俺と勇者がにらみ合っていたところに、見覚えのあるおっちゃんが走ってきた。
「待ちなさい!!!」
威厳のある声が響く。
走ってきたのは、あの時の神官――
彼は、この国の宗教勢力の頂点『大神官』になっていた。
俺は「あー、この前の戦いで、国王と一緒に悪魔討伐に協力してたおっちゃんか」と思い出す。
「おっちゃん、久しぶりー!」
対して――
「神官様!!!」
勇者は、尊敬のこもった声で大神官を呼んだ。
……なるほど、俺にとっては「おっちゃん」、
こいつにとっては「昔から世話になってきた神官様」ってことか。
勇者と俺がにらみ合う中、大神官が突然、深く頭を下げた。
「竜の姫君。神殿に属する勇者が無法を働き、王宮を騒がせたこと、心よりお詫び申し上げます」
礼儀正しい、完璧な謝罪だった。
態度、姿勢、声のトーン、どれも申し分ない。
その様子を見た俺のドラゴンの本能的な何かが――
(ほほう)
と、感嘆するほどだった。
この国の高官や貴族でも、ここまで完璧に謝れる人間は少ないんじゃないか?
「お、おい!! なんで神官様が謝るんだよ!!」
勇者が慌てて大神官に振り返る。
が、その瞬間――
「よし、確保っと」
俺は、勇者の動きを読んで、空気を読まずに素早く捕獲した。
「なっ!? ちょ、おま――!? 離せぇぇぇ!!」
勇者が暴れるが、無駄だ。
俺は彼女の剣を軽くひったくり、そのまま大神官に渡す。
そして、最後に――
パァン!!!
勇者の尻を、傷が残らない程度に軽く叩いた。
「い、いだぁぁぁぁぁっ!!!」
勇者が、情けない声を上げながら飛び跳ねる。
その姿に、俺はニヤリと笑った。
王女様が仲裁役としてやってきた。
俺、勇者、大神官の三者が揃い、順番に経緯を説明することになった。
「で? なんでお前、いきなり襲ってきたんだよ?」
俺が腕を組みながら聞くと、勇者はむくれた顔で答えた。
「……国外で修行してたんだけど、戻ってきたら……」
「神官様が、竜の姫君を認めてるとか言うから、詳しく聞かずに飛び出した!!」
「いや聞けよ」
「うるせぇ!! だって、他の国じゃお前の評判めっちゃ悪かったんだぞ!!?」
なるほどな。
「……おそらく、姫様と我が国の評判を下げ、両者の仲を裂くつもりだったのでしょう」
大神官が冷静に言葉を挟む。
「魔王軍の勢力下では、竜の姫君を『暴君』として吹聴し、対魔王同盟側でも『制御不能な災厄』と見なす声がある」
「……まぁ、雑に暴れたしな」
「自覚してるなら行動を改めろよ!!!」
勇者が俺を指差して叫ぶが俺は気にしない。
王女様は静かに頷き、こう言った。
「姫様が納得しているなら、それでいいのでは?」
――うん、それでいいな。
「ちょ、ちょっと待て!!!」
勇者が反発しようとするが――
大神官の厳しい視線が勇者に向けられる。
「……ッ!!?」
勇者は涙目になりながら、ピタリと動きを止めた。
――おっちゃんこえー。
俺が内心ちょっと怯えていると、ふと疑問が浮かんだ。
「そういえばさ……」
俺は、何も考えずに大神官に尋ねた。
「どんな神様を祀ってるの?」
その瞬間、場が一瞬静まった。
……え?
もしかしてこれ、宗教について触れちゃいけないヤツ!?
俺が頭を抱えそうになったその時――
大神官は、一瞬俺を見つめた後――
「なるほど……」
まるで何かを悟ったように、穏やかな態度で懇切丁寧に説明を始めた。
――あっ、これ完全に俺の価値観がズレてるのバレたやつだ。
しかし、大神官は特に突っ込まず、ゆっくり話し始めた。
「現在は、国内の宗教は一つにまとまっているということになっていますが……」
「実際には、どの神を上にするか、どの神を下にするかで争いがあります」
「魔王との戦いがあるため、表立った紛争は起こっていない……ことになっています」
大神官が、「ことになっています」の部分をわずかに強調した。
……なるほど。
争いはない、ことになってるのか。
「ちなみに、この国で特に信仰を集めているのは?」
「地母神的な女神です。私が属する組織も、この女神への信仰を重視しています」
「へぇー、地の女神か……」
俺は興味を持ち、思わず口に出した。
「よくわかんねーけど、地ってことは重力も司ってるの!? それは拝まなきゃ!!」
そして、俺は立ち上がった。
「ちょっと神殿行ってくる!!」
王女様は少し複雑そうな顔をし、大神官は嬉しそうに微笑み、
勇者は「おとうさんがよその子にかまっている」ような気分になったのか、ムスッとしていた。
神殿に到着するなり、俺はすぐさま祈りを捧げた。
「戦って死ぬイメージは全く浮かばないけど……」
「速度の出しすぎで宇宙に飛び出すイメージなら、いくらでも浮かんでくるんだ!!」
「重力をありがとう!! 今後の重力もがんばって!!」
「俺は、もっと重くしてくれてもいいよ!!!」
俺のドラゴンの本能的な何かも――
(おそらこわい……じめんがんばって)
と、全力で思いを送る。
その頃。
天界にいる地母神は、最初こそ余裕たっぷりだった。
「感心なドラゴンもいるのね」
しかし――
「え? 私、重力も引力も担当してないけど……?」
女神の表情に、徐々に困惑が浮かぶ。
そして――
「……この子の力つよいっ。あたしの権能を改造しようとしてるっ!?」
女神の権能に、俺の強すぎるドラゴンの力が影響を与え始めていた。
女神は必死に抵抗するが――
俺も真剣に祈っているので、力の押し合いになってしまった。
「重力が好きなら勝手になさいっ!!!」
天界の女神が、息を乱しながら力を込める。
「女神様がんばれー!」
その頃の俺は、地上の神殿で祈りを込めまくっていた。
俺と女神様が力を込めすぎた結果――
俺の体が、神々しい光を放ち始めた。
「おお……姫様が……!!!」
大神官が、畏敬の念を込めた声を漏らす。
俺は光に包まれながら、ふと考えた。
「女神様がOKって言ってくれたのかな?」
この時点で、俺の種族が『ドラゴン』から『神竜(見習い)』になったが……
気付いているのは、女神様だけだった。
続く。