KILL la KILL +留徒壱(+√1) 作:改造砂糖団
快眠できるようになったら失踪します。
著作権に配慮して、原作同様に歌詞・曲名をタイトルにすることは避けます。
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うむ。ごきげんよう、
ここ、キルラキルの世界に、こともあろうに生命繊維を使った実験体として転生してしまい、何もしなければ将来的に消滅してしまうことが確定している状況だ。
前世の自分という存在についてはよく覚えていないが、自分がこの世界とは別の存在の転生者であり、キルラキルという世界をアニメを通して知っている…という、なんと表現してよいのか、未来視とでも言えば良いのかわからないような情報を抱えていることまで、己という存在について理解している。
キルラキルとは、生命繊維と呼ばれる超生物が存在する世界で、その生命繊維を用いた野望を抱く者がいて、その野望を阻止することを使命とする者がいて、それぞれの勢力が目的を果たすために果敢に相手を打ち滅ぼそうとする、ややポストアポカリプス染みたバイオレンスな世界観の学園青春バトルアニメだ。
ちなみに、そのアニメには「虎杖浜命」なんて存在は登場しない。そう、俺のことだ。
正確には、背景設定を考えればいたと考えても良い存在…「神衣」と呼ばれる意思を持った超弩級の戦闘服を作るための実験体の一つというか、失敗作として処分されるはずだった存在が俺だ。
神衣として完成した俺は、しかしすぐに「誰にも着用できない、着用すれば確実に着用者を絶命させる自壊装置でしかない」と判明し、失敗作と判定された。
神衣としてのデータ収集後は、情報漏洩や盗難防止のためとしてそのまま処分されるはずだったが、死に物狂いで頑張った結果、なんとか根性で人型に変形できるようになり、本来は生命戦維と融合して適合済みの人間の遺伝子情報を持っていなければ意思疎通ができない(しかも、会話できるのはその遺伝子情報を持っている相手だけ、鮮血と纏流子の関係がそれである)ところを、擬似的な発声器官も生成することで俺自身を作り出した張本人である鬼龍院装一郎氏と会話…命乞いをし、その奥様である鬼龍院羅暁にも特異性と有用性を見出され、なんとか処分を免れたという流れで、まずは一命を取り留めた。
それからは鬼龍院家に連なる者の一人…ただし偽造された戸籍によって表向きは鬼龍院家とは無関係の人物として、そして生命繊維を用いた実験を手伝う助手として、さらに…鬼龍院羅暁からは野望のために利用する尖兵として、鬼龍院装一郎からは羅暁の抱く野望阻止のための切り札として、それぞれに厚い信頼を獲得し特別な信頼の証などを見せられたり話されたり贈られたりしている。
……どうしてこうなった!!
いや、経緯を考えればなるべくしてなったとしか言いようがないが、どちらか片方に与してしまうと絶対にヤバイ(羅暁に与する=実質的な人類滅亡計画に加担する形のため、装一郎に危険認定されて早々に処分される)(装一郎に与する=羅暁と敵対関係になり、圧倒的な戦闘力を誇る針目縫をけしかけられズタズタにされ死亡する)ので、とりあえずなるようになれー!とどちらからの信頼も得られるように立ち回っていたら、本当にどちらからも信頼され尽くしそれぞれにとっての「もしもの時の切り札」みたいに扱われてしまっている。
つまりは、そんなつもりはなかったのに、どちらの勢力からも二重三重のスパイとして動いている状態だ。
どちらの勢力からして見ても、一歩踏み違えたら裏切り者として処分されるであろう、非常に危うい立ち位置にいる。
しかもそのせいで、羅暁側の勢力にとって最強の切り札の一枚と言える針目縫と、表向きには羅暁に従順なフリをしながら装一郎と同じように羅暁の野望阻止を決意している覚悟ガンギマリ済みな鬼龍院皐月に、それぞれに引くほど懐かれてしまっていて、さらにメチャクチャ面倒くさいことになっている。
