黒曜帝国記   作:社畜新兵

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黒曜王国は存亡の危機にあった。
戦場に倒れた王、ヘーパイストス。
だが、彼の犠牲を盾に、民は神殿へと逃れ、生き延びた。



第四章「神の工房」

ヘーパイストスの瞼がゆっくりと開かれた。視界がぼやけ、天井に揺らめく灯火が映る。かすかな香草の香りと、焦げた金属の匂いが鼻をついた。

「ここは?」

 彼は寝台の上に横たわっていた。厚い毛布に包まれ、脇には数名の医官が控えている。彼らの胸には、二匹の蛇が巻き付いた杖の紋章アスクレピオスの印が刻まれていた。

「陛下、お気づきになりましたか?」

 一人の医官が驚きと安堵の入り混じった声で言った。

「私は」

 記憶が朧げだった。最後に見たのは、血に濡れた戦場、そしてアレスの赤黒い鎧。己の鉄槌を振るったはずが、敗北した。

「民は?」

 ヘーパイストスは上体を起こそうとしたが、全身が鉛のように重い。体を動かすたびに激痛が走った。

「ご無理なさらず」

 医官がそっと支えながら言葉を続けた。

「訓練のおかげで、一般市民の大半は生き残りました。兵士たちは多くが犠牲となりましたが、親衛隊が殿を務めたことで、半数の兵が無事に神殿へ撤退できました」

 ヘーパイストスは目を閉じた。彼の叫びが無駄ではなかったことを知り、安堵とともに胸が詰まる。

「親衛隊は?」

「彼らは最後まで戦い抜きました。隊長パルメニオン殿を筆頭に、皆、王を守るために」

 ヘーパイストスは目を伏せた。戦場で見た、誇り高き親衛隊の最期が脳裏に蘇る。彼らは彼を生かすために命を投げ打ったのだ。

「私は、生きていていいのか?」

 誰にともなく呟いた。しかし、すぐに拳を握りしめる。

「いや!私は、生きねばならない!!」

 黒曜王国は滅びてはいなかった。民は生き延び、半数の兵士が残っている。食料の備蓄はあった。そして、この神殿がある。火山の中に築かれたこの場所は、かつてヘーパイストスが鍛冶のために造った、最も堅牢な砦であり工房だった。

「アレスは?」

「奴らは勝ったと驕り、村々を略奪しています。しかし、我々の本拠地であるこの神殿には手出しできぬままです」

 医官の言葉に、ヘーパイストスはゆっくりと立ち上がった。全身の痛みは癒えてはいないが、ここで座しているわけにはいかない。

「戦は終わっていない……」

 彼は深く息を吸い込み、医官の支えを振りほどく。

「陛下! まだお身体が!」

「休んでいる暇はない。これ以上の負けるわけにはいかないのだ!!」

 ヘーパイストスは神殿の奥へと向かった。親衛隊の犠牲を無駄にはできない。アレスティアに奪われし土地を取り戻し、民を再び立ち上がらせねばならない。

 そのためには「勝利」が必要だ。彼には切り札があったそれを使う時だ。

「神の工房」

 神殿の奥深くに、天界から持ち込んだ神々の道具が眠っている。溶鉱炉、マシニングセンター、旋盤、プレス加工機、ボール盤、アーク溶接機等々、天界で作られた精密機械。それらを動かせば、黒曜王国は真の戦力を手にできる。

