り、悠々と凱旋のために帝国に帰還したのだが。とたんに帝国は滅んでしまった。

「また革命を起こすの?」

 パンドラが尋ねた。

「革命は効きません。奴らには王がいない」

「じゃあお得意の政治工作でもすれば?」

 ヨアヒムは面白くない様子だ。

「諜報も政治工作も、コウネフが上です」

「ではどうするの?」

「正々堂々、外交交渉と行きましょう。異世界のゲートをより多く開き、技術交流を活発にするのです」

「そうすればますます奴ら、巨大になるわ。あきれた」

 ヨアヒムは退屈そうに爪をいじり。

「巨大に膨れ上がった巨人は自らの重みに耐え切れず倒れる」

 ヨセフは得意げに言い放つ。

「なに?」

 ヨアヒムはぎろり、とにらんだ。

「そこまで、ヨセフの話を聞いてあげましょう」

 パンドラがすっと通る声で言い放つ。

「ありがとうございます。今「アウルム大陸」には五つの巨大ギルドがあります。通貨発行権と株式市場を独占する中央ギルド、巨大海洋国家と化した東部ギルド、ルイベ、魔族を平定し莫大の地下資源を保有する北部ギルドのルーシー、南部で塩と石油の取引を独占する。新興ギルドカルタゴ。そしてアウルム大陸のパンかご、一大穀倉地帯を保有する。西部ギルド、グラナリア」

 用意していた資料を魔導映写機で素早く映し出し矢継ぎ早に説明をするヨセフ。

「だから?そのギルドたちが経済を独占してるから、連中は強いんでしょ?それがどうしたの?」

 ヨアヒムが噛みつく。

「そこだ、なぜ連中は強い?」

「アポロン金貨で市場を独占しているから」

「そこだ!通貨による支配、そこを崩す、中央ギルドから離れたがっているギルドに...」

「独自通貨の発行を促す、なるほど。それはいいわね」

 ヨアヒムはヨセフの説明を遮る。

「理解が早くて助かるよ、すでに各ギルドに打診済み、ほどなくしてBlackSunsは分裂する」

「ちょっと待って!!何言ってるかさっぱり、なに?お金の話?戦争の話?派兵するの?」

 王女パンドラの未熟なおつむには少々酷な話だったようだ。

「血を流さず、派兵せず、戦争に勝つ。という話です」

 ヨアヒムがそっと簡潔にまとめた。

「そんなことできるの?」

 困惑するパンドラにヨセフは悪さをする顔で言い放つ。

「できなければこの席に座っていません」

 ほどなくしてギルドBlackSunsは分裂した。海洋国家ルイベは新規通貨ネプチューンを発行。それを見ていた各ギルドも次々に新規通貨発行に乗り出した。

 グラナリアは豊穣の女神ペルセポネちなみ「セポネ」を発行、ルーシーは雷神トールの名を冠した「トール」を発行。カルタゴは雷光ハンニバル・バルカにちなみ新規通貨「バルカ」を発行した。

この時代の大きな変化に伴い、ヨセフはギルド解体戦争が起こることを期待したが、ギルドの商人たちは、金勘定で忙しい。中央ギルド長コウネフはこの事態を、むしろ好意的にとらえた。

「これだけ通貨が増えれば、儲かるな。両替商が。ならば我々はこの世界で最も巨大な両替市場を作るぞ」

 そう言いうと、秒単位で為替取引ができるシステムが中央ギルドに置かれた。ネブチューンの価値が下がると、アポロン売りネプチューンを買う、交易が活発になるとネプチューンの価値が上がる。そしたらネプチューンを売り、アポロンを買う。あな不思議。手持ちの硬貨を両替するだけでお金が増える。通貨投資は過熱し、為替市場が莫大な富を生むことになった。FX市場が誕生してしまった。

 最後に笑うのはいつだって富めるものなのか。

 




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