折れた肋骨に激痛が走る。
それを平静を取り繕って、流れる冷や汗を無視してベルモットは笑った。
森の中、木に背を預けて震える手でスマホを取り出す。
結局、ハロウィンは結実しなかった。
ベルモットの狙いはシェリーの抹殺だった。
だから江戸川コナンからシェリーを引き剥がすために最善を尽くしたし、念には念を入れ、後詰のために手駒のカルバドスも連れてきた。
盤面は万全だった。
……それを読み切ってシェリーを守り抜いた、あのシルバーブレットの輝かしい瞳を思い返す。
カルバドスは突然横槍を入れてきた赤井秀一にやられて死んだだろう。
ベルモットの乗ってきた車も押収された。あの方のメールアドレスや電話番号の流出は阻止したが、収穫はゼロ。
シェリーは毛利蘭に庇われて命を繋いだ。
今回のベルモットの行動は半分独断だ。だから致命的な叱責にはならないだろう。
カルバドスの件も「勝手に死んだ馬鹿」としてベルモットに責が問われることはない。
勿論、ジンに借りを作る危険性についてベルモットもわからないではないのだが。
そうして。
いつも通り不機嫌そうな声色で電話に出たジンに事情を説明すれば、ジンは鼻で笑って肯定を示してくれた。
「というわけだから、迎えをお願いしたいの。今、二十号線沿いの森の中にいるわ…」
「フン。忌々しい男だ。赤井秀一。銀の弾丸なんぞいやしねぇというのに。いや、それをいうなら…」
言葉を切って、ジンはひときわ不機嫌な様子を隠そうとせず吐き捨てる。
声が一段低く、心底嫌悪しているのが、ありありと伝わってくる。
「どうせ、あのミスターMが首を突っ込んできたんだろうぜ」
「M?聞いたことがないわね。誰?」
ベルモットの質問をせせら笑ってジンは喉を鳴らした。
どうも面白がっているようで……ベルモットにではなく、そのミスターMとやらを揶揄するように口を開く。
「あの名探偵気取りの野郎のことだ。公安警察の奴らの間では、ミスターM、モリアーティなんぞと呼ばれているらしい」
「……皮肉ね。何を考えているか分からない策略家にはお似合いの称号だけれど」
「自分の最大の協力者に対して馬鹿なことを言うばかりの公安も、それを言わせたままにする名探偵気取りも。くだらねぇ奴らばかりだ」
奇妙な執念と熱量のこもった言葉に、いつものこととはいえジンの「片想い」も困ったものだ。
ベルモットは少しばかりいたずら心が湧いて、揶揄うような言葉選びをする。
「あら。前から思っていたけれど、随分とエドウィン・ホームズに入れ込んでいるのね。貴方にもお気に入りができたってことかしら?」
「……そこで野垂れ死にてぇならそう言うといい。俺はそれで一向にかまわねぇがな」
「冗談よ。それで、なにかあの名探偵に思うところでもあるの?」
「はっ、俺はただあの正義気取りの人でなしが滑稽なだけだ」
人なんて数字にしか思っていない、だから冷徹に切り捨てられる人非人。
より多くを救うために機械的に計算する、巨大で無慈悲な演算機構。
あれはそのような存在だ。
組織の金の経路をあれには幾度も潰されてきた。
その時不可解な爆発が起こり、データと共に人員のほとんどが死んだこともある。
大規模立入調査で研究所の一つが押さえられた時、服毒死したはずの人員の中で不自然に情報を持つ幹部だけが生き残り逮捕されたこともある。
手の長い策略家は人の命を命と思わず、ただ偶然を装って盤面を有利に持っていこうとする。
そんな悪党にシルバーブレット……江戸川コナンがなついていると言う事実が、ベルモットの焦りを助長するのだ。
「……それは、私も同意するわ」
「ふん。ところで、工藤新一というガキを知っているか?俺もウォッカに聞いただけだが」
「さぁ?知らないわ……だいたい、私は基本的にアメリカにいるのよ。日本人なんて碌に知らないわよ」
「それもそうか。ならいい」
ベルモットの胸を貫いた、銀の弾丸(シルバーブレット)。
闇を貫く一筋の光、正義と真実をその手に抱いた彼ならば。
この組織という闇の帷を開いてくれると。
そう願って、ベルモットは深く暗い夜の闇を見上げるのだ。
あの機械仕掛けの名探偵に一抹の不安を抱きながら瞳を伏せる。
森の虫の鳴き声だけが、月に届くようにチリチリと鳴いているのであった。
本作、「ホームズなオリ主と名探偵コナン」はここで一旦更新を停止します。
これは4月のコナン映画発表と同時に「バーボンなオリ主と降谷さん」の更新を再開するため、構想練りのためとなります。
更新再開時期は未定です。
申し訳ねぇ…バーボンなオリ主と降谷さんの方もよろしく頼む…。