ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
夜中にダンジョンで奮闘した俺は、体調を第一に考えて今日の探索を休止することにした。
リビングで装備やアイテム、ステータスやスキルを確認していると、作業用BGMに点けていたテレビからある話題が聞こえてきた。
『城下さん、と言うことはですよ。こんなに色んな国で一気にスタンピードが起きて、そこらじゅうを滅茶苦茶にしちゃった訳じゃないですか。これ、今後どうなります?』
司会がコメンテーターに質問している。
スタンピードが起こった後、世界はどうなるか。それを俺も考えてみることにした。
簡素に今回のスタンピードを表せば、世界同時に特定の事をした国──ダンジョンを封鎖していた国等──でモンスターが地上に氾濫。
封鎖を打ち砕き、ダンジョンの周囲を破壊して、世界的に絶大な被害を
ふと、過去に似た様な状況になった事に思い当たる節が出た俺は、それが何だったか思いだす。
「……あ、コ○ナの時と同じだ」
「何が?」
俺の呟きに母が反応する。
「ニュースの話でさ、何か○ロナが流行った時と似た流れが来そうだなって」
「えー? あー……」
「コロ○か……てことは──うーん、急ぐか」
母と話ながら考える。すると、頭に
「急ぐって?」
「○ロナが流行った時とか、災害が起きたり戦争が起きたりした時さ、その場所から遠い俺達の身の回りで何が起こった?」
「そりゃ……あ、買い貯め……!」
「そう。昨日のスタンピードで滅茶苦茶になった国の輸入品とかがさ、滞るかも知れんじゃん?」
「……じゃ……行くか」
「おう」
そうして、俺と母は二人で買い物に出ることにした。
■
「とは言っても、なに買うんだ?」
「うーん……特にないね。米もあるし、保存食もある。日用品──も、あるわ」
スタンピードで被害を受けた国とその場所を調べてみれば、思った以上に心配する程のものではなかった。
食料を生産している牧場や農場にスタンピードの被害は無く、漁港や食品加工工場も、その一部にダンジョンが出現しているだけで施設や人的被害は報告されていない。
ダンジョンが出現した工場は、ダンジョンを封鎖していなかったのかスタンピードが起こらず、被害が無かったのだ。
「まあ、日用品とか生活必需品とかは買っといて損はないぜ」
「そう? 無駄じゃない?」
「いや~多分だけどさ、前みたいになのがいるぜ? いろいろ買いまくる人が」
「前? あーマスクとかトイレットペーパーとかの」
「そうそう。それと転売ヤー」
実際に過去で起こった事を思い出す。ありもしないデマに踊らせれ、マスクやそれに使用される紙製品の不足を恐れた人達。そんな人達がトイレットペーパー等を買い漁り、その
そうして母と「あの時は疲れたね~」なんて過去の話をしていると、俺達の馴染みの薬局に到着した。
だがそこは俺の予想通りに混んでおり、平日の昼間にも関わらず、店の駐車場には車が溢れ返っていた。
「やっぱりね」
「うわ、なに? 全然入れそうにないけど」
「うーん? 流石に今回のは多過ぎな気がするけど……あ、これか!」
「何か有ったの?」
疑問を感じたのでSNSを探ると、その理由の一旦を見付ける事が出来た。
【世界滅亡】【侵略者】【戦争】【転売】
ありとあらゆる陰謀論に妄想、想像が大声で語られてお、有り得そうなものに純粋無垢な人達が当てられ、商機を見出したクズ共が煽っている。後は米騒動やオイルショックの時のトイレットペーパー騒動と同じである。
それを運転中の母に言って聞かせれば、母は呆れた様子でどうするかを聞いて来た。
「うーん……あ、そうだ。買い物は──まあ、落ち着いた頃にしてさ、何かこう小さい……御守り袋が売ってる場所
「御守り袋? まあ、手芸センターとかならあるかもだけど……」
「んじゃそこ頼むわ。ちょっと
「まあ、いいけど」
