東京・渋谷。巨大スクリーンやネオンが彩る街の中心に、ガラス張りの近代的な百貨店がそびえ立っている。
そこが東急百貨店、今日の物語の舞台。
季節は十二月の終わり。街にはクリスマスが終わった余韻がまだ微かに残り、年末年始のセールへ向けて準備が始まろうとしていた。店先にはツリーが片付けられ、代わりにお正月用のディスプレイがちらほらと置かれ始めている。
この時期の渋谷は、帰省や旅行に向かう人々で混雑しながらもどこか浮き立った空気がある。今回の舞台、東急百貨店も例に漏れず、冬物クリアランスセールを目当てにした客が途切れずにやってくる。婦人服、紳士服、コスメに雑貨、そして地下の食品売り場――どのフロアも、店員たちが元気な声で「いらっしゃいませ!」と迎え、温かな照明の下、人々は思い思いに買い物を楽しんでいた。
しかし、その日の夜明け前、南極の研究基地から緊急通信が入っていたことを渋谷の誰も知る由はない。そこには“正体不明の生物が、極寒の空から日本方面へ飛び立った”という報告があったのだ。
そしてこの日は、ただの寒波では終わらなかった。
午前十時、定刻通りに開店した東急百貨店は、通常運転の一日を始めるはずだった。しかし開店してすぐ、異様な光景が東急百貨店外の防犯カメラに捉えられる。
「なんだあれは……!」
警備室のモニターを見ていた新米警備員・大森は、信じられないものでも見たかのように声を上げる。画面には、明らかに常識外れな生物が映し出されていた。
もやのような冷気をたなびかせながら、白い影が建物に接近していた。その姿はまるで巨大なペンギン――そう、冷凍怪獣ペギラである。
「グォー」
ペギラは低い声で唸りながら口先から冷気を放ち、建物の壁をひそかに凍らせながら、滑るように移動する。百貨店の外壁やガラス窓、屋上近くまでも一瞬で氷の結晶が広がった。まだ外が明るい時間帯なのに、まるで夜のように光が鈍って見える。
「落ち着け、大森くん。とにかく他のフロアの店員たちに注意を呼びかけるんだ。お客様の安全を最優先に!」
ベテラン警備員の菅野が低く鋭い声で指示する。かつて別の百貨店で防犯対策を経験したこともある菅野は、怪獣とは言え“まずは冷静に対処する”と自分に言い聞かせた。
一方、店内放送のアナウンス係が慌ててマイクを握るも、緊急放送するにはあまりにも突拍子がなさすぎる事態だった。実際に呼びかけたところで、お客様がパニックを起こす可能性もある。
「ただいま当店に正体不明の怪獣らしき生物が接近しております。落ち着いて……」
だが、そんな不安とは裏腹に、ペギラは大きく翼を広げて建物の正面に着地すると、案外おとなしく自動ドアの前に立ち止まった。バサリ――という重みある音が聞こえると、ドアのセンサーが反応してスライド。
身長2メートル、巨大な冷凍怪獣がスッと頭を下げ、冷たい空気を引き連れて館内へ踏み込む。ドア付近にいたスタッフもお客さんも、一斉に息を呑んだ。
ペギラは暴れることなく、眠たげな目つきで興味深そうに店内の様子を見回している。
「い、いらっしゃいま、せ……」
ドアを担当していた若い女性スタッフがかろうじて声をかけると、ペギラが「グォー」という低い鳴き声を発した。それは脅しというより、どこか応答のようにも聞こえる暢気な声だった。
『こうして東急百貨店の“氷の一日”が本格的に始まりました。これから30分、貴方の目は貴方の身体を離れ、この不思議な時間の中へと入ってゆくのです……』*1
ペギラが店内へ足を踏み入れてから数分もしないうちに、東急百貨店内の室温は急激に低下した。
冷気が四方に漂い、ガラスやタイルの床を薄い霜が覆い始める。まるで巨大な冷蔵庫の中に閉じ込められたような感覚だ。
最初に悲鳴が上がったのは化粧品フロアだった。化粧水やクリームが並ぶディスプレイがあっという間に凍り付き、商品のボトルに氷の膜が張る。滑りやすくなった床に、通りがかりのお客さんが転びそうになって店員が慌てて支えるシーンがあちこちで発生した。
「ただいま暖房を最大にしていますが、追いつきません! 外壁が完全に氷結しています!」