針目縫。
この虎杖浜命と同じく、生命繊維を用いて生み出された実験体であり、羅暁自身の卵子と生命繊維を融合し、さらに原初生命繊維を使って作られた人工子宮を用いて生育する形で作られたデザインチャイルド。
神衣を着用するには尋常ではない精神力と生命力を要求されるため、ただの人間では着用しても死ぬだけである。
精神力の方は素質があればなんとかなるとしても、肉体の方は如何ともし難く、その解決策として考えられた方法の一つが「生命繊維と融合し、負荷に強い肉体になり、かつ神衣着用時の負荷を低減もする」というものであった。
しかし、誕生した実験体は俺と同じく形だけは成ったものの、神衣を着ることができない肉体として誕生してしまっていた。
あまりにも生命繊維との適合率が高すぎたために、針目縫が神衣を着用しても真価を発揮できない体質になっていたのである。
まさか失敗作として処分するつもりか?と怪しんだが、針目縫はデザインチャイルドというだけのこともあり、極めて早期に自我を獲得したことと、非常に手先が器用で空間認識能力が高く身体能力も桁外れに高いということで、俺と同じく野望達成の尖兵とするために羅暁が抱え込む形で保護された。
装一郎からは、針目縫という存在そのものが非常に危険だと認識されていて、何かにつけて暗殺を行なって欲しいなどと頼まれるが、今の俺には針目縫に勝てるビジョンがないし、正直どこまでストーリーに介入していいのか、針目縫を失うことで鬼龍院羅暁は強硬策に進んでしまうんじゃないか、その結果野望達成の歯車がむしろ噛み合ってしまうことになるんじゃないか…など、いろいろ不安になってしまい暗殺せずにいる。
それどころか、たまに会うたびに「お兄様」と呼び慕って懐いてくる針目縫にも、危険な存在だと俺にだってわかっているが、それでも情が湧いてしまい良き兄として振る舞ってしまっている。…振る舞ってしまっている。
鬼龍院皐月。
針目縫とは異なり普通の人間として誕生し、生後1年半ほどで生命繊維との融合実験を施されたという、羅暁にとってまごう事なき実子であり…羅暁にとってただの実験体でもある。
針目縫よりも人間としてのパーソナリティが濃すぎたためか、神衣と適合はできても肉体が耐え切れないだろうということで、失敗作と見なされた方の娘。
いや、針目縫もあれはあれで失敗作だが、鬼龍院皐月の方は針目縫のように何かを見出されることはなかった。
アニメ視聴済みで未来を知っている俺としては、鬼龍院皐月を失敗作認定するのはチャンチャラおかしいとしか思わんのだが、先に生み出されていた針目縫の方が生後間も無くに俺と同様に自我を獲得して凄まじいスペックを披露したのに対し、鬼龍院皐月は生まれてまもなくは普通の人間だったから仕方がないとして、その後に行われた生命繊維との融合実験後もほぼほぼ普通の人間の幼子と変わらなかった。それどころかゆるゆるふわふわのメチャかわ幼女だった。かわちぃ。
その様子を見た羅暁は、「なるほど、これが本当の失敗作だったか」とだけ言葉を溢し、それからというもの針目縫と同様に俺の事もよく身近に置いて懐かせようとしてくるようになった。おそらく、この俺の事も「目的のものとは違ったが十分成功の部類だった」と評価を見直したのだと思う。
羅暁から見捨てられたも同然となった幼子は、しかし短い期間ながらも父親である装一郎の愛情を受けてスクスク育ち、俺や針目縫には及ばないものの早期に自我と高い知能を獲得していった。
そして、5歳の頃に実は妹がいたことを知り、その妹は生後間も無くに生命繊維との融合実験を施され、その実験に耐えることができずに死亡したという惨たらしい話を聞き、見事に覚悟ガンギマリとなった。
鬼龍院装一郎が失踪してからは、鬼龍院皐月の父親代わり兼兄として、俺自らが鬼龍院皐月の望む限りの教育と訓練を施してあげたりもした。
