ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜   作:黒木箱 末宝

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VSゴブリン【後編】

「ギャガー!」

 

 図体だけの怯える獲物に向かって、ゴブリンは棍棒を振り上げて飛び掛かった。

 

「ッ! ウォオオオ!」

 

 だがその中途半端な攻撃が、ゴブリンの運命を決定づけた。

 

 スキル【生存本能】によるステータスの一時的な増加により、思考速度が加速。ゴブリンの攻撃に対して頭を庇うように左腕を掲げ、更に防御を重ねるように木の枝を交差し、棍棒を受け止めるような構えをとった。

 

「ゲギャア!」

「痛ッ──ガアアッ!?」

 

 盾にした枝を砕いた棍棒は、そのままの勢いで俺の左腕を殴打する。

 俺の頭を砕くはずだったゴブリンの攻撃は、最後の一本の枝と左腕を犠牲にすることで防ぐことが出来た。

 しかし、左腕から伝わった激痛に、俺の精神状態が【錯乱】状態に(おちい)ってしまう。

 

「グゥアァッ!!」

 

(痛いッ! ヒビはいった? 折れた? 腕折れた?! ──何で……何で俺がこんな目にッ……!?)

 

 頭を駆ける思考は乱れ、俺さ左腕を抑えて唸り、隙を晒してしまう。

 

「ゲギャギャギャ!」

 

 そんな隙だらけ獲物を見て勝利を確信したゴブリンは、舌なめずりして脆弱な獲物を嘲笑う。

 

 ──その時だった。

 

「──コイツゥッ……!」

 

 痛みを受けて【錯乱】状態だった精神が、此方を見て嘲笑うゴブリンを見てイラつくことで、スキル【短気】が発動。

 それによって怒りやすくなった俺は、続いて自身が下に見られている事を理解し怒り、スキル【逆鱗】が発動した。

 それらの怒り系スキルが短時間に連続して発動する事によって、精神状態が【憤怒】へと変わった。

 

「ウ~~ッ……!」

 

 その精神状態の効果は、防御力と特攻・特防が最低まで下がる変わりに、攻撃力と素早さを一定時間まで大きく上げるものだった。

 

 俺は考えた。

 

 ──何故腕が痛む?

 ──何故自分が苦しんでいる?

 ──何故自分は恐怖している?

 ──何が自分を怖がらせている?

 

 精神状態が【憤怒】へと移行する。その間にふつふつと沸き上がった怒りは、やがて全てを殺す殺意へと代わり、闘争本能を沸き起こし、身体を戦いに対応した状態へと引き上げて行く。

 

 俺は、肘による攻撃が強い事を思い出す。

 

 俺は、脚が腕の二倍の力を持ち、自身の太った身体を支えて動く脚は、より強い事を再び思い出す。

 

 俺は、自身の重量そのものが、強力な武器になることを思い出す。

 

 ──戦い方を思い出した。

 

 かつてアクションゲームで学んできたその技術は、妄想を相手に脳内で幾度もシミュレーションを重ね、誰も見てないところで空想を相手に動き練習をしたことで、問題なく身体に刻み込まれていた。

 

 昔は身体能力が足りず、ダサい動きしかできなかった──だが今は違うッ!

 

 ステータスにより引き上げられた能力は、妄想や想像を現実へと近付けた!

 

 ──今の俺なら戦える……!

 ──……何で戦う必要があるんだ?

 ──それは──

 

(俺をこんな目にあわせている──ゴブリン(こいつ)をブチ殺すためだッ!!)

 

「死ねクソボケガァアアァァァッ!!!」

「ギ──ギャガァ!?」

 

 怒りに任せた前蹴りは、ゴブリンの腹部を踏み抜く様に打ち込まれた!

 

 ゴブリンは思わぬ反撃に体制を崩す。

 

 しかし、ゴブリンも直ぐに体制を立て直し、抵抗する獲物を殺すために睨み付けようとして──

 

「ブッ!──アアアッ!」

「メギャァッ?!」

 

 吐き出した唾に目をやられ、そこに折れた枝を突き刺されてしまう。

 

「ギッ──ギィヤァ~~~!!?」

 

 突然片目を失ったゴブリンは慌てふためく。

 

 そんな大きな隙を見逃すことはなく、ゴブリンに向かって次々と攻撃を放ち攻め立てる。

 

 目を押さえて呻くゴブリンの頭を耳を引きちぎり、耳を押さえて(うずくま)れば、股間を思い切り蹴り上げる。

 

「だあッ!」

「ミギィヤァッ?!」

 

 そして、命の危機を感じ、必死に立ち上がり逃げようとするゴブリンの頭部に膝蹴りを放った。

 ゴスッ! と鈍い音を放つ体重の乗った一撃は、ゴブリンの頭部に致命的なダメージを与え気絶(スタン)状態を引き起こした。

 

