ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
「フフフ……やり過ぎた」
積み上がったワイルドボアの死体の天辺。そこに寝転んで余韻に浸っていた俺は、自身のやらかしに気付いて後悔の一言を呟いた。
「解体めんどいな~っと」
死体の山から飛び降りて軽々と着地すると、後の事を考え嘆息する。死体の山を数えると、その数は十を越えていたのだ。
「……まあ、後で考えればいいか」
全てが面倒になった俺は、ワイルドボアを全てボストンバッグに収納──する事ができないことに思い至る。いくら【ラージ・ポケット】によって拡張されているとは言え、収納リットル量にも限りはあるのだ。
それにもし全てのワイルドボアを持ち帰れたとしても、ワイルドボア十匹分の肉を保存する場所なんかない。
「もったいねぇ~……あ、そうだ! 別に俺等だけで食う必要無いじゃん!」
俺は良い方法を思い付いたと喜び、ワイルドボアを解体し始めた。先ずはワイルドボアの部位で食べて一番美味しかったロースと肩ロースを剥ぎ取り、ポリバックに詰めていく。
そして余った部分は、もしもを想定して持って来た保冷バックを取り出して、それに全てねじ込む。
その結果、俺は十匹分のワイルドボアを持ち帰れる状態になった。
そのかわり、両手を荷物袋で一杯とか言うダンジョンに有るまじき姿になってしまったが。
とは言え、レベルアップした今の俺のステータスなら、これくらいなんてことない筈だ。
「ん、クソ重い。二リットルボトル一杯の段ボールを沢山持ったくらい重い。キレそう」
文句を言いつつも、自身が仕留めた獲物を全て捨てることはしない。
本来なら獲物の一部を持ち帰り、残りを捨てる選択をする筈だ。だが俺の強い収集癖と、日本人特有こ勿体無い精神が強く顔を出したのだ。
その結果、自身の欲する物や自身が手に入れた物に対する執着心で少し無理をし、持てる分の全てを得ようと欲張ってしまっていた。
「うーん……まあ、少し見るだけなら大丈夫だろ」
重くなったバックパックとボストンバッグ。そして大量の保冷バックを手に持ちながら、飛んだり走ったり、挙げ句武器を振ったりして調子を確かめる。
その結果大丈夫だろうと判断し、俺は先の階層へと進んでしまった。
「うぉぉぉ……! まじかッ!」
十階層に降り立った俺は、眼前に広がる光景に驚き呻いた。
見渡す限りの広い森。その先にある、丸太で囲われた集落。立ち上る煙の量や数から見るに、相当の数が居るのであろう事が分かる。
「まじか、鍛冶までやってんのかよ……」
一際強く黒い煙の元からだろう、鉄を撃つような音が此方まで響いて来ている。
それだけで、集落の技術力を図ることができる。
集落を築き、そこに棲むであろう敵は、鉄を扱う力がある。
「……鉄を……道具……武器……ゴブリン?」
浮かび上がる予想を、単語を呟きながら繋げて行くと、ある一つのことに行き当たる。
集落を築き、鉄を利用できる知性と体を持つモンスター。
思い付いたモンスターの名前を呟けば、ストンと
「道理でねぇ……」
下に降りる程にやたらと整った装備をもっていたゴブリン達を思いだし、その時感じていた違和感が解消された。
「ここがゴブリンの拠点か……」
謎の集落──ゴブリンの棲む集落を見下ろしながら俺は更なる収穫に静かに心を踊らせた。
「……」
十階層の入口に荷物を置き、周囲を警戒しながらゴブリンの集落へと近付いて行く。自身の強力な力に慢心し、好奇心が抑えられなかったのだ。
ゴブリンが切り開いたのであろう道を避け、鬱蒼とした森を行く。
遠くから観察した限りではあるが櫓が見えたので、その対策と遭遇戦を避けるための行動だ。
「ギー」
「ガギギ」
「……」
案の定、正規の道をゴブリンご歩いている。
そんなゴブリン達を見送りながら、先へと進む。
「……ふぅー……」
道すがら見付けた未知のアイテムを【識別】で視たり採集しながら、時にゴブリン達を避け、時に単独で行動しているゴブリンを相手に不意討ちの練習をする。
そうして進み続け、漸くゴブリンの集落付近まで近付くことが出来た。
(ここまで来たはいいが……どうするか……)
潜入経路を考えなが観察する。今の状態は、少し疲労が溜まっており、潜入するには限界が近い状態だ。バックパックもかなり重く、油断すると体を持っていかれそうになる程に動きに悪影響を出している。
(……やっぱり帰るか)
思考を帰還に向けて変更し、それに合わせて帰ろうと集落に背を向けた、その時だった。
「ッ! ギャギャー!!」
「うおっ!? やっべ!」
背後から、集落へ戻って来たゴブリンと遭遇してしまった。
「黙れぇッ!」
「ギャビ──」
「……良し、これで──」
「ギャガーッ!! ギャガガーッ!!」
「やっぱダメかぁッ!」
急いでマカナを抜きゴブリンの喉を斬り裂くが既に遅く、侵入者の存在がゴブリン達にバレてしまった。
急いでその場を離れるが、ここで欲張って集めた荷物が邪魔をする。
「クッソ重いわ!! 無理するんじゃなかった!!」
「ギャガガァーッ!」
「うわ来たぁッ!?」
地面を砕きながら走る俺に、外敵を排除すべく武装したゴブリン達が追い付いてきた。
「ギャガァ!」
「チィッ!!」
「ギャ──」
「ギガァ!」
「見えとるわッ!」
「ガァ──」
一番槍を決めるため飛び掛かってきたゴブリンを武器ごと真っ二つに切り裂き、返す刃で二番槍のゴブリンを切り捨てる。
飛来する矢を切り落とし、切りかかってくるゴブリンを盾で受け止め、手脚を切り落として盾にする。
負傷したゴブリンの首根っこを掴み掲げれば、それを見たゴブリン達は怯み、攻擊の手を緩めるしかなかった。
ゴブリン達は、死に物狂いで俺を排除しようとはしていないようだ。
その隙に後退しながらゴブリンを切り続ける。
ゴブリンが攻撃しようとすれば、ゴブリンを盾にして怯ませ切り捨てる。
矢が飛んで来れば、ゴブリンを盾にして防ぐ。
ゴブリンの耐久に限界が来れば、ゴブリンに投げ捨て、代わりを捕まえる。
どちらが敵か分かったもんじゃないような戦い方をするが、一対多の状況ならばある意味これも正解の手段だろう。
「まだ来るのかよ……」
「ギギャーッ!!」
「痛ッ!? テメェ!!」
「グギャ!?」
「ギギャーッ!」
「づあ゛っ!? ──ガア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!」
一息付いた瞬間を狙ったのか、ゴブリンソードマンの攻撃が俺の脚を切り付ける。
それに反撃した隙に、更に他のゴブリンに槍を突き刺される。
その後も複数のゴブリンから攻撃されダメージを受け続けたことで、ついに【激怒】してしまう。
複数発動したスキルが俺に力を与え、その代償として徐々に思考力と理性を奪って行く。
辛うじて残っていた理性がバックパックを下ろした後、そこに居たのは、一匹の暴獣だった。