ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜   作:黒木箱 末宝

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ネクストステージ

 マナを撒き散らしながらホブゴブリンの首が落ちる。酷く怒りに歪んだ顔が、無様に地面を転がて消えた。

 倒れるホブゴブリンの体。その側には残心を解いた異装の男が一人。

 

 今の俺を表すなら、そんな表現だろうか。

 

「ククク……フフッ……ハーッハッハッハッ!!」

 

 俺はマナに還りだしたホブゴブリンを見て、勝利の興奮から溢れる高揚感を解消するため高笑いした。

 

 命の奪い合うギリギリの戦い……ピンチを切り抜けた高揚感──癖になりそうだ。

 

「ハー……ふぅ、疲れた……」

 

 大剣を放り投げ、その場に寝転がる。

 久し振りに感じた命の危機や、生命の奪い合いにより発動したスキルの反動の所為で、俺は一歩も動けない程に消耗していた。

 

(いま敵が来たら死ぬな)

 

 そんな事を考えていると、ホブゴブリンのマナが俺に向かって来る。何時ものマナの吸収だ。

 他のモンスターとは一線を画す程膨大な量のマナは、俺を包むように集まると、その全てを体へと染み込んで行く。

 

「おー、レベルアップの感覚~」

 

 視界の端に表示された【ステータスボード】のアピールに乗り開くと、自身のレベルによりステータスが上がっている事を確認した。

 

「ステータスチェックは……ま、後でな。さてと……」

 

 俺は【ステータスボード】をスワイプして閉じると、ゆっくりと体を起こしてドロップアイテムの回収を始めた。

 

 レベルアップによりステータスの最大値が増え、それにより体力が回復した様に感じる。勘違いの産物に近いが、こんな場所で寝て回復なんて危なくてできない。

 仕方なく重い体を動かし、戦闘前に投げたカバンを回収しに動いた。

 

「うおお重ッ!? よくこんなの振り回せたよな……」

 

 先ずはホブゴブリンの使っていた大剣。

 使っていたモンスターがモンスターなので、その大きさは刃の部分だけで二メートルを越えている様に見えた。

 持って構えて見れば凄く手に馴染むが、俺の力不足か重く感じる。

 

「……もうちょっと鍛えるか……」

 

 そう言って大剣をボストンバッグにしまうと、残りのドロップアイテムの確認をする。

 

 そこには、ホブゴブリンの着ていた鎧の一部とスクラップと、紫色に発光する拳程の石、革で作られたポーチの三つのドロップアイテムがあった。

 

「鎧……腰のやつ(コイル)と、残骸は……壊した所のやつだな。んで、デカい魔石に……ポーチか……」

 

 ホブゴブリンの装備していた鎧を見ると、残っているのは腰に巻いて太腿や股関を守る部分だけで、後は潰れたり曲がったりしているスクラップだった。

 

「直せば使えるか? ……そう言えば焼却場にそんな感じのパーツがあったな……ふむ」

 

 思い付いたことを脳内にメモし、魔石を手に取る。

 

「デカいし何か光ってる……【識別】」

 

【魔晶石(小):純度の高いマナを含む魔石。水と強い反応を起こす。mg(ミリグラム)×一万kwh(キロワットアワー)

 

「……あぁ?」

 

 突然の事に混乱し、頭の中でハテナ()が飛び交う。昔、工業高校で見た単位が急に現れて驚いたのだ。

 

 そして冷静にそれを読めば、この魔石──魔晶石は、一グラムで一日に一万キロの仕事量があると書いてある。もし発電に使えば、これ一つだけで相当の電力が賄えると読み取れる。

 

「……後にしよ」

 

 面倒な物であるそれをバックパックにしまうと、俺は残りのドロップアイテムである革のポーチを手に取る。

 

「へー……よくできてるじゃん」

 

 鞣し革と革紐で作られた箱形のポーチは思いの外確りと作られており、そのまま使いはじめても良いくらいの代物だ。

 

「さてさて中身は~……おお!?」

 

 骨で作られたお洒落な留め具を外してポーチを開く。すると、中身はゴブリンポーチの上位互換の内容となっていた。

 そして、その中には未知の物が入っている。

 

「これは……ルビーの原石か? それと、回復薬の中瓶に……巻物?」

 

 拳くらいの宝石の原石や回復薬は置いとくとして、謎の巻物を手に取る。そして【識別】を使い調べてみると、それが驚くべき物だと解った。

 

【スキルスクロール:『怪力』のスキルが書き込まれている。開いて使用することで、使用者に『怪力』のスキルを与える】

 

「──スキルスクロールッ……!!」

 

 表示された【識別】の内容を読んだ俺は、即座にスキルスクロールを開いて使用した。

 すると、内側に書かれていた未知の文字が輝き出し、光が俺の胸元へと吸い込まれて行く。

 

「おおぉっ!」

 

 巻き起こるファンタジーに歓声を上げる。

 光が収まり、白紙になったスキルスクロールをしまうと、俺は【ステータスボード】を発動した。

 そして自身のスキル欄に【怪力】が有ることを確認すると、ステータスボードに表示された【怪力】の文字をタップしてスキルの内容を確認する。

 