手芸センターに向かう途中、母に試してみたいことの内容を語る。ダンジョンで得たスキル【ラージポケット】の効果は、一度でも封を閉じることができるものを改変し、収納量と耐久を二倍に強化し、重さを一割軽減するというものだ。さらに内容物の経過時間を十分の一にすると言う効果もある。
「んで、その時にさ、石入れっぱだったパーカーが全体的に頑丈になっててさ。もしかしたら、ポケットとか付いてたら、全部同じように強化できるんじゃね? って思ったわけで」
「なるほどね~」
そんなこんなで手芸センターに到着した俺達は、目当てのお守り袋を探す。
「何色にするの?」と母が問えば、俺は「黒がいい」と即答する。
「何で黒? ちょっと不吉じゃない?」
眉を潜めて金色のお守り袋を手にする母に、俺はそれを拒否しながら「
「俺の装備が真っ黒だからさ、他の色だと隠れる時に悪目立ちするんよ」
「あー、確かに。それで何個要るの?」
「そうだな~」
俺はお守り袋を手に取りながら、必要数とその合計金額を計算する。お守り袋を装着したい装備は、ヘルメットにゴーグル、フェイスガードとエルボーパッドにニーパッド、手袋とブーツの十一箇所だ。一番安いやつを選べば、金欠な俺でも買えるだろう。
必要な数を買い物かごに入れた俺は、母に「これくらいかな?」と見せる。すると母は、そのかごに自分用のであろうお守りを一つ要れると、財布を取り出してレジへと向かった。
「あれ、買ってくれるの?」
「そりゃね。あんた金無いでしょ?」
「……少しは有るよ」
「いいから取っときな。薬の御礼でもあるんだから」
「……それじゃあ……甘えるわ」
「おう」
そうして、俺は望みのものを手に入れた。前とは違う、健康的に歩く母を見て、頑張って良かったと喜びを噛み締める。
車に乗り「じゃあ帰るか」と言って直ぐのことだった。 珍しく震えるスマホを取り出して確認すれば、姉がグループメッセージに『迎えに来て』と書き込んでいる。
「何かあった?」
「何かねーちゃんが『迎えに来て』だってさ」
「えっ!? まだ昼だけど……どうかしたの?」
「わからん。聞いてみるわ」
そうして俺が『迎えに行く。何かあった?』とメッセージを送れば直ぐに既読のマークが付き、『ありがとう』というメッセージと共に返事が来た。
「んー? 『人が来すぎて商品が無くなった』『暴動になりかねない』『危ないから帰れって店長に言われた』って……え~?」
そのあんまりな内容に理解が追い付かない。姉からのメッセージを読むに、朝から人が押し寄せて来ては商品を買いまくり、欲しいものが得られなかった客が暴徒になりかけているとか。
俺は姉に『すぐ行く。気を付けて』とメッセージを送る。
「ちょっとやばいかも」
「わかった。急ぐわ」
「安全運転でね」
「おう」
■
急ぎ目の安全運転で、姉の働く地元のスーパーに到着した。しかし、その道中や駐車場が車や人で溢れ返っており、先に進むことができないでいた。
「うっわ~……」
「入れるこれ?」
「無理かもね。取り敢えず『着いた。入れないけどどうする』って送ったわ」
姉にメッセージを送る。すると、即座に返事が来た。
「『裏に止めて』だってさ」
「了解」
姉のメッセージ通り、回り道をしてスーパーの裏に車を止め、姉に『止めた』とメッセージを送る。
すると、しばらくして荷物を抱えた姉が裏口から出て来て、焦った様子で車に乗り込んできた。
「お疲れ」
「お疲れ。何があったの?」
俺と母も労いつつ問うと、姉は息を整えた後に疲れきった様子で語り出した。
「ふぅ~……それがさー“スタンピードで物資が
「ちかれたー」と
「うーん……やっぱデマっぽいんだけどなー……」
「だよね~……」
「まあ、あの調子じゃ仕方ないでしょ。前の○ロナの時と同じよ。買い占めるやつの所為で買わなきゃいけなくなって、結果的に物が一時的になくなるあれ」
「あー……」
こうして俺達の一日は過ぎて行く。デマはデマでしかないが、しかしデマに煽られ誘導された者達によって、別の形でデマが真実味を得てしまい被害が出る。
日常で必要とする物資が不足することに、母と姉は不安を隠せないでいた。