――遥か太古、一つの時代が突如として滅び去った。

 生物の栄華を極めたといって過言ではないその時代が潰えた原因は、天から落ちし火石によるものか、総てを凍て尽くす極寒の風によるものか、致死の感染力を揮う病の蔓延によるものか、今なお意見は分かれている。
 ともかく、かつて世界に繁栄した時の支配者たちは、そうして消えていった。

 そして――異世界の地で今一度の生を受ける。

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思い付きで書いた単発です。
転生というジャンルは不得手ですが、ちょっとやってみた次第。是非お楽しみいただければ幸いですが。


第1話

 気が付くと、《暴君》は見知らぬ場所にいた。

 

 見渡さんばかりの"白"が広がっている。

 何処を見ても白、白、白――今までに目にしたことのない光景だ。砂浜の白色でもこうはいかない。ここはそれよりも上下左右が白の一色で覆われているので、そもそも比較にもならないが。

 あえて例えるなら、この直前……というべきか、この場所の前にいたところで感じた真っ白になる感覚なのだが、《暴君》にはそれが一体何であったのか分からない。熱かったような、寒かったような、苦しかったような――それも定かではない感覚。一つ確かなのは、《暴君》はそれで自身が()()()と思ったことだ。

 何もかも分からない。あの出来事も、この場所も、今の状況も、何も。困惑が募る。

 そこを配慮したかのように、白い空間内に声が響いた。

 

 ――ご安心なさい。私は敵ではありません。

 

 それは、言葉ではない意思の伝達だった。

 そもそも《暴君》に生まれつき言語の概念などない。そういう種族だ。故にか、その未知なる声は《暴君》に自らの意思を分かるよう伝えてきた。だから『暴君』はその意味を理解する。

 一見怪しく思う申告だが、《暴君》は不思議とそれを受け入れた。

 声はそれに確信しているように言葉――という形の意思を降り注がせる。

 

 ――貴方は死んでしまいました。それは悲しいことです。貴方()()に何の罪はない。あるとすれば、それが摂理だったということですが……理解してもらおうなどとは思いません。

 

 労わるかのように、懺悔するかのように語り出す声の主。

 引き続いて、本題へと移る。

 

 ――なので貴方には、二度目の生を与えましょう。それが理不尽な最期を迎えた者への、私の見返りです。できれば受けてくださると嬉しいのですが。

 

 およそ《暴君》からすれば、想像の埒外にある申し出。仮にこれが人間であっても、普通はすんなりと呑み込めないものだろう。

 だが、生きて死ぬ――そういった生き様の《暴君》は意味を解し、これを喜怒哀楽の感情もない生物的な感覚で享受する。得られるのならば得る。感謝も妥協もなく、ただ生きるがために。

 

 ――ではそのように致しましょう。目を閉じて、次に開けた時には貴方は新たな生を得ています。そこからもう一度自由に生きてください。期待していますよ。

 

 ――ああ。但し、貴方が生まれ変わるのは異なる世界です。もちろん適応するための『恩恵』も与えますが、どうかその地でも貴方()()らしく生き抜いてくださいね。

 

 そう言い渡された途端、《暴君》の意識が遠のく。眠るような、反対にこれから目覚めるような奇妙な感覚。

 終始訳は分からないままに、《暴君》は声の主の導く通りに流されていった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレン・グラントは森の奥地を巡り見やる。

 鬱蒼とした森だ。佇む樹木は、果たして幾年月を重ねてきたかな大木ばかり。前に立てば、その反対側に大きなモンスターが隠れていたとて気付けないだろう。――そんな想像をしてブルリと身震いしてしまった。

 

「ん、これは……」

 

 何かを見付けて観察してみるアレン。なんらかの生物が齧ったであろう果実の欠片だ。

 モンスターの調査・記録を行う調査官であるアレンは、フィールドワークを生業としていた。今回の任務はそれを活かす場面。痕跡からこの一帯に生息する生き物の傾向や生態などを推察すべく行動する。

