ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜   作:黒木箱 末宝

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夜襲、ゴブリン集落【前編】

 夜。ダンジョンのある広場に、ゴブリンの集落へ突入する準備を終えて向かう。

 そして到着したその場所には、何時も通りダンジョンを警備する警察官と、巫女の葵の姿があった。

 

「お疲れ様でーす」

「「ッ!? ……お疲れ様です」」

 

 ダンジョンの見張りである警察官と会釈をしあう。一瞬身構えたが、それも仕方無いだろう。何せ今の俺は、潜入用に選んだ真っ黒な服装でいるからだ。

 

 そんなのが夜の闇からダンジョンに向かって現れたらそりゃ身構えもするだろう。

 

「えッ!? ……あ、山城さん。こんばんは~」

 

 あくびを噛み殺している葵は、一瞬驚いたものの俺の声で正体が解ったらしく、あくびで出た涙を拭いながら歩み寄って来た。それに返事を返しながら、俺は前日の事を思い出した。

 

 

 

 ダンジョンの探索を終えた俺は、葵に夜にダンジョンの探索をすると伝えた。

 

『え、それなら見送りしますよ!』

 

 そう言って聞かない葵に、夜も遅い時間にやるし別にいいと言ったものの、葵はその言葉を受け入れず、夜に待つと言いきったのだ。

 葵が何故そこまで見送りにこだわるか分からなかった。だがその真剣な眼差しに折れ、俺は逆に見送りをお願いしてしまうのだった。

 

 

 

「……ほんとに行くんですか?」

「ええ、あと少しで行けそうなんで」

 

 心配も何のそのとばかりに言う俺に諦めたのか、葵も溜め息をつきクリップボードを差し出してくる。

 それに名前を書くと、葵は静かにそれを眺めて言った。

 

「気を付けてくださいね」

「はい、いってきます」

 

 葵達の視線を背に受けながら、俺は緊張を解すように一息ついた。

 

 

 

 

 

 

「うーん、真っ暗」

 

 新しい潜入用の装備を身につけた俺は、十階層の高台からゴブリンの集落を見下ろしていた。

 予想したとおり、ダンジョンは地上と経過時間がリンクしているようで、この階層も真夜中の様相を見せている。

 

 ここまで来たなら後は進むのみ。そこで、俺は今一度装備に不備が無いか改めて確認を始めた。

 

 服装は動きやすい普段着の様なパーカとカーゴパンツ。色味は全体的に黒く、光を出来る限り反射しないよう艶消ししている。

 そして減音のため、袖や裾の余分な部分を黒いテープで止める。余った部分通しが擦れて音が出るのを防ぐためだ。

 当然バックパックにもその処理はされている。ズレて音が出ないよう胴体を締めるベルトはキツめにしており、それでもズレるのでテープで胴体と貼り付けた。

 例え緊急事態が起きたとしても、今の俺の力ならテープを引き千切ってパージが出来るから問題無い。

 

 グローブも靴も黒く艶消ししており、サイズも丁度良く咄嗟の動きに支障は無い。

 そこにバラクラバ(目出し帽)を被り、目元をドーラン──油性のフェイスペイント──で黒く塗り、その上から黒いメッシュのゴーグルを着けている。これで目の反射光でバレる事は無いだろう。

 

 実際にゴブリンの真横に立って試したが、何故かバレなかったした。

 

「これならいける」

 

 装備のチェックを終えた俺は、暗闇に紛れてゴブリンの集落へと向かった。

 

 木の裏や上、草むらの中に隠れながら道中のゴブリンを暗殺する。とは言えそれは難しいものではない。小石を投げて音を出し、視線を反らした瞬間に音を抑えてゴブリンを殺すだけだ。

 

 倒れる瞬間にゴブリンを草むらへと引きずることも忘れない。……一回それを怠ったら、異変を感じて警戒したゴブリンに見付かって包囲され掛けたのだ。あれは焦った。

 

 その後もゴブリンを小石で、コーザティブウルフを肉で誘導して各個撃破した俺は、ようやくゴブリンの集落までたどり着いた。

 

(……どうすっかな~)

 

 視界に映るゴブリンは四匹。門の両サイドに二匹。門の左右に建てられた二つの櫓に一匹ずつ。

 幸いな事にゴブリン達はプログラムされたような行動を繰り返しているため、パターンを覚えて対策した行動を取れば問題はない。

 現に夜だと言うのに、集落からは鉄を叩く音が響いてきている。

 この音を利用すれば、潜入をより優位にすることができるかもしれない。

 

「っし、やるか……」

 

 呼吸を整えて行動を開始する。

 俺から見て右側の壁に向かって小石を投げる。木の壁に小石がぶつかる音でゴブリン達の視線を誘導し、意識のそれた瞬間に左側のゴブリンに向かってナイフを抜き走り寄り、口を抑えて喉を突く。

 

「ッ!?」

 

