知ってる名前の少年に転生したけど、俺には正拳突きしかできない   作:幻覚症状

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魂の座(3)

 巨大な円筒。ネルフ本部とセントラルドグマを繋ぐメインシャフト。

 

 そこを僕は、エヴァ8号機に乗って……。

 

「あの……むず痒いんだけど」

『しっかり支えていないと危ないからね』

 

 ……13号機が腰を抱えている8号機に乗って、降下していた。

 

 ワイヤーを使って降りていて、その足を引っ掛ける金具が一つしかない。だからどっちかがどっちかに支えられなくちゃいけないのは分かる……けど、こうじゃなくない? なんか他にやりようなかったかな!? シンクロしてるから腰がゾワゾワするんだけど!?

 

「あの、13号機って飛べないの?」

『残念ながら、そうみたいだね』

 

 父さん――碇ゲンドウ率いるネルフが作った13番目のエヴァンゲリオン。最新型らしく永久機関で動くんだけど、飛べはしなかった。

 

『僕も詳細は聞いていないんだ』

「……13号機って、なんか初号機と似てるね」

 

 腰がゾワゾワしてしょうがないので、気を紛らわせるために別の話題を振る。

 

 そう。13号機は、初号機と同じカラーリングの機体だった。細部は違うけど、正直僕から見たらほぼ同じようなものだ。ちょっと胸部に厚みがあったり、なんか目に横線が入ってたりするけど。

 

 まあ……電池なしで動くだけでも便利だよね。8号機はアンビリカルケーブルをずーっと伸ばして降りてるというのに。

 

「何か他に違いとかあるのかな?」

『そうだね……』

 

 渚君は少し考える。

 

『エントリープラグが、斜めだったよ』

「ななめ?」

『そう。右肩から入れる感じで』

「……ああ、うん。そうなんだ。へえ」

 

 ……なんで斜めなんだろう? 心臓の位置、みたいなことかな。単なるオシャレかもしれない。

 

「暗くなってきたね」

『ライトをつけるよ』

 

 カッ、と13号機の肩から光が投射される。最新のエヴァにはそんな機能もあるらしい。いいなあ、あの立方体の……第6の使徒との戦いで使えたら便利だったのに……ん?

 

「赤い壁……えっ、エヴァ……!?」

 

 ライトに照らされたメインシャフトの壁。それは赤い巨人が絡み合って作り上げられていた。

 

 赤い……頭のないエヴァ……?

 

『ああ、すべてインフィニティのなりそこないたちだ。君は気にしなくていい』

 

 いや気にするよ! また知らない単語だよ!

 

「えっと! インフィニティって!?」

『人類補完計画が目指す新たな器さ……さあ、見えてきた。あれがリリスの結界だ』

 

 それ以上語ることはないのか、渚くんは下方を指す。

 

 メインシャフトが、青黒い床で蓋をされていた。穴の終端。いくつかの重機が端の方に寄せられていた。そこに、降り立つ。

 

『君たちを救出後、リリスが張った結界によってセントラルドグマには誰も入れなくなってしまった。通常の物理的なアプローチでも、Mark.09たちでも突破することはできなかった』

「それじゃ、僕たちも入れないんじゃ?」

『大丈夫さ。これを突破するための第13号機と8号機だからね。ふたりならできるよ』

 

 ……なるほど、そういうことか。

 

『テンポを合わせよう。正拳突きの練習を思い出して。ふたりで並んで拳を握った時間のように、息を合わせてATフィールドを中和――』

「破ァッ!」

 

 ゴシャア!

 

『――え?』

「よし、割れたよ」

 

 ふう、8号機の操作にも少し慣れてきた。放った正拳突きは、リリスの結界の中心を貫いた。その穴に吸い込まれるように、結界が崩壊していく。

 

 うん、確かにこれは8号機……僕が必要だったな。かなり手応えがあったし、正拳突きじゃないと無理だっただろう。

 

「降下、よろしくね」

『……ああ……うん』

 

 もう腰を抱かれるのはゴメンだったので、第13号機の背に飛び乗る。渚くんは何かモニョモニョ言いながら、結界の崩壊に合わせてゆっくりとワイヤーを下ろしていった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 バキン、ガラガラ。

 

