打てる手を打ち万策尽きた人類はついに勇者召喚に踏み切る
不甲斐ない自分達の情けなさに震える中、術式が行使され召喚されたのはある高校の1クラス分の生徒達と1人の用務員だった……!
果たして彼ら彼女らは魔王を倒し、世界を救えるのか!?
かくして世界の命運は20人弱の勇者達に託されたのであった
※ただし召喚された勇者達のレベルは50とする
テンプレ異世界召喚に強キャラ突っ込んだらこうなりました
荘厳な神殿を思わせる内装の部屋、巨大な魔法陣の上に1人の大人と十数人の少年少女が立って居た。
そのうち1人の少女が大人に向かって訴えかけ始める。
ルビーの如き瞳、白磁の肌、髪は黄金と見まごう見事な金髪。鈴の音を想起させる声で少女は言葉を発した。
「そんな、長時間異世界に晒されると変質してしまう可能性だってあるんですよ!?
そうなってしまったらわたくし耐えられません!
そうなったら……
そうなったら……
誰がわたくしのおやつを用意してくださるんですの!?
嫌ですわ嫌ですわ行かないでくださいまし〜!!
用務員さんは今の体組織バランスがベストオブベストなんですの〜!!」
そんな芸術品とすら言っていい少女は衆人環視の中、年甲斐もなく駄々を捏ねていた。
用務員と称された人物は困った様子で返答する。
「いえ、私再生持ちなんで多分大丈夫かと……」
「ほんとに100%完全に絶対ならないと言い切れますの!? 言い切れませんわよね!? はい論破! 用務員さんは結界内で待機!! 代わりに田辺が行きなさい!」
「えっ」
「ドンマイ田辺」
「諦めろ。お嬢のいつもの無茶振りだ」
「田辺先生の次回作にご期待下さい」
傍若無人とも言える少女の振る舞いに、周囲の少年少女はいつもの事だと軽い調子で流している中、用務員と呼ばれているただ1人の大人が諌め始めた。
「君たちも悪ノリしないで? これ避難訓練と違って本当に起きてる異世界遭難だからね? 田辺君も覚悟決めた顔しないでじっとしててお願いだから!」
「でも外の人すごい戸惑ってますし……」
「そうですわ! 行きなさい田辺! 誰の為でもなくわたくしと用務員さんの為に!」
「恐ろしく傲慢な言葉出てきたな」
「用務員さんの血ってそんな執着するレベルなの?」
「一般販売されてる吸血種向けの血液パックが100グラム298円のお肉とすると、用務員さんのは1グラム1万円の超々高級お肉かなぁ」
「つまり用務員さんは(お値段)3000倍……!」
魔法陣の外、少年少女らと同年代らしき純白の法衣に身を包んだ少女が恐る恐る好き勝手騒いでいる集団に声を掛けた。
「あの、勇者様方? 出来れば結界を解除して頂きたいのですが……」
「部外者は黙っていて下さいまし!! カラッカラに干からびたいんですの!? 真夏に道路で干からびてるミミズなんて目じゃないレベルで干からびさせますわよ! 一夜干しですわ一夜干し!」
「お嬢様なのにミミズの死に様とか知ってるんだ……」
「美味しく処理しようとしてて草」
「ドラクリヤさん、お手を離して頂きたいのですが」
「絶ッッッ対に離しませんわ。わたくし達は世界が終わる瞬間まで一緒でしてよ」
「同性かつ食欲由来な事に目を瞑れば感動的なセリフだったんですけどね……。すみません、失礼ですがこのまま対応させていただきます」
用務員と呼ばれた人物は申し訳なさそうにしながら法衣の少女に話しかける。
その間も金髪の少女、ドラクリヤは用務員の腕をがっしりと抱き込んでいた。
なんなら顔を埋めて深呼吸もしている始末。
法衣の少女は務めて平静を装い会話を続けようと試みる。
「えっと、その、凄く情熱的? な方に好かれているんですね。心中お察し致します……」
「いえいえ。今回の召喚は国家又は世界滅亡案件ということで宜しいでしょうか?」
法衣の少女は思わず動揺を露わにした。
