ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
第二次スタンピードから一週間たったある日の朝。
俺は朝からワイルドボアのステーキを楽しみながら、ダンジョンについての情報をSNSを通して集めていた。
「……やっぱ
SNSのトレンドには、未だに【スタンピード】の文字が上がっている。なんとこの一週間の内に、再びスタンピードが起きたのだ。
後に第三次スタンピードと認定されたそれは、あまりにも呆れると同時に、どうしようもない程に人々をダンジョンへと駆り立てる意義と理由を生み出したのだ。
それはダンジョンを塞ぐことで起きた第一次スタンピードに始まり、ダンジョンを攻撃することで起きた第二次スタンピード。
……そして、ダンジョンを
それが第三次スタンピードの発生原因だった。
封鎖してもダメ。排除しようもしてもダメ。そんな我が儘なダンジョンに対し、一部の地域で行われたダンジョンへの対処法。それが、ダンジョンを放置するというものだった。
しかし、それも無駄な抵抗だった。
再び世界が控え目に揺れ、またスタンピードかと驚いたものの、ニュースでもSNSでもそんな話が流れてこなかったのだ。
そして、その時の揺れがスタンピードだと判明したのは、とある企業の守衛からの通報だった。
『ダンジョンからモンスターが出現した!』
その通報によりダンジョンに訪れた警察官が見たのは、ダンジョンの前で好き勝手暴れるゴブリンの部隊だった。
そんな小規模なスタンピードが世界中の放置されたダンジョンで起こり、ある一部の地域では死者も出たとか。
その結果、国家安全保障理事会がダンジョンに対する三つの禁止事項を定めたのだ。
とは言え、日本は既にその三つの内二つは既に禁止していたため、あらたに【放置しない】を禁止する事を伝えるだけで終わった。
「ご馳走さん」
「はい、お粗末様」
朝食を食べ終えた俺は、食休みを兼ねて他の情報を漁る。しかし、出てくる情報は俺の興味をそそるものではなかった。
第一次スタンピードと第二次スタンピードの規模とモンスターの違いの考察。
ダンジョンに対する向き合いかたや役立ちアイテム、装備やトレーニング等。
「……ああ、やっぱりか」
大概は意味の無いものや陰謀論じみた戯れ言だったが、中にはためになる情報も有る。
特に社会の裏でダンジョン産のアイテムが非合法に出回っているという情報は、社会の変化を呼ぶ起爆剤として、個人的に面白いと思うものだった。
そうして食休みも終えた俺は、ダンジョンに向かうための準備を始めた。
■
「これでよしっと……」
ダンジョンの五階層で装備を着た俺は、やはり気になって眼鏡を弄っていた。
(眼鏡を付けると視界が狭まる。かといって外すと、今度は世界がボヤける……どうしたもんかね~……)
それは、コーザティブウルフの頭蓋骨を付けたヘルメットに対しての不満だった。
本来なら、そこで頭蓋骨を外すなりすればすむ話なのだが、装備を【識別】して見た結果、その選択肢が取れなくなったのだ。
【ウルフシリーズ:ウルフ種の素材で作られた防具。高い防刃性と魔法耐性を持つ。セットボーナス:攻撃+5。防御+4。魔法耐性+8。隠密+2】
このように、手作りの装備にもステータスに対する補正が入っていたのだ。
そして、セットボーナス。同じ素材を使った防具か、
これがあるが故に、俺は装備を下手に弄る事ができないでいた。
新たに装備を作ろうにも、細やかな部品は使いきってしまい、再び購入しようにも自身は素寒貧。
これ以上姉に頼る訳にも行かないので、どうしようもなくなり今に至る訳だ。
「……いや、まだ何かあるはずだ」
そこでふと思い付いたことを確かめるため、俺は回復薬(小)をタクティカルベストのポーチから取り出し、再び【識別】をかける。