 だが、それを動かすためには対価が必要だった。

「ハデスに生贄を」

神殿のチャペルには、戦士、商人、農民、老若男女すべての民が集まっていた。祭壇の奥で灯る炎が、赤々と燃えている。人々は不安げな表情を浮かべていた。

ヘーパイストスはゆっくりと壇上に立ち、重々しい視線で民たちを見渡した。彼の傷はまだ癒えていなかったが、その瞳には決意の炎が宿っていた。

「民たちよ」

低く、しかし力強い声が響く。ざわついていた人々は、次第に静まり返った。

「我々は選ばねばならぬ。このままアレスの支配を受け、奴隷として生きるか、虫けらのように殺されるしかない!!戦わねば!!戦わねばならない!!」

 民衆はざわめくばかりで、皆、迫りくる脅威を理解していなかった。

「アレスティア人がまたやってくるのだ!!私たちはまた戦わねばならぬ!!」

 ヘーパイストスは鉄槌を振り上げそう叫んだ。

「だが、我らはまだ弱い。剣と槍では、アレスティア人には勝てぬ。アレスティア人は長い間戦い続けてきた種族だ!!あいつらは私たちに足りないものを持っている「力」だ」

ヘーパイストスは鉄槌を握りしめ、鋼のような視線を民衆に向けた。

「だからこそ、新たな力が必要だ。」

彼は神殿の奥の、鎖に封じられた黒鉄の扉がゆっくりと開かれる。その先には、神々の工房があった。祭壇の中央には、巨大な炉が眠っている。だが、その炉には火が灯っていなかった。

「ここには私の工房だ。ここにある機械。これを動かせば、我らはアレスに勝つための銃を手に入れる。鉄と火で、我らの未来を掴むことができる」

一瞬、歓声が上がる。しかし、ヘーパイストスは無情にも続けた。

「だが、そのためには、捧げ物が必要だ。」

「捧げもの?」

沈黙が降りる。

「この工房の炉を灯すには、ある条件がある。それは生贄を捧げることだ。」

人々の間に動揺が広がる。彼らは知らなかった。「生贄」とは何かを。誰も、血を代償に何かを得るなどとは考えたことがなかったのだ。

「生贄とは、何ですか?」

最前列に座っていた村長の一人が震えながら問いかけた。その言葉に、ヘーパイストスは静かに頷く。

「選ばれた者は、火山の奥深くにある冥界の門へと送り込まれる。それは、そこを通ったものはもう二度と戻ってこない」

民たちは息を呑んだ。

「その対価として、門の先にいる者たちが、我らのためにこの工房を動かし、戦いに必要な武器を生み出す。銃と迫撃砲を作るのだ。」

沈黙。長く、重い沈黙が神殿を覆った。ようやく、村長の一人が声を震わせながら言った。「それは、避けられないことなのですか?」

ヘーパイストスは目を閉じ、一瞬の沈黙の後、強く頷いた。

「避けられぬ。これが最後の手段だ。」

「では、誰がその役目を負うのですか?」

人々は互いに顔を見合わせる。しばらくの沈黙の後ヘーパイストスが指をさす。

「10ある村から一人ずつ!!!老人をだせ!先の戦いで親が殺された子供もだ!子供と老人を一人ずつ!前に出せ!今すぐに!!」

 鉄槌を床に叩いつけヘーパイストスが叫んだ誰かが息を飲んだ。

「誰かが犠牲にならねばならぬ!!これは王の命令だ!!!」

 村ごとに人があつまり、すぐに老人一人と孤児が選び出された。

 ヘーパイストスは彼らを連れて冥界の門へと足を運ぶ。ほかの者は置いてきた。生贄の儀式を見せたくないのだ。

 火山の火口から溶岩が幾度となく噴き出している。ここが冥界の門、ハデスへの生贄を捧げる場所。

「やめてくれ!!王様!!」

 一人の老人がヘーパイストスに縋りつく。

「すまぬ」

 そう言うとヘーパイストスはその老人を火口へと放り込んだ。

 ゴゴゴゴゴゴゴ!轟音とともに炎の手が老人をつかみ冥界へと引きずり込む。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 老人の断末魔が響き、皆目を背けた。