彼ら彼女らに事情の説明など一切していなかったからだ。
「どうしてそれを……! はい。勇者様の仰る通り、今この世界は暗雲に覆われ、魔王の手により滅亡の危機に瀕しています。悪しき魔王を倒す為、世界を救う為、どうか勇者様達のお力をお貸しいただけないでしょうか!」
用務員は自身の胸元に顔を移動させて深呼吸を続けるドラクリヤを無視しながら、集団の1人へと尋ねる。
「こころさん、どうですか?」
「驚きました……言葉通り、本当に滅びる手前みたいです。大陸規模なので世界というには誇張が入っていますが、この人達は自力で戦ってどうにもならなかったから異世界召喚に手を出したみたいです」
再びの動揺。如何なる手段か法衣の少女の真偽を判別する手段を持つ人物の存在に僅かな警戒心を抱くも、現在の進退極まる状況を思い自身の思いを正直に伝えた。
「いったいどうやって? いえ、説明の手間が省けました。お願いします、もう頼れるのは勇者様達しか……」
「それにしても、対異も遅いですわね〜サボりですの? 職務放棄ですの? 税金泥棒の誹りは免れませわよこれ。そこな貴女! 送還術式は使えますこと?」
法衣の少女が懇願する中、ドラクリヤが茶々を入れつつ元の世界への帰還が可能かの是非を法衣の少女に問いかけた。
「すみません、私にはまだ使えません……ですが! 召喚陣にあらかじめ組み込んでありますので、定められた目的を達成すれば自動的に帰れるはずです!」
ドラクリヤはこころと呼ばれた少女に真偽の如何を問いかけ、こころはこれに肯定を示した。
「こころ?」
「これも本当。ビックリするくらい正直よこの子」
その答えを聞き、漸く用務員の胸から顔を上げたドラクリヤは室内に魔力を走らせた。
「グッド。軽く走査した感じ術式の齟齬も無さそうですし、座標指定もキチンと組み込まれてますわね。八意、位相圧の測定をなさい」
「もう終わってるよ。問題無し! 今回はかなり近い所だったみたい。防護術式無しで活動しても大丈夫そうだけど、この感じなら無理矢理こじ開けて帰れなくも無いと思うよ?」
「性根の腐った方が相手ならそうしていましたが、今回の子は稀に見る良い子みたいですもの。サービスですわサービス」
訳もわからず法衣の少女は困惑を露わにする。
どう言う意図で彼ら彼女らが会話しているのか理解が追いつかなかったからだ。
「あの……?」
「今回も緊急避難の範疇ですが、またするんですか?」
「どうせ遅かれ早かれ将来は仕事でやる事になるんですもの。ちょっと早い実地研修ですわ」
「すみません、勇者様達が何を仰っているのかよく分からないのですが……」
自身そっちのけで会話を続ける彼ら彼女らに法衣の少女は素直に疑問を口にした。
これまでの会話の様子から答えが返ってくる可能性は低そうだが、ただ眺めているよりはマシだと考えたからだ。
「あなた方が言うところの魔王を倒す、と言う事ですよ。申し遅れましたが私、私立遠野学園所属の用務員、
思いがけず帰ってきたマトモな返答と自己紹介に慌てて法衣の少女も自己紹介を返した。
「私はマティスタン教国8代目聖女、エマニュエル・サークリアです。ご助力感謝します。まずは現在の情勢や地理の説明等をさせて頂きますので、会議室までご同行お願いします」
漸く話が進むと安堵した法衣の少女、エマニュエルは詳しい話をしようと彼ら彼女らを案内しようとするも、ドラクリヤが静止の声を上げた。
「不要でしてよ! 木端魔王なぞ5分で片付けてきますわ!!」
「えっ」
その、あまりの言葉に思考が停止仕掛け、声が漏れてしまう。
魔王を5分で倒すなど、今時気狂いでも言わない事だからだ。
「お嬢、対象の座標特定完了。転移門展開いつでもいけるよ」
「えっ」
「5秒後に門を展開! 作戦はいつも通り! サクッとしばいてさっさと帰りますわよ! タイムイズマネーですわ!!」
「了解。術式装填開始」
