ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
「ウオオオオォォォォーーー!!!」
「ギッ!?」
「ギギャ!?」
一匹の暴獣となった大器が雄叫びを上げると、その声はウルフヘルムを介して音を変質させ、悍ましい怪音となり放たれた。
それはまるで、亡霊が足を掴み地獄へと引きずり落とさんとする様だった。
その音を全身に叩き付けられたゴブリン達は、恐怖に身をすくませる。
「ウオゥア゛!!」
「ギッ──」
「ギャガァ!?」」
大器はしゃがみ込むと、バックパックを下ろした際に落としていた剣と盾を拾う。
そして爆発と見紛う程に強く地面を蹴ると、ゴブリン達を撫で斬り始めた。
「ギィイィ~~~!?」
一つ爆発が起きる度にゴブリンのパーツが宙を舞う。
首が花火のように打ち上げられ、手足は木々に装飾として彩りを与え、胴体はスプリンクラーの如くマナを撒き散らす装置と化していた。
そんな光景を目にした一匹のゴブリンが腰を抜かす。
周囲に破壊をもたらす明確な
「ギッ……ガァ?」
しかしその頼みのゴブリンソードマンが、何故か武器と盾を落としてしまったではないか。
“何を?”と問うように視線を上げれば、ゴブリンソードマンの両手が切りつけられており、
そんなゴブリンソードマンが僅かに離れ、腰の抜けたゴブリンに向き直る。
「ギャガガ──ガ、ガァ……」
それに“どうした?”と言うように吠えるゴブリンだったが、何故かそこにあるウルフの頭蓋骨と目が合ったことで声が詰まってしまった。
それは、確かにコーザティブウルフの頭蓋骨だった。
何故かゴブリンソードマンの頭の位置にあるその頭蓋骨が、何故か敵の武器である牙の生えた木の剣を咥えていた。
一瞬、ゴブリンソードマンが敵から勝ち取った物を装備しているのかとゴブリンは思った。
だが違う。ゴブリンソードマンはそんな事をしない。剣を咥えるなんてだなんて……それは子供のやることだ。
まさか強烈な戦闘を経験し、一度死ぬことで新たな存在へと進化を果たしたのか?
「グギ……ガァ……」
僅かに聞こえたゴブリンソードマンの呻き声が、彼の死や土壇場での進化を否定する。
見れば、切りつけられ
では、
それに答えるかのように、ウルフの頭蓋骨がゆっくりと口を開く。
「ガッ……アガァアッ……」
……ああ、違う。これはゴブリンソードマンでも、その死体でも、進化した上位種でもないッ!
これは、
その証拠に、ウルフの頭蓋骨の真横に、まるで日が昇るかのようにもう一つの頭蓋骨がゆっくりと現れたのだ。
その頭蓋骨の目は、赤く煌々と輝いていた。
その強い輝きに、ゴブリンは心臓を掴まれたような錯覚に陥ってしまう。
そこでふと、周囲が静かになっていることに気付いたゴブリンは、頭を過ったどうしようもない事実にただただ恐怖した。
自分と目の前のゴブリン以外のゴブリンが、欠片も存在していないのだッ!
