ZOID・of the・DUNGEON〜外れ者の楽園〜 作:黒木箱 末宝
その後も背を向けるゴブリンを殴り倒し、二階層の地図を埋め続ける。
因みに、地図の書き方を上手く調べられなかったが、曲がり角にアルファベットを記入する事で、その制度を僅かに上げる事に成功した。
「このまま二階は終わる感じ?」
そう呟く油断まみれの俺の前に、それを咎めるかのようにゴブリンが現れた。
(お、今度は後ろ向いてないのか。……あ──)
そのゴブリンは背を向けておらず、俺の方を向いていた。しかし、違うのはそれだけじゃない。ゴブリンの右手に持っている武器が変わっていたのだ。
(……ボロボロだが、あれは……ナイフか……)
ゴブリンは、酷く錆びた粗鉄のナイフを装備していた。しかし、それだけなら何とも思わない。だが俺は、ナイフが酷く錆びていることに注目した。
その瞬間、無駄に蓄積した知識から、錆びた物による裂傷を負った痛みの記録と、破傷風についての知識が溢れだした。
──切れ味が悪い物で切れた傷は痛い。
──治りも悪く、痕が残りやすい。
──破傷風。バイ菌が出す毒。
──感染症。神経に作用。
──口に異常が出て、喋ったり物を飲み込めなくなる。
──全身の筋肉が硬直し、弓なりに反り返る。
──重症化するまでが早く、死亡する。
──死ぬ。
「ッ──ゥウアアアアアッ!!」
瞬間、スキル【臆病者】が発動。それにより精神状態が【恐慌】状態に
しかし今回は【硬直】せず、下がりに下がったステータスの変わりに上がった素早さを攻撃に使うことが出来た。
「死ねぇぇぇええァア!!」
「ガギャー!?」
ジェット機と同等の速度でゴブリンを蹴り飛ばす。
しかし、攻撃力が大きく下がっているせいか、その攻撃はゴブリンを倒すまでには至っていなかった。
それならばと棍棒を振り下ろすと、ゴブリンも咄嗟にナイフを振るってきた。
それを反射的に左腕で防ぐ。そして受けた
それにより、精神状態が【激高】に変化する。
怒りに関するスキルはステータスを大きく下げる変わりに、攻撃と素早さのステータスを大きく上げる効果がある。
したがって今の攻撃力は、砲弾による一撃に匹敵するレベルに跳ね上がった!
「テメェエアァッ!」
「ギッ──」
自身を傷付けた敵の武器を奪うべく、ゴブリンの右腕を棍棒で殴り付ける。
すると、跳ね上がった攻撃力による一撃に耐えられなかったのか、ゴブリンの右腕が体ごと吹き飛んで行く。
「ギッ……ギャー……」
「死ねぇァ!!!」
壁に叩き付けられた瀕死のゴブリン。そんなゴブリンに止めを刺すべく、ズリ落ちるゴブリンに向かって、棍棒を思い切り振り上げて殴り付けた。
ドゴン! と轟音を立てて放射状に砕ける壁。マナを撒き散らして消えるゴブリン。
「ッハー……ハー……ッ! クソッ、まただ……! またステータスに引っ張られたッ!!」
状態【激高】により昂っていた精神が
それと同時に、俺は昨日と同様にスキルに頼りきり、
今の階層ならば、敵はゴブリンしかいないため一匹に傾倒──もとい、集中しても問題はない。
しかし、武器が変わり、尚且つ反撃までしてくる程に変わったゴブリンを見るに、今後もダンジョンの階層を下るごとにその性質も変わり、力も強くなって行くだろう。
もし今のまま油断した状態で先に進めば、一対一なら勝てるだろう。だがしかし、それが一対複数になれば──
「……このままじゃ、俺は……死ぬ……ッ冗談じゃないッ!」
あり得る未来を想像した俺は、スキルを制御する意思を強くした。
やがて落ち着いたところでゴブリンのドロップアイテムを回収し、攻撃をガードした腕を確認する。
「うわ、袖が切れてる! 腕は……切れてない。添え木が防いでくれたのか。……過剰に反応して勘違いしただけかよ……ッは~……良かったー……!」
自身に怪我が無いこと知り、安心する。