その後は、鬼龍院皐月の妹…纏流子という名前を与えられた幼子と共に身を隠した鬼龍院装一郎と俺は密かに連絡を交わしながら、同時に鬼龍院皐月には父親と妹の生存を隠しながらも、何食わぬ顔で良き兄として振る舞っている。…振る舞ってしまっている。
そして話の途中で出てきた重要人物、纏流子。キルラキルの主人公である。
鬼龍院皐月の実の妹であり、生命繊維との融合に失敗したその赤子は…実のところ存命である。
失敗したかと思われた融合実験だったが、肉体への負荷が高すぎたために心肺停止したというだけで、融合そのものには成功していたのだ。
いや、むしろ完全な成功例と言っていい。
作中では心臓を抜き出しても無事で済んでしまったという異常なほどの生命力を見せたが、その通りでほとんど不死に近い状態に仕上がっていた。ただの心肺停止程度であれば、そのうち機能が回復して息を吹き返してしまうのである。
実際に、この時の研究成果の一部が鬼龍院羅暁のところで研究していた時に一部残っていて、その後に纏一身と名を変えていた鬼龍院装一郎の残りの研究成果を強奪…半分以上は強奪に失敗していたが、しかしそこから研究を進めてついに鬼龍院羅暁自身も生命繊維との融合に成功するのである。
話が逸れたが、生命繊維との融合を果たした存在はそう易々と死んだりしない。纏流子は生きていて、鬼龍院装一郎に匿われていた。
鬼龍院羅暁は調整および教育中の針目縫を外に出せないことから、俺に対して鬼龍院装一郎の捜索と捕縛、難しければ研究資料のある場所だけでも探し出して全て強奪せよと命じられ、これ幸いと鬼龍院装一郎…変装して纏一身と名乗ったその人に接触し、纏流子が健やかに成長できるよう見守った。
正直、纏流子とこんなに早い段階で交流を図るつもりはなかったのだが、俺という鬼龍院羅暁にとってのもう一枚の切り札が、いつまで経っても鬼龍院装一郎の発見と捕縛…どころか、研究成果をほとんど持ち帰れないことに警戒心を高めてしまった。
そのせいで、おそらく原作よりも苛烈な捜索が行われる形となってしまい、たびたび纏流子の保護のために手を貸したのである。
で、懐かれてしまった。
一応名前と姿を変えて会っていたが、あの親バカ…纏一身が口を滑らせて、俺が纏流子の兄であることが伝わってしまい、それからさらに懐かれた。
あんまりにもよく懐くものだから「兄ではないが!」とセリフにいちいち前置き・後置きしながらも、良き兄として振る舞ってしまっている。…振る舞ってしまっている。
……なんでだ!!どうしてこうなってるんだ!!
見方を変えて「3人の可愛い妹がいる」と言えば聞こえはいいが、実質的に3つの勢力に分かれてしまっていて、それらの勢力に別々に妹が配置されてる敵同士の関係って、どう考えても無茶苦茶すぎるだろ!!
しかし、最終的に協力関係になる鬼龍院皐月と纏流子を…というより、鬼龍院皐月と纏一身を早期の段階では引き合わせられない。
鬼龍院羅暁の勢力が現状最大最強すぎて、ここで合流してもまとめて捻り潰されるだけである。
それに、下手に鬼龍院皐月に真相を伝えて鬼龍院羅暁へ反撃するための牙の研ぎが甘くなったり、鬼龍院皐月が独自勢力の拡大を考えなければ、最終局面で鬼龍院羅暁の野望阻止に失敗するかもしれない。
だからこそ鬼龍院皐月と纏流子は、早期の段階では勢力として別れておくしかなかった。これは仕方がない。
だがしかし、纏流子に関してはこのまま兄などいないことにしておけば、これから起こる数々の難事にも纏流子に一人で立ち向かってもらいつつ、気付かれないように陰ながらサポートするとかできたのに、そんな纏流子に兄がいるなんてわかったら彼女の性格からして表向きには気にしないフリしつつも助けてくれることを期待しちゃってメンタルが乱高下するだろうが!!なんてことをしやがったんだクソ親父!!