 様相を変えたセントラルドグマに降り立った時、足元からはそんな音がした。

 

 赤い水をたたえた広い空間だったはずのそこは、今、巨大な白骨がいくつも丘を作って埋め尽くしている。特に多いのは頭蓋骨のようだ。赤い水は……この骨の下にあるのだろう。

 

「ここが、セントラルドグマ。そして……」

 

 ひときわ高い丘の上に、うずくまる白い巨体。

 

「リリス……」

『だったものだ。その骸だよ』

 

 槍を刺されて四つん這いになって止まった巨体の首はなく、そこには白化したエヴァ……Mark.06が自らをもうひとつの槍で貫いて埋まっていた。

 

「加持さんがMark.06の中に入って……サードインパクトを止めてくれたんだよね」

『彼には敬意を表するよ。コアへのダイレクトエントリー。エヴァを制御するための初歩的な方法……まさか彼自身を犠牲にするとは思わなかった』

「……渚くんが教えたの?」

『海洋研究機構でね。お互い監視付きだから最低限の情報交換しかできなかったけど』

 

 青い海と赤い海の境にある門の上に立つ、加持さんと渚君。あれはそういう場面だったのか。

 

『必要以上に悲しむことはないよ。見てごらん。二つの槍の形状が揃ってる。君の投げた槍と加持さんの槍は、希望の槍カシウスだ。彼は君に未来を託して行動したんだね』

「……うん」

 

 槍のことはよく分かんないけど、とにかく託されたことは確かだ。

 

『まずは槍を回収しよう。二本の槍を持ち帰るには魂がふたつ必要なんだ。そのための8号機と13号機さ』

 

 ……ほんと謎のシステム過ぎてよく分からないけど、とにかく。僕と渚くん、8号機と第13号機はリリスの死骸に向かう。

 

 骨の丘を超え、リリスの死骸をよじ登る。再び高くなった視点から見渡すと、セントラルドグマの全体が見えた。

 

 横たわる巨大な赤い十字架の足元には……零号機。JAの手足を取り付けられたそれが、ぐったりと横たわっている。あそこから綾波さんだけ救出されたのだろう。機体は回収する余裕がなかったのか……。

 

『海洋研究機構といえば、シンジくんも面白い話をしていたね』

 

 ようやくリリスの背中に登り終える。目の前には首から生えたMark.06の半身と胸に刺さる槍。そしてそのすぐ近くに、リリスの背に刺さる槍。

 

「え? ああ、えっと」

 

 なんだろう、イワシの話かな。いや、世界平和の話?

 

『磯の香りが懐かしいって話さ』

「ああ、海の匂い――」

『シンジくんはセカンドインパクト後の生まれだ。赤い海しか知らない。郷愁の念にかられるとは思えない』

 

 ………。

 

『そして僕の知るシンジくんは……未来に希望を抱いていなかった。悲しいことにね』

 

 渚くんは、リリスの背に刺さった槍に片手をかけて、問う。

 

『君は、何者なんだい?』

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 渚くんの問いに対する動揺。

 

 ――それが急展開する事態への反応を遅らせた。

 

「グオォオオオオオアアアアア!」

「なッ、あぐッ!?」

 

 咆哮と共に何者かが背後から飛びかかり、僕を、8号機を羽交い絞めにする。蛇腹のような手足。

 

「なっ……零号機!?」

「グォォォッ!」

「ぎゃああッ!」

 

 突如起動した零号機は、顎の拘束具を破壊しながら8号機の首に噛みついた。警告音と激痛。アンビリカルケーブルが引きちぎられ、内臓電源に切り替わる。

 

「な、が……ッ、だ、誰ッ……あああ゛あ゛ッ!」

『シンジくんッ……!?』

 

 そして渚くんは――

 

 ――第13号機は目の色を赤くして動きを止めた。

 

『!? なんだ、操作系が……これは!?』

 

 13号機の胸部が、ばぐん、と剥がれる。

 

 大きく伸びあがったそれは――第三、第四の腕となり。

 

 赤い目が、はっきりと上下ふたつに分かれる。

 

 ――四眼四腕のエヴァンゲリオン。

 

『くッ……!?』

 

 右腕ふたつで、リリスの背に生えた槍を。そして左腕ふたつで、Mark.06の胸の槍を握る。

 

