精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「Cheep cheeeeeep!⦅こんなに人間どもを引き連れてきて、どういうつもりだい。犬っころの小僧!⦆」
⦅そう警戒しないでくれ。聖樹守りの婆さん⦆
森人族の里を出て聖樹の側までやってきたシキたちの前で、巨大シマエナガと巨大オオカミが会話をしていた。
聖樹守りとガルムである。
といっても聖樹守りの言葉は可愛らしい鳴き声にしか聞こえないため、ガルムの念話しかシキたちは理解はできない。
⦅こちらの娘が、地母神から婆さんに関する神託を受けたそうだ⦆
「は、初めまして。私はウルティア。ピーちゃんに会えて嬉しいわ」
⦅……ええと婆さん、あんたが襲来した魔王によって倒されてしまうらしい⦆
「Cheep cheeeeep! cheep!⦅魔王だぁ? そんなもんがこんな人間の少ないところに出るわけがないじゃないかい。お前さん、この小娘に騙されてるよ⦆」
「ふわあああ、かわいい。歓迎の舞いかな? 舞いかな?」
聖樹守りが威嚇するように白い翼を広げるが、何を言っているかわからないウルティアにとっては可愛らしい動きでしかなかった。
聖樹守りも人の言葉はわからないので、威嚇に怯まない生意気なやつめと、更に激しく翼を動かす。
ガルムだけがお互いにすれ違っていることに気が付いている。
……本題ではないし説明するとそれはそれで話が拗れそうなので、一旦スルーした。
ガルムが神託の内容を詳しく説明しても、聖樹守りは納得しない。
「Cheep ! cheep! cheep!⦅あたしの攻撃が一切通じないうえに、一撃でやられるって? ふざけんじゃないよ。仮に魔王がそのぐらい強いとして、魔無しの悪魔なら勝てる? 驕るのもいい加減にしな!⦆」
ひとしきり首を忙しなく動かしてから、つぶらな瞳でくわっとオルティエを睨みつける聖樹守り。
かわいい。
魔無しの悪魔とはスプリガンのことである。
姿は見えず魔素も察知できないことから森人族の間では畏れられ、かつてはそう呼ばれていた。
⦅驕りではないぞ。魔無しの悪魔……いや、精霊殿の力は本物だ。どうしたら納得してくれる⦆
「Cheeeeeeep!⦅そんなの決まってるだろう? 実力を示せってんだ⦆」
こうして結構武闘派な聖樹守りとスプリガンは手合わせすることになった。
万が一聖樹を傷つけたら大変なので、手合わせは少し離れた場所で行うことに。
来たる外伝に備えて、
必然的に従者であるアルネイズにも知られることになるが、現在の彼女なら大丈夫だろうというのがシキの判断だ。
聖樹守りが先導するように飛んでいったので、皆でぞろぞろと移動する。
小一時間程歩いて小高い丘の上へとやってきた。
「ここなら見晴らしがいいから、精霊様たちの戦いが良く見えるわね」
〈GS-202 マニ・ルーン〉のコックピットに搭乗したことはあるが、戦闘はまだ見ていないエフェメラは期待に胸を膨らませていた。
シキの背後に立ち、両肩に置いた手がわきわきと動いている。
力が強くてちょっとだけ痛い。
対戦相手は〈SG-064 エル・レプリ〉に決めた。
というか本人の強い希望で決めさせられた、というのが正しい。
〈ユニット転送〉により上空から、丸みを帯びた重量逆関節の機体が降ってくる。
20トンを越える超質量が垂直落下し、地面に衝突する直前でブースターを吹かして軟着陸した。
足元の草木がブースターの熱を風圧で円形に薙ぎ倒される。
その光景を見てシキは「前世のミステリーサークルみたいだなぁ」と思った。
『ふおおおお! まるい! やっぱり近くでみると一段といいねーいいよいいよー』
丸いもの好きのエルの、興奮した声音がボイスチャットから聞こえてきた。
とにかく丸いものが大好きで、武装も丸いフォルムのものを愛用している。
だからロケットランチャーやパイルバンカーといった、特に物騒な武装になっているのは偶然なのだ。
ただ今回は手合わせ……力比べをするということで、それらの武装は外していた。