後天的な(スクワイアード)スキル『怪力』:常時発動(パッシブ)スキル。スキル所有者の攻撃力とSTR(筋力)にステータス×二倍の補正】

 

「【怪力】……てことはっ!」

 

 即座にスキルの効果を確かめるべく、俺はボストンバッグにしまった大剣を取り出した。

 

「うおぉ軽ッ!?」

 

 全身の力を使わなければ振るえない程に重かった大剣を、易々と掲げることが出来た。たったそれだけの行動でスキル【怪力】の凄まじさが伺える。

 

 試しに数度振るって見れば、マカナの様に片手で扱えるとは行かないが、両手で握れば木刀を振るうかのように扱えた。

 

武器(マカナ)も壊しちゃったし、暫く使うか」

 

 そう言って大剣をバックパックにしまうと、俺は次の階層へと進む階段の側に建てられた小屋へと向かった。

 

「……ん、何も居ないか」

 

 ナイフを手に静かに入る。しかし、そこには何も居なかった。警戒を緩めつつ、小屋の中を調べる。

 

 ホブゴブリンが使用していた生活感の残る小屋に眉をひそめる。するとその奥に、やたらと出来の良い宝箱を見付けた。

 

「宝箱か……」

 

 罠を警戒するように、叩いて音を聞いたり、僅かに開けて紐などが仕掛けられていないかを確認する。

 

 特に何もなかったが、慎重に慎重を重ね真正面を避け、裏から宝箱を開く。

 

「……ん、罠は無し。そんで中身は──おお!」

 

 宝箱の中身は、透き通る宝石の原石と金や銀のインゴット。回復薬の中瓶が一つに小瓶が五つ。

 そして、獣の牙を主軸とした、金と宝石で装飾された首飾りが一つあった。

 

「悪趣味だ。だが気に入った!」

 

 中央には金の土台ひはめ込まれた大きなアメジストが輝いており、それを称える様に、装飾の施された木や牙のビーズが左右対称(シンメトリー)に並んでいる。

 

【ホブゴブリンのアミュレット:集落を築き上げたホブゴブリンが、現地の素材を使って作らせた記念のアミュレット。攻撃力、STRに一・五倍の補正】

 

「へへっ効果も良いな」

 

 攻撃に偏ったステータスを気にも止めず、俺はアミュレットを首に付ける。

 

【ステータスボード】でアミュレットの効果を確認してみれば、説明の通り一・五倍ほど攻擊力と筋力値(STR)が上がっている。

 

「……結構良いなこれ」

 

 そう呟くと、俺は宝箱ごとアイテムをバッグにしまい、探索のし忘れがないか確認し、外に出た。

 

「うおっもう明るい」

 

 白み始めた空に驚く。スマホを取り出して時間を確認すると、時刻は午前四時。日が昇る時間だった。

 

「……帰るか」

 

 そうして俺は次の階層を降り、そこの入口にある転移陣を利用して帰投するのであった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 それは、夜襲を終えて数日経った後の事だった。

 

 ダンジョンでの探索に気合いを入れるため、ワイルドボアのステーキ(五百グラム)に齧りついていると、テレビが速報を知らた。

 

「ん、時間か」

 

 一旦食事を止めてテレビを見ると、見慣れたようで見慣れぬ存在が、新たな法を公布していた。

 

 その存在が語る内容は些か現実離れしたものだったが、だが確実にこの世界で稼働を始めるものだった。

 

【侵略生物対策法】

 

 突如地球に現れた神を名乗る存在【ヘァッチャ・ダ】に対応するための新しい法律。

 

 その内容を要約すると“侵略は許さんれない行為なので、それに対処するために日本の皆で力を合わせて戦おう”というものだ。

 その中の細かいものや、自身に関係の薄いものを流し見する。

 

「……おー、漸くかッ!」

 

 そうして公布内容を眺めていると、俺の待ち望んだ制度の話が始まった。

 

【侵略的建造物攻略支援制度】

 

 それは、ダンジョンに進んで挑む存在を支援する制度だった。

 そしてその制度には、俺が待ち望んで焦がれた内容があった。

 

 公布の放送を見終わった俺は、漸く訪れた自身の本格的な活躍の時に歓喜した。

 

「【地下特殊構造物探索技能講習】……これ受けて資格を取れば……ダンジョンで手に入れたアイテムを金に出来るっ!! ックハハハハハッ!!」

「……」

「……んん、さて……」

 

 堪えきれず笑い声を溢す。それまで静かにテレビを見ていた姉が、ドン引きした様子で俺を見る。

 

 その目を見て冷静になった俺は、改めて姉に御願いをすることにした。

 

「……探索者の免許があれば返せるので、講習費を御願いしますッ!!!」

「……は~~~……………」

 

 姉は覚悟をしていたのか、大きく長い溜め息を吐いた後、講習費について利子付きの出世払いで立て替えることに頷いたのであった。




第一章【完】

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