ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
ダンジョンに入った俺は、その場でバックパック下ろして中身を取り出し、順番に装備を着け始めた。
パーカーの上からタクティカルベストを装着し、エルボーパッドとニーパッドを着ける。
フードを下ろして不織布マスクを外し、変わりにバラクラバを被り、フェイスガードと保護ゴーグルを装着。
最後にヘルメットを被り、タクティカルグローブを装着すれば、灰色のパーカーが嫌に浮いた真っ黒な軍装の男の出来上がりだ。
それを自撮りモードで確認したが、妙に合わない。「次は黒のパーカーを着てくるか」と自撮りしながらひとりごちる。
棍棒を装備し、バックパックの調整を終える。
前日では光っていなかった入口付近の魔法円に触れて登録を済ませる。するとひとりでにステータスボードが開き、他階層へ転移するかの選択肢を出してきた。見ると、昨日登録した二階層への転移が出来るようだ。
だが転移は選ばずに、ステータスボードを閉じた。
「まだ準備運動してないし。スライムの素材も欲しいしな」
そう呟いて、関節を解す運動を始めるのだった。
スライムを見つけては棍棒で殴り飛ばし、ドロップアイテムを回収。昨日との感覚の違いを確認し、棍棒や装備の具合を確かめる。今のところ、ドロップアイテムをバックパックにしまい辛い事以外はなんの問題もなさそうだ。
(即収納用にダンプポーチとか良さそうだな)
ダンプポーチを装備した際の動きを試し、頷く。そうして改善点をスマホにメモしながら進むと、最初の曲がり角に到着した。
(前は真っ直ぐ行って階段見つけちゃったし、今回は地図埋めするか)
そう決めると、スマホのメモ機能に最初の曲がり角へと進む趣旨の文を書き、進行方向の記載を開始する。
「えーっと……ここから……
スマホで地図を確認しながら、曲がり角の先へと進むのであった。
「はぁ……この書き方はダメだな」
一階層の地図埋めを終えた俺は、二階層へと降りる階段の側で座りながら、一人反省会を開いていた。
自分の書き記した地図で迷う事は無かったものの、いちいちスマホを確認する所為で進行速度が酷く遅くなってしまったからだ。
(『自分が書いたなら解るだろう』なんて甘えた考えは捨てるべきだな……危ないし)
進行方向を矢印で記入する書き方をしていたが、戻る際に地図を見る。その度に矢印の反対側に進まなければならないという矛盾が発生してしまった。
(曲がり角が出る度に『矢印が右なら左にすすむ!』とか、頭が無駄に疲れたわ……)
挙句、
あのままスライムを踏んでいたら、今頃片足で帰るハメになっていただろう。対策を考えなければ。
「……地図は書き方とか調べるとして……地図を見るのは……スマホを腕に括り付けるとか?」
そう呟きメモに案を書き記すと、続いて宝箱で得たアイテムを手に取った。
曲がり角を進んだハズレの道。その突き当りには、何と宝箱があったのだ。とは言え、その宝箱も一階層では大した物も入っていなかったが。
「えーっと? 頑丈な棒に、ましな屑宝石とましな屑鉱石。それと小さな宝石。……それで、傷薬……?」
真っ直ぐで頑丈な三〇センチ位の棒に、少し大きな屑宝石と屑鉱石と、小さいながらもちゃんとした宝石。そして謎の傷薬。
俺は【識別】を使って、謎の傷薬の詳細を確認する。
【傷薬︰擦り傷、切り傷、刺し傷、打撲など軽度の傷を治せる。低数の階層の宝箱から入手可能。幹部に塗って使用する】
「……ちゃんとしたやつなのか……?」
スキル【識別】に書かれていた内容を読んだ俺は、その内容を疑いながらも傷薬を使ってみることにした。左腕のエルボーパッドを外し、袖を捲って傷を見る。
「……紫じゃん」