 その後は【闘争本能】によって更に上がった攻撃力を拳に込め、倒れ伏すゴブリンを膝で押さえながら頭部目掛けて何度も、何度も拳を叩き付ける。

 

 しかし、一向にゴブリンが死ぬ様子を見せない。

 

「アアアアア!!」

 

 立ち上がりゴブリンの腹を踏みつけるが、黒い霧(マナ)を吐き出すだけで何も変わらなかった。

 

「……チッ、なら武器で──ああ、良いのがあった」

 

 止めを刺そうと武器を探す。周囲を確認すると、落ちている棍棒を見付けた。

 

 それを手に取って振りかぶり、倒れ伏すゴブリンの側頭部目掛け、渾身の力を込めて振り下ろした。

 

「ハアァアッ!」

 

 しかし振り下ろした棍棒は狙いを逸れ、ゴブリンの鼻を飛ばすに終わった。

 

「チッ! 死ねぇァアッ!」

 

 初撃の感覚に従い狙いを修正。今度はちゃんと側頭部に命中。ゴブリンの頭蓋を砕き、中身の変わりにマナを撒き散らした。

 

 しかし、攻撃の手を止めない。

 

「アアッ! ダァ! アアアアアッ!!」

 

 ゴブリンが完全に塵と消えるまで、何度も何度も棍棒を振り下ろす。

 

 やがてゴブリンは全てマナと消え、その場に幾つもの穴と土塊、そしてドロップアイテムが残っていた。

 

「ハー、ハー……ックフフ、フハハっ、アーッハッハッハッハッ!!!」

 

 心の底から沸き上がる快感に歓喜し、思うがままに笑い声を上げる。

 

 レベルアップの影響か、それとも脅威(ゴブリン)を一人で打ち倒した成功による、自己肯定感の上昇によるものか。

 

 錆び付いていたように動きが鈍い脳ミソが、新品のエンジンの様に猛々しく動いている。

 

 それにより導きだされた答えは、圧倒的な成功者としての自身の人生。

 戦えて勝てる俺はダンジョンに潜り、モンスターを狩り、いずれ始まるドロップアイテム等の買取りにより大金を稼ぐ。

 

 勉学をサボり続けたが故に頭脳労働に就けず、かといって単純な肉体労働をする気力も体力も無い。

 そんな俺でも活躍できる、狩猟民族のように狩りで糧を得る生活。

 

 そんな、何時始まるかも分からない夢を見て、暫しの間、俺は笑い続けた。

 

 

 

「──ハッハッハッハッ……はーっ、ハー……ウゥッ」

 

 戦いが終わったことをようやく実感して俺は、腰が抜けたように座り込んだ。

 

 ゴブリンという異形に対する嫌悪。命の奪い合いに対する恐怖。モンスターとはいえ、生き物を殺した気持ち悪さ。

 それらが一気に溢れだし、嗚咽交じりに涙が流れる。

 

 この戦いで得た闘争の興奮や、命を奪う快楽。

 生き残った安堵と、勝利した歓喜に笑みを浮かべた俺は、自身が勝ち取った成果を見て笑いながら泣いていた。

 

「あー……よかった、折れてない」

 

 ドロップアイテムを拾い、自身の状態を確認する。

 自身の状態を【識別】で診た結果は、打撲と不完全骨折──ようは骨にヒビが入ったようだ。

 折れたと感じたのは、恐怖により敏感になった感覚が痛みを過剰に伝えた所為だろう。

 

 そう納得し、落ち着いてきたが故に振り返してきた痛みを堪えながら、新しいドロップアイテムに【識別】を発動する。

 

【ゴブリンの棍棒:ゴブリンから取得可能。太い木の枝を削って形を整えた片手武器。叩き付ける攻撃に+補正】

 

【ゴブリンポーチ:ゴブリン種から取得可能。草で編み込まれたポーチ。中身はランダム】

 

 棍棒はまあ良いとして装備し、ゴブリンポーチを開ける。

 削り出された楕円の木で作られているボタンのような留め具に感心しながら外すと、中身がこぼれ出てきた。

 それを手にした俺は、あまりの事に溜め息を吐いた。

 

「まぁ……一応、宝石か?」

 

 ゴブリンポーチの中身は、何と宝石だった。

 

 しかしその質は低く、どう取り繕ってもそれはただの細石(さざれいし)でしかなかった。

 

 試しに【識別】を使ってみてみれば、それらは屑鉱石や屑宝石と識別された。

 

「まぁ、綺麗だし良いか」

 

 怪我の対価に見合ってはいないが、ここはまだ二階層。

 その微かに輝く細石を報酬として【ラージポケット】に仕舞い、ようやく落ち着いた俺は左腕を庇いながら立ち上がる。

 

 しかし慣れない長時間の運動や極度の緊張感、命の奪い合いによる高ストレス等の負荷による疲れを感じたので、ダンジョンの探索をここまでとして、家に帰ることにした。

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