ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜   作:黒木箱 末宝

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第一次スタンピード

 回復薬も十分集まったのでダンジョンから帰途した俺は、無理言ってダンジョンに入った詫びとして、神主達のダンジョン封鎖作業を手伝った。

 

 そして無事に家に到着した俺は、ニヤケ顔で母に回復薬を見せて渡した。母はそれを喜んで受け取ると、回復薬をイッキ飲みして光りだす。回復薬の効果エフェクトだ。

 

どうだ(どやさ)

「おー、 すっごく軽い! 痛くない! ありがとう大器!」

「ハハッ! おう、任せろって」

 

 母親を喜ばせることが出来た。過去、母に苦労を掛けまくり、何度も泣かせてしまったことを悔いていた俺は、過去一番に親孝行が出来ていることに喜んだ。

 楽しそうに小躍りしている母を見て、それがまるで自分のことのように嬉しく感じた俺は、また頑張ろうと一人拳を握る。

 

 

 

 そして、その日の夜のことだった。

 

 同時刻、世界の全てが突き上げられる程の衝撃を受けたのだ。

 

「うおっ!? 地震か!?」

 

 ドゴン! と突き上げられる感覚に叩き起こされた俺は、用意しておいたエスケープバッグと探索様のバックパックを手に取り、リビングへ向かう。

 

(先ずは窓を開けて退路を確保! そしてガス栓を……ん?)

 

 しかし、落ち着いて見れば、家具や小物は一切揺れていない。俺はこの現象に覚えがあった。ダンジョンが出現した時に発生した揺れだ。

 

「なになになになに!?」

「大器! ぼっとしてないで避難──へ?」

 

 同じく飛び起きてきた母と避難用の鞄を手にした姉だったが、落ち着いた様子の俺を見て、同じく違和感を覚えた様子。

 

「これ地震じゃないぞ。ダンジョンか出た時のやつだ」

 

 そう伝えてテレビを付けつつ、スマホを手に取りSNSを開く。

 

「……うん、あの揺れは地震じゃない」

 

 やはり同じ考えに至った者達が多くいたらしく、先ほどの揺れについてダンジョンが原因ではないかという内容の投稿が無数にされていた。

 

「地震じゃない?」

「おう、ダンジョン。揺れも前にダンジョンが出た時に食らったやつと同じっぽいし」

 

 不安そうな母に答えるが、未だに混乱している様子。しかし、余裕な態度でスマホを見る俺を見て大丈夫と理解したのか、徐々に落ち着きを取り戻していった。

 

「……はー……なら良かったわ」

「うーん、それもどうだろう……あ、やっぱダメなやつっぽい」

 

 安堵する母に待ったをかける姉。すると何かを見付けたようで、スマホを此方に見せてきた。

 

「んー? うわ、ヤベーやつじゃん。……てことは……ああ 【スタンピード】か~……」

 

 姉のスマホに流れている映像には、コンクリートで塞がれた大穴から、見慣れたモンスターと見慣れないモンスターが大量に溢れ出て周囲を破壊し、人に襲い掛かる映像が流れていた。

 それを見て俺も自分のスマホで調べてみれば、トレンドに【スタンピード】の文字が上がっている。

 

「え、スタンピードって、ダンジョンのやつ?」

「みたいよ。何かC国とかで起きてるっぽい」

 

 それを聞いて、サブカルチャーに触れている母も察した様子。そして続く姉の言葉に、家族一同は「あー」と納得の声を上げた。

 

「まあ、なんかやりそうだよな。……にしても、ダンジョン塞ぐとスタンピードが起こるのか──ん?」

 

 そうしてスマホで映像を眺めていると、付けていたテレビから緊急速報の知らせが入った。慌てた様子のアナウンサーが、スタンピードの事を必死に語っている。

 手元の紙を見つつ、途切れ気味に話す内容は、世界で同時にスタンピードが起きており、日本の一部でもスタンピードが発生していると言うものだった

 

 そのニュースを横目に、SNSで【スタンピード 日本】で検索してみると、動画や写真は(まば)らではあるものの、その情報は速度や量を加味しても真実のようだった。

 

「うちは大丈夫だよね? あの公園の所!」

「そうじゃん、大丈夫そ?」

「大丈夫だろ。だって昨日普通に探索して普通に出てきたし。別に封鎖なんか──あ」

 

 母や姉の言葉に、昨日の出来事をなぞる。そこで神主を手伝い、自分自身でダンジョンを封鎖したことを思い出した。

 それは封鎖とは呼べない、テープで大穴のある木をグルグル巻きにし、その前に立入禁止の立て看板を置いた程度のもの。しかし、どれ程の封鎖が要因となり、スタンピードが起こるか判明していない今に置いて、それは到底無視できないものだった。

 

「やっべ。封鎖したわ」

「なっ、はや──や、気を付けて、怪我しないでね!」

「別に大器が行かなくてもいいじゃん!」

 

 急いでダンジョンに向かう準備をしようとする大器に、姉と母が別々の声を上げる。俺は姉に「おう」と答え、母には安心させるための説得を始めた。

 

「いやーそれがさ、ダンジョンに入ったの俺しか居ないっぽくてぇ……警察はいるけどダンジョン入ってないっぽくてぇ……要は俺だけっぽいのよ、モンスターと戦えるのは」

「……ッは~……絶対、生きて帰ってきてね!」

「おう!」

 

 ストレスで不整脈が起きているのだろう。胸を押さえて悲しげに願う母に、俺を安心させるよう何時もの気楽で大胆不敵な笑顔を見せて返事をするのだった。

 

 

 

 ■

 

 

 

「なにも起きてませんように!」

 

 急ぎ且つ緊急時の為、家族に手伝ってもらいながら探索用の装備を着てダンジョンまで疾走する。

 