ゴブリンに殴られた左腕。その部分は未だにズキズキと痛み、肌が紫色に染まっていた。
「……使ってみるか……」
傷薬と名打たれたそれを手に取る。
焼き物の小さな壺に、紐で結ばれた木の蓋の入れ物だ。紐を解き蓋を開けると、中に乳白色のペーストが入っていた。
「スンスン──薬臭い……アロエ?」
臭いを嗅ぐと、薬品臭さとアロエらしき香りが鼻を打つ。
特に気分が悪くなることの無い香りに、少し警戒心が下がった。
「えーっと……? これを……塗る、と……」
小壺を地面に置き、右手の薬指で掬い取る。そこで“これぞまさしく薬指!”なんて考えながら、患部に傷薬を塗った。
「おお、すげぇ!」
効果は即座に現れた。紫色に染まった肌が、徐々に元の肌の色に戻っていったのだ。
「……腕がまだ痛いんだが?」
しかし、治ったのは打撲を受けた肌だけらしく、腕の中心──骨付近が未だに痛みを訴えている。
まさかと思い、改めて傷薬に【識別】を発動する。
「……擦り傷切り傷、仲間の──違う。……刺し傷に打撲……ってことは──骨折は治らねぇのかよッ……!」
自身の状態を再認識し、思わず落胆してしまった。軽症とは言え即座に治る傷薬は有用だが、今の状態からすれば物足りたい物だった。
それはともかく、痛みは軽減された。ヒビを悪化させないよう真っ直ぐな枝を添え木として使い、何と無くで持ってきたガムテープで固定した。
「……頑丈な棒か……いざとなったな盾にしよ」
まだ使えそうな傷薬とその他のアイテムをしまって、二階層へと降りることにした。
(そう言えば、帰投用の魔法円とか無かったな……)
疲れから見逃していたものを思い出し、改めてその事をメモに記載した。
階段を降りる最中、俺は昨日のゴブリンとの戦いを思い出していた。
「……ハァー……無様だったな……」
呟いたとおり、あれはあまりにも無様な──それこそ戦いとも呼べないものだった。
ろくに攻撃の回避もできず、ガードも真正面から受ける始末。挙句攻勢に出たかと思えば、怒りとスキル任せのステータスによるゴリ押し。もはや攻撃ではなく暴行だった。
(とは言え、どうしたもんか……まあ、何とかなるか)
一人溜め息をつき、同じ様にならないための方法を考える。しかし、実際のところそこまで難しくはないと考える。
思い出す度に自己嫌悪に教われる記憶をたどれば、ゴブリンの攻撃方法は飛びかかりによる振り下ろしの一撃。ならば、それを躱すなり防ぐなりして反撃すればよいのだ。
俺は飛びかかりの一撃を想定し、脳内でステップを踏み避ける練習をしたり、攻撃を受け流したり、受け止めて反撃する方法をシミュレーションする。
そして周囲に気を付けつつ、棍棒を構えたり振ったりしてイメージを固める。
「よし、昨日のリベンジだな」
イメージトレーニングはバッチリだと言わんばかりに堂々と階段を降りる。そして、前日と同様に警戒しながら先へと進む。
しかしそんな俺を待ち受けていたのは、此方に背を向けながら棍棒で地面に落書きをしている、隙だらけのゴブリンだった。
(……はぁ~~~~??? まじかコイツ!)
俺の低レベルな【隠密】にすら気付けない間抜けなゴブリンを見下ろしながら、ジワリと湧いてきた哀しみをぶつけるように棍棒を振り上げ──思い切り振り下ろした。
「ガッ!?」
後頭部を打ち付けた重い一撃。静かに膝を落とすゴブリン。
しかし未だに息があるようなので、昨日とは違う方法──薪を割る斧のように棍棒を振り下ろし、ゴブリンの頭頂部を殴り付けた。
割れるゴブリンの頭。吹き出す
「……え~……? こんな呆気なく終わんの?」
あまりにもすんなりとリベンジが叶ってしまった。
少なくない衝撃を受けた俺は、見慣れぬドロップアイテムを【識別】することなくしまうと、棍棒を