ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
「……見辛いな」
八階に転移した俺は、早速装備の問題にぶち当たっていた。それは、ヘルメットに取り付けたコーザティブウルフの頭骨が視界の殆んどを被っているという問題だった。
「眼鏡が問題だな」
もし眼鏡を外せたなら、ゴーグルを保護眼鏡に変え、頭骨をもう少し切り詰めることが出来る。そしたら、視界はもう少しは良くなっていたかも知れない。
「回復薬で目薬とか……いけるか?」
そんなことを考えながら歩いていると、道の先に此方に背を向けて進んでいるゴブリンマジシャンとコーザティブウルフを見付けた。
「よし、実験開始!」
力強く言葉を発することで、敵に自身の存在を知らせる。本来なら疑問を持つ行為だが、今回は実験のために攻撃してもらわなければならないのだ。
「ギッ? ゲギャッ!?」
「ウォン!? ──クゥン……」
「ん~?」
音に気付いて振り返ったゴブリンマジシャンとコーザティブウルフだったが、俺の姿を目にした瞬間、まるで化物を見たようなリアクションで飛び下がった。
その想定外な動きに驚く。なにせ今までの装備では、ゴブリンは舐め腐った態度で襲い掛かってきたからだ。
しかし、考えてみれば直ぐ想像できるものだった。
今の俺の姿は、コーザティブウルフの頭骨を三つも身に付け、ウルフの歯が両側に並べられた剣を持ち、その身体を毛皮で包んだ異形の大男だ。
ゴブリンやウルフ達からすれば、相棒や家族、同族の骨や皮を被ったデカい化け物にしか見えないのだろう。
「成る程、こういう状況になるのか。まあ、それはそれとして」
一人納得した俺は、ゴブリンに魔法を撃たせるため、分かりやすく敵対的な態度を見せる。
「──カタカタカタカタ」
「ギッ!?」
「ギャン!? ウォンウォンウォン!!」
前傾姿勢を取り、首を傾げて
本来は
「で、効果の程は?」
「ギッギッギギ──ゲギャー?!」
「キューン、キューン……」
「
本来の想定では、仲間の亡骸を弄ばれてブチギレたゴブリンマジシャンが魔法を放ってくる筈だった。
だがゴブリンマジシャンとコーザティブウルフは怖じ気にやられて錯乱してしまったようだ。
恐らくだが、コーザティブウルフの頭蓋骨の空っぽな眼窩のその奥にある、無機質に見つめる俺の目を認識してしまったのだろう。
その時俺は確認していないので知らなかったが、装備のセットボーナスで相手に【怖じ気】させる効果が発動し、更に緊張している事で【プレッシャー】も発動していたらしい。それが敵の発狂を更に煽っていたようだ。
その結果【怖じ気】と【プレッシャー】にやられたゴブリンマジシャンは、腰が抜けたのか杖を使って地を這って逃げようとしている。
コーザティブウルフは尻尾を腹に巻き、股間をビシャビシャに湿らせながら、何かに脅えるように伏せている。
「……次は止めとくか」
「ギギギギッ──ギィギャガガガガッ!!」
「うおっ!?」
早々に見切りを付けた俺は、二匹を仕留めるため剣を緩く構えて近付いた。
それが止めになったのであろう。遂に恐怖の限界に到達したゴブリンが、死に物狂いで全ての魔力を込めて火の玉を放った。
「だあああっ! 」
俺は咄嗟に盾を構えて凌ぎ、それを斜め後ろへと弾いた。
「……お、成功か?」
慌てて盾を見るが焦げ跡ひとつ付いておらず、手で触れても少し温かい程度で済んでいた。装備にも問題は無い。
「実験は成功だ! ……で、コイツらをどうするか」
想定通りに事が済んで喜ぶ俺だったが、白目を剥いて泡を吹いているゴブリンマジシャンと、一層哀れな程に脅えているコーザティブウルフを見てやる気が削げてしまう。
「【識別】──ふーん、魔力切れねぇ……」
違和感を覚えた俺は【識別】でゴブリンマジシャンを見た。すると、ゴブリンマジシャンの状態に魔力切れと書かれていた。
その詳細を見れば、魔力を限界まで使うと頭に激痛が走り、酷い状態だとその場で気絶してしまうと書いてある。
そうして【識別】の結果を見ながらゴブリンマジシャンにとどめを刺し、コーザティブウルフを見る。
酷く脅えているようで、身体は震え、荒く速い呼吸に苦しんでいる様子。
「殺しとくか。素材も結構使ったし」
「さて、九階はどんなもんかなー」
ゴブリンマジシャン達を相手に無双し、素材とドロップアイテム、階層にある宝箱と野菜を出来る限り回収した。
時間を確認すると夕方まで少し余裕があったので、次の階層の下見をすることにしたのだ。
「おー……すっげぇ森!」
九階層は、見渡す限りの森だった。
足元を見ても道らしい道もなく、木々も無造作に生え、未知の木の実や茸を生やしている。