「嫌だ!!」

 一人の老人がそれを見て逃げ出す。その老人に槍先が突きつけられる。

「戻れ!!さもなくば!!殺す」

 親衛隊の生き残り、10人の兵士だった、彼らはヘーパイストスの密命を受け、生贄が逃げ出さないように見張っていたのだ。

「すまぬ!!すまぬ!!!」

 そう言いながらヘーパイストスは人々を火口へと投げ込んだ。

「お母さん!!お父さん!!」

 一人の孤児が泣き叫びながら、火口へと落ちていった。最後の一人だった。

「ごめんなぁ!」

 ヘーパイストスの涙が、熱き溶岩の中へと落ちた。生贄の儀式は終わった。

機械が動き始める。鉄の炉が燃え上がり、歯車が軋みながら回転し始めた。そして、影のような存在、ハデスの僕、ガーゴイルたちが現れ、工房に必要な材料を運び込み始める。

黒曜王国は新たな段階へと進んだ。銃が作られる。迫撃砲が生み出される。

黒曜王国の未来を賭けた戦争が、ここから始まるのだった。

冥界の門が開き、影のような存在が現れる。ハデスの使者、ガーゴイルたちだ。

「対価は受け取った。これより工房を動かす。」

ガーゴイルたちは鉄鉱石、木材、硫黄、木炭、硝石を運び始めた。歯車が軋みながら回転し、巨大な炉に火が入る。

ヘーパイストスは工房の奥に進み、銃の設計図を取り出した。

「これが、我らが勝つための武器、鉄砲だ」

彼は自ら鋳型を作り、鉄を流し込んだ。フリントロック式ライフルが次々と成形される。これまでの黒曜王国の武器とは次元が違う。遠距離から敵を討つことができる、新たな力。

 冥界の門が開き、影のような存在が現れる。ハデスの使者、ガーゴイルたちだ。

「対価は受け取った。これより工房を動かす。」

ガーゴイルたちは鉄鉱石、木材、硫黄、木炭、硝石を運び始めた。歯車が軋みながら回転し、巨大な炉に火が入る。

ヘーパイストスは工房の奥に進み、銃の設計図を取り出した。

「これが、我らが勝つための武器、鉄砲だ」

彼は自ら鋳型を作り、鉄を流し込んだ。フリントロック式ライフルが次々と成形される。これまでの黒曜王国の武器とは次元が違う。遠距離から敵を討つことができる、新たな力。

神の工房が動き出した。

そして、戦争が再び始まる。

アレスティアへの復讐の戦が。

ヘーパイストスは神殿の鍛冶場で、村人たちに新たな武器を示した。それは黒曜の鉄砲、彼が鍛え上げた、鉄と火の力を持つ武器だった。

「これは鉄砲だ」

彼の言葉に、村人たちは静まり返った。

「剣や槍ではアレスティア人に勝てぬ。しかし、これがあれば遠くの敵を撃ち倒せる。」

彼は火薬と弾を込め、慎重に引き金を引いた。パンッ!轟音と閃光が広場に響く。標的にしていた鉄の鎧は、一撃で貫かれた。

「これが、我らの未来を切り開く武器だ!」

ヘーパイストスは村人たちに鉄砲の扱い方を教え始めた。弾の込め方、照準の合わせ方、引き金を引くタイミング。

初めて触る鉄砲に戸惑いながらも、村人たちは次第にその扱いに慣れていった。

「鉄砲は剣ではない。敵に接近する必要もなければ、力もいらぬ。ただ狙いを定め、引き金を引くだけでいい。」

「いいか!アレスティア人の白目が見えたら撃て!!今あそこにミトが立っているだろう!ここからあれくらいの距離でないと当たらない!!」

村人たちは次々に標的を撃ち抜いた。はじめはぎこちなかったが、次第に確実に命中させるようになっていく。

「いいぞ。これで、アレスティア人に勝てる。」

黒曜王国の戦士たちは、新たな力を手にした。

この鉄砲が、後にアレスティア人を恐怖に陥れる武器 となることを、まだ誰も知らなかった。

夜の闇に沈む黒曜の大地。かつての敗北から立ち上がった黒曜人は、密かにその牙を研いでいた。アレスティアの軍勢は、また夜の襲撃を仕掛けてくるだろう。だが以前のように村を焼き払い、好き勝手することはできない。我々には「鉄砲」があるのだから。

 

 

 




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@CADdaisukiair
社畜新兵 Mk.5!
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