館内放送が不安げに流れる。しかし、ペギラは店内の物を破壊するわけでもなく、悠々と奥のフロアへ進んでいる。
一番混乱したのは、何の前触れもなく体感温度が氷点下に近づいていることだった。普通ならすぐに避難誘導を行うべきだが、客やスタッフがどこへ逃げればいいのかもわからない。外壁が氷に覆われているとなれば、ドアや非常口がきちんと機能するか怪しいところだ。
幸いにもペギラに攻撃性が見られないため、とりあえず店員たちは混乱しながらも通路を確保し、客を安全に誘導するしかなかった。
「寒い……でも、私はやるべき仕事がある!」
そう言って鼻を真っ赤にしながら動き回っていたのは、新人販売員の佐藤だ。化粧品売り場を担当し始めて一年目、まだ接客にも慣れきってはいないが、持ち前の明るさと粘り強さで頑張っている。
「皆さま、足元お気をつけください! 滑り止めマットを敷いていますが、どうしても滑りやすくなっております!」
氷漬けのフロアでも、手がかじかみながらも一つ一つ注意喚起の貼り紙を設置して回る姿は、まさに“新人パワー”そのものだった。
ほどなくして、支配人や店長クラスのスタッフが「とりあえずペギラを落ち着かせる方法を考えよう」と警備室に集まる。だが所詮は素人、怪獣の生態など誰もわからない。
パニックだけが募る中、ペギラは悠々とエスカレーターに乗り込み、さらに上のフロアへと上がって行った。
エスカレーターに乗るペギラの姿は、まさにシュールそのものだった。
あまりにも重い体重のせいでエスカレーターのモーターが悲鳴を上げながら動いているが、それでもペギラは器用にバランスを取りながら上階を目指している。
その先にあるのは紳士服売り場。スーツやコートがずらりと並び、冬物の厚手のコートやジャケットを求める客が普段多く訪れるフロアだ。
「ここは……!」
追いかけてきた佐藤は、化粧品売り場から飛び出してきたものの、防寒具など身に着けていなかったため、すっかり体が冷え切っていた。だが、なんとかペギラを見失わないようにしなければと思い、必死に後を追う。
ペギラは店内のディスプレイを興味深そうに眺めたり、マネキンを軽くつついてみたり、まるで買い物客のような振る舞いを見せる。「グォー」という声で店員たちが思わず後ずさりすると、眠たげな目つきで周囲を見回す仕草をするのだ。
一見すると、暴れる気配はない。しかしその巨体からあふれ出す冷気の影響で売り場の商品はどんどん凍結していく。店内通路の床はツルツル滑る氷床と化し、客足は一気に遠のいてしまった。
そんな中、紳士服のベテラン販売員・橋本がすっとペギラの前に進み出る。
「こちらへどうぞ……本日は冬物のコートが多数揃っております。防寒性は抜群で、これからの寒い季節には最適ですよ」
もちろん、相手はペギラなのだから常識的に考えれば通用しない。しかし、一流百貨店のプライドか、それとも職業意識か、怪獣相手でも橋本の接客態度には微塵の乱れもない。
ペギラは「グォ……?」と首を傾げるように小さくうなった。橋本は次々とコートを取り出し、ペギラのサイズに合いそうなものを探し始める。
「お客様……どういったデザインがお好みでしょう? 丈は長めのほうが暖かいかと存じますが、動きやすさも重視されるならば、こちらのショート丈も……」
周囲で見ていた佐藤は、「まるで普通のお客さまへの接客だわ……」と内心感心していた。異形の怪獣を相手にしてなお、橋本の接客は実に淡々としている。
そのとき、ペギラが一着のダウンコートを手に取るようなしぐさを見せた。決して小さくはないサイズだが、それでもペギラが着るにはあまりに足りない。
だが、その行動に、橋本の目が光る。
「なるほど。暖かい素材をご希望ですね。でしたら、より防寒に優れたものをお見せしましょう」
客とは何か――それは決して人間だけに限らないのかもしれない。これが東急百貨店の“おもてなし”精神だ。佐藤は感心しつつ、ふと考える。
(まさか、本当に“買い物に来た”なんてこと、あるのかしら……?)
