ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
ダンジョンに潜り、獲物を取って帰る。
狩猟民族に還ったようなどこか現代的ではない、野蛮とすら言われるであろう日々。それを家族の頼みでやることになった。
しかし俺はそんな日々を歓迎しており、命を懸けたダンジョン探索を喜んでさえいた。
何故なら、ダンジョンに潜る必要がある限り、俺は就職活動をしなくて済むからだ。
ただ沸き上がるフラストレーションをモンスターに叩き付け、そしてドロップアイテムを持ち帰る。
たったそれだけで、俺の家庭内での立場は上がり、将来の不安が薄れ、沸き上がる暴力衝動の発散を家族に益を運ぶ手段に変えることが出来たのだ。
自己肯定感が満たされる毎日。
現代で不要だと思っていた暴力性がプラスに。
沸き上がる暴力衝動は、振るう対象を得て有益なものに。
現代に──社会に適合し辛い、臆病で慎重で暴力的な思考は、ダンジョンを探索する為の力となった。
「……ダンジョンが無くなりませんように。ずっとダンジョンが存在していますように……」
すがるような祈りの言葉を呟きながら、今日も俺はダンジョンへと向かう。
何時も通りに公園の広場へと続く階段を登り、何時も通りにダンジョンへ進む。
しかし、ダンジョンの入口付近に違和感を覚えた。
相変わらず居る野次馬に、四人体制で監視する警察官。
何時も通りいる神主に、神主と喋る市川とは違うスーツの男達──それは置いとくとして、ダンジョンの前に立つ、一番目立つ存在。
緋色の袴を履き白衣を纏う、美しい黒髪を揺らすその存在。
──巫女だ。
俺は巫女の手元にあるクリップボードを見て、ダンジョンの受付係が神主から変わったのだろうと察し、巫女へと近付いた。
「あ、おはようございます。ダンジョンへ入りますか?」
「おはようございます。はい、入ります」
「では此方にお名前と、帰投時間を御記入下さい」
近付いてきた俺に気付いた巫女は、想定通りにクリップボードを渡してくる。
俺はそれにカタカナで名前を記載しながら、見慣れぬ巫女について考えた。
……だが、思い付くことは(非常勤務か?)といた浅いことばかり。俺は考えるのをやめた。
巫女にクリップボードを渡すと、遠くスーツの男と話していた神主が此方に気付き、小走りで近付いてきた。
「おはようございます山城さん。今日もダンジョンに?」
「おはようございます。そうですね、今日も潜ります」
「そうですか、お気を付けてくださいね。あ、そうだ、紹介がまだでしたね」
そう言うと、神主ら巫女の紹介を始める。
それを(必要か?)とか(何故俺に?)と疑問を持つが、神主はそんな俺を置いて話を続けた。
「山城さん。彼女は
「はあ、分かりました」
疑問の増えた状況に混乱する。
何故、自分に巫女を紹介したのか。フルネームとか非常勤とか言っても良いものなのか。彼女を通して神主を呼んでどうするのか。
疑問は尽きないが、神主の話は続く。
「そして上木さん。彼が山城 大器さん。この神社にあるダンジョンに潜っている、唯一の挑戦者の人です」
「「え!?」」
葵と声が重なる。俺は勝手に名前を伝えられた事と、ダンジョンに潜る唯一の存在だと言うことに驚いた。
葵も同じようなことに驚いた様子で「通りで……」と呟き、俺を異常者を見るような目を向けている気がした。
俺と葵はお互いに「よろしくお願いします」と微妙な表情で挨拶を交わす。
こうして奇妙な出会いをした俺は、二人に見送られながらダンジョンへと入っていった。
■
「彼が例の?」
スーツを着た男──政府の使いである
「はい、この神社にあるダンジョンに挑み、五体満足で帰ってくる──現在まで唯一単独でダンジョンに挑み続ける稀有な存在です」
「本当に単独でダンジョンに……それも一人で入って行くとは……」
「それで無傷……彼は危険では?」
「……」
神主の言葉にざわつくスーツの男達。
唯一、大器の背中を見詰め続けた守山は、神主に断りを入れて離れると、何処かへと電話を懸けた。
「守山です。はい、やはり彼が
守山のこの連絡が、政府のダンジョンに対する動きを加速させる一因となる。
そしてその原因である一人の男──山城 大器の事を思い出しながら、守山は今後の世界を憂い溜め息を付いた。
「ふう、神主さん。彼について幾つか質問があるのですが──」
