ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
「あ、誰か出てきた!」
「あん? ……ああ、野次馬か」
ダンジョンから出て来た俺を見てざわつく野次馬達、スマホを向けるやつがいたので、咄嗟に背を向けてフードを被る。
そして人目の無い所まで走ると、スマホを取り出して家族に無事を知らせた。
『帰還。怪我無し。今帰る』
態々報告するのは、家族を不安にさせないためであり、今後もダンジョンの探索を許して貰うためだ。
「おー痛てぇ。ま、なんとかなるだろ」
俺は痛む左腕を庇いながら、急いで帰宅した。
■
「ただいまー」
「あ、おかえり! 」
やたら鳴り響くサイレンに首をかしげながらも帰宅する。
すると、何やら焦った様子の母が出迎えた。
俺が「どうした?」と問えば母は「あんたあれ聞いてなかったの?」と質問で返された。
母が言うには、俺から連絡が届いて暫く後、全世界にヘァッチャ・ダと名乗る上位存在が地球に対して侵略を宣言したとか。
現にテレビでもその話が持ち出されており、ヘァッチャ・ダの発言が、アナウンサーによって繰り返し読み上げられている。
(……へぇ~願いが叶うねぇ……ますますダンジョンに入らなきゃな)
母に見えないよう顔をそらし、ヘァッチャ・ダの言う内容に笑みを浮かべた。
願いが叶う。その言葉に惹かれない人間は殆どいないだろう。俺もその一人だった。
「それであんな焦ってたのね」
「そうだよ。頭ん中に流れてきた
「え、映ってたの?!」
通りで野次馬共が俺を注視した訳だ。次にダンジョンへ行くときは、変装をしなきゃならんな。まあ、効果があるか分からんが。
そんな事を話ながら、汚れと汗を流すためにシャワーを浴びる。そこで患部を確認したら、左腕は紫色に変色して大きな痣ができていた。
(あー……寒い今の時期なら長袖で隠せるが……痣が残るようなら……まあ、少し考えなきゃならんな。いや、待てよ? もしかしたらダンジョンにあるかも知れない。この傷すら治せる薬が……!)
傷を治すため、俺はあるかも分からない薬を目指してダンジョンに向かうと決める。
その日、家族とダンジョンについてのもしも話で盛り上がった。内容はヘァッチャ・ダのことだったり、世界の今後だったり。少し外れて金銭だったり、食べられる魔物だったり、怪我を治したりできる薬だったり。
薬の話の時は、やたらと空気がしみじみとしてしまった。
何故なら、俺を含め、家族には何かしら持病があるからだ。それ故に、俺はますますダンジョンを探索する意思を強めた。
それは家族のためか、自分のためか。
その事は誰にも分からないが、少なくとも今より世界は明るくなるだろう。その時の俺は、そう考えたのだ。
翌日、何時も通りSNSを確認すると、ダンジョンについての
食事をしながら情報を集めるが、昨日のこと故にこれと言って目立った情報はまだ無いようだ。
食事を取り着替えた俺は、ダンジョンに向かうための準備を始めた。
高校生の頃にハマって買ったミリタリー趣味の物の中から、大容量のミリタリーバックパックを引きずり出す。
過去『どうせ買うならデカいやつ!』と買ったバックパックは、最大で四五リットルも入る大きな物だ。
メインとサブに収納箇所が分かれており、更に小中のポーチも付いていて、サイドに五〇〇ミリのボトルが入るポケットまで付いている。
アウトドア用に作られたこのバックパックなら、ダンジョンの探索にもってこいだろう。
バックパックに【ラージポケット】を使い、収納能力を強化する。するとそこで【ラージポケット】の対象が収納箇所別に分けられていることに気付いた。
(まじか……
大器は
続けて探索に持っていく道具を選択する。
先ずは不安に感じた防御面の強化の為、同じく趣味で買ったタクティカルベストに、
それと、汗対策に
着替えはダンジョンで行う。これらを装備して外を出歩くのはマナー違反だからだ。
それに軍装は威圧感が段違いなため、より意識しないと通報されかねない。
次は武器。……しかし、俺の強化されたステータスでは何を持っても直ぐ壊れるだろう。そのため、武器は先日持ち帰ったゴブリンの棍棒一本だ。
最後に、水の入ったペットボトルとブロックタイプの携帯食料、塩分補給用の塩タブレットに、帰宅時の臭い対策としてボディーシートをバックパック入れて準備完了だ。
タクティカルブーツを手に玄関に向かう。
そうしてダンジョンに向かうため準備をしていると、母が寝床から起きてきた。
「またダンジョン行くの?」
どこか不安そうに母が問いかける。
俺としては無理して怪我をしたり死んだりするつもりは無いが、既に怪我を負っている手前、それを自信満々には言えない。
「ああ。昨日は大丈夫だったし、無理しないからさ。それに、俺は寿命以外で死なんし!」
あるはずもない自信を無から取り出し、堂々と掲げる。
太っていてだらしないが、俺は大柄で骨太な男だ。ただ立って堂々としているだけでも、多少の不安は消し飛ばせるのだ。
例えそれが確証の無いものでも。
「……ホントに気を付けてね。無理しちゃいかんよ」
「
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
母と姉に挨拶を交わし、俺はダンジョンへと向かった。
「ステータスって
ダンジョンの階段を登り終えた俺は、改めてステータスの凄さを実感した。
合計四キロ程の荷物を背負い歩いたり、階段を登ったりする。前の俺なら既に
「これなら今回の探索も──あー……」
ステータスの身体的な恩恵を実感でき、余裕の表情でダンジョンを目にする。しかし、ダンジョンの入口前でできた人集りを見て一気に顔を顰めた。
「めんっどくせ~……」
ダンジョンの出現した神社の広場に、警察や野次馬が集まっていた。
警察と野次馬を除けば、集まる人達の顔ぶれを見るに、神社の関係者と地元に住む誰かしらだろう。時折ダンジョンを指差して何やら話をしているようだ。
「警察はいるけど見てるだけ……ダンジョンを監視してるだけか……じゃあ、大丈夫かな」
それを見て問題なしと判断し、フードを深く被りマスクのズレを確認。騒めく集団を余所目にダンジョンへと向かう。
「あ、ちょっと! そこの人!」
「……はぁー~……」
しかし、
「……あー、何でしょ?」
「そこに──ダンジョンに入るつもりですか? でしたら、止めといたほうがいいですよ。危ないですから……」
「へーダンジョン……すごいですね」
「あの、聞いてます?」
白々しく空返事をする。
神主の発言を聞くに、ダンジョンの中の情報はあまり出回っていないようだ。SNSに書き出されていた昨日のヘァッチャ・ダの発言や政府の発表を読む限りでは、ダンジョンに挑戦すること自体は止められていないはずだ。
それなら行けると思い、俺は少し強引な手段を取ることにした。
「俺ダンジョンに挑戦しに来たんです、なので行きますね」
「は、行くって……この中にですか?!」
「ええ。自己責任で行くんで、入ってもいいですか?」
「え、ええ? それならまぁ……気を付けて帰ってきてくださいよ?」
「はい、大丈夫です! それじゃ!」
朝に母相手にやったことと同様、謎の自信によるゴリ押しである。
更に言うならば、自己責任という発言が大きいのだろう。警察や神主、その他の集団は変人を見るような目で俺を見送ってくれた。
(……もうちょっと何かこう……良い感じにできなかったか?)
後ろで聞こえた騒めきを無視して、先程の会話の内容を一人反省しながらダンジョンへと入っていった。