その時点では、まだ誰もペギラの真意を確信できていなかった。
一方、店長の田中は警備室で頭を抱えていた。マスコミや役所などから問い合わせの電話が殺到し、対応に追われているのだ。
「ええ、はい、ペギラとかいう怪獣が来店中です……いえ、まだ商品を破壊する様子はなく……はい、店内は氷点下近くになっていますが、どうにか営業は続行しておりまして……」
電話越しの相手に正確な状況を伝えるのも一苦労だ。百貨店としては営業停止して避難誘導したいところだが、外壁が凍り付いている状況下では、お客を安全に避難させるのも難しい。しかもペギラが出口付近を氷漬けにしているような状態だ。
紳士服売り場からの報告によれば、ペギラは今のところ騒ぎを起こさずコートを眺めているという。もしかしたら本当に何かを探しているのかもしれない、と店長は僅かな期待を抱き始めた。
そこへ防寒用品の担当バイヤー・小林が駆け込んでくる。
「田中店長、大変です! あちこちで氷が張り、空調もダウン寸前。しかも食品売り場の生鮮コーナーが冷凍庫になってしまって客が長居できず、店内がガラガラに……」
「だが、ペギラが本当に冬物を求めているなら、逆手に取るんだ。買い物を続けてもらって、満足して帰ってもらうしかない。このまま暴れられるよりはマシだ。とにかく、スタッフには接客に徹するように指示してくれ」
「わ、わかりました……今はそれしか手がないですね」
そんなバカな話が、と小林は戸惑いながらも、防寒具売り場の応援に向かう。店長は頭をかきながら、心のどこかで「妙な話ではあるが、こういう時こそ百貨店のプロとしての仕事を全うしよう」と自分に言い聞かせた。
さらに外部への情報提供をしながら、店長の田中は少しだけ胸を張る。万が一にもペギラが大暴れせずに済むなら、逆に“怪獣来店”という前代未聞の珍事が、世間を賑わすトピックになるかもしれない――そう思うと、この窮地の中に一条の光が差し込む気がしたのだった。
ペギラは紳士服フロアでコートを物色した後、今度は婦人服フロアにも立ち寄り、羽毛のストールやファー付きの手袋などを眺めていた。
店員がビクビクしながらも商品を差し出すと、「グォー」と一声鳴いて受け取る仕草を見せる。まるで“ちょっと試してみたい”と言わんばかりだ。
ただ、ペギラの巨大な体と氷を纏うような冷気で、商品が凍ってボロボロになってしまうこともしばしば。店員たちは口には出さないものの、「弁償してもらえないよな……」と心の中で冷や汗をかいていた。
そんなとき、救いの手を差し伸べたのは店内放送のアナウンス係だった。彼女は、ペギラが普通に接客を受けているという状況に興味を抱き、「怪獣に向けた館内放送」という前代未聞の試みを実行に移したのだ。
「冷凍怪獣ペギラ様、ようこそ東急百貨店へ。現在、当店七階にて最新の冬物防寒グッズを多数ご用意しております。ぜひご覧になってみてください」
ユーモアも混ぜたそのアナウンスは、人間の客に向けて行っているのか怪獣に向けて行っているのか、もはやよくわからない。しかし、フロアマップが載った案内板を指さして呼びかける店員の姿を見たペギラは、再び「グォー」と低く応じ、スタスタとエレベーターのほうへ向かい始める。
客や店員たちはその様子を唖然として見送るしかなかったが、ひょっとするとペギラは人間の行動を理解しているのでは? と期待を抱かせるのに十分な光景だった。
ついにペギラは防寒用品コーナーへたどり着く。
そこはダウンジャケットや厚手のパーカー、さらには高性能の防水防寒コートなどが一堂に会するコーナーだ。
先ほど紳士服売り場でペギラの対応をしていたベテラン販売員・橋本に加え、バイヤーの小林、そして佐藤らが一丸となってペギラを“接客”する形となった。