 職業柄から熱中していた少年の許に、人間らしき足音が近づいてきた。

 

「アレン調査官。独りで行動しないでくれ。貴方を護るのも我々の役目だからな」

「あ、ああ、申し訳ありません……エリス討伐隊長」

「エリスで構わんさ。できれば、私もアレンとお呼びしても?」

 

 いいですよ、とアレンが応じると、軽鎧姿の女性――エリス・サトラーは金の髪を掻き上げ、柔和に微笑んだ。

 アレンはモンスター生態調査の一環で、彼女が率いる討伐隊の遠征に同行している。そうした余計な身柄であるのは自覚しているので、エリスの言い分は尤もだろう。素直に謝り、従うことに。

 

「『奇妙な竜を見た』――その一報を受けて赴いたが、どう思うかなアレン?」

「確かに生息環境には適してますし、ここに未知のモノがいたとしてもおかしくはないでしょう。それが危険なモンスターなのか、害のある生き物なのかは実際見てみないとですが」

「そうか。それも道理だ。とにかく今日は野営地を作って、明日にでも捜索を――」

 

 と、これからの指針を話す最中、エリスは言葉を途切らせる。何事かとアレンは一度エリスを見、その険しい視線を向ける先を見やった。

 そこには二人組の男――揃いの軽鎧姿は討伐隊所属の証だ。小太りと痩せぎすの両極端な彼らが呑気に談笑している様子に、エリスは鋭い指摘を飛ばす。

 

「デニース、ロナルド。薪木集めは済んだのか?」

「おや、大隊長殿。これは失礼を」

「そういった雑事は新人にやらせておりますよ。我ら小隊長は戦の要なので、遠征の疲れを癒してる次第で」

 

 へらへらと、軽薄な態度で揶揄うようにして言う二人、デニースとロナルド。

 アレンの知る限り、初めて顔合わせした遠征直前からこんな態度だった。まるで他人を小馬鹿にした、舐めた姿勢。事実、仲間の隊員が野営地の設営に勤しんでいる中、こうして怠惰にかまけている。悪印象を抱くのは仕方ない真剣みの無さだった。

 そんな彼らに、エリスは毅然と返す。

 

「小隊長なら新人の手本となるべきだと私は思うが? 立場に胡坐をかく者は慢心する。疲れを癒すならばその後でもできるだろう。その用意もしている」

「ほう、用意? ……それは大隊長自ら一肌脱いでくださると? それはそれは、男の喜ぶことを良くご存じで」

「おいおい、失礼だろうが。大隊長殿は調査官サマのことを言っているんだ……おっと、こちらも失礼。調査官サマは大隊長殿のお相手でしたな。我々には子供を愛でるシュミはないのでねェ」

 

 いっそ繕う気もない嘲り。デニースたちは嗤う。

 アレンとしては齢不相応の幼な顔には余り触れられたくないが、腕っぷしの強い討伐隊相手にそれを咎めるほどの度胸はなく。むしろ国外において、調査官という比較的偉い立場は、彼らからすればやっかみの対象として攻撃されるのは致し方なかろうものだった。

 一方で、同様に揶揄されたエリスは、咎めるのもバカらしいと顔に出た渋面で怒りを抑える仕草。

 

「……用意したのは回復ポーションと上等な酒、それに食料だ。経費は私持ちだから、気兼ねなく英気を養え。仕事をした後でな」

「はいはい。それではお従いしますよっと」

 

 軽薄にそう応じ、二人は揃って森の奥に姿を消す。

 エリスはそれを見送りながら、ため息交じりにアレンへと謝辞を口にする。

 

「すまない。彼らは女の私が隊長として上にいるのが気に食わないんだ。さっきみたく揶揄ったり、根も葉もない話で好き勝手盛り上がったりね。私にもう少し威厳があれば、こうはならなかったんだが……」

「いえ、そんな。エリスは僕からすれば全然――ん?」

 

