ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
毛皮の盾の性能を試すため、ゴブリンマジシャンを探す。暫く進むと、何かを探しているゴブリンマジシャンと、毛皮の白いコーザティブウルフを見付けることが出来た。
(何探してんだ? ……てか、あの狼は……色違いか?)
木に身を隠して観察すると、色違いのコーザティブウルフが地面を掘り始めた。
ゴブリンマジシャンに土をかけながら掘り出している物を見ると、見覚えのある葉っぱと真っ赤な根がある。
(あー、あいつらもダンジョン人参を探してたのか。通りで怒るわけだ)
自身が襲われた時、やたらゴブリンマジシャンが怒っていた理由を知った。
取りあえず自身の目的を果たすため、コーザティブウルフを叱っているゴブリンマジシャンに近付く。
「──ギギギャ」
「クゥーン……」
「グギギャ──ギッ!?」
「ウォウ?」
説教するゴブリンマジシャン。それを大人しく聞くコーザティブウルフ。
それに向かって足音を立てて近付くと、ゴブリンマジシャンは即座に杖を構えるが、コーザティブウルフは首をかしげているだけだ。
「もういいか?」
「ギギャア!」
そうゴブリンマジシャンに問えば、返事に火の玉が飛んできた。
「よしこい!」
「ギッ!? ──ギギャア!」
「ウォン!」
コーザティブウルフの毛皮を巻いた盾を構えると、一瞬ゴブリンマジシャンが怯む。
しかし直ぐに意識を立て直すと、コーザティブウルフに突撃指示を出したようだ。
「フンッ! ……よし、燃えてない。なら次だ」
火の玉は盾で防ぐ。これでコーザティブウルフの毛皮に魔法耐性があることを確認する事が出来た。
そして、俺は此方に突撃してくるコーザティブウルフに対し、思い付いたひとつの作戦を決行する。
「そら、キックラビットの後ろ足だ」
「ッ!?」
ポケットから肉を取り出し、それを見せ付けるように付き出す。
すると、コーザティブウルフが急ブレーキを掛けて止まり、何やら期待したように青い瞳を輝かせて見つ尻尾を振りだした。
「あー……うん。お前はそう言う奴か。……そら、取ってこい!」
「ウォン!」
肉を投げる素振りを見せれば、コーザティブウルフから戦意が消え失せる。呆れつつも肉を遠くに投げれば、コーザティブウルフは喜んでそれを追いかけていった。
──ゴブリンマジシャンを置いて。
「ガァ!? ギギャギャ~ッ!」
突然戦いを放り出して肉を追いかけた相棒に驚愕したゴブリンマジシャン。それに対して“戻ってこーい!”と言っているかの様に叫んでいる。
──俺に背を向けて。
「お前らさぁ……」
「ギッ!? ギャ──」
呆れつつ剣を振り下ろす。その刃は多少ぶれたが、ゴブリンマジシャンの頭を問題無くかち割った。
「さて、ドロップアイテムは──お?」
「ウォンウォン! ヘッヘッヘッヘ」
「戻って来ちゃったかぁ……」
マナを吹き出し消えたゴブリンマジシャンのドロップアイテムを回収しようとし俺の元に、骨を咥えたコーザティブウルフが戻ってきた。
コーザティブウルフは骨を俺の前に置くと、何かを期待するように吠えた。
「……ほら」
「ウォフ!」
「……」
「ヘッヘッヘッヘ」
キックラビットの肉を取り出して差し出して見れば、コーザティブウルフは俺の手から器用に肉を取り食べた。
手を出して撫でてみれば、コーザティブウルフもそれを拒絶せず撫でられるがままだ。
「……ハ~……無理だ、殺せない」
「ウォウ?」
「何でもない」
こうなってはもうどうしようもない。
一度愛着がわいてしまったコーザティブウルフを、俺は手に掛けることができなくなってしまった。
先へと進む気力も削がれた俺は、暫くコーザティブウルフの写真や動画を撮ったり、餌やりをして戯れた。
そして満足した時、ポケットからもう一本のキックラビットの脚肉を取り出し、それを先程より遠くへ投げた。
「ウォン!!」
「じゃあなワンコロ」
肉を追いかけるコーザティブウルフを見送りながら、独り別れの言葉を呟いた。心情を晒せば、本当の所は家に連れて帰りたかった。
昔からペットを飼ってみたかったし、母も犬好きで、姉もそうだ。
とは言え、それができない理由が幾つもある。
先ず家がペット禁止な事と、姉が動物アレルギーな事。
そして何よりも大きな理由が、俺にはあった。
(自分の世話も禄にできてないやつが、他の命を預かっちゃダメだ……)
ダンジョンに潜り回復薬や食肉を取ってきているとは言え、現在の俺の立場は
狩りで肉や卵を獲って来れていても、それ以外の生活の助けにはなり得ていない。
そうして緩んだ自身を戒めると、ため息を付きながら帰投した。
■
ダンジョンの五階層で着替えた俺は、装備を見ながら呟いた。
「……装備の更新が必要だな」
焦げたり溶けたりしているパーカーにカーゴパンツ、タクティカルベスト。
エルボーパッドやニーパッドにも傷が増えており、よく見ればもう少しで割れるような罅もあった。
タクティカルグローブも所々穴が空いているし、ナックルガードの部分は何度もモンスターを殴った所為かボロボロだ。
タクティカルブーツは特に問題はなさそうだが、それも大丈夫とは言い難い。
今の装備ではダンジョン探索に支障が出る。
俺は装備をどうするか考えながら、ダンジョンの外へとむかった。
相変わらず騒がしい野次馬をよそに、俺は巫女──葵の元へと向かい、帰投の報告をする。
「あ、お帰りなさい。御無事でしたか?」
「ええ、ちょっとヤバかったですが、無傷です」
そう言って手を横に広げて見せる。
葵は思いの外装備が傷付いていることに気付いたのか、心配した様子。
そうして俺は、寄ってきた役人やら神主やらにダンジョンの情報を話したり、狩った獲物や撮影した写真を見せたりして報告を終え、帰投した。
「そう言うわけで、機材が欲しいんだけど……」
「あー、うん。ねーちゃんに言って?」
「ねーちゃん、頼める?」
「……うーん……」
帰宅してシャワーを浴びた俺は、母や帰宅していた姉に装備の相談をしていた。
加工に必要な工具は既に有る物を利用するとしても、やはり足りない物がでてくる。
ニートの俺には買えず、同じく傷病手当で食い繋いでいる母も気軽に手を貸せない。
そして頼みの綱の姉に頼むと、姉は顔をしかめながら唸っている。
「──……は~……まぁ、いいよ」
「お、良いのか?」
“やっぱダメか”と諦めてどうにかしようとしたその時だった。姉は大きなため息を付くと、俺の頼みを了承したのだ。
「良いよ。肉代も卵代も浮いたし、野菜代もちょっとは浮きそうだし。今後もダンジョンに入るなら、その投資として買ってあげるよ」
「おー、ありがとう!」
あてがついた俺は、早速とばかりに作りたい装備とそれに必要な道具について相談を始めたのだった。