「こちらは最高級のダウンコートで、マイナス二十度でも耐えられると評判の品です。ええと……お客様の大きさですと、どれほどのサイズが必要になるのか……」
橋本がさまざまな生地やサイズを取り出して見せていると、ペギラはしきりに鼻先をくんくんと動かしながら、どれが一番暖かそうなのか確かめるかのように首を回した。
と、そのとき。ペギラはコートを一着、気に入ったように両翼でしっかりと抱えると、再び「グォー」と鳴く。
「気に入っていただけた……んでしょうか?」
佐藤が思わず声を漏らす。その瞬間、ペギラの周囲を包んでいた冷気が、一気に弱まるのを感じた。氷点下だったフロアの温度が徐々に戻り始める。まるでペギラの“満足度”が上がるにつれて、氷も溶けていくかのようだ。
「もしかして……ペギラ様、本当に防寒具を買いに来たんですか?」
バイヤーの小林が半ば冗談めかして尋ねると、ペギラは両翼でコートを抱えたまま、まさに「グォン」と満足げに一鳴きした。
やがてペギラは、店員たちの案内に従ってレジカウンターのほうへ移動。そこでもう一度「グォー」と声を発すると、氷の塊のようなものがポトリと床に落ちた。見れば、それは極寒の海底で採れる希少な結晶なのか、あるいは南極から持ち出したのか――詳しくはわからないが、とにかく普通ではないオーラを放つ結晶だった。
佐藤は半ば呆然としながらも、接客を続ける。
「あ……えっと、ご……ご清算、ありがとうございます?」
何しろ相手は怪獣だが、その様子はまるで“お買い上げ”のような形に見える。
氷の宝石めいたそれが、コートの代金になり得るのかどうかは未知数だが、ともかく“ペギラが冬物コートを手に入れた”という事実だけははっきりした。周囲の店員たちはお互いに顔を見合わせ、そして一気に安堵の笑みがこぼれる。
「……本当に、買い物しに来ただけだったんだ……」
「何だか信じられないけど、怪獣もお客様なんだな……」
佐藤は声にならない声で呟きながら、バイヤーの小林や橋本と視線を交わす。妙な納得をしあう瞬間だった。
ペギラが目的の防寒具を手にしたことで、館内に満ちていた凍てつくような冷気は明らかに弱まっていった。店内の窓や外壁の氷もゆっくりと溶け始め、外との出入りが少しずつ正常化していく。
ペギラは、コートやマフラー、それから手袋のような小物もいくつか追加で見繕ったらしく、次々と試すしぐさをしたあと、満足げに翼で抱える。大きな買い物袋に入れるのは難しいので、店員たちが苦笑いしながら「お包みしましょうか?」と声をかけると、ペギラは「グォー」と一声返して遠慮するかのように首を振った。
結局、そのままペギラは階段を下り、店の正面入口に向かって歩き出す。入り口付近の氷はほとんど解けており、自動ドアがちゃんと作動するのを確認すると、まるで「では失礼します」と言いたげに、翼を軽く振った。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております!」
目が合った店員たちがとっさに言うと、ペギラは小さく頭を下げるようにして、バサリと飛び上がる。
外の空は相変わらず灰色の雲がかかっていたが、ペギラが大空に舞い上がっていくと、やがて雲間から一筋の陽光が差し込み始めた。数十分後には空が明るみを増し、渋谷の街を包んでいた妙な寒気も落ち着いていく。
東急百貨店の中は、解け残った水たまりや後片付けに追われるスタッフで大混乱だったが、店長の田中も一段落してフロアを見回すと、スタッフたちが笑顔で動き回っているのが目に入る。
「大きな被害は……幸いにも出なかったようだな。いや、大変だったが、みんなよく頑張ってくれた」