 申し訳なさそうなエリスに対してフォローしようとしたその時、アレンは何かを発見する。

 どうした? と問うエリスを余所に、アレンがちょうど近くに立つ巨木に寄り、その陰へと覗き込む。するとそこには――紛れもない、何らかの足跡があった。

 見るからに巨大な、人のものではない足跡による窪み。しかし一見して何の足跡であるか分からなかった。調査官として年相応に経験豊かなアレンは知識に自信があったのだが、それでもそれは該当するモンスターがいない形状なのだ。

 エリスもそれを見て、怪訝に眉を顰める。

 

「それは……竜、ドラゴンか? それにしては大きいが……?」

「分かりません……とにかく、これでハッキリした。ここには未知の"何か"がいますね」

 

 

 

 

 

「――ったく、やってられないぜ」

 

 森の只中でデニースが愚痴を零す。

 誰も聞いていないのを良いことに……否、たとえ聞いていたとして構いはしないのが彼の品性なのだが、それでも野外とあってあからさまな悪態を吐く。

 それにロナルドも同調。

 

「大隊長殿はお嬢様でいけないな。お綺麗なのがお好きと見える。これなら規律が厳しくとも、ハモンド騎士団長の元に配属された方がマシだったぞ」

「いやいや、どっちもどっちじゃないか? かの団長様は、うちの大隊長様がお気に入りだからなァ。どうせ女の武器で団長様に取り入って討伐隊長になった女だ。お綺麗なのは見た目だけじゃないかな?」

「はっは、そりゃお笑いだ! 俺もあやかりたいもんだぜ!」

 

 ゲスの勘繰り、出処のない出鱈目で盛り上がる二人。日頃より彼らは、やっかみをそうして晴らしている同士だった。……それが明確に咎められないのは、そういう男尊女卑の意識が根強く、総意の域であるから。

 

「ま、今は従うとしますか。上も俺らの実力を知れば人事も変わるさ――ちょいションベン行ってくる」

「はいよ。ちゃんと手を拭けよ? 大隊長様は綺麗がお好きだからなっ」

 

 そう掛け合いながら、デニースは茂みを分け入って好い場所を探す。

 彼は自分に異様な自信がある。自分は上に立つ秀才だと。だからこそ現状の、格下と見ていた女性の下にいるのが疎ましい。いずれは自らが隊長となり、ゆくゆくは団長になり、偉くなると信じている。

 その時には、あの高潔な女をどうしてやろうか。下劣な考えと共に、用を足さんとする。

 ――そんな思考は、ぶつ切りされたように停止させられた。

 

「は――?」

 

 むくり、と。

 生い茂る茂みの奥から、鎌首が持ち上がる。

 埒外の事態にデニーロは茫然とし、そして次の瞬間には、彼の眼前を紅蓮が覆った。

 

「ん? おい、どうしたー?」

 

 そのほど近く。ロナルドは相方に声を掛ける。かなり深い茂みが邪魔をして、用足しに行った相方に何があったのか知り得ない。

 だが、答えは向こうから教えてくれた。

 ザザザ、と草を分ける音。その音が段々と接近し、それと共に茂みがぶすぶすと焦げる。流石のロナルドも唯事でないと剣を抜こうとするが、

 

「――う、うあああああぁッ!?!?!?」

 

 途端、頭上まで覆い尽くした茂みからの影に絶叫を発した。

 

 

 

 

 

「! なんだ!?」

 

 アレンが足跡近辺を調べる横で、エリスは遠くからの絶叫に反応する。

 他の隊員も、すわ何事かと各々に身構えだす。

 すると森の向こうから、覚束ない足取りで一人の男が走ってくる。

 

「助けてくれぇぇぇーッ!」

「ロナルド!」

 

 情けなく駆けてくるやせぎすの男――ロナルド。いつもは人を下に見る態度の彼が、何かに怯える様子で助けを求めてきた。

 が、その願いは急激に迫ってきた背後の襲撃者によって潰える。ロナルドは巨大な顎に頭から食い付かれ、容易く嚙み砕かれ喰われてしまう。

 そうして存在が露わとなる襲撃者に、エリスは目を剥く。

 

