俺と勇者は、王国の騎士や神殿の人間が遅れて到着したのを確認すると、後のことを全部押し付けて王宮へと戻った。
「いやぁ、やっぱ王宮は落ち着くな!!!」
俺は、ふかふかのベッドにダイブして、そのまま手足を伸ばす。
勇者は、俺の隣でぐったりと椅子に座り込んだ。
「お前……元気すぎるだろ……」
勇者は完全に疲れ切っていた。
一方の俺は、まったく疲れていなかった。
むしろ――
王女様と物理的に長距離離れていたせいで、めちゃくちゃ寂しかった。
まずは風呂だ!!
どっぼーん!!
「はぁ~~~……やっぱ王宮の風呂が最高だな……」
湯船に浸かりながら、俺は心の底からそう思った。
戦いの疲れ? そんなものはない。
だが、王宮の風呂は精神的な癒し効果がある。
勇者は、最初は風呂に入るのを渋っていたが、
「この風呂に入らないと、今後どんな汚い場所で寝ることになるかわからんぞ?」
と俺が言ったら、めちゃくちゃ速攻で入浴していた。
風呂の後は、もちろん食事である。
王女様と勇者と共に、豪華な食卓を囲んだ。
「姫様、どうぞ」
王女様は、優雅な仕草でナイフとフォークを使い、完璧な作法で食事を進める。
しかも、その作法に押しつけがましさが一切ない。
――すげぇ……貴族の食事って、こんなに自然にできるもんなのか?
俺は、できる限り王女様の動きを真似しながら食事をした。
――まぁ、最終的に俺の食べ方はちょっと豪快になったけどな!!
食事が進む中、勇者が俺に向かって真剣な顔で聞いてきた。
「お前……あの国に黒騎士たちがいたの、最初から知ってたのか?」
俺は、もぐもぐしながら答える。
「んー? 地理の講義で聞いた気がする」
「……それだけ?」
「うん」
勇者は、じっと俺を見つめ――
(このドラゴン、王国のいいように誘導されてるんじゃないか?)
と考えた。
しかし――
俺の思考は違った。
(俺が調べなくても調べてくれるのは楽だな!!)
王国は王国で考えがあるんだろうが、俺にとっては楽に過ごせるかどうかの方がずっと重要った。
そして――
王女様も、優雅な笑みを浮かべながらこう考えていた。
(姫様と王国の利害を調整して、末永く仲良くしたいです。最近、お父様が頼りにならなくて……)
俺は、そんな王女様の思惑を知らぬまま、おかわりを要求した。
「姫様、もう少し控えめに……!」
訓練場の片隅で、女官が困ったように声を上げる。
その視線の先――
ドレス姿のまま、騎士団長レオナルドと本気の剣技勝負をしている俺がいた。
「はっ!」
レオナルドの木剣が閃き、俺の首筋を軽く叩く。
俺は一瞬で動きを止めた。
「……負けた!」
俺は素直に敗北を認める。
「ドラゴンが負けまくっていいのか?」
勇者が、呆れ顔で尋ねてくる。
俺のドラゴンの本能的な何かが、ほんの少し腹を立てるが――
「こういうのは難しいほど面白いんだ!!」
俺は全力で断言した。
レオナルドが、少し苦笑する。
「真剣でも勝てない相手に、剣技だけ勝つのも虚しい気がしますが……」
女官も、「ドレスが汚れるので控えていただけると……」と苦言を呈してくる。
が――
「姫様が戦うとしたら、正装か、全力飛行した直後の何も着ていない状況になるでしょう」
王女様が、冷静にそう言った。
「正装に近い装束で訓練される方が、私も安心できます」
「そっか、それならいいや!」
俺は、着替えるのが面倒だったので、そのままドレス姿で訓練を続けた。
「レオナルド、代われ」
勇者が剣を構え、俺に向かってくる。
レオナルドほど技は洗練されていないが、以前よりはるかに巧くなっていた。
さらに――
勇者は、レオナルドより速く、力も強い。
俺と勇者の戦いは、かなりの接戦となった。
「あいたっ!」
俺の肌には傷はつかないが、普通に痛みを感じる程度のダメージを受ける。
「くっ……この程度じゃ効かねぇのか……!」
勇者も息を乱しながら、俺と互角の戦いを繰り広げる。
戦いの後、俺は気持ちよく汗を流しながら、勇者に尋ねた。
「勇者って、1人だけなのか?」
その瞬間、勇者がピクッと反応し――
「チッ……」
露骨に舌打ちした。
「あ? なんで舌打ち?」
「そういうこと言われると……仲間がまだ見つかってないことを責められた気分になるんだよ!!」
「いや、俺は別の勇者もいるのかなーって思っただけだけど?」
勇者は、思いっきり呆れた顔をした。
「お前そんなこと外で言うなよ?」
「なんで?」
「自分のところの勇者しか認めない教会や、露骨に上から目線してくる所の勇者とか、色々あるんだよ!!」
「めんどくせぇな」
俺は、ふと近くを歩いていた王妃付きの侍女を指差した。
「だったら、魔女……じゃなくて、年齢的に魔法少女か? ほら、そこにいるし、勧誘してもいいんじゃねーの?」
指差された侍女(10代半ば)は、青ざめた顔で命乞いを始めた。
魔法大国から王妃についてきたので当然のように魔女だ。
「お、お願いです!! 命だけは……!!!」
勇者が「お前今さら指摘するのかよ」という顔で見てくるが無視だ。命なんていらねーけどお前に用があるんだよ!
「だったら分かってるよな?」
俺は、あくどい笑みを浮かべながら、ドレス担当の女官に目配せする。
女官は、嬉々としてメイドを呼び――
侍女を個室に連れ込んだ。
数分後――
魔法少女姿になった侍女(魔女)が登場した。
可愛らしく凛々しい魔法少女衣装なのが最高だ。
ソシャゲに出てきそうな魔女っぽい王妃とは別の良さがあるよな!
「ほぉ~~~~……」
俺は、角度や高度を変えつつ、満足げに魔法少女を眺めた。
そんな俺を見て、勇者が訝しげに尋ねる。
「……お前、いつからこんな服を用意してた?」
「……」
俺は、露骨に目を逸らす。
勇者は、その反応を見て、即座に察した。
「……お前、もしかして……これ……」
「もともと俺に着せるつもりだったんじゃねーか!!!」
勇者の叫びが、王宮に響き渡った。
以前よりもさらに妖艶になった王妃が、ゆっくりと歩いてくる。
その目が捉えたのは――魔法少女姿の侍女。
王妃の表情が、一瞬で凍りついた。
(数少ない部下が、ドラゴンの軍門に降った……!?)
王妃、真っ青。
俺は、そんな王妃の顔を見ながら――
「……王妃様も魔法少女衣装、どう?」
冗談で言ったつもりだった。
が――
王妃の顔が一層青くなったのを見て、俺は不思議そうに首を傾げるのだった。
続く。