聖樹守りを粉々にするわけにはいかないので。
「あれが精霊様の姿……」
「なんと……神話出てくる巨神兵、ゴーレムのようですね」
「あーやっぱりゴーレムって説明が無難っぽいね。てか巨神兵ってなんですか?」
「創造神に仕え、外様の神と戦ったと神殿の書物で読んだ記憶があります。祈りだけが救いだった頃に、色々勉強していましたので」
「ふむふむ、なるほど。今後はその方向でいくのもありか……」
それはまたシキにとっては興味深い話だった。
スプリガンに関連するものなのか是非とも調べたい。
「ウル姉は知ってた?」
「うっ、しらない……今度ボガード司祭に聞いてみる」
ウルティアは神託の才能が認められ、地神教に招き入れられた聖女だ。
言わば進学校にスポーツ推薦で入ったようなもので、勉強はからっきしだった。
ただ孤児出身としては言葉遣いは丁寧で教養もあるほうだ。
中身が大人であるシキと暮らしていたので、自然と影響されていた部分もある。
「巨神兵、か。むしろ私には……」
「ウル姉?」
「ううん、なんでもない」
「Waoooooooooooon!」
ガルムの遠吠えが戦闘開始の合図だ。
エルから少し離れた場所にある大木の先に止まってた聖樹守り。
飛び立ち翼を大きく羽ばたかせる。
小手調べと言わんばかりに放ってきたのは一陣の風。
限りなく不可視に近い風の刃だが、今回の一撃は周囲の木々を揺らしながら、わかりやすくエルのもとへ向かっていく。
はっきり言ってこの程度の《風刃》なら、スプリガンの装甲にキズすら付けられない
さすがスプリガンだ、なんともないぜ。
とかやってみたいシキだったが、それはちょっと違うのでやめておく。
エルは左肩搭載の防御兵装を起動させた。
〈SG-064 エル・レプリ〉の正面に青白い光の幕が出現。
光の幕に《風刃》が当たると、風の刃は軌道が逸れてあらぬ方向へ飛んでいく。
これはプラズマシールドの〈PB:26 PL/RLY〉だ。
プラズマ兵器とは何か。
自然界にあるもので例えるなら、炎や雷のようなエネルギーを極限まで圧縮し運用しているのがプラズマ兵器だ。
シキはオルティエからざっくりそう教わっている。
狭義のプラズマは三つの条件を満たさなければならず、デバイの長さとプラズマ振動数とプラズマパラメタがどうのこうの……。
最初は詳しく説明してもらったのだが、ちんぷんかんぷんだったのでシキは早々に考えるのをやめた。
とにかく、高エネルギーで接触した対象を焼滅させるのだ。
ところが〈PB:26 PL/RLY〉は複数あるシールドの中でも個性派で様子が少し違った。
〈PB:26 PL/RLY〉は表面に特有のプラズマの揺らぎを纏っている。
接触したものを焼かず、物理シールドのように受け流すことができるという。
なら物理シールドでいいのではとなりそうだが、相応の利点があった。
プラズマなので重量がなく出し入れも自由なことと、接触対象を焼かないのでエネルギーの節約になるそうだ。
エルもそのような利点を考慮して使用……しているわけではない。
何を隠そう〈PB:26 PL/RLY〉が展開する青白いプラズマシールドは
すなわち、エルの大好きなまんまるなのであった。
ちなみにオルティエが防御時に展開する障壁や、シキの武装である〈RP-CO0W1:Mondlicht〉はそれぞれパルスシールドとパルスブレードと呼ばれているが、原理はプラズマと同じだ。
プラズマ兵器を人間用にサイズダウンさせたものを、パルス兵器と分類していた。
〈SG-068 アリエ・オービス〉の荷電粒子収束射出装置も広義のプラズマ兵器である。
要は実弾でないビーム兵器はすべてプラズマだ。
「プラズマは物質の三態……固体、液体、気体とは異なった、第四の状態といわれています」
「へー、じゃぁ立体映像のオルティエや幽霊もプラズマで説明できるんだね。なんか某教授を思い出すなぁ」
「……」
シキが何かを懐かしんでいたが、その横で幽霊と同列にされたオルティエは微妙な顔をしていた。