「ガッガアァァッ……」
その事実から更に畳み掛けるように、目の前のゴブリンからブチブチと肉の千切れるような音と呻き声が聞こえた。
「ギッギアッ……!」
“止めてくれ!”とゴブリンは
しかし、それは通らない。
「ガッガアァァッガガアァァァァ──」
「──ギギャーーーー!!!?」
かくして、ゴブリンソードマンの頭が上下に引き裂かれた。
ゴブリンはただそれを見ていることしかできず、崩れ落ちマナを吹き出すゴブリンの向こうから此方を見下ろす、ウルフの頭蓋骨を被り毛皮を纏う
■
「アギャ──ギャギャ──」
「……」
発狂し踞るゴブリンの首を切り落とす。敵がいなくなったことで怒りも収まり、俺は正気を取り戻していく。
「……あー、痛ってぇ~~~~!」
アドレナリンの放出が止まったのか、じわじわと痛みが戻って来る。
「ッ、ダアァァァァ!!」
体に突き刺さっていた矢や槍を引き抜き、その場に落ちていた回復薬を拾って飲みながら、身体を回復させて行く。
血生臭い土と汗の香る場所で、CM依頼が来そうな程に爽快感溢れる回復薬の飲みっぷりを披露する。
「……ん?」
その時、俺は突如感じた寒気にゾワリと鳥肌が立ったことに気が付く。
それを戦いの余波によるものと思ったが、ふと感じた視線を追ったことで、それが勘違いだったと理解した。
ゴブリンの集落のその奥で、一際強い存在感を放つ、大きなゴブリンを見付けたからだ。
その身長は目測でも二メートルは越えており、鉄塊と見紛う無骨な大剣を手に持ち、鉄を豊富に使用したであろう鎧を着ている。
ゴブリン集落のボス──ホブゴブリンだ。
「……ありゃ無理だな。帰るか」
それを見て彼我の
「ゴギャアアアァァァ!!!!」
そんな俺を咎めるように、ホブゴブリンの雄叫びが轟いた。
「おいおいまじかよ!」
「ゴギャアアアアア!!」
何と、ホブゴブリンが逃げる俺を追い掛けてきたではないか。
「俺に戦闘の意思は無いぞ!」
「ゴガアッ!」
必死にアピールするが、ホブゴブリンはそんな事を欠片も気にせず、その鉄塊の様な大剣を振り下ろした。
「どわあっ!?」
大剣が叩き付けられると、なんと地面が爆発した。
「クソッ! そんなのありかよ!」
地面を転がりながら、逃げられないと判断した俺はマカナを抜き、ホブゴブリンと対峙する。
「……うーん、死ぬかもしれん」
震える手を、有り余るはずなのに物足りない力で抑えつける。迫る死の恐怖に軽口を叩いて気を紛らわせなければ、今直ぐに
「グググ……」
「ようデカブツ、そのまま帰っちゃあ──くれないかッ!!」
俺の言葉を聞く気が無いようで、ホブゴブリンは大剣を横薙ぎに振り払う。
それをバックステップで避けた筈だが、風圧に煽られバランスを崩してしまった。
「このッ筋肉馬鹿めッ!!」
「ゴギャア!!」
「ぐおおおッ!!?」
バランスを崩した俺に対し、ホブゴブリンは返す刃を叩き込んできた。
ギリギリで体の前に盾を出し、駄目押しにマカナを盾に重ねる。
しかし、その抵抗もホブゴブリンによる強力な一撃によって砕かれてしまった。
「──ガアアッ! ……クソ、またヒビが入ったッ!」
左腕に感じた覚えのある痛み。間違いなく骨にヒビが入ってしまったようだ。
だが叩き飛ばされたお陰か、ホブゴブリンと距離が取れた。
ホブゴブリンは弱った俺を甚振るかのようにゆっくりと歩いているが、しかしその気になれば一瞬で距離を詰められるだろう。
(クソッ……どうにかして生きて帰らねぇと……そうだ!)
俺は思い付いた事を実行すべく、比較的無事な右手でポーチを漁り、緊急時用のアイテムを取り出した。
「クソックソッ! あっちいけよデカブツ!」
「ギッギッギッ………ギャハハハッ!!」
「うわ、笑いやがった」
アイテムを利用すべく、腰の引けた情けない素振りを演じて見せる。
すると、ホブゴブリンが演技に騙されたのか、怯えた素振りをする俺を嘲笑したのだ。
煽るようにゆっくりと迫るホブゴブリン。
「良し、今だ……!」
そんなホブゴブリンに、俺は青色の液体が入ったガラス瓶を投げつけた。
「ギャギャギャ──ギィッ!?」
咄嗟のことで、ホブゴブリンはガラス瓶を叩き割る。そして、中身のブルーオイルを被ってしまった。
「しゃあっ! これでも喰らえ!」
ブルーオイルを嗅ぎ何を被っていたか確認していたホブゴブリンに、その隙を付いて火炎瓶を投げ付けた。
「ギィ──ガアアアアア!!?」
途端、大炎上するホブゴブリン。
「今だッ!!」
そして俺は、ついでと言わんばかりにありったけの除菌玉を叩きつけて煙玉として利用し、別階層へと逃げ切るのであった。