ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
「ガ~~~……シビュゥ~~~……」
(……イビキかこれ?)
調合小屋を出て直ぐのゴブリンの居住区画。入り組んだ掘っ立て小屋の集合地帯は、隠れる場所が無数にある。だがそれと同時に、何処からでもゴブリンが現れることも予想される。
耳を澄ませて警戒し、小屋の隙間から中を覗く。そうして見れば、小屋の中のゴブリンは殆んど寝ているようだ。
ゆっくりと暖簾をくぐり、騒がれないよう口を抑えて喉を刺して行く。そうして全ての小屋のゴブリンを暗殺し、ドロップアイテムを置いて次へ向かう。アイテムは後で回収すれば良いからな。
大通りを挟んで小屋の向かい側。炊事場と作業小屋がある。炊事場は、その名前と違って簡素極まる物だ。焚き火が幾つかと、まな板らしき平らの石に錆びまみれの骨のナイフが置いてあるくらいだ。
それはさておき、ここには炊事で使う様々な食材がある。見慣れぬ魚の干物。上階層で捕れるモンスターの干し肉。見慣れる色とサイズのジャガイモや玉ねぎらしき見慣れた野菜達に、食用らしき謎の茸と謎の木の実。それらが全て、木で編まれた籠に入れられていた。
ふと川辺を見れば側に小さな畑があり、野菜が植わっている。
そしてその奥にある川の中には、何やら大きな木の籠が沈められている。魚用の罠か、あるいは生け簀か。後で確認するとしよう。
……日当たりの良いと思われる場所に、物干し竿がかけられている。洗濯物だろう、ゴブリンの腰簑や防具が干されている。あれは放置しても良いだろう。
「……食材は、後で根こそぎね」
不穏な事を呟きながら、俺は作業小屋へと近付いて行く。
「……ギギ、ギギ……」
中が明るいので警戒してみるが、そこには居眠りしているゴブリンが一匹いるだけだ。
(なんだ、じゃあ静かに殺るだけで──)
ゆっくりとナイフを抜き、これまでと同じように済ませるため近付く。
「ンギッ!?」
すると、うたた寝していたゴブリンの身体がガクリと倒れかけ、それによって反射的にゴブリンが起きてしまった。
「チッ!」
「……ッガ──ゴボッ……!?」
ゴブリンと目が合う。反射的に走り出した。
ゴブリンが口を開き、叫び声を上げる──その寸前にナイフがゴブリンの喉に突き刺さった。
「ッ!? ~~ッ────」
(……ふぅ……焦った~~……)
マナに変わり始めたゴブリンを見ながら一息ついた。もしあそこでゴブリンに叫ばれていれば、今頃どうなっていたか。
物陰に暫く隠れていたが、バレていない様子。それならばと作業小屋を調べる。
(……裁縫関係ばっかだな……しかも低品質……ここはいいか)
そこにあったのは、草で編まれたゴブリンポーチや籠などの小物だった。
一応、布らしきものや縫い針と糸も見付けたが、使用感、強度的に見ても地上の物の方が上のようだった。
(……さて、最後だ)
息を潜めて静かに外に出る。一方的だが世話になったゴブリンをしめやかに殺すため、俺慣れない隠密に全力を出して進む。
カーン、カーンと鉄を打つ音が響く。
最早それしかゴブリンの出す音が存在しないが、彼等は職人。集中を切らすこと無く作業を続けている。
だがしかし、それが仇となってしまった。
一つ鉄を叩くと、刃を研ぐ音が消える。
一つ鉄を叩くと、皮を鞣す音が消える。
一つ鉄を打とうと鎚を振り上げれば──
「ギッ!?」
「ありがとう、お疲れ様」
「ゴバァッ!?」
手から奪われた鉄槌が、自身の頭を打った。
こうして、ゴブリンの集落から音が消えた。
後を流れるのは、川のせせらぎと風のみだった。
「……成功か?」
最後のゴブリンを殺した俺は、物陰に隠れて暫し待機していた。
それは、この集落のボスである巨大なゴブリン──ホブゴブリンが奥から現れる条件が分からないからだ。
(前に現れた時の状況は、ゴブリンにバレてて、それを殺しまくったくらいか)
そうしてホブゴブリンを見た時の状況を思い出せば、その時の状況に一つが当てはまる状態になっている。
「……」
警戒するに越したことはないと、暫く隠れることにしたのだ。しかし集落は静寂を保っており、何が動く音一つとして聞こえて来なかった。
「……こないな」
あれから数分後。いくら待機しても、ゴブリン一匹として見なかった。
「……てことは、アイツが出て来る条件は“ゴブリンに見付かる”ことか……」
それ以外にも条件がありそうだが、一先ず今は置いておく。
「っし、略奪タイムだ……!」
俺はバックパックからボストンバッグを取り出し、更に複数の保冷バックを取り出すと、アイテムの回収を始めた。
「お~……」
先ずは鍛冶場。そこで精錬された鉄のインゴットを手に、俺は感動して声をこぼしてしまった。
普通なら触れることすら無い鉄のインゴットは、やはりゴブリンが作っているからか質は低い。だが、今の俺やこれからの世界に取ってそれは、確かに貴重な資源であった。
自国で採取出来る金属資源。それだけでどれだけ国が豊かになる事か。
今はカバンに入る程しかないインゴットだが、これから先へと階層を進めば、鉄以外の金属資源が──なんならそれ以外の未知の資源も得られるかもしれない。
──それらは、一体幾らで買い取られるか。
そんな皮算用に笑みが溢れるが、今はそんな事をしている場合ではない。手に取ったインゴットの他に、様々な物が置いてあるのだ。その確認をしなければならない。
「これは……鉄鉱石か」
後に精錬するためだろう、木で組まれた箱に、鉄の露出した鉱石が積み上げられている。
外を見ると、不格好だが
「……てことは、採掘できるのか?」
ソリの周りを見てみれば、何処かから引きずってきたような跡があった。
「これが採れるのか……覚えとこ」
インゴットと鉄鉱石を幾つかバックパックにしまうと、近くのテーブルに乗せられている革を手に取った。
「うーん、良さは分からんけども……これも持ってくか」
そう言ってテーブルの革と革紐を取り、側に立て掛けられている武器を見る。
「うーん……錆びてない。良いな、ファンタジーで」
剣を一つ手に取って眺める。荒い作りのそれは鈍く光を反射している。
「……ん~? 何か、軽いな」
数度剣を振るって見ると、まるでナイフのように振るうことが出来た。
「……うん、貰ってこ」
立て掛けられている剣を二本手に取り、側にあった木の鞘に剣を収めてバックパックにしまう。
「……ん、こんなもんか、次」
こうして俺は、ゴブリンの集落にあるあらゆる物を回収しに動くのであった。
■
「ふぅ……取りすぎたな」
パンパンに膨らんだカバン達を叩きながら、俺は収集欲の満たされて悦に浸っていた。
鍛冶場の鉱石や革、インゴットに剣と始まり、作業小屋の上質な裁縫道具や装飾品に使うであろう金銀と磨かれた宝石達。
炊事場の各種食材に、ゴブリンの住居から採れた細々としたアイテムや小さな宝石。
怪しい作業小屋の調合レシピや道具、各種材料。焼却場の骨やら武器の残骸やら。
「これだけあれば当分は大丈夫だろ」
そう呟いて立ち上がり、俺は集落の奥の門を見た。
「……後は、アイツを倒して凱旋だ」
そうして俺は装備を戦闘用の物に着替えると、カバンを手に門を蹴り開けるのであった。