『まさか……13号機はダブルエントリーシステム? そうか……! そういうことか! リリン!』

 

 13号機が膂力を振り絞り、二つの槍を抜き、頭上に構える。

 

 槍が形状を変えて、二股の二重螺旋の形になった。

 

 次の瞬間、足場が揺れる。リリスの死骸が、槍によって停止していた骸が膨張し、膨大な量の赤い水となって爆発した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そしてネルフ本部。碇ゲンドウの目前で。

 

 空のケージに収められていた巨大な白い頭部――リリスの頭もまた、形象崩壊を迎え赤い液体となる。

 

「始めよう、冬月」

 

 それが合図だった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「あぁがぁぁ…! ぐ……!」

 

 零号機の機械製の四肢が、8号機の四肢の付け根を完全に締め上げる。赤い液体となって爆発したリリスに吹き飛ばされても、その拘束は解かれなかった。

 

 むしろより一層強固になり、セントラルドグマの白骨の上で組み伏せられる。

 

 ギィィ……ミシ……ミシ……

 

 ――噛みつかれた首筋から……エントリープラグの上部から、軋むような音が響く。激痛が視界をにじませる。

 

「ぎ、ああぁぁぁあああ……!」

『シンジくん! くっ……!』

 

 13号機は、宙に浮いて槍を掲げたまま動かない。

 

 なぜ、どうして、まさか。

 

「……僕をッ……裏切ったのか? 父さんと手を組んで……ぐ……結界を突破するために……!?」

『違う、それは……』

「ッ!?」

 

 風を切る音。

 

『状況開始』

 

 綾波さんと似た声。けれど絶対に違う声。

 

『Mark.09……!』

 

 黄色い機体、エヴァMark.09がメインシャフトから飛来し、その手にした大鎌で――

 

 赤い体液とともに吹き飛ばされて、宙をさまよっていたMark.06の首を刎ねる。

 

 次の瞬間、見慣れた警告が表示された。パターン青。

 

「使徒……!? ゥ……ッ」

 

 ブワッ、と。

 

 Mark.06の体内から、何かが吹き出す。黒い霧。いや、粉末……砂。

 

 ……集合し、密集する……小さな円筒の、群体。

 

「そんな! 第12の使徒!? Mark.06の中に隠れて生き残って――」

「グオォォォ!」

「がっ、は、いぎ……!」

 

 ギィィ……ミシミシミシミシ

 

 激痛に目がかすむ中、群体の第12の使徒はMark.06を取り囲んで渦巻き始める。そして。

 

「うっ……?」

 

 グニョグニョと形状を変え、赤い大きな……赤ん坊のような姿になる。そして、急激に縮まり、赤い球体となった。

 

『くっ……』

「やめ……渚くん……!」

 

 第13号機が大きく口を開けて。

 

 球体形状の使徒がその口に飛び込み――噛み砕かれた。

 

 瞬間、光とエネルギーの奔流が溢れ出す。

 

「うわッ……!?」

 

 13号機が、白く光り輝く。

 

 二重の光輪を背負い、眼と胸部を赤く光らせ、咆哮する。バキバキと肩のパーツが伸びて翼のようになり。

 

「あっ!?」

 

 波動とともに、弾丸のようにメインシャフトを上昇していった。その余波が僕と零号機を圧し潰す。

 

「グオォ……! ……ッ――」

「ぐ……うぅ……! う?」

 

 ふっ、と首の痛みが消える。どうやら零号機が活動限界を迎えたらしい。

 

 ……たぶん、無人だ。これがダミーシステム。仕掛けたのは……父さんか。

 

 組み付いた零号機の手脚は相変わらず離れないけど……それどころじゃない。

 

 セントラルドグマに伝わる振動。轟音。そしてこの……嫌な感じ。

 

「これが……サードインパクトの続き……?」

 

 呟く。その先で、山吹色のエヴァ――Mark.09が、背中にロケットブースターのような機構を生やしてメインシャフトへと飛び立った。瞬く間に姿を消す。

 

「……行かなきゃ」

 

 絶え間なく続く轟音と振動。

 

 僕は動きを止めた零号機を背負ったまま、8号機の足をメインシャフトに向けた。

 

「止めるんだ……フォースインパクトを」

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