ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
「まてこら!」
「コケーッ!」
ダンジョンの六階層。整理された森の中、俺は何故か逃げ回るバトルチキンを追いかけていた。
「さっきのは攻撃してきたってのに……違う種類か? 性格でもあるのか?」
「コアーッ!」
木々の間を縫うようにちょこまかと走るバトルチキンを追い掛けながら、先程仕留めた個体との違いを探す。体毛は白く、鶏冠も赤い。良く見る鶏そのものだ。それ以外の明確な違いは──鶏冠が雄の個体より小さいこと。
「雌か! ッええい、それが分かったところで変わらん! 止まれぇーっ!」
疑問を解消したところで、走り回るバトルチキンは止まらない。そこで俺は、頭を駆ける巡る思考の中にあった冴えたやり方に従い
「ゴッ!?」
まるでブーメランの様に回転する錆びた剣は、その長さによる当たり幅と重さにより見事バトルチキンを捕らえたのだった。
「取った!」
ふらつくバトルチキンの頭を押さえ、首を捩じるようにへし折る。
「ギュエ──」
ボキリと響く音と感触を味わいながら、死亡したことにより吹き出たマナを確認。仕留めたようだ。
「よし、鶏肉ゲットだ──うん?」
仕留めたバトルチキンを持ち上げると、俺はその個体に違和感を覚えた。最初に仕留めた個体と違って、腹が妙に大きいのだ。
「まさか内臓が残ってるのか?」
思い当たる食材に少し眉をしかめながら触って確かめる。しかし、帰ってきた感触は妙に硬く、ゴロリとしている。
「まさかッ!」
動くままに
「卵! おお、卵だ! 食材!」
新たな食材を確保した俺は、その後も喜び勇んでバトルチキンを狩るのであった。
六階層に見当たるバトルチキンを狩り終えた俺は暫しの休息を取ることにした。地図を埋めようにもこの林は妙に広く、しかも目印となるものが少ない。
そして時間と体力に余裕があると分かると、そのまま七階へと進んだ。
階段を降りる最中、俺はレベルアップの恩恵を噛み締めていた。普段の今頃なら、とっくの昔に息も切れ、全身を滝のような汗にまみれてろくに動けなくなっていた筈だ。
それが今では、数十キロ程の荷物と装備を身に付けて走り回り戦っても、僅かに休憩するだけで万全に体力が回復するようになっていたのだ。
「まったく、最高だぜ──っと」
呟きながら七階層に到着。周囲を警戒する。
そして危険が無いことを確認すると、側にある転移陣を起動して登録した。
「よしっと」
周囲を警戒しながら盾と剣を構える。七階は六階と変わらず、整った森のフィールドだった。
しかし、出てくるモンスターも同じとは限らない。そのまま武器を構えたまま、出来る限り静かに進む。
(ん? 何か音がする……)
ガサガサと足元の枯れ葉が奏でる騒音に、自分の出す音とは違う音が混じっている。別の音の聞こえてきた方を見れば、コッコッコと鳴き声を上げるバトルチキンと、
(……バトルチキンと……何だあれ?)
