精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「Cheep cheeeeeep!⦅やるじゃないか。ならこれはどうだい⦆」
聖樹守りの攻撃が激しさを増していく。
空高く舞い上がり純白の翼を羽ばたかせると、《風刃》が連続で放たれた。
『ほい、ほい』
飛来する不可視の刃をエルがプラズマシールド〈PB:26 PL/RLY〉で弾いた。
丸い形状をしたプラズマシールドの防御範囲は、換装式汎用人型機動兵器の上半身が絶妙に収まりきらない程度。
プラズマシールドは左肩に搭載された
聖樹守りはその無防備な部分を狙って《風刃》を放ってくる。
エルは機械腕だけでなく機体も巧みに動かす。
ブースターを吹かし地面を縫うように移動して、防御と回避を同時にこなしていた。
スプリガンのコックピットは円形の空間に計器や複数のモニターが並び、中央に操縦席及び複座が配置されている。
操縦桿は手首まで包み込むタイプのもので、他に機体操作の入力デバイスは存在しない。
たった二本の操縦桿で四肢だけでなく、ブースターやオプションの機械腕の制御までこなせるものなのだろうか。
答えは
スプリガンのパイロットには接続深度という人体改造基準がある。
接続深度が高いほどスプリガンをより正確に、的確に操ることができた。
深度ファーストは補助システムによるサポートのみで改造なし。
セカンドは人体に端子接続を増設し、スプリガンとパイロットの脳を接続する。
サードは人体から不要な臓器を排除してスプリガンに埋め込む。
フォースとなると人の意識を電子化しスプリガンのシステムに落とし込むという、生命倫理からはかけ離れた改造となる。
要は接続深度が深ければ深いほど、スプリガンと一心同体になり、自分の手足のように動かせるようになるのだ。
換装した武装も生やした武器腕も、元々体に備わっている機能のように感覚で動かすことができた。
エルたちコアAIは接続深度フィフス。
人体改造ではなく、合成人間。
最初からスプリガンを動かすためだけのために、試験官の中で造られた存在であった。
コアAIはスプリガンと一心同体。
スプリガンの魂そのものなのである。
ちなみに Break off Online の世界でのメナスとの長い闘いの歴史において、黎明期は接続深度ゼロ……操縦桿の手動操作と、各種モニターの視認だけでスプリガンを操縦する猛者が少なからず存在したらしい。
オルティエからそう解説を受けて、シキは
無念。
なお〈GS-202 マニ・ルーン〉のコックピットは、中央に操縦席と操縦桿の代わりになる水晶が、浮かぶようにして設置されている他には何もない。
全方位がモニターになっていて外が透けて見えていた。
これは〈GS-202 マニ・ルーン〉が従来のスプリガンとは違う設計理念に基づいて作られているからだ。
メナスとの戦いも過渡期を迎える頃には、様々な国や企業がスプリガン製造に参入。
切磋琢磨し玉石混交の成果を生み出していた。
さて、聖樹守りとエルの戦いは続く。
「あの《風刃》、直撃したら体が真っ二つになりそうね。さすがはエンフィールド大樹海で縄張りを持つピーちゃんね」
「そうねぇ。単発なら受け流せそうだけど、連続で来られると厳しいかも。見えにくいし、〈雲割き〉の飛ばす斬撃を思い出すわ」
「〈雲割き〉?」
「そういう二つ名持ちの第一位階冒険者がいるの。それなりに有名なはずだけど……あ、エフィは十年間寝てから知らないのね。ごめんなさい」
「いいの。でも凄いのね、その〈雲割き〉って人。これほどの斬撃を飛ばせるなんて」
「まさか。あいつの斬撃はさすがにピーちゃん程の威力ではないわ」
「あの精霊様の盾さばきは洗練されていますね。腕を使わず空間に生み出しているところが私の加護と似ているので、とても参考になります」
「アルネイズの盾でもピーちゃんの攻撃は防げる?」
「防ぐだけなら問題ありません。ただ複数方向から狙われると厳しいです。それほどにピーちゃんの攻撃は苛烈です」
エフェメラとエリン、アルネイズとウルティアがそれぞれ所感を述べている。
キルテは森人族の里でお留守番だ。
最初は絶対ついて行くとぐずっていたが、好物のチョコレート味のシリアルバーをあげるからと言ったら、あっさり引き下がった。
チョロい。
「なんかピーちゃん呼びが定着してるけど、本人が知ったら怒りそうだね。気難しい人、じゃなくて鳥なんでしょピーちゃん」
⦅……クゥン⦆
正面からでは崩せないと判断したピーちゃ……聖樹守りは、エルの周囲を円を描くようにして飛行する。
『む、いいまるだ』
「Cheepeeeeeep!⦅小癪な奴め! これでも食らいな⦆」
攻撃も止んだのでぼんやりと見上げていたエルだったが、散布している小型情報端末のセンサーが飛来物を感知。
コックピット内にアラートが鳴り響く。
聖樹守りは円を描きながらその場に《風刃》を設置し、描き終わると同時に一斉発射してきたのだ。
中央にいるエルに向かって円が収束するように《風刃》が殺到した。
エルとその周囲に風の刃が咲き乱れ、土煙が大量に舞い上がり地面を覆い隠す。
「Cheep!⦅やったか!⦆」
もちろんやっておらず、土煙の中からエルが垂直に飛び出した。
〈SG-064 エル・レプリ〉は脚部が重量逆関節の機体である。
逆関節とは名前の通り、膝の関節が通常とは逆方向に曲がっている脚のことだ。
見た目は鳥や動物の脚に似ているが、その特徴は優れた跳躍力。
関節を逆向きにすることによって、人間の膝関節よりも腱を使ったバネの仕組みが効率よく働くいた。
ひらがなのくの字の上下の頂点を近づけてから、バネのように弾く様子を想像して欲しい。
逆関節のほうが前方及び上方向への力が、スムーズに伝わっているのがわかるはずだ。
聖樹守りよりも高い位置へ飛び上がったエルが、
聖樹守り目掛けて突っ込んだ。
プラズマシールドを解除して聖樹守りにタックルすると、もつれあいながら地面へ落下した。
再び巻き起こる土煙。
果たして二人はどうなったのか。
「Cheep! cheeeeep! cheep!!⦅ええい、放せ、放さんかい! 気色悪い!⦆」
『ふおおおおお、丸くてもふもふ。これは最強。なんでスプリガン越しなのにわかるかって? それはコアAIとスプリガンは一心同体だから。考えない。感じればわかる。ごしゅじんはまだまだだね』
『いや聞いてないし何やってんの……』
周囲の皆には土埃で見えていないが、シキには小型情報端末がスキャン解析した映像が送られている。
〈SG-064 エル・レプリ〉が聖樹守りに抱きついて頬ずりしていた。
聖樹守りは逃げようともがいているが、がっしりホールドしているので逃げられない。
いずれにせよ、勝負ありである。
その後、聖樹守りに向かって撃つわけにはいかなかったスプリガンの武装を、通りがかった大型魔獣相手に披露。
攻守ともに精霊の力を見せつけると、ようやく聖樹守りは認めてくれた。
⦅魔王襲来は40日後だそうだ。時が近づいたら我がまた知らせに来る⦆
「Chee! ⦅ちっ、わかったよ。その時は協力すりゃいいんだろ⦆」
「よろしくねピーちゃん」
「Cheep? ⦅この小僧はなんだって?⦆」
⦅よ、よろしくだそうだ⦆
ピーちゃん呼びは頑なにスルーするガルムであった。