そのクソ親父殿は「娘を、流子を頼む」なんて、この子のためならいつでも死んで良いみたいな顔をしやがる。
いや、鬼龍院羅暁の野望阻止を決意している人ではあるが、原作でも纏流子に全てを託す形で自らの死を顧みずに囮と迎撃をこなして、ギリギリ相打ちの絶命劇を繰り広げたからな。そんな顔をするのもわかるっちゃわかる。
だが、こう言っちゃなんだが、この人は俺にとって危険人物でもあり、同時に命を拾ってくれた恩人で、俺の親でもある人物なのだ。だから、そんな「いつでも死ぬ覚悟はできてる」みたいな顔を、見たくはなかった。
ただの神衣…のなり損ないでしかなかった俺のことを、親子の関係だなんて思うわけがないとは理解しているがな。それでもこのヒトは、俺にとっては親父殿でもあるのだ。
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だから。
正直、本当にめちゃくちゃに迷ったが、纏一身を救い出すために一計を案じた。
時は流れて、鬼龍院皐月は本能字学園をほとんど完全に掌握し、そうして勢力拡大したおかげで纏一身の居場所を突き止める形となってしまい、そこに針目縫の襲撃を行うことが決定した。
ここだ。
纏一身と纏流子を両方救い出すタイミングはここしかない。
ここで纏一身が死んだことにしておかなければ、そして秘匿され続けた存在である纏流子の存在から目を逸らさせるように仕向けなければ、両方を救い出して鬼龍院羅暁の野望を阻止する道はない。
…もはやストーリーのことなんて関係なく愛する妹と言える針目縫を、原作のストーリー通りに片眼を切り裂かれて撤退を余儀なくされる状況に陥らせてしまい非常に心苦しい。
叶うなら、針目縫のことだって…その目が潰れることがないようにしてあげたかった。
しかし、それでもだ、それでもなのだ。
そうでもしなければ纏一身は鬼龍院羅暁の襲撃を掻い潜り続けることができずにいつか必ず死ぬ。
原作ではこのタイミングで纏一身は死に、纏流子は復讐を決意する。
だがそれは、タイミングが良かっただけで纏流子の存在を秘匿できたのは、はっきり言って奇跡に近い。
針目縫に負傷を負わせ撃退するところまで殺り合えるのは、まだ研究資料の重要度が高く、その保管場所にこそ用があったために針目縫が手加減するしかなかった、このタイミングでしか成立しない。
そうでなければ、本来なら一方的に纏一身のほうが蹂躙されて終わっていても何らおかしくないほどに戦闘力に差がありすぎる。
それに、纏一身の痕跡ではなく居場所そのものが完全に割れてしまったことで、その足跡を見失うフリをすることはもうできない。
今後は生きている限り、執拗な捜索と捕縛…というより、研究資料の回収任務が発生するだろう。
そして、研究資料の回収が不要になったなら、捕縛任務から暗殺任務に完全に切り替わる。
そうだ、仮に初回の襲撃を切り抜けたとしても、続けて二回目、三回目、四回目…と連続して襲撃が続き、その過程で研究資料の一部が少しずつ回収され、もはや研究資料の回収が不要なまでになるだろう。と言うより、その日はもはや目前だ。
そして、そうして襲撃を続けることになり、あまつさえ反抗勢力の母体に多大なダメージを負うほどになってしまったら、たとえ纏一身と纏流子が救えたとしても、その後の鬼龍院羅暁の野望阻止のための展開は極めて厳しいものとなるだろう。
原作のストーリーになぞりながらも、纏一身の命を拾い上げる。
そうすれば少なくとも、反抗勢力の殲滅作戦は原作準拠で少し余裕ができ、かつ纏一身も纏流子も命をつなぐことができる。
ここしかない。
本当は誰も傷つかないように立ち回りたかったが、ソレはもはや叶わない。
非才な俺には、事ここに至ってはそれを狙う以外に方法が思いつかなかった。
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俺は、針目縫の後詰かつ増援の阻止という形で、その襲撃任務のバックアップに着く形で関わることにした。
残念ながら、鬼龍院羅暁の目を欺くためにも増援の到達は徹底的に阻止させてもらうことにしたし、そのせいで反抗勢力の連中からは「裏切り者!」だの「悪魔に魂を売ったバケモノめ!」などと散々に言われたが、それで親父殿を救えるのなら問題ないと割り切った。
……本当に、どうしてこんな事になっているんだ。
俺は、俺は、ただ死にたくなかっただけだ。
そしてできれば、周りのヒトが幸せな、優しい世界が、温かい未来が、ほしい。…そう願っていただけだったはずなのに。
鬼龍院羅暁の野望は、その計画は、用意周到と言ってよかった。