「コッコッコ」
背中を見せて現れたバトルチキン。俺はバトルチキンを放置して、その場にしゃがんで姿勢を低くする。
バトルチキンが悠然歩む先で、一匹の獣が待ち伏せている。狩りを成功させるために枯れ葉を被り、息を潜める。だがそれが
枯れ葉からは灰色の乱れた毛が溢れ出ており、獲物に食らい付く事を今か今かと、体を揺らして待ちわびている。餌にありつけることを考えているのか、興奮して吐息がハアハアと漏れている。
あまりにも粗末な隠れ方に、呆れて半笑いが漏れる。
バトルチキンが獣の側に近付いたその瞬間、枯れ葉を撒き散らしながら、一匹の痩せこけた狼が飛び出した。
「ウオオンッ!」
勇ましく吠えた狼は、唾液にまみれた牙を剥き出し、獲物に食らい付こうと飛び付く。
「コケーッ!」
「ギャン!?」
それを待っていたのだろう。バトルチキンは狼の攻撃を軽々と避けると、その鼻先を鉤爪で引っ掻いたのだ。
鼻をやられた狼は情けない声を上げ、飛び出した勢いそのままに地面へと転がっていった。
(……【識別】)
鼻を押さえて悶える隙だらけな狼に対し、【識別】を使用する。
【
「……あー……通りでねぇ」
「ッ!? ウォン!」
俺の呟きに反応し、痩せこけた狼──アイソレイトウルフが吠える。
立ち上がる際に脚が
俺はゆっくりと立ち上がり、武器を構えた。
「……とは言ってもなぁ……」
「ッ! ウォン!!」
「はいはい、ウォンウォン」
「グルルル……」
武器を構えて暫く。俺とアイソレイトウルフは、互いに警戒するだけで無駄に時間だけが過ぎていた。
方や空腹で集中力が散漫し、遠くで歩くバトルチキンの足音に気を取られる始末。
そして俺の方はと言うと──
「ん~狼かぁ~……」
犬形の哺乳類を殺すことを
昔とは違い、今では殆どの哺乳類が愛護の対象と成っている。この中でも、猫や猫は家族として世界中で愛されている。
どちらかと言えば猫派ではあるが、犬を飼っていた母の愛犬語りや、SNSで流れてくる愛らしい犬の映像の影響もあり、俺も犬が好きになっていた。
とは言え、今対峙しているのはモンスター。酷く痩せこけて情けない姿を見せているとしても、大型肉食獣サイズの害意有る敵なのだ。
「グルルルッ! ガウッ!」
「お──」
とうとうし痺れを切らしたのか、アイソレイトウルフが飛び掛かって来た。しかし枯れ葉に足を取られて滑り、腹を強く打ち付け、その痛みに悶えている。
「キューン! クゥオォォン……!」
「……何なんだこいつ……うん?」
情けなく喚く駄犬を眺めているが、ふと左腕が軽くなっていることに気付く。
見ると、先程まで俺を守っていた盾が真っ二つ割れ、地面にその残骸を晒していたのだ。
「──まさかあの時に?!」
アイソレイトウルフが飛び掛かってきた時、僅かに爪が盾に触れていたのであろう。そこから自重と落ちた勢いのみの力で繊維を断ち切り、木の盾を破壊していたのだ。
「……ヤバイな」
代わりの盾をバックパックから出そうにも、アイソレイトウルフは既に起き上がっている。
漸く学んだのであろう。アイソレイトウルフは飛び掛かる姿勢を取りながら落ち葉を蹴って払い、足元を整えている。
そして引き絞るように脚をたたみこむと、敵に喰らい付かんと飛び掛かってきた。
「うおっと」
「ギャン!?」
見え透いた準備と分かりやすい動作だが、盾を切られた事を思いだした俺は大袈裟に避けた。
飛び掛かりを避けられたアイソレイトウルフは、着地の際にまたしても落ち葉に足を取られてしまい、今度は
悶えるアイソレイトウルフを見つつ、その隙に盾を取り出して装備する。
「……倒すか」
攻める度に自傷して死にかけるアイソレイトウルフを見て、そのサイズや攻撃性の脅威も合わさり愛らしさが抜ける。
フィルターの取れた敵を見れば、そこにいるのは
開けっ放しの口からは常によだれの垂れた、此方を喰らおうと黄色い目をギラつかせた化物が映る。
「……ふんッ!!」
「ギャ──」
首を切り落とすために叩き付けた剣は、しかしその首の骨を折るだけに止まってしまう。
剣を上げると、刃に付いた毛が数本ハラリと舞い落ちる。首を見るが、斬撃の痕が欠片も見えない。
「……思ったより厄介だな……」
吹き出すマナを浴びながら、そう独りごちた。
そしてその後、同じく枯れ葉に隠れ尻尾を振りながら獲物を狙うアイソレイトウルフを見付けた。
「……」
何とも言い難い気分に成りつつも、バトルチキンの足音に自身の足音を合わせて近付く。
「ヘッヘッヘッヘ……!」
「フンッ!!」
「ギャッ!?」
そのまま剣を振り下ろすことで、アイソレイトウルフの脳天をかち割り倒してしまう。
「……ええ?」
その後も同じ方法で倒せてしまうアイソレイトウルフを憐れみながら、見当たる全て狩りつくした俺は、先の階層へと進むのであった。