■
五階層で着替えを終えた俺は、準備運動をしながら六階層へと向かう。
そして階層を降りて目にしたのは、上階層の土の洞窟とは違う、枯れ葉の敷き詰められた浅く木の生えた森だった。
「森と言うよりは……林か?」
均等に生える木々を見て呟く。
枯れ葉に埋もれているが、先を促すように道は真っ直ぐに延びている。
足で枯れ葉を掻き分けそれを確認すると、溜め息を吐いた。
「……こっからさきは不意討ち禁止か……?」
そう言って一歩踏み出せば、枯れ葉が踏み割れてガサガサと耳心地良い音を奏でる。今においては、一層疎ましい音でしかないが。
何とか静かに進めないかと摺り足で進む。しかし、結果は音の種類が変わるだけだった。
ならばとゆっくり進むが、進行速度が苛つくほど遅くなった。音を出さないように高めた集中力と緊張感により、僅かに聞こえる枯れ葉の割れるパキパキという音が大きく聞こえてしまい、焦りと虚無感に苛まれる。
「……もうしらん」
静かに進むことを諦めた俺は、ガサガサと大きな音をたてながら進むことにした。
不意討ちに備え、盾を構えながら進む。警戒しつつ周囲を観察するが、モンスターを発見することができない。
今までとは違う状況に苛立ちつつも、集中力を探索に充てて周囲を探る。
すると、遥か先で俺のものとは違う足音が聞こえた。
カサリカサリとした軽く小さい音からするに、対象のサイズも大きなものではないだろう。
(にしても、何か聞き覚えのある足音だな……)
どこか馴染みのある足音に、ふと頭に過る懐かしさを思い出す。その答え合わせと言わんばかりに、先の方にある木陰から、一匹のモンスターが現れた。
怖じ気の走る、鋭い鉤爪を持つ二本の脚で地を踏み、一際長い鮮やかな尾羽を揺らす優雅な姿の
「……尾長鶏か?」
「ッ! コケー!!」
俺の呟きに答えるように、尾長鶏──バトルチキン・ロングテールが深紅に染まった
「コケーッ!」
「クソッ、攻撃が速いッ!」
雄叫びを上げたバトルチキンは、その見た目にそぐわない程の重い踏み込みを轟かせながら飛び掛かった。
それをキックラビット同様に盾で撥ね飛ばそう構える。
だがしかし、バトルチキンは盾を蹴るのではなく、爪や嘴による連撃を放ってきた。
「うおああッ!?」
「コアァァァ!!」
それだけではない。盾を爪で引っ掻くと同時に駆け上がり、盾を越えて直接攻撃してきたのだ。
バトルチキンの突き出した嘴が目に迫る。
すんでの所で避けるが、フェイスガードを突付かれてしまい、何と表面に
「てめぇッ!」
「コアーッ!?」
少しキレて頭突きを放つ。それによりバトルチキンを押し飛ばすことが出来たが、大したダメージにはなっていない様子で、翼を羽ばたかせて難無く着地した。
そして、バトルチキンは再び地面を踏み込んで飛び掛かってきた。
「ダアッ!」
「コッ!?」
飛び込みに合わせて錆びた剣を振るうが、慣れていないからか当てることができない。
切っ先が擦った影響か、空中でクルクルと回転するバトルチキン。
その隙に剣を振るうが、バトルチキンは羽ばたくことでタイミングをずらし、剣撃を避けた。
「うーん、剣の間合いが分からん……」
慣れない武器を強いからと使ってみたが、逆に剣に振り回されている。そんな状況に見切りを着けた俺は、剣を地面に突き刺すと、盾を拳で叩いてバトルチキンを挑発した。
「結局、
「コアァァァ!!」
挑発に乗り突撃してくるバトルチキン。それを変わらず打ち上げようと盾を構えると、バトルチキンは鉤爪で盾を引っ掻きながら駆け上がり、俺の顔を突こうとする。
「取ったぁ!」
「コケッ!?」
そしてそれを読んでいた俺は、盾から伸びたてきたバトルチキンの首を掴み取り、思い切り地面へと叩き付けた。
「おらぁ!」
「ゴッ!?」
その一撃でバトルチキンは行動不能に陥る。
しかし、まだ死んではいない様子。
「おい! 早くッ! 死ねよ!!」
「ゴッ、ゴアァ……ガッ……!」
バトルチキンが死ぬまで何度も地面に叩き付ける。
やがてバトルチキンの息の根が止まる頃。
そこには、周囲を羽が舞い散る幻想的な雰囲気の中、締めた鶏を持ち獲物を掲げる蛮族の姿があった。
「……羽根毟るのも自分でやるのか……」
マナを吹き出しても尚そのままの状態のバトルチキンをバッグに仕舞った俺は、面倒な作業を未来の自分へ後回しにして、次の獲物を狙うことにした。