 鉄を叩く音に合わせて突き刺されたナイフは、呻き声と刺突音を隠してゴブリンの命を奪う。

 喉を押さえるゴブリンにトドメを刺し、反対側に居るゴブリンに背を向かせるため、小石を投げて気を引く。

 自身の横から鳴った物音に気を引かれたゴブリンは、狙いどおりの行動をする。そして同じように喉を突く。

 息絶えて身体をマナに変えたゴブリン。その残骸から使える物を拾い、俺は集落へと潜入する。

 

 正門を音もなく潜る。集落側には警備のゴブリンは立っていない様子。

 門の扉の陰に隠れた俺は、ゴブリンの集落を見回した。

 

 向かって左側に川が流れており、その側に鍛冶場がある。その奥に作業小屋があり、一番奥には炊事場らしき建物がある。そこからは煮炊きの際に出る煙が立ち、肉や野菜を煮込むよい香りが漂ってくる。

 

 そして中央。ここは広場兼大通りだろう。見晴らしが良く篝火が立ち並んでおり、ここを歩けば直ぐに見付かってしまうだろう。

 

 奥にはまた門と壁がある。その奥には、あの巨大なゴブリン──ホブゴブリンがいる。

 

 最後に右側。奥から無数の簡素な小屋が立ち並んでいる。木と土と草で作られたその家は、思いの外しっかりと作られているようで、隙間一つ見えない。

 

 そしてその手前には、何やら怪しい植物や茸がぶら下げられた怪しい小屋がある。見たところ、何やら中でゴブリンが作業をしている。薬でも作っているのだろうか。

 

 最後に、その怪しい小屋と櫓の奥にある窪んだ場所。何やら黒く燻っており、焦げ臭いを発している。焼却場だろうか。

 

「……」

 

 一通りの観察を終えた俺は、櫓のゴブリンを仕留めるため動いた。

 周囲に他のゴブリンはおらず、鍛冶場のゴブリンはこちらに背を向けており、その作業音が潜入の助けとなっている。殺すのは最後だ。

 

 鍛冶場から響く音に合わせて櫓を叩く。音は掻き消させるが、その振動は上のゴブリンに伝わる。

 

「ギィ?」

 

 振動に反応してか、ゴブリンが下を覗き込む。

 死角に隠れた俺を見つけられず、不審に思ったゴブリンは降りてくるようだ。

 

 それに合わせ、常に死角に入っていた俺は梯子の下でゴブリンを待つ。

 そして、鍛冶場から鉄を叩く音が響くタイミングでゴブリンの口を抑え、喉を刺す。

 

 同じようにして隣の櫓のゴブリンも倒すと、一息ついた。

 

(……俺天才かもしれん……)

「……ハンッ」

 

 自身を鼓舞するように頭の中で呟いた言葉を鼻で笑いながら、周囲を確認する。

 

 門番達を殺されたこともバレていないようで、集落の雰囲気は変わっていない。外を出歩くゴブリンもいないので、恐らくそれぞれが小屋の中にいるのだろうか。

 

(……さて──ん?)

 

 次は怪しい小屋へと向かおうとした時、不意に焼き場に目が行く。燻る灰の窪んだ底に、何やらアイテムらしき物が見えたからだ。

 目を凝らして見ると、それは魔物の骨や皮、作成に失敗した様子の不出来な武器や、壊れた武器の残骸だった。

 

 あれを持ち帰れば、武具の作成や改造の手前が幾分か減るだろう。しかし、細長い骨や枝があちこちで重なっている窪みの底へ踏み込んだが最後、騒音が何度も鳴り響くことが予想できる。見下される様な立地からして、様子を見に来たゴブリンをバレずに倒すことも難しい。

 

 収集欲を刺激されるが、それは集落を制圧した後でも良い。一旦ここは諦めて次へと向かう。

 

 焼却場の側、櫓の後ろには調合小屋らしき建物があり、中でゴブリンが何か作業をしているようだ。

 音がでないよう、ゆっくりと入口の長い暖簾を開いて入る。

 中にゴブリンが二匹。石を削って作られた乳鉢と乳棒で何かを潰し、薬を作っているようだ。

 

「……」

 

 手前で材料を取ろうとしているゴブリンにそ~っと近付き、材料を置いて手が空いた瞬間に暗殺。

 

「ギ?」

「ッ!」

 

 音に気づいて振り向いたもう一匹のゴブリンを押し倒す。口を塞ぎ、胸を全体重を掛けて膝で押さえ、喉を一突き。

 ドロップアイテムを回収しながら、軽く小屋を探索する。木の枝を草紐で組み上げた棚を見ると、葉っぱの器に乗せられた見慣れた薬を見付けた。

 

(……これは……ゴブ薬に──ッ!? 回復薬ッ……!?)

 

 

 ゴブ薬に除菌玉、そして回復薬の小瓶が棚に複数あった。

 俺は静かに、かつ急いでそれらをバックパックに入れる。もうこれだけでも大収穫である。

 

 だが、他の棚やテーブルの上、更に天井から吊るされている茸や草や木の実など、様々な調薬に使われているであろうアイテムがまだ残っている。しかし、それを全て回収している時間は無い。

 

「……これは……使えるかもしれん」

 

 その中で、全てを絵や記号で書かれた薬のレシピであろう石板を回収した。他を後回しにして次へ向う。

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