【回復薬(小):亜人系モンスターやその集落で低確率で取得可能。身体を治療し、体力を少し回復する万能薬。外傷には塗って使い、それ以外は飲んで使用する】
「……試してみるか」
回復薬(小)の説明を読み進めた俺は、そこに書かれている『身体を治療する』という部分を見てある実験をすることにした。
回復薬の効果事態は、母がその身をもって証明している。それならば大丈夫だろうという考えで、俺は回復薬(小)のコルクを抜くと、中身を
「──うぉぉ……!」
目に落ちた回復薬はそのまま眼球を包み、その機能を正常な状態へと治療する。そして余った薬液が目の奥へと染み込み、目の機能を司る部分を癒していった。
「……これで治って──うげっ!?」
瞬きしながら薬を馴染ませていた俺は、治療反応が無くなると目を開けた。
すると、治療した目とそうでない目の視力の差に脳が驚き、誤差を修正しようとして齟齬が生まれ、エラーを吐いたのだ。
吐き気を催した俺は、急いで治療した方の目を閉じて、深呼吸をして息を整える。
「ハァー……一応、効果有りだな」
落ち着いたので、眼鏡を外して治療を終えた目で周囲を見る。すると、眼鏡を掛けていた時以上に視界が清んでいて、周辺の光景がより良く見えた。
そのままもう片方の目を治療した俺は、ヘルメットの改造を始めた。
とはいっても、眼鏡があった部分を狭めるだけなので、その改造もステータスのゴリ押しで直ぐに終わった。
「……おお、すげぇ! 滅茶苦茶よく見える!」
改修した頭蓋骨のヘルメットを装着した俺は、良好になった視界に喜んだ。
目の部分を人に合うように削り、鼻を貫通させることで広げた視界は、俺の想像以上の着け心地を生み出していた。
「……さて、行くか」
装備の最終点検を終えた俺は、次の階層の猪対策で作ったハンマーを取り出して装備する。
それは、戦槌と呼ぶには余りにも無骨で荒々しい物だった。
ワイルドボアの腰から後ろの骨を基礎とし、ダンジョンで採れた木材で後ろ脚を軸に無理矢理固定。
その先に同じワイルドボアの頭骨を括り付けた、接着剤まみれの毛皮と紐で包まれた武器──【
全長二メートルのワイルドボアの素材で作られたそれは、俺が振るうにピッタリな程に大きく、打撃部分の頭蓋骨も攻撃性に問題ないサイズと鋭く頑丈な牙を持っていた。
そうして俺は、ワイルドボアのリベンジをしに向かった。
「ッシャア! 来いやアァーーッ!!」
「ブギィイイィ!」
九階層。そこで俺は猪骸槌を構え、ワイルドボアを正面から打ち倒さんと大きく吠えて挑発する。
すると、その叫び声はウルフスカルヘルムを反響しながら抜けて行き、聞くものに怖じ気を走らせる怪音と成って轟いた。
洞窟を抜けるスキーム音に似た叫び声は、ワイルドボアの身体を撃ち、恐怖させた。
「ブギャアアアアア!?!?」
毛を逆立たせながら半狂乱で突撃するワイルドボア。
それを待っていましたと言わんばかり、俺は猪骸槌を振り上げ──打った。
バンッ!! と響く破砕音。
猪骸槌は見事にワイルドボアの鼻先を捉え、突進を押し返す程の打撃力をもって一撃で仕留めたのであった。
「ッ~~~!! 最ッ高だぜぇッ! ハッハーッ!!」
自身の命を奪い掛けた敵を一発で屠ることが出来た。その事実に興奮して雄叫びを上げる。
「ブルルル……」
「あん? 」
その所為か、雄叫びを聞き付けた別のワイルドボアが俺の前に現れた。
「ククク……ちょうど良い、さっきのが紛れじゃないってことを証明させてくれ!!」
「ブルルル……ブギィ!」
再び雄叫びを上げて挑発する俺に向かって、ワイルドボアが突撃を始めた。
こうして一週間掛けてレベリングした成果を実感しつつ、俺は貪るようにワイルドボアを狩るのであった。