纏一身を中心とした反抗勢力は、間違いなくその野望を阻止できる可能性が最も高い勢力と言っていいだろう。
しかし、この時点では、あまりにも力の差がありすぎた。到底敵うはずがない状況だった。
こんな事態にならないように立ち回るべきだった、ストーリーを知っていた俺が頑張れば、案外なんとかなったんじゃないだろうか…なんていう後悔もあった。
だが、俺がそのために不自然に立ち回り過ぎて、そして俺自身の命が危うくなってしまうことを…俺は、恐れた、恐れてしまって、このザマなのだ。
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纏一身襲撃計画の、その後。
纏一身は生死の境を彷徨うほどの致命傷を負い、針目縫は片眼を失った上に強奪するはずだった研究資料の半分を喪失するという大失態により鬼龍院羅暁からそれなりに処罰まで与えられるという始末で、ひとまずの決着がついた。
針目縫との戦闘により致命傷を負ったはずの纏一身だったが、針目縫の撤退が確認できてからすぐに延命措置を施し、反抗勢力…ヌーディスト・ビーチが纏一身を回収できるように細工を施してから、鬼龍院羅暁にその行動を勘付かれないように俺はその場を早急に離脱した。
纏一身が一命を取り留めたとはいえ、ヌーディスト・ビーチの連中からは「やはりあいつは裏切り者なのではないか?」と勘繰られるようになった。
というより、意識を取り戻した纏一身が「彼は裏切っているわけではない」と証言したことで、かなり濃い疑念程度にまで信用が回復(回復と言っていいのかかなり微妙だが)しただけで、そうでなければ完全に裏切り者認定されていた。
纏一身が意識を取り戻してからは一度だけ連絡を取り合うことができたが、鬼龍院羅暁にその生存が勘付かれることを万が一にもないように、その後は一切連絡を取り合うことがなくなった。
針目縫は、片眼を失ってからというもの、明らかに精神に異常をきたしてしまっていた。
原作同様の突飛で感情の乱高下が激しい…ように見せながら、心が冷たく冷め切っている狂人に変貌してしまっていた。
いや、以前からエキセントリックな性格をしていたが、天才ゆえの狂気と言った感じで可愛らしいと思える範囲のものだった。
だが、今やその狂気というのはサイコホラーというようなものであり、表情は笑顔を作りながら目が笑っておらず、楽しそうな口ぶりでありながら楽しげなフリしかしない。ヒトを模した何かとしか言いようがないナニカに変わってしまっていた。
そして、肝心な時に救ってくれなかった…すぐ後ろに控えていながら、片眼を失う大怪我をすることをみすみす見過ごした兄のことも憎悪するようになったのだろう。
機会があればぬるりと近づいてきて、残ったもう片方の眼でねっとりと絡みつくような視線を向けながら「いつ、どこで、何をしていたのか」を毎度必ず事細かに聞かれるようになった。
…この時、ほんの少しでも事実とは異なることを伝えると「あれ、その時はあそこでアレをしていたんじゃない?」と即座に嘘を言い当ててくる。
つまり、俺は鬼龍院羅暁勢力から四六時中監視されるようになっていて、最強の切り札たる針目縫をけしかけて「お前はいったい誰の味方なんだ?」と疑い探られている状況に陥っていた。
そう。
纏一身を救うためだけに、反抗勢力であるヌーディスト・ビーチからは敵視され、鬼龍院羅暁たちからも疑われるようになり、俺は盛大に生存ルートから道を踏み外しそうになってしまっているのだ。
クソ!!やっぱりクソ親父のことなんて放っておけば!!……放って、おけば……放っては、おけないが。
しかし、この状況では纏一身に連絡を取ることは不可能だし、鬼龍院羅暁にも疑心を抱かれている時点で不要に懐に入り込むのはむしろ猜疑心を強くしかねず危険だ。
結果、その後の俺の行動としては、鬼龍院羅暁ともきちんと相談した上で「鬼龍院皐月の補助役の一人という立ち位置につきつつ、鬼龍院皐月を監視する」という役目を自ら願い出た。
というより、鬼龍院皐月は鬼龍院羅暁にとっては既に「何かに使えればラッキー」くらいの捨て駒にまで価値が落ちていたし、従順ならよし、反抗するなら処分すればよしとすでに考えてしまっている状況だ。
もちろん、鬼龍院皐月は表向きは鬼龍院羅暁に従順だったが、それ以前に鬼龍院装一郎が裏切ったことや、その後の鬼龍院装一郎こと纏一身の捜索と捕縛の際に針目縫が手痛い負傷を受けたことがそれなりに堪えたのか、とにかく以前よりも何に対しても猜疑心が強くなっていた。