 ステータスが跳ね上がっているが故か、踏み込む度にアスファルトが異音を立て破片を散る。

 それを横目に、俺はダンジョンのある公園へと向かう。そうして道路を爆走し、階段を飛び越えながら、俺らダンジョンのある広場へとたどり着いた。

 

「よし、間に合った!」

 

 ダンジョンを見るが、立て看板とテープに何の異常も無い。ということは、少なくとも今はスタンピードが発生していないようだ。

 

「あれ? 監視の警察が居ない……?」

 

 普段はダンジョンの側で立っている筈の警察官が見当たらない。何時もならダンジョンと、ダンジョンに近付く人々を監視している筈だが……その姿が欠片も見当たらなかった。まあ、状況から考えるに他のダンジョンのある場所へ応援にでも行っているのだろう。

 

「どっかの工場入口か、駅前の方か──いや、そんなの後だ」

 

 俺は急いでダンジョンを封鎖している立て看板を退かし、テープを引き剥がし始めた。

 

「ぬぅ~、カッター持って来れば(こりゃ)よかったな!」

 

 手袋に纏わり付くテープを無視し、封鎖に使われていた全てのテープを引き千切り剥がす。

 

「フー……これで一安心……だよな? 」

 

 全ての封鎖を解除して一息つくが、不意にある不安が(よぎ)った。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものだった。

 

 もしその考えの通りなら、このまま帰れば後から湧いてでたモンスターに周辺が──何なら自分の家まで被害が出るかもしれない。

 

 一度考えてしまえば、湧いた不安は拭えない。

 

「ハー……ちょっと見てくるか」

 

 スッキリと明日──既に今日──を迎えるため、俺はバックパックから棍棒と盾を取り出して装備すると、警戒しながらダンジョンに入って行った。

 

 

 

(うわ、やっぱいた!)

 

「ギ? ゲギャア!」

「ギギャギャ!」

「ギャー! ギャー!」

 

 ダンジョンに入った俺を迎えたのは、スライムをオモチャに遊んでいたゴブリンの集団だった。

 

 他とは違う錆びた剣と大きな盾を持ち、ボロい皮鎧を纏ったゴブリン──ゴブリンソードマンを筆頭に、棍棒を持ったゴブリンが二匹、ゴブリンアーチャーが二匹の合計五匹のゴブリン部隊だ。

 

「どうすっかなーこれッ……!」

「ギギャー!」

「「ギャギャー!」」

 

 棍棒を構えて観察する俺を見て、ゴブリンソードマンはゴブリンに突撃の指示を出す。

 

「あっぶね!」

 

 即座に飛び掛かってきた片方のゴブリンを殴り落とし、もう片方のゴブリンの攻撃を棍棒を掴むことで防いで蹴り飛ばす。

 

(へへっ俺も出来るようになったな!)

 

 自分自身に感心するが、今はそんなことをしている場合ではない。

 

「ギィヤーッ!」

「危ねッ!?」

 

 その隙に、ゴブリンソードマンは剣を振り上げて飛び掛かる。

 それを防ぐため、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ギッ!?」

「ぬっ! ──お? 妙に軽い手応え……」

 

 見ると、ゴブリンとゴブリンソードマン、その奥にいるゴブリンアーチャー達が、苦い顔をして俺に向かって吠えている。

 

 その様子を見て、俺は昨日の事を思い出した。

 

「ああ、そうだった。お前らにも仲間意識があったんだった」

 

 その美しい仲間意識を利用すべく、俺は盾にしたゴブリンを持ち替えると、見せ付けるようにして掲げる。

 

「どうだ、見やすくなったろ」

 

 ゴブリンソードマンに切られて瀕死のゴブリンは、その傷口から(マナ)を垂らしながら、妬み事を呟くように「……ギィ」と鳴いた。

 

 それを見て怯むゴブリン達。

 

 その様子に、俺はフェイスガードの裏で笑みを深め、反撃を開始した。

 

「先ずは──お前!」

「ガ──ギャッ!?」

「お前は後!」

「ゲギャー?!」

 

 踞っているゴブリンの頭を棍棒で砕き、続いてゴブリンソードマンをゴブリンアーチャー向けて蹴り飛ばす。

 

「ギィッ!」

「射てるかぁ~? 射てないよなぁー!」

 

 そして未だに狼狽(うろた)えている二匹のゴブリンアーチャーに、よく見えるよう瀕死のゴブリンを掲げて突撃。

 

「そら、受け取れ!」

「ゲギャッ!?」

「お前は死ね!」

「ギッ──」

 

 片方に瀕死のゴブリンを投げつけ、もう片方は棍棒で殴り殺す。

 

「ギギィ! ギガガ!」

「フンッ!」

「ジャガー!!」

「ゴブリンガード!」

「ギャ──」

「ゲ、ゲギャーッ!?」

 

 瀕死のゴブリンを退かそうと必死なゴブリンアーチャーの頭を砕き、体勢を立て直したゴブリンソードマンの攻撃を瀕死のゴブリンで防ぐ。

 

「ギッ……ギャッ……!」

「……フンッ!」

 

 仲間を自らの手で殺してしまい、ショックを受けた様子のゴブリンソードマン。

 それに対し特に思うこともなく、俺は隙だらけなゴブリンソードマンの頭に向かって棍棒を振り下ろした。

 

 

 

 大量のゴブリンのドロップアイテムをゲットだ。錆びた剣と、比較的まともな盾を手に入れた俺は、ホクホク顔でダンジョンを出た。

 そして家族に無事であることと、スタンピードの阻止を報告して帰投した。

 

 こうして、後に【第一次スタンピード】と呼ばれるこの事件は、世界に多大なる被害をもたらし、ダンジョンの危険性を世界に強く知らしめることになった。

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