処刑される理由を確かめるために行動するのですわ!
「これより、魔女アレクシリアの公開処刑を行う!」
町の中心に位置する広場に置かれたのは、あまりにも不釣り合いな断頭台だった。木材で作られた台と鉄で作られたギロチン。相反するもので作られたそれぞれが、見事なまでに組み合わさっていた。
広場には
一人は次期国王候補の一人であるシャルル、その弟であるフリード、フリードの婚約者であるアイリッテ、彼らと学友であるコーデリアとアーデルハルト姉弟、そして聖女シャリアと他貴族。
彼らは、今から行われる魔女アレクシリアの処刑を指揮した者たちだった。それは魔女へと変貌した元婚約者であり、友人であり、恩人である、アレクシリア・ローズバイトへのせめてもの慈悲であった。
「魔女アレクシリアをここに!」
シャルルの声が広場に響く。そしてそれに呼応するように、広場に現れた女性。黒く汚れ、所々が破れ、穴が開き、もはや襤褸と化したドレスを纏っていた。だが彼女自身は全く汚れていなかった。
日の光を浴びて煌めく、炎のように紅い髪、陶器を思わせる白い肌。どこまでも沈んでいきそうなほどに黒い瞳。そのどれもが、あまりに異質であった。そんな彼女の両手には鉄の枷が嵌められ、両脇には兵士が彼女の逃亡を阻止するように、アレクシリアの両腕を掴んでいる。
だがアレクシリアは兵士に引きずられるわけでもなく、むしろ堂々と歩を進めていた。そして断頭台へと上がり、その瞳をかつての学友たちへと向ける。
「お久しぶりですね、皆さん」
にこりと笑うアレクシリア。その顔を見た瞬間、黙っていた民衆が声を荒げた。
「魔女!」
「国をくらう悪魔!」
「薔薇喰いの悪女め!」
様々な罵声と憎悪がアレクシリアへと向けられる。時折石などが彼女めがけて投げられるが、まるで何かが彼女を守るように、見えない壁があるかのように、その医師は空中で止まり、地面へと落ちる。その光景がされに民衆を恐怖と警戒を煽り、より罵声を煽り出す。
「静まれ!」
フリードの一喝がこだまする。何者をも平伏させるような声は、たがぶった民衆をすぐに黙らせた。
「アレクシリア」
シャルルが語る。
「何か言うことはないのか?」
「いいえ、なにも」
笑顔で答えるアレクシリア。
「ふざけるな!お前は、自分が何をしたのか分かっているのか!?」
アレクシリアの言葉に、フリードが怒りを見せる。
「お前はこの国を、いや、この世界を!滅ぼそうとしたんだぞ!俺や兄貴だけでなく、コーデリアやアーデルハイド、そしてシャリアを生贄にして!すべてを喰らう闇の神をよみがえらすために!」
『闇の神』
それはこの世界を作った創造神である光の神と反する存在。光が生み出す力なら闇は破壊する力にとして、命を癒す力に対して命を奪う力として、その恐ろしい力を宿し、与える存在であった。
アレクシリア・ローズバイトは、その闇の神をこの地に呼ぶために、皇子たちを生贄に捧げようとしたのだった。
闇の力で動けなくなった彼らはあわやその命を奪われるはずだった。だが、光の神の力を宿した聖女シャリアの覚醒により、その悲劇を食い止めることが出来たのだ。
「どうして?どうしてですか!?一緒にお菓子を食べたじゃないですか!勉強だって、お泊りだって!みんな楽しかった、嬉しかった!なのに、どうしてこんなことをしたんですか!」
「ええ、楽しかったわね」
コーデリアが両目に涙をこぼしながら叫ぶ。だがアレクシリアは笑顔を崩さない。その姿に、アーデルハイドの強く握った拳からは赤い血が流れた。
そして聖女シャリアが、一歩前に出た。その姿に、周りだけでなく、民衆も、聖女へと目を向けた。
「なぜ、とは聞きません。どうして、と聞いても貴女は答えてくれないのですね」
純白な衣装をまとった聖女シャリア。魔女アレクシリアとは違う、庇護欲をそそる、そしてシャルルと同じく頭を垂れそうなほどの強さを抱かせる。民衆の何人かは、シャリアの姿に涙を流すほどであった。
一方で、その姿を見てもアレクシリアは笑顔を崩さない。まるで笑顔の仮面を貼り付けたような、そんな無機質ささえも抱かせる。響かないアレクシリアに、シャリアはため息をつき、そして息を吸い込んだ。
「私たちは、『友達ですか?』」
「ええ、『今も友達よ』」
彼女の言葉に、シャリアは手で顔を覆い、地面に崩れた。
そしてかつての婚約者であったシャルルが口を開く。
「本当に何も言うことはないんだな」
「ええ」
「なら…もういい。魔女アレクシリア・ローズバイトの処刑を行う!」
皇子の言葉に、民衆は沸き立つ。魔女を殺せと叫び声をあげる。
アレクシリアは、その声を気にせず、自ら断頭台へと頭を入れた。そして逃げられないように枷が嵌められ、ギロチンが上まで上げられ、今まさに魔女の首を落とさんとその刃を光らせる。
そして
「落とせ!」
その言葉を受け、ギロチンが彼女へと迫り、
「みんな幸せにね」
アレクシリア・ローズバイトは、笑顔で『友達の幸せ』を願った。
そして悲鳴が広場に木霊した。
目が覚めた時、私は自身の首元に手を伸ばしそっと触れた。溜息を零す。
嫌な記憶。
私が、今も愛している人たちに恨まれ、知らない罪によって最後には処刑される夢。
夢であろうと何度も体験することは辟易する。だが同時に慣れてもしまう。
『もうこれで何度目だったかしら』
私は身体を起こし自室のベッドから身を下ろした。お父様やお母様が私のために用意してくれた部屋。天蓋付きのベッドに、本が積まれた勉強机、大きな衣装箪笥などがある。
そしてバルコニー、私のお気に入りの場所。街を一望できる私の居場所。
未だ月の光が照らす中、私は扉を通りバルコニーへと出る。朝には賑やかになる街は今はどこの窓も灯がない。そんな寝静まった街をぼうっと眺める。
ふと街の中心にある広場が目に入った。私が大衆やシャルルたちの前で処刑される場所。あそこにギロチンが置かれそして私は首を落とされる。その理由をいくら探しても、私には未だ思い至らない。
『どうしてかしらね?』
私はくるりと振り返った。
私は、
その姿は未だ幼く、年端もいかない私。数年後、愛するシャルルと出会い、そして処刑されること知らない私自身。
『さてどうしたものかしら』
自分事なのに他人事のように感じてしまい、私は苦笑する。再び扉を通り抜け、私自身の側へ向かう。手を伸ばし、そっと眠っている私の髪を撫でた。ガラス細工のように透き通っている私の手は少しばかり彼女の髪を揺らした。
突発的な思いつきだから続きなんて考えていないのですわ!