ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
姉の仕事が休みの日。銀行で金を引き出し終えると、山城一家は近所ホームセンターに来ていた。
しかし、今日に限って何故かホームセンターには人がごった返していたのだ。
「おー、何か混んでない?」
「お前と同じ目的なんじゃない?」
「おー……みたいだね」
客の買い物かごを見てみれば、その中身は武器にできそうな工具や、何かを組み上げようとした材料が入っている。それを見た姉も納得したらしく、俺に先を促した。
「で、何が欲しいの?」
「ノミとキリ。あと頑丈なベルトとヒモとダクトテープ。そんで細かい金具とか。あんま高くなけりゃ良いけどな」
「そんだけで良いの?」
「……牛刀とナイフも欲しい」
「良いよ」
「アザッす!」
俺の心配した様な事もなく、求めるものは思いの外安く手に入った。会計の際に金額を見てため息を付く姉にダンジョンで倍にして返すと告げる。余計にため息を吐かれた。
「命が優先。無傷で帰って来てくれれば良いから」
「うっす」
「……ハー……」
姉の言葉に、軽く返事を返す。確証が無いことをバカ正直に伝えるその返事に、姉は何度目かになるため息を吐いた。
■
何日か掛けて手に入れた素材の性質を確認し、装備の設計を終えた。装備を作成する際に失敗することも考慮して、直ぐに材料を回収したりできるダンジョンに来ていた。
相変わらずざわざわと騒がしい野次馬達と、何やら物々しい装いの集団を横目に、受付をしている巫女の葵の元へと向かう。
「おはよーございまーす」
「御早う御座います。今日もダンジョンに?」
「ええ、まあ」
葵の問いに軽く答える。入場を記録するため差し出されたクリップボードを受け取ると、そこには自分以外の見慣れない名前が書かれていた。
「おお、ついに俺以外にも」
「ええ、ダンジョンに挑む人が増えました……」
何故か悲しそうに言う葵。しかしふと思い付いた事を呟くと、周囲の空気が一変した。
「……ダンジョンでの怪我って……保険、適用されるんですかね?」
「……え?」
途端に顔を青ざめる葵。ゴブ薬や傷薬、回復薬の存在を知っている俺はその疑問を軽く見ているが、葵はそうでは無い様子。
そして俺達の会話を耳にした集団もざわつき始めた。
「いや~、一部の怪我とかは
「それは……不味いかもしれませんね……」
何やら考えている葵を他所に、俺はクリップボードに自身の名前を記入しつつ他の名前を見る。
大きく枠を採られた記入欄に、一人一人が違う癖のある筆跡で名前が書かれている。
名前の欄外に記入されたマーク等を見るに、それぞれがダンジョンにチームで入ったことが解る。
(
謎の孤独感を感じながら、俺は葵にクリップボードを渡してダンジョンへと入っていった。
「さて、やるか」
ダンジョンの五階層。
広い休憩所の隅でシートを広げた俺は、そこに座って装備の作成を始めた。
作業道具を取り出し、設計図を眺める。
「先ずは……防具から作るか」
どれから作るか少し考え、防具の作成から着手すると決めた。
出来た側から装備して、慣らしながら作業をする。
その時に不調を感じれば、直ぐに調整すれば良いと考えたのだ。
バックパックからナイフとキックラビットの毛皮、コーザティブウルフの皮等を複数取り出し、早速とばかりに余分な部分を切り落としていく。
硬い毛皮も、上がったステータスや【ラージポケット】を利用して強化したナイフ等の道具を使えば難なく加工することが出来る。
「頭と手足、尻尾を切って、穴を開ける……」
形を整えた毛皮を複数作り、工具で穴を開ける。
開けた穴に金具を取り付け、ヒモを通して毛皮の貫頭衣を作る。
そして端材で節々を補強すれば、毛皮の鎧の出来上がりだ。
俺は出来上がった皮鎧をタクティカルベストの上から着てみる。すると皮鎧が厚みの割に軽く、動きやすいことに気付いた。
裏地に使ったキックラビットの毛皮も滑らかな手触りで、タクティカルベストとの摩擦を軽くしている。
「……成る程、可動域に関節の部分がピッタリだ。軽く感じるのは……ステータスのお陰か」
試すように胴体を動かして見れば、ウルフの毛皮の腰部分がちょうどよく稼働部分に重なっていたのだ。狙って作ったとは言え、こうも上手く出来ると嬉しいらしくてニヤついてしまう。
「次は腰の装備だ」
続いてコーザティブウルフとキックラビットの毛皮を四枚ずつ取り出し、余分な部分を切り落として二つ一組に縫い合わせ、穴を開けて金具を取り付ける。
そして出来た四枚のを皮を、キックラビットの面を裏にして前後と両サイドに来るようにして縫い付ける。
そして大器はバックパックから頑丈なベルトを取り出して、毛皮の取り付け位置を確認する。
「……うん、設計通りいくな」
毛皮にベルトを重ね、穴の位置を確認。
多少のズレはあるが、許容範囲内だ。
そして大器はベルトと毛皮を一体にするように紐を穴に通して行く。
「よし、完成」
出来上がった毛皮の腰当てを装備する。
試しに動いてみれば、守りたい位置を確りと守り、しかし稼働の邪魔にならないことが解る。
続いて膝当てを作る。
バックパックからニーパッドと毛皮、そして
それは二リットルの水のボトルに入れられた琥珀色の液体──
【ダンジョンツリーの樹液:ダンジョンに生える木から採集できる。接着剤として利用出来る】
「ダンジョンは不思議でいっぱいだ」
樹液に【識別】を掛けながら呟く。ふと、俺はダンジョンに入ってから得たアイテムやモンスターの順番を思い出した。
「……なーんか、
スライムから始まったモンスター。そのドロップアイテムはダンジョンに挑む者にとってあまりにも都合の良いタイミングで、狙ったように有用なアイテムを手に入れることが出来る。
暇な時に実験してみれば、それらは人にとって都合が良いアイテムばかりだった。
スライムのドロップアイテム──スライムゼリーは、【識別】で見た通りに油として利用することが出来た。
スライムゼリーを鍋で煮出し抽出することで得られる、とろみのある青い油。それはまるでガソリンのようによく燃えた。
そして味も油切れも良く、二~三度揚げ物に使っても汚れることはなかった。
その後に出現するゴブリンも、粗末ながら武器や防具を落とし、運が良ければ傷薬も手に入る。
その後の階層も肉や皮、羽根、更に強力な武具の元となる素材が手に入るのだ。
更に進めば“自分で作れ”と言わんばかりに材料に適したモンスターや
「ダンジョンは人にどうして欲しいのやら」
そんな考察を呟きながら、俺は防具の作成の続きを始めた。