ここで、鬼龍院皐月の動向を監視すると自ら申し出たのは、「もはやほとんど価値がない、情報としても、手札としても」という扱いの鬼龍院皐月のそばにいることで、鬼龍院羅暁の野望を邪魔する気はないこと…懐に取り入って情報を探る気など微塵もないことを暗に伝えて、かつ反抗勢力になるかもしれないと欠片でも疑われている鬼龍院皐月の、その反抗の芽を完全に潰すという役割を担う姿勢を見せることで鬼龍院羅暁からの疑いの目を少しでも晴らそうと考えたわけである。
まあ、これまでは確かに鬼龍院羅暁の懐に取り入っているようなムーブはしていたが、それは原作ストーリーの開始前というか、まったく描写のない期間だったせいで、どう立ち回っていいのかよくわからなかったためというのが要因として大きい。
しかし、ここからさきは(ストーリー通りの展開ならば)鬼龍院羅暁がどのタイミングで何を仕掛けてくるのかなどある程度予想ができるので、無理して探る必要はあまりないはず…と考えたため、懐に入ることをやめたわけである。
結果、鬼龍院羅暁は俺の行動の意味を、俺にとって都合のいいように理解してくれたためか「そうか、疑われているという自覚があるか、結構だ神衣・豪傑…いや、虎杖浜命。お前の忠心に偽りがないことを期待するよ?」と、久しぶりにヒトとしての名前で呼ばれて、その任を無事に任されることとなった。
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そうしてなんやかんやあって、本能字学園に纏流子が入学してくるまで、予定通りであれば残り数ヶ月という頃。
俺は、異例の本能字学園途中編入、異例のすぐさま生徒会四天王入り(しかし五人目の四天王ってなんだ?)、異例の生活環境部統括委員長就任と、異例尽くしの存在として鳴り物入りで本能字学園に参上する形となった。
生徒会室にて、生徒会メンバー全員の前に「折り目正しく」というような様子で立つ男子高校生。俺である。
その俺に向かって、鬼龍院皐月が威勢の良い張りのある声を響かせる。
「お前たち生徒会のメンバーには先に通達していた通り、この男こそが、ある特別な事情でこの時期で編入し、そのまま生徒会の所属ともなる、虎杖浜命その人である! …早速だが、あにぅ…貴様からも、自己紹介をせよ! 虎杖浜命!」
「うむ。生徒会四天王が一人、生活環境部統括委員長・虎杖浜命である。 …先立って鬼龍院皐月様にご紹介いただいた通りであるが、あえて俺の口からも言わせてもらおう。 皐月様のために、俺は身命を賭して己が役目を果たすつもりである。よろしく頼む。」
…ちなみに、なんか生徒会メンバーに向けて初対面みたいな感じで自己紹介しているが、実はこの時点で既に生徒会メンバーの全員と顔見知りである。
更に言うなら、全員と顔見知りであることは俺自身しか知らない、それぞれ個別に交流してるだけだったから。
なんか、流れのままに「あ、どうも~はじめまして~」みたいな感じで自己紹介しちゃって、正直クッソ恥ずかしい。
恥ずかしいのを誤魔化すためになんか顔に無駄に力が入ってしまい、それに反応するかのように鬼龍院皐月を含めた生徒会メンバーの全員も、なんか顔に真っ黒な影を落としながら目だけギランギランと光らせている。怖い。
恐怖を誤魔化すため、俺は伊達メガネをクイッと顔に押し上げる。
すると、なんか俺の顔にも影が落ちて、眼鏡のところだけギランギラン光る。
ここはキルラキルの世界だから、周りの雰囲気に合わせた行動を取ると、なんかこうなるのだ。
「…メガネ、クイッ(どうしてこうなった…)」
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虎杖浜命(すまん、流子。お前にはもう会ってやれそうにない。親父殿、こうなる前に救ってやれずに、すまん。二人とも、こんな不甲斐ない俺のことを殺したいほどに恨むだろうな…さらばだ…)キリッ
纏一身(…死を偽装する、ためか。本気で、殺させるとは、手酷い奴だ。しかし、本気で羅暁の野望を阻止するというなら、これくらい、してみせねばな…。流子、鮮血、豪傑…いや、命。ワシは、俺は、お前たちのために裏で潜伏しながら力を蓄えておく、必ず生きて野望を阻止するんだぞ…!!)グタッ…
纏流子(兄ちゃんが…親父の仇を庇った…?助けた…? ……殺された親父の死体を何処かに連れて行って…兄ちゃん、兄ちゃんはいったい…なんでそんなことを…………許さねえ、許さねえ…!!絶対に、絶対に復讐してやる…!!親父を殺したやつに、兄ちゃんを脅すか騙すかして、誑かしやがったやつに…!!絶対に、ブッ殺してやる…!!)ギリリッ
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虎杖浜命(縫…片眼を失ってからというもの、執拗に俺に執着するようになった…恨んでいるんだろうな、俺のことも…すまない…)キリッ