耳を澄ませて周囲を探れば、聞いたことの無い鳥の鳴き声や、フゴフゴとした鼻の音、枯れ葉を踏み歩く力強い足音が聞こえてくる。
「猪か~……」
音の方を見てみれば、茸を探しているのか地面を嗅ぎながら鼻や突き出した牙で枯れ葉や枝を退かし歩いている猪を見付けた。
立派な牙の生えた、全長二メートル程の荒々しい姿の猪──ワイルドボア。
その姿を見て、久し振りに怖じ気が沸いてくる。
俺はそれを抑えつつ、 帰投するためワイルドボアから目を離さずにゆっくりと下がる。
そこでふと、視界の端──側の木の根に目が行った。
「茸か……土産に採ってくか」
ワイルドボアが余所見している事を確認し、その隙にしゃがんで茸をもぎ取る。
ブチッと小気味良い音を立てて採れた茶褐色の茸は、肉厚で軸も太く、何処か食欲を掻き立てる香りがする。
「ブルルル……!」
「ん? ……あー、お前の獲物だってのか?」
茸を取る音を聞き取ったのか、さっきまで別の方向を見ていた筈のワイルドボアが俺を睨み付け威嚇している。その原因を確かめるため、茸を左右に大きく動かしてみる。するとワイルドボアもそれにあわせて鼻先が動いた。
怒らせた原因は茸を取ったことで確定だった。
その行動が挑発として効いたのか、ワイルドボアは此方に向き直り突進の姿勢をとった。
「は──マズッ!?」
「ブギィイイィ!」
最初は何気無い四足歩行だった。それが段々と倍の速度で加速して行き、あっという間にワイルドボアは俺の目の前まで迫っていた。
その時の事を後から考えれば、突進を避けられたのは【生存本能】の成せる技だったのだろう。無意識の内に両拳を握った俺は、それをハンマーの様に思い切り地面へと叩き付け、その反作用を利用して上へと跳んでいたのだ。
突然目の前が爆発して驚いたワイルドボアはブレーキをかけようと踏ん張るが、荒れた地面に足を取られ、勢いそのままに牙が木に突き刺さってしまう。
「──あっぶねぇ~~~!」
何とか無事に着地した俺は、必死に牙を抜こうと暴れるワイルドボアを見て思わず叫んだ。
スキルである【生存本能】が発動して回避出来たから良かったが、そうでなければ牙の突き刺さった木の様に今頃は重症を受けて死んでいただろう。
それが解ったからか、油断した自分に恥を覚え、命を奪おうとしたワイルドボアに怒りが沸いてきた。
視界の端にチラチラと【憤怒】が発動しようとしているのが見える。それを深呼吸することで無理矢理抑え付け、冷静さを取り戻す。
「……それはそれとして」
油断を戒め、恥と恐怖を噛み締めた俺は、未だに木に突き刺さった牙が抜けないため暴れているワイルドボアを見る。
“今なら狩れるな”と思った俺は、鞘からマカナを抜いて構えた。
何処を切るべきか考える。取り敢えず牙が抜けた時の事を考えて、後ろ足の健を傷付けることにした。
「ふん! ──はぁ!?」
マカナを思い切り振り抜き、剣先がワイルドボアの健を捉える。だがしかし、その一撃は毛を少し削いだ程度で終わってしまった。
「硬すぎんだろ……」
「ブフゥー……ブフゥー……!」
その後も何度か振るうことで健を傷付けることに成功。しかし、完全に断ち切る事はできなかった。
足の健をやられたせいか、ワイルドボアの暴れる力が弱まっている。
俺は今なら
それは、コーザティブウルフの大腿骨を棍棒に括り付けただけの単純なハンマーだった。
だが今のワイルドボアに止めを刺すならば、これくらいの武器が必要だと考えたのだ。
「やるぞ」
「ブギィー!」
俺が何をするか察したのか、ワイルドボアが三本の脚を踏ん張り必死に抵抗する。
「ふん!」
「ブギィイイィ!」
ワイルドボアの頭目掛け、骨のハンマーを振り下ろす。 ワイルドボアが身動ぎしたため狙いがそれ、一撃で意識を奪うことに失敗する。
そうして俺は、ワイルドボアが気絶するまで何度も何度も骨のハンマーを頭目掛けて振り下ろし続けた。
「ふうー……やっとか……」
ワイルドボアを気絶させ、首を切ることで血抜きの要領でマナを抜くことでワイルドボアを仕留めた。
ワイルドボアは最後まで必死に暴れていたが、結局牙は最期まで抜けることはなく、倒した後でさえ木に突き刺さったままだった。
それをワイルドボアの首を切り落とすことで軽くし、角度を変えて引っ張り難なく木から牙を抜き取る。そんなワイルドボアの頭を処理しながら、俺は考え事をしていた。
(死にかけた……油断してたんだな。装備を作って、それを着て、魔法相手に無傷でやり抜けたから……)
一瞬の無敵感に飲まれていたんだろう。俺はそう考えて、より慎重に、より強くなろう決めた。
スマホで時間を確認すれば、もうすぐ夕方に差し掛かる頃だった。
「……帰るか」
そう呟くと、ワイルドボアを雑に解体してバックパックに仕舞い、本来の目的通りに帰投した。