アウダダ川の河原に立ち尽くすヘーパイストスの腕の中には、かつての宿敵、軍神アレスの亡骸があった。激しい戦闘の末、黒曜の軍勢が勝利を収めたものの、彼の胸には勝利の歓喜よりも深い哀しみが満ちていた。
「弟よ、なぜこうなってしまったのだ?」
ヘーパイストスは静かに涙した
アレスは戦そのものだ、戦いの狂気と暴力の神だ。アレスティアの兵士たちはアレスに絶対の忠誠を誓っており、アレスとともに戦うことを誇りとしている。そのアレスが討たれ死んだのだ。アレスティア軍に激震が走った。
アレスティア軍の残存兵、およそ五千。彼らは王を失った怒りに身を焦がし、ヘーパイストスを睨みつけると、一斉に駆け出した。
「アラララララーイ」
しかし。
「全軍!!撃ち方やめ!!その場に待機!!!」
そう指示すると、軍楽隊が全軍待機のメロディーを奏でる。皆が戸惑いながら、その場に待機した。あるものは銃に弾を装填し、またある者は未だに銃を構えたままだ。
するとヘーパイストスはアレスの亡骸を抱え、一人歩き出した。慌てて親衛隊の兵士たちが彼の後を追う。
「ついてくるな!!」
叱責するヘーパイストス。
「しかし!!王よ!!」
「私はいい!!おまえらは私の代わりに全軍を指揮してくれ!!いいか!決して撃つなよ!!」
「YES!!SIR!!」
短く敬礼すると、親衛隊長ミケラオスは自陣へと帰り、再び待機の命令を出した。
ヘーパイストスはアレスの骸を抱えて再びゆっくりと歩きだす。
敵陣がなおも襲いかかろうとする中、ヘーパイストスはゆっくりと前へ歩を進めた。彼の腕の中には、冷たくなったアレスの身体が横たわっている。
騎兵も、歩兵も、弓兵も、すべてのアレスティア軍は、突如として襲ってきた沈黙に囚われた。彼らの前に、武器も持たず、ただアレスの亡骸を抱えた男が歩いてくる。戦場の喧騒が、まるで幻だったかのように消え去る。
ヘーパイストスはゆっくりと口を開いた。
「聞け、勇敢なアレスティア人よ!!」
その声は、戦場全体に響き渡る。
「貴様らの王は死んだ!アレスは立派に死んだのだ!!この戦いにもう意味はない!!」
アレスティアの兵たちは剣を握りしめるが、誰一人として動けなかった。
「軍を引け!!故郷に帰れ!!」
彼の声には威厳があった。だが、それだけではなかった。そこには誇り高き戦士の、敵への敬意が込められていた。
そして、ヘーパイストスの目が一人の男を捉えた。アレスティアの将軍、パルタゴス。その勇猛さと知略で数々の戦を勝ち抜いてきた老将だった。
「パルタゴスよ!」
呼びかけると、パルタゴスはゆっくりと歩み出る。彼の顔は怒りと悲しみに満ちていた。よくも我らの王を殺してくれたと。
「ヘーパイストス!!我らが王を返せ!」
パルタゴスの声には悲痛な叫びがあった。
ヘーパイストスは一瞬、黙った。彼が倒したのは宿敵、そして兄弟だった。
「ああ、弟を丁重に弔い、葬ってくれ。無事天に帰れるように」
静かにそう言うと、彼はアレスの亡骸をパルタゴスに渡した。
パルタゴスは亡骸を抱え、膝をついた。それを見た兵士たちは次々と武器を下ろす。誰もが気づいていた。もはや、戦う意味はないのだと。
ヘーパイストスは踵を返し、ゆっくりと自軍へと戻っていった。
驚くべきことに、その背中に矢を射る者は一人もいなかった。
自陣に戻ると、ヘーパイストスは軍勢を見渡し、深く息を吸った。
「勝ったぞ!!!!」
その一言が戦場に響き渡った瞬間、黒曜軍は一斉に拳を突き上げた。
「おおおおおおお!!!!」
大地が揺れるほどの歓声が巻き起こる。誰もがその瞬間、歴史が変わったことを感じていた。
アウダダ川の戦いは、黒曜の勝利で幕を閉じた。
アレスティア軍は、一万の兵と唯一無二の王を失った。この敗北により、アレスティアの権威は失墜し、各地で反乱が一斉に勃発することになる。
こうして、黒曜王国はアレスティアの支配から完全に解放された。
しかし、それは新たな時代の幕開けでもあった。
ヘーパイストスの勝利が、戦の形を変えた。火と鉄が生み出した新たな戦術「戦列歩兵」
銃と砲撃が戦場を支配する時代が、ここから始まるのだった。
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@CADdaisukiair
社畜新兵 Mk.5!