針目縫(お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様お兄様♡ 片眼を斬り飛ばされて重症を負った私を、身を挺して助け出してくれた、私だけのお兄様♡ ママに処罰を受けることが決まったときも「あの場にいた自分も同罪だから、縫の処罰を軽くしてほしい、その分自分も処罰を受ける」と庇おうとしてくれた、優しい優しいお兄様♡ ああ、ごめんなさいママ、どんなに止められても、ボクはやっぱりお兄様がほしい♡)ジイイッ
鬼龍院羅暁(縫は元から精神的に不安定だったが、それがあの一件以降更に不安定になり、命に固執するようになってしまった。 処罰と称して距離を置くためにあれこれ手を回したが、これ以上は虎杖浜命という切り札を失いかねないし、しかし針目縫という強力な武器を手放すことも惜しい。 そんな折に、自ら皐月の元に付いて縫から距離をおいてくれると申してくれたのは、まさしく以心伝心。 やはり…虎杖浜命、お前こそ私の野望を心から理解してくれている、真の切り札だよ…!!)ニィィッ
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虎杖浜命(四天王の連中、皐月様から事前に色々と言われてるんだろうな……皐月様もそうだけど、皐月様が本能字学園に入学してからというもの、みんなそれぞれに明らかに疎遠になっていたし……こいつには注意しろとか、どの勢力と肩を組んでいるかもしれない下衆野郎だとか……はあ……)キリッ
鬼龍院皐月(ずっと、ずっと、本能字学園に入学してからというもの、兄上と一緒にいられる時間が少なくなっていたから…こんなに近くで一緒に過ごせるようになるなんて、凄まじく嬉しい…!! ついに、ついに、兄上自らが私のそばで私を支えると言ってくださった…!! うむ。もはや、結婚するしかあるまい。ああ、兄上のその気持に、今すぐにでも応えて差し上げたい。 …いいや!!そのためにも、打倒・鬼龍院羅暁!! 決して、兄上に告白する勇気がないなどというわけではない!!そのような浮ついた気持ちでは打倒・鬼龍院羅暁など成し得ないというだけである!! そう、まだ告白しない!!告白できないというわけではない、断じてない!!)キリリッ
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▼虎杖浜命/コジョウハマ・メイ
原初生命戦維を用いて作られた神衣の実験体。原作には存在しない。(本来なら失敗作として処分されている)
神衣としての名前は「神衣・豪傑」。
神衣というものがどこまで性能を発揮できるかという理論実証機的な実験体として作られている。
着用することが叶うなら、数値上は絶対最強と言える究極の神衣のため、力強さ・武勇の極地を示す「豪傑」の名を与えられた。
ヒトとしての名前の由来は、「皐月(さつき)」に対して「命(メイ)」という、どちらも5月を意味する言葉で、言葉遊び的な捩り。
ストーリー的には、神衣でありながら自立稼働できるという「命(いのち)」と呼べる機能を内包していることから、そのように名付けられた。
その特殊過ぎる誕生の経緯は、ある意味で針目縫に極めて近しく、そのために針目縫や鬼龍院羅暁からその誕生の経緯だけで無償の信頼を獲得している。(原初生命戦維に対する信仰心がやや混じっていると言ってもいい)
鬼龍院装一郎も、その誕生の経緯から初めこそ虎杖浜命を…神衣・豪傑を危険視していたが、その人間性とも言えるべき部分が極めて善性に偏っていたことに気づき、鬼龍院羅暁の野望阻止の切り札になり得ると確信されることになった。
別世界の知識を有しており、アニメという形でキルラキルの世界の筋書きを概ね知っている。
ただし、自分の前世というものについてはかなり希薄にしか認識しておらず、「知識はあっても記憶はおぼろげ」という状態。
そのため、キルラキルのストーリーも完全に把握しているわけではなく、何が正しいのかに怯えながら日々四苦八苦して生きている。
性格は臆病だが、死を恐れるがゆえの善性が濃く、恐怖にまみれながらも誰かに手を(袖を)差し伸べずにはいられないお人好し。
また、常日頃から人型で過ごしているものの「自分はヒトではない」という認識を持っており、他者からの好意に極めて鈍い・勘違い甚だしい朴念仁。
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…多分こんな話です。