「――ドラゴンだと!?」

 

 竜。またはドラゴン。そのモンスターの出現にアランも含め一同驚愕する。

 紅き鱗で覆われた巨躯、それを支える強靭な四肢、体躯から伸びる鞭の如きしなやかな尾、広げれば一帯を薄闇に包めそうな翼、悪魔と似通う角の生えた頭部、その口からはちらちらと灼熱の息吹が漏れている。

 まさに怪物(モンスター)。国内に保管される記録にある表現は決して誇張でなく、なおかつ初めて見る実物はそれで表現は足りないと思わせる迫力があった。

 

「総員、戦闘準備!」

 

 真っ先に動けたのはエリスだ。隊員に指示を飛ばし、応じて彼らは武器を構える。

 討伐隊はその名の通り、モンスターを討つことを生業とする王国公認部隊だ。こうした事態は心得ている。訓練と実戦経験から、エリスの指揮でそれぞれが最適解の行動を取っていく。

 非戦闘員のアレンは予め言われた通り、巨木の陰に避難する。

 

「っはあああ!」

 

 主戦力の人員が仕掛ける。デニース小隊の者たちだ。もはや誰も知る由ないが、小隊長である彼はドラゴンにより灼熱を浴びせられ、影も形も残ってはいない。

 そんな哀れな小隊長などに構う今ではなく。小隊の隊員がドラゴンへと先手の攻勢に出る。

 

 しかし、対するドラゴンはそれを体の一振りで薙ぎ払ってしまう。

 

「ぐあッ!?」

 

 一様に吹き飛ばされる小隊。まるで竜巻に見舞われたよう。倒れる隊員にドラゴンが迫った。

 先陣の危機にエリスが即座に動く。

 

「みんな下がれ! ――『烈火よ、宙を奔れ(ファイア・ボール)』!」

 

 隊を下がらせたエリスが、手を突き出し呪文を詠唱。掌に生成された火球が弾けるようにして射出される。

 その威力で、辺りの巨木であっても抉れる火炎魔法が狙い誤らずドラゴンに着弾した。

 が、それはドラゴンの注意を逸らすのみで、鱗すらも傷付けられていない。

 

「なにッ……!?」

 

 討伐隊とて、『ドラゴン』という種との交戦は経験している。苦戦はしても、勝利を収めてきた。エリスの魔法も通用してきた実績がある。災禍の象徴ともされるドラゴンを相手できる自尊心が確かにあったのだ。

 その自尊が崩れる。このドラゴンこそ、真の『災禍(ドラゴン)』だと実感させられた。

 

「――――ッ!!」

 

 ドラゴンが吠える。まるで暴風の音のよう。

 その喉奥が赤く照らされたのを見て、エリスが声を上げる。

 

「――ブレスだ! 総員回避ぃッ!」

 

 素早い指示。だがそれは、無意味なものだった。

 瞬間、吐き出されるドラゴンの息吹(ブレス)。灼熱の息が、放射線状に放たれる。それはさながら火炎放射器のようであり、ドラゴンが首を振ることでまさしくその性能を発揮された。

 

「エリス!」

「! アラン――!?」

 

 触れれば炭となる灼熱。隊員の安全を優先し、自身は蔑ろにしようとしていたエリスの目に、突如アランの姿が映る。アランは飛び出したままエリスを自らで押し込み、致死の熱波から逃れた。

 

「あ、あぐぅ……!」

「ひっ、ひあぁ……ッ!」

「くそッ――!」

 

 放射攻撃が終わると、ところどころで悲鳴と苦悶が零れ出る。回避間に合わず焼け死んだ者も少なくないが、全滅は免れた。けれど多くが火傷を負い、またはその惨状に絶望を表す者もおり、果たして全滅とどう違うのか。

 エリスは幸いにも無事だった。アレンも同様。近場の大岩へと隠れ、命拾いする。

 

