ゲームと「バグ」は切っても切り離せない問題だ。例えゲームがVRへと進化し、バグるという現象がまるでないかのように見えるほど技術発展した世界でも、バグは存在する。
腕が伸びたり、テレポートしたり。
俺は、元々そういったゲーム会社のデバッガーであり、開発陣から死ぬほど嫌われていた。
ほとんどの会社が俺に下した評価は、「バグの発見については天才的であるが、それ故に社員のストレスが増す」である。
…いや、俺もそんな風に嫌われるのは嫌だよ。だからゲームを楽しむだけの今の状態に落ち着いたんだ。でも、やっぱり探そうと思ってしまう。
ゲームがバグった時にだけ感じられるあの背徳感。カタルシスと呼ぶ他のない快楽。
だからこそ、俺は、神ゲーを信じたのだ。
「アイテム無限増殖しちゃった…」
アイテムボックスからアイテムを取り出し、足で踏みつけ、地面に落ちる前に回収。何度か繰り返し処理を行わせた後、壁と壁の隙間に投げる。壁に当たる前にウィンドウに出現したボタンを押し、回収。
最後に、上に向かって投げ、自分の頭にかすった瞬間に回収すると…
換金用アイテムである「宝石」が、目の前に落ちている。自分のウィンドウにもある。
ほら、2つになった。
「どーしよこれ」
シャンフロを信じて、あの神ゲーならばバグらせようと思ってもバグらないはず。そう思っていたのに。
何の因果か、やはり俺は、このゲームをバグらせた。
再現性を確認するために、いろいろなアイテムで奇行を繰り返す。分かったことは、「ナイフ」などの刺さる系アイテムは増殖しない。或いは、液体状のアイテムも、増殖しない。
だが、壁に跳ね返ったり、頭に跳ね返ったりするアイテムは、バグって増えるらしい。
…実を言うと、シャンフロの開発陣から一度、テスターの依頼が来たことがある。でも、その時から既に神ゲーと呼ばれ始めていたので、俺としてはネタバレだけは避けたく、丁重にお断りした。
やっぱり行くべきだったかもしれない。
ヤケになった俺は、換金用アイテムを大量に増殖させ、売った。店主には窃盗を疑われたが、さもありなん。俺も疑う。
「またバグっちゃった…」
俺のこの才能は、最早呪いである。自分で意図しなくても、バグに巻き込まれることが多いのだ。探そうと思っても見つけられるし、思わなくても勝手にバグる。
俺はというと、階段の間に体が挟まり、階段に対して垂直に刺さっていた。原因もよく分からない。ただ階段の上を歩いていただけのはずなのに。
「お前…またやったの?」
頭を下にしている俺に、上から声がかかった。目の前にいる鳥頭は、とある「めっちゃバグる」で有名な格ゲーをやっている時に出会った「サンラク」と言うクソゲーマニアだ。最近このゲームを始めたらしい。
「探すつもりはなかったんだけど」
「…つうか、これ、面白すぎるだろ…!!ネットに上げてやろうか…!!」
お腹を抱えながら爆笑しているサンラク。まあ、面白いのは間違いない。人が頭を下にして階段に突き刺さっているんだから。
「…好きにして。あんまり揶揄われると本気でバグを探してこのゲームごとぶっ壊すけどな」
「お前が言うと冗談に聞こえねーわ」
そうだろう。前科あるしな。
「いやあ、お前がバグを見つけるのと、バグのない神ゲーと…ホコタテそのものだと思ったんだが、お前が勝つんだな」
サンラクが俺を引き抜こうと上に向いた足を掴む。引っ張ろうとした瞬間、テクスチャがバグる。サンラクは間違いなく俺の足を掴んでいるのに、俺の足のテクスチャがテレポートしているかのようにその場で消えたり出現したりする。
「うおっ!?」
「無理やり修正しようとしたらそうなるだろ」
「…じゃあどうしろと?」
「ログアウトしてみるわ」
再起動はゲームの不具合修正に対する黄金策。一旦ログアウトし、入り直してみる。
「へっ」
俺の体が、二つある!?!?
「ちょっ…おまっ…!…これっ……!面白すぎるよな…!!」
地面をのたうち回りながら爆笑するサンラク。俺のアバターはその場で正常に動いているのだが、テクスチャだけ残ってしまったのか、俺の体は階段の上に突き刺さったままだった。
恐る恐る、階段まで近づいてみる。するとテクスチャは、俺の動きを再現しながら、されど上下左右が逆の状態で、俺の側にテレポートした。
「ぶっっっ」
吹き出すサンラク。
鏡を見れば、俺と全く同じポーズの奴が、上下左右逆状態で、俺のそばにスタンドかのように立っているではないか。
「どうすんだこれ…っっ」
極めて深刻な俺の反応を見て再び笑い始めるサンラク。…ちょっと笑いそうだ。
シャンフロバグっちゃった。どうしよ…
続かない。
本作にラストがあるとすれば、主人公が泣きながらシャンフロに致命的なバグを発生させて終了。