「いくでガンス」
「デッデッデデデデ!(カーン)」
「転移門展開完了。田辺、GO!」
「いつも思うけど僕の扱い雑すぎない? やるけどさぁ」
「えっ、あの……えっ?」
集団の行動からどうにもおかしいと思っていたら、巨大な黒い渦が生まれ少年が1人飛び込んでいった。背後では複数人が自分では全く理解出来ない高度な術式を組み上げている。
怒涛の流れと情報量にエマニュエルの思考は完結せず、その表情はある世界で宇宙ネコと呼ばれる状態であった。
「田辺チェックヨシ! 総員突撃ィィィィ!!」
ドラクリヤが音頭を取り巫以外の全員が黒い渦に突入して行き、後には集団の誰かがアンカーと呼んでいた人数分の奇妙な物体だけが残されていた。
頭に疑問符の飛び交うエマニュエルに巫が苦笑いしながら声を掛ける。
「ははは……すみませんね騒がしい子達で。大船に乗った気で任せると良いですよ。この規模の問題ならあの子達がやる気になったらすぐ終わりますから」
「正直理解が追いつかないです……」
「ですよねぇ。あ、空晴れましたね。終わったかな?」
窓から見える外の光景に目を向けると、10年近く空を閉ざしていた忌々しい暗雲は消え、代わりに清々しい青空が広がっていた。あまりにもあっさりと消えたそれにエマニュエルは思わず呟く。
「私たちの苦労は一体……」
『──テストテスト、繋がってる?繋がってるね。接続ヨシ!』
もっと早く助けを呼んでいれば、でも私たちの世界の事なんだから出来ることは全部するべきで、でもこんなあっさり……
グルグルと思考が回る中知らない声が室内に響き渡り、すわ魔王軍の手のものかとエマニュエルは警戒態勢を取った。
そんなエマニュエルの様子を嘲笑うかのように見知らぬ声は言葉を続ける。
『かんちゃんどこほっつき歩いてるの!? 急に学園長がツムギニウムが足りないって次元連結術式組み始めたんだけど!? あー学園長困ります学園長困り、困ります学園長! かんちゃん早くかえ────』
ザザッという音と共に謎の声が途切れる。
エマニュエルがこの場に残ったもう1人を見やれば、困り顔とも呆れ顔ともつかない表情を浮かべていた。
巫がエマニュエルに向き直り、別れの言葉を告げ始める。
「送還術式も起動しましたし、同僚の胃が破裂しそうなので私ももう戻りますね。月並みなことしか言えませんが、復興頑張って下さい」
言い終えた直後、光の粒となって巫は天へと運ばれていった。
はて、残された奇妙な物体はどうなったかと目を向ければいつの間にやら消えており、その場には召喚された勇者達が居た痕跡は何一つ残されていなかった。
「あっ……行っちゃった。お礼、言いそびれちゃったな……。勇者様って凄いんだなぁ」
勇者って凄い。何が起こっていたのかほとんど理解出来なかったエマニュエルはそこで思考を止め、ひとまず魔王討伐の報告をすべく玉座の間に向かい始める。
部屋を出て渡り廊下を進む中、ふと空見上げると、残された人類を祝福するかの様に眩しい朝日が世界を照らしていた。
久しぶりに見た空には、困惑した主神の顔がうっすらと浮かんでいる気もしたが流石に気のせいだろうと頭を振り、エマニュエルは陽の光を浴びながら軽い足取りで歩き始めた。
魔王討伐RTAは突入開始から計測して1分54秒でタイマーストップしました
主神「なぁにこれぇ……」
魔王「これが人間のやる事かよぉ!」
補足
ただしレベルの基準は召喚前の世界基準とする
こいつらは月刊世界の危機(自他の世界問わず)やってるとこ出身なのでこうなりました
補足2
ドラクリヤが用務員さんの事を用務員さんと呼んでいるのは、メンヘラ系超越者や独占欲こじらせた超人、ガチ恋系人外共が自分だけ名前を呼べるようにするための術式を個々人が掛けていった結果、一定ライン以上の実力が無いと名前どころか苗字すら呼べなくなったからです。