しかし、スキルが勝手に発動した事を考えるに、感じた痛みもまた、俺の意思を介さずにスキルを発動させるトリガーになるのだろう。
「……盾が必要だな」
痛みを感じることで勝手にスキルが発動するなら、痛みが感じない程に防御力を上げれば良い。
そんな単純な考えに落ち着いた俺は、行動を自身を大事にする方針に変えた。
「取りあえず練習するべ。相手ならまだいるしな」
そう言って、俺は此方に近付いてくるゴブリンに向き直り、棍棒を構えるた。
「お、盾持ってる。ちょうど良い、奪うか」
しっかりと視認できる距離まで近付いたゴブリンを見て呟く。そのゴブリンは棍棒を右手に持ち、左手には木材に紐の取手を付けただけの木の盾を装備していた。
「ギ? ギャッギャッギャー!」
そんな俺の視線に、自身の道具を狙っていると気付いたゴブリン。するとイヤらしい笑みを浮かべ、盾を棍棒で叩いた挑発してきた。
「……キレそう」
視界の端でスキル【短気】が発動したことを確認。
しかし、それを我慢することで、スキルの自動発動を抑え込む。
「フー……なんだ、意外と出来るもんだな」
「ギギ? ギャー!」
挑発が効かないと見るや、ゴブリンは棍棒を振り上げて飛び掛かって来た。
「せいやあ!!」
「ガギャ!?」
しかし、それを冷静に見ていた俺は、ゴブリンを棍棒によって打ち落とした。
そして落下して隙を晒すゴブリンの左腕を引っ張ると、俺は棍棒でゴブリンの肘を殴り、間接を破壊した。
「ギャガァッ!?」
「よし、盾ゲット!」
力の抜けたゴブリンの左腕から盾を奪い取り、そのまま装備する。
元がゴブリン様に作られているせいか、俺が装備するには些か小さい。盾と言うより、鍋の蓋と言った方がいいかもしれん。
「まあ、無いよりましだな。よし、来い!」
「ギィ~~!」
左腕を押さえてフラフラと立ち上がるゴブリン。
俺はそんなゴブリンに装備した左手を向け、ゴブリンがやったように、盾を棍棒で殴り【挑発】した。
「ッ~~ギャギャー!」
「フン! ソイヤァッ!」
再び飛び掛かって錆びたナイフを刺そうとするゴブリン。その攻撃を盾で受け流し、カウンターとして棍棒を振り下ろす。
「ギャ!」
振り下ろした棍棒はゴブリンの首を打ち付けた。
ビキッ! と首から鈍い音を立てて、ゴブリンは力無く倒れる。
「よし! ……後は──」
「……ッギ……」
ピクピクと痙攣を繰り返すゴブリンに、止めを刺すべく近付く。そこでふと、錆びたナイフを持っていたゴブリンのことを思い出した俺は、反撃を警戒して棍棒でゴブリンの足先を突付いた。
「……おい、まだやるか? ……よし、大丈夫だ」
しかし、ゴブリンは本当に瀕死な様子で動かない。
俺は一安心すると、棍棒を振り上げてゴブリンの頭を叩き割った。
「……良し、良し! スキルを抑え込めた……暴走気味に倒してないっ……ちゃんと倒せた! ちゃんと戦えたッ!」
自身を
見ると、何時もの棍棒と共に、草で編まれたポーチの様な物と、歪な赤いガラス瓶が落ちていることに気付いた。
「これは……もしや!」
あわててガラス瓶。拾い【識別】を使い確認する。
【回復薬(小):亜人系モンスターやその集落で低確率で取得可能。身体を治療し、体力を少し回復する万能薬。外傷には塗って使い、それ以外は飲んで使用する】
「 回復薬ッ!」
その瞬間、俺の脳内に、二つの選択肢が浮かんだ。
一つ目は、今も痛みを訴える左腕に使用すること。
二つ目は、仕事で身体を壊し、痛みに苦しむ母に使用すること。
「……かーちゃんに持ってくべ」
その選択から、即座に自身に使用する選択肢を破棄した。何故なら、今の痛みくらいなら俺でも耐えられるし、なんなら実際に耐えた上で、戦えているからだ。それに、もし必要ならまた取りにこれば良いしな。
実際ゴブリンとの戦いを思い出せば、俺にそれができることを証明している。考えるまでもなかったことだった。