田中がホッと息をつくと、新人販売員の佐藤がこちらへ駆け寄ってくる。
「店長、ペギラのお会計代わりかもしれない結晶、ちゃんと保管しておきました。すごく冷たくてキラキラしてて、きっと普通の氷じゃないですよ。どうします?」
「そうだな、記念品としてしばらく大事にしまっておこう。もしかしたら科学的に貴重なものかもしれないが……ひとまずは“ペギラからの支払い”ということで」
「はいっ!」
佐藤は何か誇らしげな表情で、結晶が入った小さなケースを見つめる。あの怪獣が見せた行動は、確かに常識では測りかねるものだったが、間違いなく“百貨店に買い物しに来た”としか思えないほど穏やかなものだった。
そして何より、ペギラの来店に対応した店員たちの“接客魂”――どんなお客でも温かく迎え、目的を叶える手助けをする――その姿勢は、混乱の中にあっても輝いていた。
騒動がひと段落した店内は、やがて暖房が効き始め、冷え切ったフロアが徐々に元通りになっていく。床に散らばった氷片は溶け、水となってスタッフがモップで拭き取る。商品のディスプレイはもう一度きれいに並べ直され、店員たちはお客様に「本日は大変申し訳ございませんでした」と頭を下げながらも、その目はどこか誇らしげだ。
「結局、本当にペギラはただの買い物客だったんだろうか?」
「さあ……でも、お客様はお客様よね、形はどうあれ」
そんな会話がちらほらと聞こえる。
外では、いつの間にか雲も晴れ始め、年末の晴れやかな陽光が差し込んでいる。あの不思議な寒波と氷の世界は、まるで夢だったかのように、渋谷の街からは消え去ろうとしていた。
それから数日後、東急百貨店に“ペギラ来店騒動”を取材したいとマスコミが詰めかけた。
SNSや一部の動画投稿サイトには、ペギラが店内を歩く姿や、巨大な翼をはためかせる様子がいくつもアップされている。にわかには信じがたい映像のため、「CGでは?」「フェイクニュース?」と疑う声も多かったが、実際に目撃した人々は口を揃えて「本物だった」と証言する。
記者からの質問に答える店長の田中は、インタビューにこう答えた。
「確かに大混乱でした。ですが、幸いにも大きな被害はなく、ペギラ様はあくまで買い物を楽しんでいたように見えました」
ペギラが買っていった冬物のコートやマフラーは、怪獣にとってどのように役立つのかは謎のままだ。南極に棲んでいるくせに防寒具が必要なほど寒さに弱いのか、あるいは単なるおしゃれ目的だったのか――それを知るすべは誰にもない。
しかし、店員たちは口を揃えて言う。
「どんなお客様でも、私たちはあたたかくお迎えして、満足して帰っていただくのが使命です」
それは、長年の百貨店の“おもてなし”の精神が、非常事態にも揺らがなかった証拠でもある。
そう、たとえ“怪獣”であっても――いや、どんな存在であっても――“お客様はお客様”なのだ。結局、ペギラは東急百貨店にとって“初めての怪獣客”だったに過ぎない。
その日、東急百貨店は真冬の寒さをさらに凍える寒波で包まれ、一瞬にして“氷河期”のような景色を体験した。だが、店員たちの温かな接客はどんな氷よりも強かった。彼らは最後まで諦めず、ペギラの“お買い物”をサポートしたのだから。
もしかしたら、ペギラも店員の真摯な姿にほのかな共感を覚えたのかもしれない――そう思えるほどに、不思議で、どこか心温まる冬の一幕だった。
『騒動からしばらく経ったある夕方、渋谷の空に大きなペンギンのような影が一瞬だけ見えたという目撃談がSNSに投稿されました。確証はありません、けれどそれがもしペギラだったなら、きっとまた冬物の新作が気になっているのかもしれません……』*2