「――なんてことだ、ここまでとは……!」

 

 エリスは岩陰から状況を見、端正な相貌を苦く顰める。

 モンスターと戦ってきた討伐隊は、みな騎士団に劣らず対モンスター相手に戦達者揃いだ。それが、油断していたとはいえこの惨状。いかにあのドラゴンが今までとは一線を画すか思い知る。

 同じく戦況を見たアレンが不安げに問う。

 

「ど、どうしましょう? これじゃみんなが……!」

「……仕方ない。逃げられる者だけでも撤退する。私が囮となるから、その隙に逃げろ」

「! そ、そんなのダメですよ!」

「他に手はない! 部下を死なせることになったのは私の責任だ。だからたとえ死のうとも他の者を――!」

 

 自棄や自暴でなく、高潔な意思で囮となろうとするエリス。それを良しとできないアレン。

 どちらかを選ばねば――更に言えば、エリスの手段でなくば全滅は必至の状況。ドラゴンもまた生かして帰す様子でない以上、絶体絶命だった。

 やらねば死ぬ。やらなければ終わり。その中で、

 

 ズンッ……と――

 大地を揺らす地響きが起きた。

 

「っ?」

 

 何事かと気が逸れる端、またズンッ……! と再度の地響き。

 着実に大きくなっている振動。揺れる草木。その正体は地震などではなく。

 直後、巨木の陰から現れたのは――見たこともない巨大な生物だった。

 

「……な、なんだ、この奇妙なドラゴンは……?」

 

 その姿にエリスはつい言葉を零す。

 アランもまた、同じ意見を浮かばせる。――それほどに珍妙な生物であった。

 様相はまるで『ドラゴン』。けれど前傾姿勢の巨躯に、大きすぎる頭部。後脚に対して前脚はやけに矮小で、ドラゴンにあるような角も翼も持っていない。『ドラゴン』へのイメージが根強いエリスたちの基準からすれば、余りにも不細工な生物だった。

 その生物は、現れた矢先に目の前のドラゴンを見据え、大きすぎる顎を開き唸りを上げる。

 

 

 

 ――《暴君》は、目覚めるとこの巨木立ち並ぶ森にいた。

 白い空間同様に見知らぬ場所だが、こちらは何処か馴染みあるところだ。空気が似ている。そこにいる生き物はやはり見たこともないおかしなものばかりだったが、それくらいの違い。《暴君》は棲み良いそこを自らの縄張りと見なした。

 ただ一つ、今目の前にいる()()()は目障りだ。

 自分の縄張りとしたそこで我が物顔をしているヤツ。翼の生えた、これまた見知らぬ生き物だ。これまでは無闇に突っかかることもないと見過ごしていたが、暴れているのが目に入ったのでいい加減鬱陶しかった。

 

「ゥルルルッ……!」

 

 ヤツ――ドラゴンも《暴君》の出現に明確な敵意を示す。

 そのまま両者は距離感を測るように旋回。そうして互いに牽制代わりの噛み付きを空振らせる。

 牙を剥き合う巨躯二頭。そこにエリスたちは傍観することしかできない。

 

「――ガアッ!!」

 

 まずドラゴンが仕掛けた。

 迎える《暴君》。伸びてきた首からの牙を押さえ、迫る体躯をいなす。返す刀で反撃する《暴君》に、ドラゴンもまた対抗する。

 しばしの拮抗。それに業を煮やしたか、ドラゴンが更に攻め入った。

 

「ッ!? まずい、またブレスだ!」

 

 エリスが動作に気付く。先に隊を半壊させたドラゴンの攻撃だ。喉奥が赤く燃え、その意味を解せない《暴君》に標準が向く。ドラゴンに知性があるならば、きっとそれに勝利を確信する。

 直後、放たれる灼炎の息。周囲の草木をも蒸発させる炎熱が《暴君》を襲う。エリスとアランは、脳裏に悲惨な《暴君》の姿を夢想した。

 が、その予想は完璧に裏切られた。

 

「ゥウッ――!!」

 

 浴びせ掛けられた熱波に、しかし《暴君》は苛立たし気に受け止める。まともに燃える息吹を浴びている表皮には焦げすら見えない。痛痒すらもなく、《暴君》がドラゴンを睨みつけた。

 ――これが『恩恵(ギフト)』。《暴君》がこの地に二度目の生を受けた際に宿された力だった。

 『竜王』。そう名付けられる恩恵は、仰々しい名前に対して、その能力は純粋な肉体強化だ。その者の持ちうる力を底上げし、過不足なく発揮することができるシンプルなスキル。

 しかし、それがかつて生きた地で『史上最強』と謳われ憧憬の念を向けられた《暴君》が有するなら話は変わる。

 現に《暴君》は、今まさにこの地で脅威とされるドラゴンの攻撃をものともしていなかった。

 

「グウゥッ……!」

 

 必殺の攻撃が通じないと分かったドラゴンは、歯噛みするような仕草をして翼を広げだす。

 野生は無駄なことをしない。勝てないとなれば逃げるのが賢い手段だ。勝ち負けも生きる上で必要だが、まず生き延びなければ終わりだった。

 

「っく!?」

「エリス、伏せて!」

 

 羽ばたく翼が烈風を起こす。とても人間には耐え切れず、アランが吹き飛ばされかけるエリスに覆い被さることでやりすごそうとする。

 一方、相対する《暴君》。その烈風にも体勢が揺らぐことなく、逃げようとするドラゴンに接敵する。空へと飛び立たんとするドラゴンは迫るその青龍刀が如き牙の生え並ぶ顎にあえなく捕らえられた。

 

「ギャアアアァッ!?」

 

 甲高い絶叫がドラゴンから上がる。

 首を捕らわれ、もはや逃げることが叶わない。ドラゴンは強靭なモンスターであるが、それでも空駆けるため自身を軽量化せざるを得ない。人間の手では力は比べるまでもなく、骨であっても生半可な武器では到底断てないものであろうと、《暴君》にとっては御しやすく脆い生物の噛み応えであった。

 ベキリ、と。

 その《暴君》の顎がドラゴンの首を容易くへし折った。

 力なく崩れ落ちるドラゴン。災禍と同等とも例えられる恐るべきモンスターは、それよりも恐ろしき生物の手で制圧されてしまった。

 

「……(ドラゴン)を、倒しただと。なんて恐ろしい竜なんだ、あれは……!」

 

 一部始終を目撃したエリスが、信じられないものを見る目でその生物を見やる。アランもまた同じ意見だ。生き残りの隊員ですら、眼前の光景に我が目を疑う。

 仕留めたドラゴンを、《暴君》は当たり前のように喰らう。人の武器でも傷一つ付かない鱗を食いちぎり、肉食動物さながらに荒々しく食す。

 

「――――ッ!!」

 

 勝鬨の咆哮。それはドラゴンよりも重く、この世全ての生命をも超えた王者の響きだった。

 恐ろしき竜――奇しくも、後にそう呼称されることとなる彼の地における太古の覇者が、異世界にその存在を認識された瞬間であった。




こうでしょうか?分かりません!

お目汚し失礼。やりたかったものを吐き出させていただきました。ほぼ初めてなくらいの長文でしたよ。
今回登場の《暴君》は、いわずもがなティラノさんです。子供の頃から憧れた恐竜王様。その魅力を百分の一でも伝えられたら良いんですが…

遊び要素として、キャラの名前はある名作から捻らせていただきました。察してクスっとしてもらえたら満足です。せめてもの書いた甲斐があったってものですね。

とりあえず単発で、反響次第で連載化します。一応ネタはあるけど、やるとしたらもう少し纏めた内容にするし、もっと短い文章にしますよ。長文すぎて引くに引けなくなって投稿したところもあったり。

それでは、貴重なお時間ありがとうございました。

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